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キレイに終わらせないお疲れ様会のこと

時系列:ラストバトルが終わってすぐ



 神霊結社デルンケムとロスト・フェアリーズの激戦(という名の茶番)は和解という形で決着がついた。

 異空間基地のホールにて、首領ヴィラベリート・ディオス・クレイシアが日本侵略作戦の中止を宣言。今後は暮らしの場を日本に移していくという。


 事実上デルンケムは活動停止状態となるが戦闘員からの反発はなかった。それどころか割れんばかりの歓声が上がった。

 というのも、アフターケアが充実していたのだ。

 組織の業務がなくなる代わりに、元幹部であるレングの管理するマンションが生活拠点として与えられ、ハルヴィエドの経営する合同会社に好待遇で迎える準備が整っている。


 戦闘員はみな異次元出身であり、なんだかんだ日本に興味があったらしい。

 住むところも仕事もあって、さらに異界の文化を楽しむことができる。侵略なんかよりよほどいいと「アレが食べたい」「ここに行きたい」なんて話し合っている。

 その光景に侵略肯定派だったヴィラは若干へこんでいたようだが、「皆の笑顔を見られたのなら、きっとよかったのじゃ」と受け入れた。


 ラストバトルで共同戦線を張ったことにより、妖精姫たちとのわだかまりもある程度解消されたらしい。

 戦闘員M男が高レベルな低年齢である萌花のルルンに見惚れるという事案が発生したものの、恋人である戦闘員I奈によるお仕置きで事なきを得た。

 チャラさが売りの戦闘員C男が清流のフィオナに近付こうとした瞬間、何者かから射殺さんばかりに睨みつけられたことも追記しておく。

 こうして正義も悪もひとところに集まり、お互いの健闘を称え得られた平穏を喜び、せっかくだからと慰労会を開く運びとなった。

 慰労会には、一度は組織を離れた元幹部たちや戦闘員A子も参加している。

 妖精姫が飲酒可能年齢に達していないため酒の提供は少しだけ、メインは特上のお寿司だ。それにミーニャとレティシアが何品か付け加えている。

 所属に関係なく好き勝手喋って、皆でおいしい料理を食べる。

 ハルヴィエド・カーム・セインは、自身が望んだ「誰も傷つかない戦いの終わり」にようやく辿り着くことができた。

 そんな彼には清流のフィオナ……神無月沙雪が寄り添っていた。

 

