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焦がしニンニクとマー油と正義と悪の超☆チャーバン


【ある中学生男子が見た正義の味方と悪の組織の戦い】

 これは普通の中学一年生である俺が実際にこの目で見た光景だ。

 悪の神霊結社デルンケムと正義のロスト・フェアリーズ。

 まるで特撮の世界から飛び出てきた奴らの、命とか誇りをかけた激しい戦い。

 ……平凡な俺からすると嫉妬してしまうくらいに全霊で生きる奴らの、眩しい意地の張り合いだった。


 メタル兵の騒ぎはタキシードマッチョ様を名乗る謎の筋肉紳士によって鎮圧された。

 けれど戦いがひと段落ついてもそいつは動かない。


「まだだ、あいつらが戻ってくる」


 そう言って磔にされた黒騎士の近くで腰を下ろす。

 やけにスタイルがいいとSNSで話題になっている女戦闘員も離れる様子はない。

 その意味を俺は後になって知る。

 なんとなく気になり、俺は外でぶらぶらしていた。すると陽が落ちた後に、タキシードマッチョ様の予見通り再びデルンケムの襲撃が起こった。

 今度はメタル兵ではない。そいつは緑色の肌をした六本腕の化け物だった。

 何もないところに転移ゲートみたいなのが開き、首領セルレが現れたのだ。


『我が名は首領セルレ! 悪徳と暴力を愛し、現世を地獄に変える者なり! にゃ』


 超野太い声で巨漢が叫ぶ。以前の放送で姿は知っていたけど、じかに見ると圧倒されてしまいそうな迫力がある。

 暴れ回る化け物。ロスフェアはデルンケムの基地に攻め込んだはずだった。

 なのに首領がここにいるということは、まさか負けたのか?

