第005話 紹介
どうすれば安達に友達ができるか、と考えていたときにふと思ったことがある。
安達みたいに孤独に過ごしているボッチは他にもいるんじゃないか、と。
ボッチなんてそもそもそんな珍しい存在じゃない。1つのクラスに30人以上もの集団で一緒の時間を送るともなれば、その内1人ぐらい周囲に馴染めず孤立していくのが出てきてもおかしくないように思う。
今いる安達がそういう立場になっているのだから、他のクラスも探せば似たような生徒は見つかるんじゃないか。
そしてそういうボッチは今の安達と共通点も多いだけに、同じクラスの奴らよりはとっつきやすいとも考えた。別のクラスだから気が合わなかったとしても安達の学校生活にそこまで支障はあるまい。
何もかも当て推量だがどうせこのままでは何も事態は解決しない。
他にいい案も浮かばない以上、安達と似た状況の生徒を探す方針で動くことにした。
安達に変に期待されても困るので、実際にボッチな生徒が見つかるまで安達に詳細を伏せておく。
実際何日掛ければ見つかるかなんてわからないが、来週までにはある程度結果に目処が立つだろうと思い来週までに期限を切った。
そんなわけで休み時間を費やして校内の一年の各教室を見て回った。
他の奴らに怪しまれないよう、教室の出入り口を廊下から散歩がてらちらりと目を向け、一目で一人で何かやってる奴がいないかチェックした。
その結果、一年一組に一人でスマホをいじる女子を見つけた。
その女子は片手にスマホを自分の顔と同じ高さに持ってきて、頬杖をつきながら退屈そうな表情で眺めていた。何となく教室での安達と同じ雰囲気を感じた。
コイツはもしかしたら、と思い翌日にもう一度一組の教室を見たら案の定その女子は同じように席に座ってスマホをいじっていた。友達が休みで偶然暇を持て余していた、という可能性は低いと見た。
後は奴の胸に掛かっていた名札から名前を記憶し、そいつの名前が書かれた下駄箱に安達名義で手紙を投函して指定した場所と日時に来させる。
安達にも同じ場所と日時に来るよう促す。安達には口頭でもよかったが、その日には数学係の仕事がなく、教室では互いに話をしたこともなくする気にもなれなかったので、これみよがしの置き手紙で伝えた。
最後に二人の女子が出会ったところでネタばらし。さあ似た者同士仲良くなってくださいと紹介するだけだ。
「……そんな無茶苦茶な……」
全ての事情を説明し終わったところで、安達が引きつった顔を見せる。こちらの予想に反して嬉しくなさそうだった。友達欲しいって言ったのお前だろ。
「無茶でも何でも、きっかけがなけりゃどういう関係も始まんねーよ。ほら、後は自分達で好きにやってくれ」
安達は話したことない人間と話すのは苦手と言っていたが、俺のときのように向こうから話しかけられれば抵抗なく話せるようになる。
そう言っていたが、一人で過ごしている俺にシンパシーを覚えてたから話ができたというのもあるんじゃないのかとは前々から思っていた。
今回安達と同じような状況の、同性同学年の人を紹介したのだからどうか俺の後任だと思って接してほしい。
少し手間が掛かったがこれで安達との会話も減り、俺のモブらしい生活も戻ってくるだろう。
女子二人に背を向けて、俺は校舎裏から離れていく。後ろは振り向かなかった。
……何なのコレ?
黒山君から事情を聞いても、私は訳がわからず混乱していた。
私と目の前の少女は同じボッチ同士だから仲良くできるだろうって?
いや、無理だよ。
気まずくて目の前のこの子に何て言っていいのかわからないよ。
彼は私が状況を頭の中で整理している内にさっさといなくなっちゃうし、これからどうすればいいんだろうと途方に暮れていると目の前の少女が私に声を掛けた。
「……私の名前は加賀見真幸。あなたは、安達弥由さんだっけ?」
「え? ああ、そうです。私が安達です」
「そう。安達さん、ちょっと話いい?」
目の前の少女こと、加賀見さんは声の抑揚が少なく、無表情だった。
私には加賀見さんがこの時何を考えているのか想像できなかった。