「ハルヴィエドさん、行きましょう?」 


 苦労の一端を知る沙雪はハルヴィエドの手をとって、皆の輪の中に連れて行こうとする。 得たものをちゃんと噛み締めてほしいという彼女の優しさだろう。

 ホールを見回す。各々楽しんでいるようだが、ひと際目立つのは空の寿司桶が積み上げられたテーブルだ。


「やっぱハマチだな。生エビもうめぇし、マグロもいい」


 ガタイがよく大食漢な元幹部レングは全力で寿司をかっ食らっている。

 近くでは浄炎のエレスこと結城茜も舌鼓を打っていた。


「ボクはウニと、アナゴかなぁ。うん、中トロもおいしいや」

「嬢ちゃんうまそうに食うなぁ。見ていて気持ちがいいぜ」

「そうですか? レングさんもすごく豪快ですね!」


 意外な組み合わせだが意外と話は弾んでいるようだ。ハルヴィエドは談笑する二人に声をかける。


「楽しんでいるか?」

「おう、ハルヴィ。悪いな、俺までご相伴にあずかっちまって」

「なに、タキシードマッチョ様は大活躍だったからな。レングがいる計算で量を頼んでいるから、遠慮せずに食べてくれ」

「そう言ってくれりゃ助かるぜ。……でよ、今さらなんだが。タキシードってやつが伝統的なバトルコスチュームってのは、本当なのか? なんか観衆がざわついてたんだが」

「もちろんだ。変身ヒロインたちを助ける男の正装だよ」

「そうなのか。あれが……なんつーか、文化の違いってなぁ不思議だな」


 ゴリマッチョ素直すぎて草。

 もとい、親友であるレングは人を疑うことを知らないイイヤツだ。ただしそれを聞いていた茜も「そうなんだ……」と感心している様子。この娘は将来が少し心配である。


「にしても、茜ちゃんと好きなネタが一致しすぎて驚きなんだが」

「え、それって」

「ウニとアナゴ。それに中トロが好きだよ」

「あー。実はボクと晴彦さんって味覚ほとんどいっしょですよね」 


 ハルヴィエドも茜も肉と米、それに味の濃い料理が好物だ。そのうえ好きな寿司ネタまで完全に同じという妙な相性のよさを発揮してしまった。

 すると茜は慌てて沙雪の方を見た。しかし特に気にした様子はなく、彼女も普通にお寿司を食べている。


「あ、あれ?」

「どうしたの、茜?」

「えと、なんか怒らせちゃうかなーって」

「嫉妬されるかも、ってこと? 大丈夫、茜は大切な親友だもの」


 沙雪は穏やかに微笑んでおり、茜も安堵の息を吐いていた。


「私はタイとか、白身の握りが好き。確かに好物は違うけれど、それならそれで一つずつ交換したり別の楽しみがあるから」

「そっか! そういうのもいいよね!」


 少女たちの会話を見ていたレングは(つまり親友でなけりゃ嫉妬されるってことじゃねえか、それ?)なんて考えたが、誰にも伝えず飲み込んだ。彼は空気の読めるゴリラである。


「ハルヴィ、頑張れよ」

「いや、なにが?」

「次元が変わっても、変わらねえ真理がある。夫婦ってのは、多少旦那が尻に敷かれる方が上手くいく」

「そんなもんか?」

「おうよ。男のプライドは、なにがあっても捨てないことに意味がある。だが結婚すりゃあ、今度は簡単に捨てられてこそ価値が出るってもんだ。ちゃんと覚えとけよ」


 幹部唯一の既婚者のアドバイスだ。今は理解できなくても、きっと大切なのだろうと胸に深く刻む。話を横から聞いていたレティシアとエーコもうんうんと頷いていた。


「け、結婚、ですか」


 頬をほんのり赤く染めた沙雪が上目遣いにハルヴィエドを見る。

 共に初恋だが想いの重い二人だけに現時点でも意識はしている。だから言葉もなく見つめ合い、互いに小さく笑う。


「うふふ、いちゃついていますよ。あのハルヴィエドさんが」


 二人の経緯を詳しく知るJの者、レティシアがはやし立てる。


「沙雪さん。何でもできるくせに日常では抜けの多い殿方ですから、よろしくお願いしますね?」 

「ええと、自信をもって任せてと言えるほど大人ではありませんが。……いっしょに、歩いていきたいと思います」


 忙しい毎日に時々忘れてしまうけれど。

 心配してくれる人がいることも、共にと望んでくれる人がいることも、きっと奇跡のような幸せなのだろう。  


「そう言ってくれると嬉しい。これからもよろしくね、沙雪ちゃん」

「はい、ハルヴィエドさん」


 だからこの胸に広がる温かさをちゃんと覚えていられるように、ハルヴィエドはそっと自身の胸元に手を置いた。その意図を察したのだろう、沙雪も手を重ねてくれた。

 甘やかな空気が流れる。……が、それを打ち破るように大きなドラの音がホールに響いた。

 何事かとその場にいる全員が視線を向ける。

 するとホールの一角にいつの間にやら演壇が用意されており、横断幕が張られていた。

 そこにはでかでかとこう書かれている。



【第一回デルンケム長編ラストバトル賞発表】



 スポットライトを浴びて、ミーニャ・ルオナがバニーガールならぬキャットガール姿で堂々と壇上に上がる。通常ならアシスタントの格好なのだが、どうやら彼女が司会進行役のようである。