 よぎった不安をかき消すように、またも転移ゲートが開く。 


「ふう……どうやら、追いつけたようだな」


 現れたのは俺ですら知っているデルンケムの幹部。

 銀髪のイケメン……統括幹部代理ハルヴィエド・カーム・セインだった。

 しかし冷徹そうな幹部代理は首領セルレの援軍ではなかったらしい。あの化け物の傍にはいかず、むしろ敵を見るような眼で睨みつけている。


「大丈夫か、エレスちゃん」

「はっ、はひ⁉ だだ、大丈夫でございます⁉」←一位


 ハルヴィエドはなぜか浄炎のエレスをお姫様抱っこしていた。

 怪我をしているのだろうか? 彼女の方は顔を赤くして、ガチガチに体が固まっている様子だ。


「えへへ、ハルさんのおんぶです」←二位

「ルルンちゃん、手は疲れてないか?」

「はいっ」


 萌花のルルンは、なぜかハルヴィエドの背中に抱き着く形で乗っている。

 一度SNSを確認すると、「ハルヴィエドふざけんな」「俺のエレスちゃんとルルンちゃんに手を出すな」等の呟きが飛び交っていた。

 正直俺も同じ気持ちだ。イケメンは敵。

 その後ろからは清流のフィオナが、謎の金髪の美少女を支えながら出てきた。


「……くっ」←三位

「むむ」←四位


 清流のフィオナは今の時点で敗北感に満ちた表情をしていた。もしかして基地で既に一戦やらかした後? 首領セルレはそれだけの強敵なのか。

 さらに以前浄炎のエレスを追い詰めた女性メタル兵もいる。

状況が全く理解できなかった。


「じゃあそろそろ降りてもらえると助かる」

「はぁーい」

「わ、わひゃりましたっ⁉」


 ハルヴィエドに促されて浄炎のエレスと萌花のルルンは自分の足で立った。

 まだ体調が戻っていないようで、エレスの顔は赤く足元も少しふらふらしている。反面ルルンは満足そうだった。


『ほう、裏切り者のハルヴィエドと、ロスト・フェアリーズのお出ましか』


 首領セルレが嘲るような視線を向けた。

 清流のフィオナが一歩前に出て、静かに答える。


「首領セルレ……。デルンケムを私物化し、暴虐の限りを尽くす。私たちは、決して貴方を許しません」

『くく、ははは! 何を言うか! 組織の者はこの俺の駒にすぎにゃい! なにより、暴虐というならば、貴様の隣にいる男とてそうだろう!』


 くだらないと笑い飛ばす首領セルレ。ハルヴィエドはそれを平然と受け止める。


「ああ、その通りだ。私は今まで、お前の命令に従い心ならずも。そう、心ならずも! 日本の侵略に従事してきた」


 氷の美貌を歪めてハルヴィエドが声を絞り出す。


「可能な限り、日本人たちに危害を加えないよう立ち回ってきたつもりだ。それでも無視できない被害があっただろう。その罪はすべて私にある。戦闘員たちは、あくまで私に強制されていただけだからな。……だがっ!」


 一度金髪の美少女をちらりと横目で見た後、首領セルレにあからさまな敵意をぶつける。


「この子を救い出せた今! もはや貴様に従う必要はない! 卑怯な手段で慈善団体だったデルンケムを乗っ取り、悪の組織として侵略に走らせた悪辣なる首領セルレよ! 私はお前を断ずるためにここへ来たのだ!」


 その発言に周囲がざわめいている。

 もともと「ハルヴィエドが無理矢理戦わされているのでは?」などの噂はネット上で流れていた。

 それが明確に事実だと示された。

 金髪の美少女が、くいとハルヴィエドの服のすそを引っ張り、申し訳なさそうしている。


「すまぬのじゃ、ハルヴィエドよ。おぬしは今まで私を人質にされ、無理矢理に戦わされてきた。私が虜囚になりさえしなければ、もっと他の道もあったであろうに……」


 ああ、そうか。

 あの美少女がハルヴィエドの戦う理由。彼女を守るためクソ野郎に従い、虎視眈々と機会を窺っていた。

 そしてついに反逆の時がやってきたのだろう。


「優しいあなたに、ずっと無理をさせてきた。私の、せいで」

「なにを仰るのです。全ては首領セルレの企み。あなたに罪などありません」

「ああ、おぬしは、本当に……」


 少女は体勢を崩し、ハルヴィエドの胸元に倒れ込もうとする。

 それを傍で支えたのが萌花のルルンだった。


「大丈夫ですかっ?」

「……う、うむ? あ、ありがとう、なのじゃ?」


 若干渋い顔をしている。虜囚だったというのなら疲労がかなり溜まっているのだろう。

 しかしあの喋り方。もしかしたら、どこかのお姫様なのか。


「なるほど、そういうことか」


 そう言って頷いたのはタキシードマッチョ様だ。彼もハルヴィエドの味方なのか、その肩にポンと手を置いた。


「……すべて、ハルヴィの言う通りだ!(よく分からんけどたぶん!)」


 どうやらタキシードマッチョ様とハルヴィエドは旧知の仲らしい。

 特に筋肉の方は、かなりの信頼を置いているのが外から見ても分かった。


「どうだ、ハルヴィ。ここは俺たちの合体奥義の出番じゃねえか?」

「絶対違う」


 二人のやりとりは友人というか悪友といった感じだ。

 そんな彼らの会話が途切れたタイミングで、今度は浄炎のエレスが首領セルレの前に立った。


「しゅ、首領セルレ! 彼女を虜囚とし、彼女に忠誠を誓ったハルヴィエドさんを従わせ、日本侵略を謀ったしゅべての元凶! ボクたちは、ここでお前を倒し………えと、とにかく、ここで倒す!(ごめんなさい、晴彦さん! 噛んだしセリフ飛びました!)」

