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第070話 次やったら

 俺が加賀見に来るよう指定された場所は、奇しくも日高が俺に今回の作戦を持ちかけた場所でもあった。

 さっき来たときと同じく人は俺達以外にいなく、内緒話をするには打ってつけと言えよう。

 そこまで再び足を運ぶと、日高・安達・加賀見が俺を見つけた。

 表情から察するに、日高は気まずそうに、安達は物悲しそうに、加賀見はやや怒っているようだ。

「さて、関係者も揃ったことだし、改めて訊きたいんだけど」

 加賀見の尋問が始まった。


「何で私達に話してくれなかったの?」


 ……この二人からすれば、まずそれを疑問に思うだろうな。

 安達が悲しんでる理由も、加賀見が怒ってる理由も、そういうことだよな。

「ゴメン。リンカにバレたらマズいから、あんまり協力者を増やせなかったんだ」

 日高が二人の前で両手を合わせ、頭を下げてくる。

 これが日高なりに春野を思いやっての行動だったのだ。

「俺も悪い。日高にそう説明され、納得したから黙ってた」

 俺も日高としたことは同じなので同様に謝る。

「……なら、サツキと同じクラスにいるっていうお友達とも協力してないってこと?」

「うん」

「コイツを選んだのはどうして?」

 加賀見が俺の方に人差し指を伸ばした。そのまま指先からレーザーとか出たりして。

「榊と同じクラスだから、協力してもらうのに色々融通が利くと思ったんだ」

「ならミユでもいいはず」

「ミユのことも考えたけど、それだと今度はミユの方が面倒なことになるんじゃないかって思った」

「私が?」

「榊の試合ばかり観てたら、周りに変な勘違いされるんじゃないかって」

「あ……」

 安達がハっとした表情になる。


 仮に安達が王子の出る試合を一人の状態であろうとずーっと観戦していれば、それを見た周りの連中は、安達が王子に気があると誤解する奴も出てくるだろう。

 そんな奴が安達や王子に全く興味ないなら特に問題もなかろうが、王子のファンクラブみたいなのだと因縁をつけられかねない。

 直接絡んでくる程悪質じゃなくとも、学校生活で何かと支障を(きた)す恐れはあった。

 何にしても俺がやるよりリスクが高いということだ。

「……言いたいことはわかったけど、私達だってリンカにバレるようなヘマはしないつもり」

「うん、そうだと思う。だから、こんなことを今になって言うのもおかしいけど」

 日高が安達と加賀見に向けて頭を上げた。


「リンカのために、力と知恵を貸してください」


 そう懇願した。

「サツキ、私達に黙ってたことをごまかそうとしてる」

「……ごめんなさい」

 うん、それは俺も思った。

「……次やったら本気で怒る」

「……そのときは多分、私も」

 どうやら加賀見も安達も協力してくれるらしい。



 かくして日高・安達・加賀見・俺の四人で王子が告白しないよう対処する作戦を決行することになった。

 何だか王子が春野に告白するのが決定事項みたいに話が進んでるけど、一応可能性の段階です。

「ミユ、何かいい考えある?」

「私は特に。マユちゃんはどう?」

「私も考え中」

 王子が告白しようとした場合、それを確実に止められる手立てを考えているわけだが一向にいい案は浮かばない。

「アンタはいいアイデアないの?」

「俺も現時点では特にないな。当初の方針通り王子の監視を続けて、告白しそうになったら野次を飛ばすぐらいしかないんじゃないか」

 色々粗の目立つ作戦だが、だからと言って他にいい案がなければ仕方がない。


 って、大事なことをすっかり失念していたではないか。

「おい、今誰も王子のこと見張ってないぞ」

「「「あ」」」

 今の今まで誰も気付かなかった間抜け一同。

「ホントだ、ヤバ」

「い、今からでも急いでサッカーの試合場に戻ろ」

「うん、まだ試合は終わってないはず」

 確かに時間的に、王子はまだサッカーボールを蹴り続けてるはずだ。急用などでいなくなってない限り。

「よし、行くか」

 俺達全員がサッカーをやってるグラウンドに戻ろうとしたところで、

「行くってどこに?」

 聞き覚えのある、しかし日高・安達・加賀見の誰でもない女子の声が聞こえた。


「は、春野……」

 そう、春野が俺達の近くに立っていた。

 青みがかってまっすぐに伸びたミドルヘア。

 彫刻のように綺麗に整った顔つきとスタイル。

 声の張りからも漂う明るさと優しさを併せ持った雰囲気。

 どれをとっても人を、とりわけ男を惹きつける美少女がそこにいた。

「もー、皆探してもいないし、メッセージにも返信来ないから探しちゃったよ」

 メッセージ……来てたのか。

 見ると俺達が丁度話し合ってる時間にグループチャットへ春野からのメッセージが届いていた。当然皆話し合いに夢中で誰も気付いていなかった。迂闊……。

「ねー、何してたの?」

「あー、それはね……」

 日高が春野の質問に答えようとするも、中々次の言葉が繋げられないでいる。どうするか。

「皆でどのクラスが優勝するか賭けをしてた」

「え⁉」

 加賀見が言葉の続きを担う。

「リンカはそういうの付き合わないかも、と思って黙ってた。ゴメン」

 コイツ、口から出任せをよくもまあ次から次へと……。

「えー……ダメだよ、そういうのは」

「うん。リンカにバレちゃったからチャラになった」

「私にバレなくてもダメだって!」

「反省してる」

「……ホントに?」

「ホントホント」

 すみません春野さん、コイツの言ってること何もかも嘘なんです。でも今はそれを明かせません。

「んじゃ、そろそろ戻ろうか」

「え、戻るって?」

「そうそう。ミユもマユもさっきまで二組対四組の男子サッカーを観ててさ」

「それを観に戻ろうかってこと」

 一応、安達・加賀見が先程までそうしていたのは嘘じゃない。俺もその場にいたし。

「へー、じゃ私も行くよ」

「いや、リンカは他の試合を黒山と観てきてほしい」

「「え?」」

 一体何を言い出すんだコイツは?


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