第060話 次はどこへ
安達・加賀見・日高が買い物を終えたとのことなので、レストランの並ぶ階で集まった。
「おー、来た来た」
「映画面白かった?」
「勿論!」
「コイツが迷惑掛けなかった?」
「そんなわけないよ!」
加賀見、お前は俺の保護者か何かか。
「んじゃどっかの店に入ろ」
「そーだね。皆食べたい物ある?」
「私は何でも」
「私もどこでもいいよ」
「私も」
出たよ。最初にこの五人で遊びに行ったときもこんな感じだったよな。主体性ないのかコイツら。
「こういうときはコイツに任せよ」
で、加賀見が面倒くさいことを俺に丸投げしてきた。
「偶にはお前が責任もって決めたらどうだ」
「えっと、私はこういうの決めるのって、どうも苦手で」
左手で自身の臍の辺りにあるシャツの裾を掴み、右手をグーの形にしながら自分の口元に寄せてもじもじする加賀見。これだけ見ると何とも可愛らしく遠慮してる少女だが、中身を知ってる俺にはただ腹立つだけだった。俺のイライラするポイントをよく抑えてやがる。
正直加賀見と二人だけだったら確実に下手物の料理屋を選んでいた。
俺自身はそういうのに抵抗はないのでその分加賀見がどういう反応を示すか大いに楽しませてもらったことだろう。食べ物を粗末にしないとか抜かしてた手前、料理は全て食してもらうつもりだ。
もっとも、加賀見のことなのでそういう奇妙奇天烈な料理をペロっと平らげる可能性はなきにしもあらず。恐ろしいがコイツにはそんなキャパがあってもおかしくないと思えてしまう。もしそうなら正真正銘魔女として記憶に刻み付けることにしよう。
しかし今は春野・日高・安達もいる。彼女達を巻き込んでそういう料理屋を選ぶのも気が引けた。
特に春野はダメだろう。春野主役の物語ならそんなことする俺って確実に読者から嫌われる悪役になっちゃう。そんなのイヤ。
「あ、じゃ、じゃあここはどう?」
春野が俺達のすぐ傍にあるファミレス風の飲食店を指差した。メニューを見ても安目で、俺達学生には丁度良さそうな雰囲気だ。
「おー、ここでいいと思うぞ」
「うん、ここにしよっか」
「うん」
「OK!」
残りの女子達からも異存は出ず、とりあえずその店で五人が座れるテーブルを店員さんに案内してもらう。
各々が注文を済ませて料理を待ってる中、こんな会話が展開された。
「いやー、やっぱ服を見てくれる友達いるの助かるわー」
「そーそー。自分だけじゃ気付かないこともあるからね」
「あんな感じの服初めて買った」
服を買った女子三人は各々満足したようだ。
「私達の新しい服、気になる?」
加賀見が俺に話を振ってくる。予想通りだ。
「ウン、キニナルキニナル」
「あからさまに適当な受け答えしたってすぐバレるからね」
加賀見がテーブルの上に置いてあったスプーンを掴む。お、新しい制裁でもやってくるのかな? コイツって俺を苦しめる手段を一体いくつ用意してるんだろう。
「正直ファッションって興味ないからな」
服なんて俺からすればすぐ着れる簡素なシャツとズボンがあれば充分だ。
どーせ誰も俺のこと見ないんだしどんなダサくても気にしない。
「今のアンタの格好からすると説得力すごいね」
だろうね。俺も今の奇抜なファッションに我ながら引いてるもん。
「そういうお前はさぞかしお洒落な服を買ったんだろうな」
これでダサかったらゲラゲラ笑ってやるつもりだ。
「アンタに言われるまでもない」
加賀見はフンスと鼻を鳴らし頬杖を突く。おーおー、大層な自信だこって。
「マユちゃん、すごく似合ってたよ」
「うん、マユにしか着こなせないよアレ」
安達と日高が加賀見のフォローに回る。ほう、第三者のお墨付きならそこまで間違いはないか。
「ま、見るときを楽しみにしてるよ」
とりあえず無難に話を締めることにした。これ以上加賀見とこの件で言い合っても水掛け論だ。
「ふふ」
加賀見が不敵な笑みを浮かべた。それを見てコイツには魔女の格好がお似合いだと思いました。
「次、どこにする?」
安達がパスタを食べる合間に皆へ意見を問う。
安達はパスタをフォークでくるくる巻いて丁度いい量の麺を口に持ってくる。器用だねえ。俺がパスタを頂く場合はフォークで麺を掬って一気にズルズル啜る。場合によっては箸も使うよ!
「アクセサリとか小物を見に行きたい」
ハンバーグをフォークに刺しながら、加賀見が答える。その小さい子供らしい容姿にやけに合ってるなという感想を抱いていたら、何か加賀見が俺の方を睨んできた。俺はそれに沿って目を反らした。うん、いつもの光景だね。
「うん、私も見たい」
春野が安達とはまた違う種類のパスタを咀嚼した後、加賀見に同調する。
「俺は金欠になったからな、ベンチでスマホいじってたい」
本音は勿論家に帰りたいのだが、許可されるわけないので妥協案を提示した。
さあ加賀見がどう出るかと思っていたら、
「あ、じゃあ私もベンチで休む」
なんと日高も俺の案に便乗してきた。
「え……サツキ……?」
加賀見がフォークに刺したハンバーグを口に運ぶのを止めて、日高に振り向く。
「いやー、正直私も財布の中身が残念なことになってて」
日高があっけらかんと補足した。文無しでここまで明るく振る舞えるの尊敬するわ。
「……そういうことなら」
加賀見が春野のときと同じく、またしても折れる。
これ、もしベンチで休みたいって言ったのが俺一人だけなら民意に押しきられて俺も女子全員との行動を余儀なくされてたな。
しかし、加賀見としてもやはり春野や日高とややこしい事態になるのは避けたいらしい。感謝するぜ日高。
俺にとっては日高も春野と同レベルの常識人であり、加賀見というイカれた人間と一緒にいるよりマシだ。
俺は残ったドリアが冷めきらない内にさっさと口の中に入れていく。店内が冷房効きまくって涼しいのでドリアの熱さがそこまで気にならなかった。