 しかもよく見ればトロフィーが複数用意されていた。なお設営はすべてミーニャが分身を駆使して担当している。操影術の無駄遣いだった。


「……ミーニャ、これはいったい?」


 近付いたハルヴィエドが問えば、ミーニャはいつもと変わらない静かな調子で答えた。


「ラストバトル、みんな頑張った、にゃ。」

「うん、そうだな」

「でも、ところどころミスがあったりもした。失敗には反省が必要。そして〝これだ!〟という人は表彰する。そうして次に繋げることが、大切、にゃ」

「言っていることは正しいと思う。ただね、ミーニャ。打ち合わせや事前通達もなくここまで大仰なイベントをするというのは」

「では、初めるにゃ」

「あ、ダメだわこれ聞く気ねーわこの子」


 こうなったミーニャが止まらないことをハルヴィエドはよく知っていた。

 どこかからドラムロールも聞こえてくる。どこか、というかミーニャのボイスパーカッションだった。

 うますぎて本物にしか聞こえない。いつの間に練習をしたのだろうか。


「まずは元デルンケム統括幹部ゼロス・クレイシア。並びに戦闘員エーコ・タウ・クーヤ。壇上にどうぞぉ!」


 クール無口キャラをかなぐり捨てて、眩しい笑顔でゼロスとエーコを呼ぶ。しかしすぐに無表情に戻ってしまった。情緒が大変なことになっている。


「俺?」

「わ、私もですか?」


 戸惑いつつも壇上に上がれば、キャットガール・ミーニャからありがたいお言葉が贈られる。


「二人は魔霊兵戦において多大な活躍をされました。ゼロス様のいい磔具合はSNSでも人気、今や立派なネットミームです、にゃ」

「泣いていいか?」


 初っ端から辛辣な発言にゼロスがたじろいでいる。

 実際に磔騎士画像は拡散され切っているので何も言えない。


「加えてスタイル抜群の戦闘員エーコと全身甲冑な黒騎士の組み合わせがたいそう面白いと評判。ただ、二人はラストバトルに置いてそれほど活躍していないため受賞なしです。お疲れ様でした、にゃ」

「じゃあなんで呼ばれた⁉」

「ええ……」


 あんまりなことを告げられてミーニャの分身体に促されたゼロスとエーコは会場に戻る。 

 もしかしてこんなことが続けられるのか。慰労会に青い戦慄が走る。


「続いて萌花のルルン」

「は、はいっ⁉」


 目の前で起こった惨劇に身構える朝比奈萌は、ハルヴィエドの姿を見つけると助けを求めて小走りでこちらにきた。


「私、ど、どうすれば」

「安心してくれ。ミーニャも君にはひどいことをしない、はずだ」

「そ、そうですよね? ハルさんが言うなら、信じます」

 

 声をかけたことで少しは固さが取れたのか、萌が少し怯えながらも壇上に上がる。緊張しすぎているせいで手と足が同時に出ていた。


「がんばれ萌ちゃん!」


 ハルヴィエドの応援が届いたようだ。彼女の目には力が戻り、まるで決戦に挑むような面持ちでミーニャと正対する。


「萌花のルルン」

「は、はいっ!」

「あなたはラストバトルにおいて、迫真の演技と違和感のないアドリブで物語を盛り上げてくれました。よってここに、長編ラストバトル助演女優賞の受賞となります。トロフィー贈呈、にゃ」

「あ、ありがとう、ございますっ!」


 シンプルな賞賛だった。

 身構えていただけに安心して体の力が抜けたようだ。安堵の息を吐くと、無駄に作り込まれたトロフィーを受け取った萌は、ハルヴィエドにピースサインと無邪気な笑みを見せる。


「見てください、ハルさん! 助演女優賞だそうです!」

「うん、おめでとう」


 萌は何度もその場でジャンプしてツインテールを揺らしている。これ意外と余興としては悪くないんじゃないか? そう思ったが、ミーニャが冷静に言葉を続ける。


「地味にヴィラ首領を邪魔したところとか超面白かったにゃ」

「邪魔したつもりはありませんよ⁉」


 オチを付けることは忘れない。やはりダメージは覚悟しないといけないらしい。


「続いて元デルンケム幹部レング・ザン・ニエべ」

「俺もかよ」

「あなたはタキシードマッチョ様として、ネイキッドマッチョ様として、獅子奮迅の活躍を見せました。全体のシナリオ知らないのに『ハルヴィの言う通りだ!』の一言でこちらに合わせて動くあたり、普通にすごかった。よって助演男優賞はレングが受賞、にゃ」

「おう、あんがとよ。てか、なんで俺のトロフィーはゴリラを象ってんだ?」

「レングに似合うと思って」

「お、おお」


 気遣いなのか悪ふざけなのか判断が付きにくい。

 ただレングに対する誉め言葉は本音のようだ。年齢は離れているが、二人は気の置けない友人同士であり互いに認め合っているのだ。


「続いてヴィラベリート・ディオス・クレイシア首領」

「うむ、私か」


 金紗の髪をたなびかせ、優美な所作でヴィラが皆の前に立つ。

 普段の態度からは想像もつかないが、この子の振る舞いは人を惹き付ける。それを意識してできるのは首領として気を張ってきたせいでありおかげだろう。

 ミーニャの評価もそこに焦点を合わせたようだ。


「演技力という点ではヴィラ首領はずば抜けてる、にゃ。ルルンとの絡みでちょっと素は出たけど、なにも知らない周囲の人たちからしたら、たぶん本気で薄幸の美少女に見えてた。それに首領セルレを倒すように浄炎のエレスに発破をかけるシーン、お約束を踏まえてた、にゃ。主演女優賞はヴィラ首領をおいて他にいにゃい」 

