新たなる戦いのこと
本編は既に完結してます
ある意味でハーレム要素強めなので、あくまでこれは番外のお話と捉えていただければ幸いです
神霊結社デルンケムとロスト・フェアリーズの戦いは、悪辣なる首領セルレの死をもって決着した。
デルンケムは謎の金髪の美少女と統括幹部代理ハルヴィエドの手により、元の慈善団体に戻ることになるのだろう。
こうして日本は平和になった……かに見えた。
しかし騒動から一年、巷には新たな脅威が生まれ始めていた。
◆
“クピディタース”。
その異形の化け物は、いつの間にか街に現れ出した。
姿は不定形であり、獣のような者もいればスライムやローパーを思わせる形も発見されている。
初めは神霊結社デルンケムが再度の侵攻を始めたのではないかと囁かれていたが、それらの意見はすぐに否定された。
首領セルレの出現を予見していた社会学者、デルンケムの行いを独自に研究していた教育評論家などが「これらは組織の怪人とは違った性質を持っている」とテレビで発言したからだ。
加えて、メタル兵と呼ばれるデルンケムの全身装甲の兵士が市民の安全を守るために度々クピディタースを討伐していた。
一説では統括幹部代理が秘密裏に動き、日本政府と連携してこの件の対処に当たっているのだという。
この化物たちは、デルンケムとは違い侵略活動を行わない。
単なる破壊行動を繰り返すだけの存在だった。
ただ、今のところ大きな被害は出ていない。
浄炎のエレス、清流のフィオナ、萌花のルルン。
一年が経ち少し成長したロスト・フェアリーズたちが、デルンケムのメタル兵と共同で対処に当たっているためだ。
なおSNSではエレスちゃんはまた一部が少し成長したけどフィオナちゃんは「うん……だよね」という話で盛り上がっている。
そして被害が出ていないもう一つの理由は、妖精姫とも組織とも違う、新たなる守護者が現れたからだった。
「えーと、ま、魔法少女まじかる☆ユエ、ここに参上……だよ?」
名乗り口上が恥ずかしいらしく、ちょっと頬を染めつつ弱弱しくポーズをとる。
そう、クピディタースが現れ始めたのと同時期に、日本では魔法少女が確認されるようになった。
“まじかる☆ユエ”を名乗る12歳くらいの女の子その一人だ。
そもそもクピディタースという名称自体が、魔法少女からもたらされたものだった。
肩にかかるくらいの淡い桃色の髪をした少女は、桜の花をモチーフにしたふっりふりのベタな魔法少女衣装を身にまとい、得意の魔法でクピディタースと戦う。
「いっくぞぉ! まじかる☆裡門頂肘!」
まじかる☆ユエは炎の魔法で拳と肘を覆い、素晴らしいほどの震脚から繰り出される直接的な打撃を用いて倒すのだ。
ふりっふりでメッチャ女の子女の子した格好だけど。
「よっしゃ、オレの勝ちだ! おーい、皆! もう大丈夫だぞー!」
「ありがとー、魔法少女ユエ!」
「へへっ、どうもどうもー!」
あとオレっ娘だけど。
外見は幼く可愛らしい魔法少女なのに打撃系な活発オレっ娘、それでいて優しい性格をしている。
ロスト・フェアリーズとはまた別のタイプの少女はSNSで話題になっていた。
しかし今日というこの日、魔法少女まじかる☆ユエの名はさらに有名なものになってしまう。
「待ってくれ、君は何者なんだ!?」
騒ぐ民衆を押しのけて、新聞記者がユエに問う。
彼女は特に慌てるでもなく平然と答えた。
「オレ? オレは、18年後の未来からやってきた。未来を、みんなを、そして父ちゃんと母ちゃんを救うために」
未来……?
突飛な答えに周囲の人々は困惑しているようだ。
しかし、魔法少女まじかる☆ユエは更なる爆弾を投下する
「オレは、ハルヴィエド・カーム・セインの娘! 父ちゃんみたく、大切な人のために戦う。そのために父ちゃんと母ちゃんはオレに炎の力をくれたんだ!」
……18年後からやってきた、ハルヴィエド・カーム・セインの娘を名乗る魔法少女。
その存在は多くの者に衝撃を与えた。
主に株式会社ディオスの社員とか、喫茶店ニルとか、とある中学生とか高校生とか。
あと某電子掲示板とかに。
誰もが予感していた。
この先には、激しい戦いが待っているのだろうと。
◆
117:ハカセ
ちゃうねん
118:名無しの戦闘員
あ?