『ふん。なんだ、ハルヴィエドに横抱きされて惚れでもしたか?』※アドリブ

「にゃ、にゃにを言ってるの⁉ ボクは、ただ、へ、平和のためにぃ⁉ (美衣那ちゃん無茶振りぃ⁉)」


 そのやりとりに、なぜかとある女性教育評論家のアカウントが興奮気味に呟きを投稿していた。

 ともかく、全ての元凶が首領セルレであることは間違いない。


「ロスト・フェアリーズ。君たちのおかげでこの子を救うことができた。今まで敵として争っていた私を信じられない気持ちは分かる。だが奴との戦いだけは、私も参加させてもらえないだろうか?」


 ハルヴィエドがロスフェアに頭を下げて頼み込んでいる。ひどく優しい声色だった。

 一番に反応したのは萌花のルルンだ。


「そんなことありません。大切な人のために頑張るのは私たちもいっしょです。だから、私たちに力を貸してください」

「萌花のルルン……」

「それに……私たちにとっては、もうハルさんも大切な人なんです」※アドリブ


 一番幼い萌花のルルンが、柔らかい笑顔をかつての敵に向ける。

 俺と変わらない年齢だと思うけど、ああいうのを母性的と言うんだろうか。

 続いて清流のフィオナもハルヴィエドに微笑んだ。


「ルルンの言う通りです。デルンケムは、悪の組織ではなかった……。ただ私利私欲のために他者を貶める悪の首領がいただけ。真実を知った今、私はあなたたちと、ちゃんと向き合いたいと思う」

「だが、私は過ちを重ねてきた」

「そうやって背負い込むのがあなたの悪い癖ですね。ハルヴィエド・カーム・セイン。もしも己の行いを罪だと思うなら。ここで、それを雪ぎましょう」


 ハルヴィエドが少し俯く。

 今までの非道を受け入れようとする少女たちに感極まったのかもしれない。

 それを浄炎のエレスが黙って見つめている。


「…………(うう、せ、セリフが出てこない。どうしよう)」


 いや、見守っているのだ。悪に染まり後悔してきた男が、再び動き出すのを。


「妖精姫、君達は本当に優しいのだな。いままで一切係わりのなかった、無様な男にここまでの温情をくれるとは。ありがとう、浄炎のエレス。君の心遣いもちゃんと伝わっているよ」

「……うん、それなら、よかったです」


 エレスの優しさを受けて、ハルヴィエドが力強く頷く。

 そして真剣な表情に変わり、お供の女性メタル兵たちに指示を飛ばす。


「ラヴィ、キティ、ハウンド。すまないが、市民に被害が出ないよう頼めるか」

「はっ、あなたの補佐役として必ずや」


 答えたのはリーダーと思しき、ラヴィと呼ばれた戦闘員だ。


「はーい、もちろんです」「了解しました、ハルヴィエド様」と、猫と犬のメタル兵もそれに続く。

「すまなかったな、ラヴィ。私は君に多くの隠しごとをしてしまった。だが補佐役である君にずっと助けられてきた。……私は、君を心から信頼しているよ」※アドリブ

「は、ハルヴィエド様……!」

「できれば、これからも手助けをしてもらえるか?」

「はいっ……もちろんです!」


 きっと金髪の美少女を人質に取られ、ハルヴィエドは悪事を働いてきた。そのせいでラヴィという女性にも無理を強いていたはずだ。

 けれどここで示した無上の信頼に、ラヴィは感極まったように肩を震わせている。

 ……感動の場面なのだろう。でもイケメンでムカつく。

 絶対アイツ顔がいいから許されていることが多いと思う。

 そこで首領セルレが、まるでチャンスとでも言わんばかりにハルヴィエドをあげつらう。


『くく、ははは。相変わらずだな、ハルヴィエドよ。俺は知っているのだぞ、お前が隠れてやってきたことをなあ!』※悪意に満ちたおぞましい重低音かつアドリブ


 その物言いにハルヴィエドが身構えた。


『あれは、お前が指令にかこつけて人身売買組織を潰した時だったか。父親に売られた少女を助けたな? 〝いらないなら私がもらおうじゃないか。まったく、世間には親を名乗るべきでない者が多すぎる〟だったか。俺に従って悪事を働いてきた男が、笑わせるわ!』