「我ながら見事だったと自負しておるのじゃ。主演女優ということは、私の役どころはヒロインでよかったのかや?」

「囚われのお姫様、なので間違いなく。このラストバトルは首領を解放するためのもの。そういう意味でも主演は首領にゃ」

「……うん、そうじゃな。見えていなかったものを見て、私を縛るものを踏み越えた」


 そこでヴィラは会場にいる全員を見回した。


「ハルヴィエド! みんな! 私、頑張ったのじゃ!」


 太陽のような、心からの喜びを伝えるような最高の笑顔だった。

 ああ、これは確かに表彰ものだ。結末が悲しいものではなく、あの子の未来を照らす眩しさに溢れていて、本当によかった。


「……報われましたね。ハルヴィエドさんの、これまでが」

「そうだな。……みんなの、おかげだ」


 寄り添う沙雪が瞳を潤ませ、優しく微笑んでくれる。

 日本侵略がなければこうはならなかった。巡り会わせというは不思議なものだ。


「続いて特別賞、レティシア・ノルン・フローラム」


 ここでまた戦闘員たちがざわついた。

 組織を離れた彼女が受賞するとは思っていなかったのだろう。


「私ですか?」

「レティシアは、直接戦いには参加しなかった。でも、ネットを通じてデルンケムの悪評がたたないよう尽力してくれた。離れても、組織のために動いたレティシアは特別賞でいいと思うにゃ」


 ……この子、油断ならねえ。

 さすがにデルンケムの情報・諜報担当幹部。ネット上での動きも掴んでいたらしい。

 周囲から「おお、フローラム幹部が」「私たちのフォローをしてくれてたんだ」「でけえ。久々に見たけど、やっぱでけえ」などの称賛の声が上がる。C男、自重。


「……そう言ってくれるなら、ありがたく頂戴しますね」


 情報操作というよりにゃんJ民の祭りであったため素直に喜べないらしい。視線を逸らしつつレティシアがトロフィーを受け取る。


「ちなみに主演男優賞はハルの努力不足のためナシ。そして最後、大賞を発表します」


 何故か軽くディスられた。

 再びドラムロールが始まり、スポットライトがホールのあちらこちらを照らす。

 残る主演となると沙雪か。ある意味で一番活躍したのはミーニャ演じる首領セルレだったが、大賞となると誰になるのか。

 なんだかんだで会場の戦闘員たちも雰囲気に飲まれ、固唾を呑んで結果を待っている。

 そしてドラムロールというかボイスパーカッションが終わると、ついにその人が発表された。


「浄炎のエレス!」


 ちょうどアナゴのお寿司を口に入れた瞬間、茜にスポットライトが集中した。


「んぐっ、な、なんでボク⁉」

「はい、壇上にどうぞぉ!」


 ミーニャはまたも麗しい笑みで元気よくポーズを決めている。

 まさか自分が受賞となるとは思っておらず、のんびりお寿司を堪能していた茜にとっては完全に不意打ち。驚きすぎた彼女はアナゴをのどに詰まらせかけていた。

 勢いよくお茶を飲んで流し込み、一息つくと今度は慌ててハルヴィエドの胸元を掴んですがりつく。


「晴彦さん、美衣那ちゃんが! 美衣那ちゃんがなんか変なこと言い出しました⁉」

「いやうん、それはそうなんだが、ノリに流されて戦闘員たちも期待してるようだしね」


 周りを見るように促すと、茜は遅れて期待の目が集まっていることに気付いたようだ。

 つまり、逃げ場はない。

 主役の登場を待つ会場の雰囲気に負けた茜は、がっくりと肩を落としたまま壇上に向かった。


「はい、来ました……」


 暗い雰囲気の茜とは反対に、ミーニャはやる気に満ち溢れている。


「浄炎のエレス。あなたは演技をしながらも途中でセリフを飛ばしたり嚙んだりしていました」

「その通りです、公開処刑やめてください……」

「でも、それがよかった、にゃ。嘘のつけないエレスの性格がよく表れていて好感が持てた。なにより首領セルレへの最後の攻撃。ヴィラ首領のアドリブ、『最後の始末、頼むのじゃ』を、演技ではなく本気の心で受けて、本気の一撃を放ってくれた。あれは、なによりも必要で……エレスにしかできなかったこと」