119:名無しの戦闘員
なにふざけてんのお前
120:名無しの戦闘員
娘ってどういうことだ舐めてんのか(#゜Д゜)ゴルァ!!
121:ハカセ
いや、待って
ホンマ聞いて、何のことだかさっぱり
122:名無しの戦闘員
もうハカセってば何をやってるのぉ!
炎を操る打撃戦主体の魔法少女なんてママは一人しかいないじゃない!
あああ私ちゃんの地道な草の根活動が未来では成果をあげるのねぇ!
可愛いよ可愛いよユエちゃん!
二人の愛の結晶がここに!
あれ、でも私ちゃん結婚式に呼ばれてない?
ううん、大丈夫! 心はいつでも仲人だから!
123:名無しの戦闘員
エレハカ女、ステイ
124:名無しの戦闘員
実際特徴だけ取り上げるとどう考えてもママはエレスちゃん
未来で何があったんだ……?
125:名無しの戦闘員
そもそもの話、未来からやってきたってのが騙りの可能性はあるだろ
126:名無しの戦闘員
ワイ将、ハカセはいつかやると思ってたンゴねぇ……
127:名無しの戦闘員
とりあえずお前フィオナちゃんに土下座しとくべきじゃない?
128:ハカセ
まず社員がワイを信じてない件
いや、ほんまに何者よ、まじかる☆ユエ
時間旅行自体は、現状は無理でも将来的には出来るかもしらん
18年後ならもしかして、と思わなくもない
でも、えぇ……なんでや未来のワイ
129:名無しの戦闘員
そういやハカセ、クピディタースについては分かってるの?
130:名無しの戦闘員
男と女だ、何があるかは分からんぞ
あの子、言っても小学生高学年くらいだろ?
十八年後だから、単純計算エレスちゃんが二十歳前後の時に生まれたことになる
大人になったエレスちゃんの魅力にハカセがクラっとやられた可能性もある
131:ハカセ
うせやろ……
あ、クピモンはあれ、物質化した霊体やね
ある意味魔霊兵の親戚と言える
ただすごく不自然な構成をしとる
設計図を使わず、大本だけ作って乱暴に複製培養しました、みたいな?
132:名無しの戦闘員
ってことはデルンケム由来の技術じゃないのは確かか
133:名無しの戦闘員
書きにくいし俺らもクピモンで行こうぜ
しかしハカセの娘が魔法少女とはなぁ
いや、事実かどうかはまだ分からんけど
134:名無しの戦闘員
また戦いが起こってんのにこのスレはホンマゆるいなw
135:名無しの戦闘員
マジメな話に戻すけど、デルンケムって現状なんか掴んでたりする?
136:名無しの戦闘員
あ、それは俺も聞いときたい
137:ハカセ
一応調査はしとる
1.クピディタース(以下、クピモン)という魔物が発生している。
2.それに呼応して魔法少女が現れた。
3.クピモンは物質化した霊体、怪人や魔霊兵に近い存在だが少し歪。
4.クピモンは性質上、出撃ではなく「発生」する。
5.ただし自然発生ではない。造られたコアを起点に生まれると推測。
6.現状では目的のない無軌道な破壊を繰り返している。
7.魔法少女達が使う魔法はワイらの次元のものと同じ。
8.次元レーダーに反応がないため別次元からの侵略の可能性は薄い。
こんくらいやな
ワイらは現状を「化物になる“タネ”みたいなもんがあって、黒幕的存在がバラまいとる」と解釈しとる
それが未来からの来訪者って線は否定しきれんな
ただ、少なくとも魔法少女ちゃんたちに企みはないと思うで
とすると、ワイの娘を名乗った意味が分からんのやけど
なんにせよ情報が足らんし、どっかで接触は持ちたいな
136:名無しの戦闘員
相変わらず専門機関や政府よりもにゃんjの方が状況をよく知れるよね……
137:名無しの戦闘員
まあ娘と水入らずで過ごしたいってのは分かる
138:名無しの戦闘員
ユエちゃんと話す時はエレスちゃんも呼ぶべきじゃない?
