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第040話 見守る

「……で、ソレ聞いたときの黒山はどう反応してたの」

「えっと、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしてました……」

 昨日リンカから黒山と会ったときの話を聞き、私はすっかり呆れていた。

 今は放課後、久しぶりにリンカと一緒に二人きりで下校の道中を歩いている。

 安達さんと加賀見さんを誘ったところ、二人とも「今日は用事がある」とのことだった。

「別に何でもかんでも黒山に話す必要ないんだよ」

 もう遅いけど、一応指摘しておく。

 私達二人の会話だけで済ませていた与太話をわざわざ黒山に話して謝ってしまう辺り正直者のリンカらしいが、もう少し器用に生きてもらえないものか。

「反省してます……」

 その言葉を裏付けるかの如く、リンカは両手に通学鞄を持って頭を項垂れながらトボトボ歩いている。

 当時の黒山のリアクションを思い出して悄気(しょげ)てるな、これ。

「まあ、後日私も謝っとくか」

 一応同じ誤解を私もしてたわけだし。でも自分からわざわざ蒸し返したくないなぁ。機会があればにしとこ。


「それにしても、黒山君と加賀見さんの関係ってどうなってんだろう」

「さあ。ホントに仲悪いならとっくに縁を切ってると思うけど」

「だよねえ。でも加賀見さんから積極的に黒山君を話に誘ってるし、黒山君もそれに応じてるし」

「だけど今回みたいに加賀見さんが黒山に嫌がらせじみたことをしてる」

「その解決が当人達でできず、黒山君が私にお願いしてまで解決を図ってきてる……」

 うん、状況を整理すれば整理する程意味がわからない。

 あの暴漢をあっさり撃退できる黒山が、言っては悪いが力もあまり強くなさそうな加賀見さんに嫌がらせをされて黙って受け入れてる理由がどうにも説明つかない。

 リンカも似たような見解であり、だからこそ以前あらぬ方向に結論付けてしまったのだが……うん、私も反省しないと。

 当人達に訊けばそんなことになってる理由とか教えてくれるのかなぁ。でも黒山に以前訊いたときも「色々あった」とまでしか聞けなかったんだよね。

「何か、黒山も加賀見さんもあんまり私達に介入してほしいように見えないんだよね」

「そう?」

「そう。黒山は今回リンカに助けを求めてきたけど、それってイレギュラーな気がする」

 勘だけどね。

「だから、また黒山や、もしくは加賀見さんが言ってくるまでは、私達は見守るしかないんじゃない?」

 結局、二人だけしか知り得ない背景があるんだろうし、私達が口を挟める余地はほぼないと思う。

「……そっか」

 リンカは寂しそうに笑っていた。



「ここに来るの久しぶりだね」

「うん」

 マユちゃんと私は、放課後に二人で第一校舎の裏に来ていた。

 ここに来るのは黒山君が初めて私達を引き合わせて以来二度目となる。

「ゴメンね、突然付き合わせちゃって」

「いーのいーの」

 マユちゃんから「ちょっとミユと二人で話したい」と言われ、それなら丁度いい場所として校舎裏を選んだのだ。

「まあ、アレはしょうがないよ」

 とりあえずそう言った。アレとは今日の業間休みで起きた一件だ。

 春野さんがマユちゃんのやろうとしていたことを止め、自分が代わりに黒山君へ注意した。

 そしてマユちゃんはその手を引っ込めた。

「……うん、いずれそうなるだろうなとは思ってた」

 マユちゃんは事もなげにそう言う。

 マユちゃんが黒山君に時々していたアレは私でもどうかと思っていた。

 春野さんや日高さんが見るに見かねるのも時間の問題だったと思う。

「ミユ、今更だけど」

 校舎裏の景色を眺めていたマユちゃんが私の方に振り返った。

「私のやることに付き合わせちゃってゴメン」

 そう頭を下げた。

 今まで黒山君に色々やってきたマユちゃんと、私がその共犯だと思われることに罪悪感を覚えたのかな。

「ううん、いーよ。だって約束したじゃん」

 だから、私はマユちゃんに笑ってそう応えた。

 マユちゃんの気が済むまで付き合うから。

「……ありがと」

 マユちゃんは微かに笑った。儚げで美しかった。


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