 ミーニャは母性すら感じさせる穏やかな表情をしていた。


「美衣那ちゃん……」

「ありがとう、エレス。ううん、エレスだけじゃない。フィオナも、ルルンも。私たちの大切な人のために、戦ってくれて」


 結局、ミーニャもヴィラのことを心配していたのだ。

 組織に残ったのはハルヴィエドのためだけではなく、独りで意地を張っている友達を心配していたからなのだろう。


「その心を称え……デルンケム長編ラストバトルお笑い大賞の初代受賞者は、エレスに決定。ここに黄金の磔ゼロス・トロフィーを贈呈するにゃ」

「お笑い大賞⁉」

「なぜこっちにまで被害が来る⁉」


 茜とゼロスが大声で叫ぶ。

 鎧騎士が磔にされた姿を象った、全長八十センチの黄金のトロフィーが茜に手渡される。不必要なまでに精巧な作りの美しい磔ゼロスが照明の光を受けて煌めいていた、

 どのタイミングで作った? ……あれか、前もって用意していたな?


「あの、え? さっきまでの話は、いったい?」


 混乱しきっている茜に、きょとんしたミーニャは抑揚なく説明する。


「感謝はホント。でも頑張ったという観点なら、組織全員の力があっての勝利。だから評価基準はそこにない」


 名前は呼ばれなかったが、アイナやサーヤ、リリア。他の戦闘員たちも今回の茶番のために全力で臨んでくれた。

 だから初めからこの賞は、功績を称え与えられるものではない。


「ラストバトル大賞は、私の心にグッときた人に贈られる賞。ミスに気付いてわたわたしたり、セリフ忘れて『終わった……』みたいな表情がすごくよかったから、もう大賞はエレス以外には考えられない、にゃ」


 端的に言えばミーニャを楽しませた者が問答無用で優勝の、最悪な賞だった。


「その意味でハルもフィオナもはっちゃけが足りなかった、にゃ。服だけ溶かして人体には一切影響のない溶解液を受けてたらフィオナは一気に大賞だった可能性も」

「心の底から防ぎ切れてよかったって思う」


 沙雪が早口でツッコむ。

 茜には申し訳ないが、肌を晒して大賞受賞とか遠慮したいといったところだろう。ハルヴィエドからしても想い人がそんな目に合うなんて認められない。別に茜ならいいということでもないが。


「第一回ミーニャお笑い演芸大賞はこれにて閉幕。ありがとうございました、にゃ」


 もはや賞の名前すら変化している。

 多くの戦闘員がいる中で「一番おもしろかった」という評価を受けた茜はしばらくの間呆然としていたし、レティシアとエーコは黄金の磔ゼロス像を欲しがっていた。


「あ、はは……」

 

 同情するように鳴るまばらな拍手が、茜に追加ダメージを与えていた。





「ふう。一仕事終えた、にゃ」 


 満足げに流れていない額の汗を拭くミーニャ。

 そこに駆け付けたハルヴィエドは彼女の頭を小突く……のはできないため、こめかみを人差し指でつついた。


「こらミーニャ、あんまり茜ちゃんを弄らないの」

「ハル。分かってる、後でフォローしておく、にゃ」

「そうしてくれ。だが、おかげでレングたちもいい具合に周りに溶け込めたようだ。そこは、ありがとう」

「にゃ」


 ゼロスは追放されたという言い訳もあるが、レングたちはなんだかんだで組織を捨てた身だ。多少なりとも負い目がある。

 しかしこのバカ騒ぎの流れで組織のための行いが知れ渡り、戦闘員たちの態度も軟化したようだ。


「やっぱり、ゼロス様もレングもレティシアも、仲間。気兼ねはしてほしくない、にゃ」


 嘘偽らざる本音をこぼして、ミーニャは手をひらひらと振って離れていった。キャットガール姿から着替えるのと、たぶんハルヴィエドと沙雪に気遣ってのことだ。

 あれで兄を大切にし、いつも幸せを祈ってくれている優しい妹分なのだ。


「いい子ですね」

「ああ。悪戯好きがすぎる時もあるけどね」


 悪ノリと言えばそうだが、慰労会に花を添えたのだから結果としてはよかったのかもしれない。

 ちょっとしたイベントを経て戦闘員たちはさらに盛り上がっている。一部は酒のテンションも入っているようなので、そこは目を光らせておかないといけない。

 しかし総合すれば、いい慰労会になった。


「それじゃあ、沙雪ちゃん」

「ええ」


 ハルヴィエドは沙雪と手を繋ぎ、一歩を踏み出す。

 これから先も困難は色々あるだろうが、彼女とならそれすらも楽しんでいけると思う。 

 だから今はまず。

 視線の先には体育座りをしている結城茜ちゃんを慰めることから始めよう。




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