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第041話 一学期終業式

 本日は我が校の生徒お待ちかね、一学期の終業式である。

 何せその翌日から40日(補習受ける人は14日)ぐらいに亘る夏休みだからね。

 二組の皆さんも期末テストのときとは対照的に気分の明るさが顔に出てますよ。


 で、今日登校して教室に着いたばかりのときのこと。

「やー、いよいよ明日から夏休みだね」

「ミユ、顔が緩んでる」

「あ、いけないいけない」

 安達と加賀見が当たり前のように俺の席近くで談話している。

「夏休みもこのメンバーでまた遊びに行こうよ」

「うん。と言ってもあまりお金掛からない所でね」

 春野と日高も会話に加わっている。今日は午前の放課につき業間休みがないため、安達と加賀見と一緒に登校してそのまま二組に来たようだ。ホームルーム遅れないようにね。

「高校の通知表ってどんななのかちょっと楽しみ」

 加賀見がほざく。そりゃ貴女は学業成績優秀でございますからね。あんまり悪い数字とか心配してないんでしょうね。体育を除いて。

「私は通知表もらわなくてもいいかな、て思ってる」

 日高さん、そういう正直な意見、俺は好きですよ。

「そんな配達じゃないんだから、受取拒否とかできないよ」

 安達、苦笑いで言ってるがお前「1」や「2」が付いた通知表とか貰ったことあんのか。いやまあ、俺も貰ったことはないが。

「まーまー、期末テストは乗り切ったんだし別にいいじゃん」

 相変わらず能天気な春野。慰めてるつもりなんだろうけど他人事にも聞こえるぞ、その言い草は。

 とまあ、いつものように女子四人で話が盛り上がっているのをよそに俺はラノベを読むのに勤しんでいる。ちなみに春野に貸したのとは別の作品だよ。


 いつもと違ったのは、とあるグループから二組にいる連中へ呼びかけがあったことだ。

「なあ皆、もしよかったら放課後打ち上げ行かないか」

 突然そんな大声が聞こえてきたので何かと振り返れば、王子が自席から立ち上がって周りを見渡しながら教室内の生徒を遊びに誘っているのだ。

 王子の近くにはいつも一緒にいる男女が周りの席に座りながら王子を囲っていた。今度から敬意を込めて親衛隊って呼んであげようかな。

 俺の周りでお喋りしていた女子四人は何事かと王子達の方に目を向けた。

 安達・春野・日高は突然の呼びかけにやや困り顔。

 加賀見は王子のことを、何も感じ取れない無表情で見つめていた。

「へえ、面白そう」

「私行く!」

「クラスの皆で遊ぶって初めてじゃね?」

 教室のクラスメイト達は軒並み好感触といった所で王子の提案を受け入れていく。

 さもありなん、とは思った。

 生徒からも教師からもお墨付きを貰う性格の良さに、体力テストや中間・期末テストで見せた文武両道っぷり。何よりも周辺の女子を魅了する長髪美形の容姿が、その男の存在全てを肯定していた。

 そんな奴からクラスメイト達への遊びの誘いなど鶴の一声であり、見る見るクラスの皆がこの後打ち上げに行くことが既定路線になっていった。


 俺? 行くわけないじゃんバカなの?

 それに俺の周りにいる女子達は

「ね、どうする?」

「いや、私達違うクラスだしねぇ……」

「同じく」

 春野・日高は五組、加賀見は一組であり、王子と同じ二組の生徒達に呼びかけられたであろう打ち上げに参加するなど場違いなのだ。

 つまり以前女子四人と外出したときと違って加賀見に強制参加させられる心配がない。

 俺と同じ二組の安達がどうするかだが、他の女子三人がお呼びでない以上彼女達と足並みを揃えると思われる。もっとも、俺としてはその辺りどっちでもいい。

 まあせいぜい一学期最後の日を楽しんでくれたまえよと、ラノベを見つつ思っていたら

「あ、他のクラスの人達も参加自由だよ」

 と王子の口から付け足された。

「え? 今他のクラスの人達も参加していいって」

「私もそう聞こえた」

「じゃあ、私達も行ける?」

「うーん、でもねえ……」

 女子四人が早速反応を示す。おいおい二組の皆で水入らずの催しじゃないのかよ、と俺は内心焦っていた。


「ね、春野さん達もどうかな?」


 王子が突然そう春野に声を掛けた。ラノベから王子の方に目をやると王子が春野を見据えていた。

「え、えっと……」

 春野が言い淀む。そりゃ突然指名されたら狼狽(うろた)えるわな。

「リンカ、正直に言っていいよ。私がフォローする」

 日高が小声で春野に耳打ちするのが近くの俺にも聞こえてきた。まあ、日高に訊いたわけではないから日高が王子に答えるのはおかしいか。

 安達と加賀見も事の成り行きをただ見守っているが、そこには春野を応援する気配がそこはかとなく感じられた。

 そのとき春野は俺の方へ僅かに視線をやった。本当に一瞬の仕草だった。

 そしてすぐさま王子に視線を戻して言った。


「……うん、行く」


 二組の連中がざわついた。

 校内でも有名な美男美女が顔を揃えるのだ。そりゃ盛り上がるだろうさ。

「わかった。今日は楽しもう!」

 王子は爽やかな笑顔を春野に返し、周りの友達や参加を表明している同級生達へと顔を向けた。


「……はー、リンカ、それでいいの?」

「何で? 初めての人達と大勢で遊ぶの面白そうじゃん」

 春野は日高にそう応える。そりゃ気が合えば面白いだろうな。気が合えば。

「ゴメン、皆も巻き込んじゃって」

「うん、いいよ」

「皆がいるなら平気」

 安達と加賀見も春野にドンマイと返事する。

 ん? 皆?

 ってことはまさか、

「当然アンタも来るよね? 黒山君」

 加賀見が新しい遊びを思いついたようにニヤリと頬を緩め俺を見る。お前黒山君なんて呼んだことないだろ。

「……はい」

 俺はもう、素直にこの小柄なお姫様へ(こうべ)を垂れるしかなかった。この姫さんはいつになったら毒リンゴ食って永遠に眠ってくれるのかな。王子が救って引き取ってくれたら言うことないんだけど。


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