 首領セルレの嘲笑に反応したのはラヴィの方だ。


「え……? そ、そんな。まさか、あの時私を救ってくれたのは……!」


 愕然と銀髪の幹部代理を見つめる。

 彼女は驚きと混乱の中、さ迷う指先をそれでもハルヴィエドに伸ばそうとしていた。


「どうして、言って下さらなかったのですか……!」

「ら、ラヴィ。落ち着いてくれ」

「いいえ。私が、通信システム科にすぐ配属されたことも。今考えれば、分かります。あなたが、ずっと便宜を図ってくれていた……!」

「その辺りは、全てが終わってからにしよう(というか、日本人を前線から遠ざけるのは普通ですよね? 部下の事情に即した人員配置は上司の基本スキルでは?)」


 ハルヴィエドは振り返らない。

 隠していたことを暴露してニヤニヤと口を歪ませる六本腕の化け物に怒りを向けていた。


「無駄口を叩くな、首領セルレ……!(ごめんねミーニャちゃん、やめてもらえる?)」

『ふぅん、己の行いを晒されて動揺しているのか?(にゃ。ここはもっとハルのいいところをアピールするべきにゃ)』

「黙れと言っている(ホント勘弁して、また服の買い物付き合うから)」

『なにを黙れと? 虐待された子供を、親を殴り飛ばしてまで助けたことか? それとも幼い戦闘員のためにやった教師の真似事? 侵略の結果潰れた店に匿名の寄付もしていたか。ああ、過疎化した村をあえて占領することで経済の活性化なんて目論んでもいたなぁ? 悪を気取りながら善を捨てきれぬ、情けない男よ!(嘘にゃ、そういうハルが大好きにゃ。まだまだあるから、みんなSNSで拡散して、にゃ)』

「貴様ぁぁぁぁぁ⁉(やめてクレメンスゥゥゥゥゥゥ⁉)」


 悪人だと思っていた統括幹部代理の行いが白日の下にさらされる。

 あの男はイケメンのくせに、悪の首領に従いながら裏では現状をどうにかしようと足搔いていたらしい。


「ハルさん……やっぱりハルさんは、優しい素敵な人でした!」

「ええ。私は、間違っていなかった」

「うん、そうだね。あの人は、ボクたちの知ってる、晴……ヴィエドさんだね!」


 ロスフェアたちが不思議なくらい嬉しそうにしている。

 しかし弛緩しかけた空気を、首領セルレの発する地獄から響くような重く低い咆哮が掻き消した。


『まったく、ロスト・フェアリーズもハルヴィエドも、善人過ぎて腹が立つわ! 俺に従わぬ者など不要! 日本を滅ぼすついでに排除してくれる!』


 ヤツは侵略ではなく、滅ぼすとはっきり言い切った。

 周囲に動揺が走る。

 今までの話の流れからすると、被害を出さないようにしていたのはハルヴィエド。

 つまり首領セルレにとっては日本人が死のうが街が生活できないレベルで壊れようが何ら関係はないのだ。


『喰らえ、服だけ溶かして人体には一切影響のない溶解液を!』


 六本の腕を突き出すと、その掌からピンク色の液体が放たれる。狙う先には浄炎のエレスと清流のフィオナが。

 なお、その一瞬だけSNSでは首領セルレコールが沸きあがった。

 しかし清流のフィオナが水の障壁を生み出し、それを完全に防ぐ。

 

「フィオナちゃん、ルルンちゃん! それに、ハルヴィエドさん! いくよ……首領セルレを倒す!」


 リーダーである炎の妖精姫の合図にそれぞれが応える。

 ここに悪の組織と正義の変身ヒロインの最終決戦が始まった。


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