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第069話 監視

 球技大会がスタートした。

 球技大会ではサッカー、バスケ、バレー、テニスの4種目のスポーツが男女に分かれて行われる。

 誰がどの種目に出場するかは完全にクラスの生徒達に一任されており、複数の種目に出る人もいればどの種目にも出ないで応援のみに回る人もいる。

 この手のイベントでは生徒が何かしらの種目に最低1つは参加必須と認識していただけに相当自由を感じる。縛りがあるとすれば、この前の体力テスト同様に公園の外へ出るのを禁止されているぐらいのものだ。

 ろくに球技大会の詳細を知らなかった加賀見がそのルールを聞き、実際に自分がどの種目にも出ずに済んだことを聞いたときは、それはもう天にも昇る気分だったそうだ。全部の種目に強制参加されればよかったのに。


 しかし、そんなことより今の俺には日高とともにやることがあった。

 王子が例の噂の通りに告白をしないか監視し、告白するようならそれを阻止することである。

 監視といっても王子を物陰からストーキングするわけではない。

 幸い俺も加賀見と同じく(奴と同じというのが何となく気に入らないが)球技の参加は不要となっており、自分のクラスについてどの種目を応援するのも自由である。

 もっと言えば他クラス同士の試合を観るのも自由だが、あんまりそれをすると周りから怪しまれないとも限らない。だから例えば日高が王子の試合を毎度観るのは少々厳しい。

 そもそも日高は春野とともに、女子バレーへ出ることが決まっている。その間はどうしても監視ができない。ただ、そのときは春野の傍について守ることもできるので、大して支障もない。

 俺の場合、王子とは同じ一年二組に所属しているため、同じクラスを応援するという名分で王子のいる試合を観てても違和感がない。もっとも、俺の存在感の薄さなら誰にも気付かれないとは思うが念のためだ。

 その間王子が試合に出てるか常に確認でき、試合を離れて人目の離れた場所へ行こうとするなど、王子が胡乱な行動に出れば日高に連絡してどちらかが王子を尾行するという方針になっている。

 完全にストーキングだが、他に方法がない以上止むを得なかった。

 以前も俺にとって必要なことだったとはいえ春野に対しストーカーの真似事をしてしまったが、ストーキングが趣味というわけではないんですよ。信じてください。決して好きでやってるわけではないんです。


 しばらくそんな感じでぼーっと王子の出てるサッカーを観戦していると、

「や」

「こんな所にいたか」

 ミユマユの二人がやってきた。ちなみにこのコンビ名は日高が付けたものです。そういえば春野と日高のコンビ名をどうするか宙ぶらりんになってたままだな。メンドくさくなってきたし今度本人達に決めてもらうってことでいいか。

「おお」

 最近はコイツらを振り切るのを諦めているのもあって、普通に返事をした。はは……。

「今アンタのクラスの方、勝ってるの?」

「いや、1-1で引き分け」

 今は初戦なのだが、いきなりそこそこ強いクラスと当たったようである。

「何かどっちが勝ってもどうでもいいって顔してる」

「よくわかったな」

 薄情かもしれないが、俺にはウチの組の結果がどうなろうと興味がない。そもそもウチの組のクラスメイト達の中で俺が顔や名前を憶えているのは半分もいない有様だ。特に思い入れがないのだ。

「もー、二組をちゃんと応援しようよ」

 俺と同じ二組の安達が俺の隣に座りながらそう話す。そうか、ならお前が俺の分も応援してやってくれ。お前程の美少女からの応援なら、ウチの組の野郎共もやる気を出してくれるさ。

 気が付けば反対側の隣には加賀見が座っており、ミユマユのコンビに挟み撃ちに遭っている状態だった。コイツら俺が逃げられないようにしてるな。

「そういうお前は何か出るんだっけか」

「いや、特には」

「やっぱりな」

 安達も運動苦手だと聞いたので、妥当と言えば妥当だ。

「お陰で今日は一日中一緒に行動できる」

 加賀見が安達を見てそう話す。よかったですね。

「うーん、それって素直に喜んでいいことなのかな……?」

 安達さんたら真面目。


 そうしていると新着のメッセージの通知がスマホに入った。

「あれ、誰から?」

「アンタ一人にメッセージ入ったの?」

 まずい。恐らくメッセージの中身は日高からの状況確認。

 日高と俺の王子監視についてはこの二人に内緒にしているのだ。何とかごまかさねば。

「ん……ウチの親からだな」

「へー、何て?」

「今日は外で食べるから晩御飯要らないですだって」

「アンタ、ご家族の料理を毎晩作ってるの?」

「おお、言ってなかったっけ?」

「初耳」

 加賀見の目つきが大分細くなっているが、とりあえずこれでごまかした。

「……まあ、いいや。一組の試合、応援に行ってくる」

「そうか」

「あ、ミユ。ついでに一緒にジュース買いに行こ」

「うん、いいよ。じゃあまた」

 こうしてミユマユは俺の元を離れていった。ああ、一人の時間がありがたい……。

 その後改めてメッセージを確認すると、案の定日高からの確認だった。「問題なし」と返しておく。



 そうしてまたしばらくサッカーを見ていると、再び日高からメッセージが来た。

 また確認か。細かいなあとまた開くと、思わず「え」と呟いてしまった。

「ゴメン、ミユとマユに話しちゃった……」

 話したとは何を。いや、考えるまでもない。

 俺と日高が今やってる、王子の告白阻止作戦のことだろう。


 と、今度は加賀見から個別にメッセージが届く。

「ハロー。サツキと何かコソコソやってるって聞いたけど」

「日高から聞いたのか」

「そ。アンタの様子がおかしかったのと、今日はまだリンカとサツキに会ってなかったからね。林間学校のときみたく私達に内緒で何かやってるような気がしてサツキから探ってみた」

 と、丁寧に経緯を説明してくれた。コイツ、つくづく食えないな。


 俺は加賀見から「とりあえずお前も来い」と言われ、指定された場所で一旦落ち合うことにした。


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