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第012話 遊びに行く

 俺と加賀見は、安達の案内のもと三人で歩いている。

 学校の最寄り駅から電車に乗って三駅先の所で降り、そのまま安達の家へ徒歩で向かう。

 安達は近くの駐輪場に停めてあった自転車を引いて俺と加賀見の横に並んで歩く。

「なあ、普段自転車使ってるってことは結構歩くんじゃないのか」

「うーん、駅からだと大体20分ぐらい掛かるかな」

「帰りも合わせると40分ぐらい……」

 加賀見もしんどそうな表情をしていた。珍しいな。

「何かゴメンね、バスとかあればよかったんだけど」

「今回は安達家の訪問を見送って、バスが通るようになってから出直すってことでいいか?」

「それ来るの何年後になるのさ」

「ごめんミユ、私もちょっと賛成しかけた」

「マユちゃんまで⁉」

 加賀見まで共感するとは意外だった。別にしなくてもいいのに。

 安達はため息をついた。

「もう、20分ぐらいすぐだって」

「なら何でお前は自転車使ってるんだ」

「さ、流石に毎回往復40分歩くのはちょっと、ね。ほら、帰りで暗くなったときに危ないし」

 少し言葉に詰まりながら答える安達。出会ったばかりのときはこんな喋り方だったな……。

 ほんの数週間前のことを懐かしく感じていたところでいい事を思いついた。

「そうか。ときに安達、その自転車貸してくれないか」

「え、嫌だよ」

「百円でどうだ」

「そのお金でどうにかしようとする癖、直した方がいいと思うよ……」

「ミユ、私は二百円出す」

「マユちゃん、お願いだから感化されないで。そもそも二人とも私の家の場所知らないでしょ」

 額に手を当てさっきより大きなため息をつく安達。そういやそうだった。

 この会話によって、俺と加賀見に運動嫌いという共通点があることがわかりましたとさ。どうでもいいけど。


 安達の家は普通の一軒家で、外見からは築年数がそれほど経ってないように思えた。ウチより新しいんじゃないかこれ。

「この時間は誰もいないから。上がって」

 安達が先に上がってスリッパを二人分出す。

「「お邪魔します」」

 加賀見と挨拶が重なったが、気にせず中へ上がり込み靴からスリッパへと履き替える。

 そのまま安達の部屋へ案内される前に、安達が片付けるから少し待っててと安達の部屋のすぐ前で立たされた。

 その間加賀見も俺の隣に並んで待っている。

 今までの経緯もあり、加賀見と二人になる状況は相当に苦痛になっていた。

 会話があれば加賀見は確実に俺の発言の粗探しをして論駁(ろんばく)しようとする。だから俺からは何も話さない。

 偶に色々なパターンでの猫騙しを俺に仕掛けてくる。本当に突然なので慣れることはない。だから俺は加賀見から距離を取っている。少なくとも加賀見が腕を目一杯伸ばしても届かないぐらいの距離だ。

 加賀見も特に俺に近寄らず黙っていた。俺にとってはいいことだった。

「ごめん、どうぞ」

 そう安達が言ったので彼女の部屋に上がった。

 安達の部屋にはベッド、学習机、棚、クローゼット、テレビとゲーム機が置いてあり、ベッドの端の方には女の子向けの可愛らしいぬいぐるみが何体か座っていた。

 他にも少女漫画などの漫画が棚に敷き詰められており、いかにも女の子が住んでいるとわかるようなレイアウトである。


「それじゃあゲームでもしよっか」

 そう言って安達は棚からゲームソフトのパッケージを手に取った。

 人気のレースゲームであり俺も同じシリーズのものを何本か遊んだことがある。なので少し自信があった。

 丁度いい、ここで勝ちまくって普段コイツら、とりわけ加賀見から貰っているストレスを発散しよう。モブらしく中途半端な順位で目立たないようにするなんてことは一旦忘れよう。

 なんて身の程知らずなことを思っていた先ほどの俺に説教したい。

 お前よりゲーム強い奴なんていくらでもいるんだぞと。

 例えばお前の隣にいる見た目はマスコット、中身はサディストの少女とかお前の手に負えないレベルだぞと。

 加賀見はレースゲームで俺や安達を一切追いつかせない無双の走りを見せ、常に一位を取り続けていた。

 俺もムキになってしまい加賀見と張り合おうとしたが、太刀打ちできませんでした。

 そんな俺を見た加賀見は俺に見せつけるように「フッ」と小さな笑みをこぼした。ホントに俺をイラつかせるの好きだなお前。でもそのカッコつけすぎた笑い方はかえってダサく見えるぞ。

 ちなみに安達は早々に勝負を捨て、俺と加賀見の勝負を観戦するモードに入っていた。いーなー楽しそう。すんごくモブらしい立ち位置じゃん。俺も観戦モードになればよかったよ。

 そんなこんなで気付いたときには一時間程過ぎていた。


「あ、そう言えばお菓子と飲み物準備してなかったね」

 安達があっいけないとばかりに口の近くに手を添える。別にお菓子とか要らないけどな。

「いや、俺は別に」

「遠慮しないで。二人は飲み物何がいい?」

 遠慮ってわけじゃないんだが……。まあここはありがたく頂くか。

「お茶があると助かる」

「では、お言葉に甘えて俺もお茶で」

 加賀見に便乗する形でお茶を頼むと、

「わかった、ちょっと待ってて」

 と安達は部屋を出た。

 そんなわけで、またしても加賀見と二人だけの状況になってしまった。


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