家族三人で揃って話すことで盛り上がる感情もあるって私ちゃん思うんだ
139:名無しの戦闘員
ハカセらと同じ魔法の体系なのね
となると、未来から来たって可能性も残っちゃうか
140:ハカセ
>137
ち が う
141:名無しの戦闘員
お前ら大変だ!
なんかハカセの娘を名乗る魔法少女が現れた!
142:名無しの戦闘員
情報おせーよホセ
143:名無しの戦闘員
さっきからその話題だよこっちは
144:名無しの戦闘員
俺も見たぞ!
いや、正直何となくあの子フィオナちゃんに似てるなーとは思ってたんだ
145:名無しの戦闘員
は? 全然似てねーし
146:名無しの戦闘員
オレっ娘炎系打撃魔法少女だもんな
147:名無しの戦闘員
は? なに言ってんの?
148:名無しの戦闘員
結婚おめでとうハカセ
149:名無しの戦闘員
魔法天使らぶりー♡みそらちゃん可愛いよね
ちょっと幼い感じだけど美人の片りんが見えてる
あれは間違いなくフィオナちゃんの血だわ
150:名無しの戦闘員
おい待て
ユエちゃんの話どこいった?
151:名無しの戦闘員
は?
152:名無しの戦闘員
は?
153:ハカセ
は?
◆
後に世間で「魔法少女大乱」と呼ばれた一連の事件。
その始まりは、魔法少女まじかる☆ユエによる「オレはハルヴィエドの娘」宣言だった。
しかしなんの偶然か、同日に似たようなことをやらかす魔法少女がいた。
【魔法天使らぶりー♡みそら】。
青と白を基調とした薄絹のドレス、氷の結晶をあしらったアクセサリー。
氷を操る魔法少女は多くの人前でこう語った。
「わ、私は、魔法天使らぶりー♡みそら。パパを、ハルヴィエド・カーム・セインを救い、世界を守るために未来から来ました」
また【花嵐のアリス】を名乗る妖精姫が「まあ、メインは父さんと研究の話をしに来たんだけどねー」と。
【ジュリアレーテ・エフィル・セイン】を名乗る金髪の女性が「妾は父様のために此処まで来たのだ」と。
魔法少女たちはそれぞれ我こそが「未来からやってきたハルヴィエドの娘」であり、クピディタースを倒し世界を救うのだと語って見せた。
これは「魔法少女大乱」と呼ばれた一連の事件。
にゃんjでは後に「大惨事ハカセ大変」と呼ばれた戦いの記録である。
ぶっちゃけハカセ一人が大変なだけです。
おまけ・最初にまじかる☆ユエが名乗りを上げちゃったせいで起こった不具合。
……スマホを握りしめながら、ボクこと結城茜は恐れおののいていた。
ボクはこれでもそこそこ腕が立つ。
修羅場も幾つか潜っている、恋愛的な意味ではなく戦闘的な意味で。
そういう女の子にだけ働く勘がある。
その勘が言ってる。
Sayuki【茜、少し聞きたいのがあるのだけど】
もえもえ【茜さん、ちょっとお話したいです】
ヴィラ【乳か? 乳を使ったのか?】
み~な【勘違いだと思うけど絶対面白いことになってるから一応メッセにゃ】
リリア【とりあえず合同会社ディオスまでご足労お願いいただけますか?】
英子さん【……大丈夫? 悩みあったら聞くよ?】
ボク、すっごく危機。
さっきから着信が連続してる。
これ、どうすればいいんだろうか。
なお、魔法少女たちの連続ハル娘宣言によりすぐ収まりました。
おまけ[本編には全く関係ない知識]
<アリス・エヴァンス>
ベンケイソウ科セダム属の多肉植物。
ぷっくりとした葉が特徴でかわいらしい。
日本ではハルモエと呼ばれている
〈夕映え〉
読み:ゆうばえ
夕日に反映して物の色が美しく照りかがやくこと。
また、夕焼けのこと。
春の美しい夕焼けの空のことを、春茜とも呼ぶ。