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大騒ぎのこと・前編


 パーティー会場に突撃してきた首領ヴィラベリートを眺めながら、猫耳くのいち幹部ミーニャ・ルオナはフライドポテトをつまんでいた。


「おお、二回戦開始にゃ」


 格ゲーはひと段落ついたが、今度はヴィラが妖精姫相手にいろいろと言葉をぶつけている。主に清流のフィオナと浄炎のエレスが対象なので、萌花のルルンはどうすればいいのか分からずあたふたしていた。


「あ、あの。止めなくていいんですか?」

「大丈夫。ゼロス様の作ったケーキ食べよ。おすすめはチョコにゃ」


 ミーニャはルルンにチョコケーキを勧める。ちらちらとフィオナたちを見てはいたが「大丈夫だから」と押し切れば、おずおずと頷いた。 


「じゃあ、いただきます。……ほんとだ、すごくおいしいです。あれ、この味喫茶店ニルの……?」

「にゃ。料理は私が作った。ゆっくり観戦しつつ味わってほしい、にゃ」

「か、観戦ですか……」

「戸惑うハルを眺めながら飲む紅茶、おいしいよ? にゃ」


 奇しくも首領VS妖精姫が実現した。止めるに止められず困るハルヴィエドは最高のお茶請けだった。


「あ、では私もいただきますね~」

「どなたですかっ⁉」


 元デルンケムのせくしー担当、レティシア・ノルン・フローラムもこちらに来た。彼女もハルヴィエドたちの様子を楽しむつもりらしく、スマホをポチポチしている。 

 パーティー会場の一角はさながら観客席の様相だった。




 ◆




417:名無しの戦闘員

 ……大丈夫かな、けっこう時間経つけど


418:名無しの戦闘員

 俺らの言葉が首領ちゃんに届いたと信じるしかない


419:名無しの戦闘員

 ハカセのバカ野郎

 自己犠牲なんて誰が喜ぶってんだ


420:名無しの戦闘員

 魔霊兵はゴリマッチョとアニキが全部片づけたみたいだぞ


421:名無しの戦闘員

 さすがにデルンケムの武闘派ツートップ、クッソ強いわ


422:名無しの戦闘員

 磔のまんまで悪霊みたいなの召喚して戦うのすごい

 というか異名が呪霊剣王なのに戦い方は死霊術師っぽいな


423:名無しの戦闘員 

 死霊術師がサブ職業で、メイン職業が剣士なんじゃね

 悪霊の軍勢を指揮しつつ強敵は自身の剣で斬り伏せるスタイル


424:名無しの戦闘員

 ぶっちゃけ内部で不和起こらなかったらロスフェアちゃん普通に敗北からの日本侵略完了だったな、これ


425:名無しの戦闘員

 意外とアニキたちが早々に離脱した理由ってそれなのかも


426:名無しの戦闘員

 自分たちがいたらガタガタの組織でさえ侵略ができてしまうから、か

 本当は日本侵略に賛成してた奴なんて一人もいなかったんじゃないか?


427:せくしー

 ……皆さん、大変なことになってしまいました


428:名無しの戦闘員

 来たかっ!


429:名無しの戦闘員

  ( ゜д゜ ) ガタッ

 

430:名無しの戦闘員

 首領ちゃんは、ハカセはどうなった⁉


431:せくしー

 皆さんに残念なことを伝えなくてはいけません


432:名無しの戦闘員

 うせやろ?


433:名無しの戦闘員

 えっ、マジで?


434:名無しの戦闘員

 遅かった……?


435:名無しの戦闘員

 ハカセ……エレスちゃんと結ばれる約束はどうするの?


436:せくしー

 いえ、首領もハカセも生きていますよ?

 残念は違いますね

 ……どうやらハカセさん、最初から死ぬ気なんてなかったようです


437:名無しの戦闘員

 ん?


438:名無しの戦闘員

 はい?


439:せくしー

 ですから前提となる「首領に日本侵略か自分の命を選ばせる」自体が間違っていまして

 実際はロスフェアの皆さんと首領が話し合える場を整えていただけでした

 たくさんのお料理とかゲームとか用意して皆で楽しもう、という企画だったようです

 首領が「ハカセを死なせるわけにはいかん!」みたいなノリで彼の下に辿り着いた時

 普通にロスフェアと格ゲーをやっていました


440:名無しの戦闘員

 いやいやいや


441:名無しの戦闘員

 待って、頭が追い付かない


442:原因の発言をしたワイ将

 なるほど……どうやらワイ将の勘違いやったみたいやね

 みんな、すまんかったンゴ


443:名無しの戦闘員

 はぁぁぁぁぁぁあああ⁉


444:名無しの戦闘員

 >>442

 勘違いってふざけんなてめえ⁉


445:名無しの戦闘員

 >>442

 なんだったんだよあの時のノリはよう⁉


446:名無しの戦闘員

 >>442

 すまんかったンゴ、じゃねえよ!


447:名無しの戦闘員

 勘違いだとするとあの時の流れが途端に茶番なんですが


448:原因の発言をしたワイ将

 そこはハカセの無事を喜ぶべきなのでわ? 

 終わりよければ全てよしやね


449:名無しの戦闘員

 うっせえわ!


450:名無しの戦闘員

 >>435

 スルーされてるけど約束なんて一切してないぞエレハカ女w


451:名無しの戦闘員

 えー、なんなのこれ……


452:名無しの戦闘員

 まあでもよくよく考えりゃハカセがそんなマネせんわな


453:名無しの戦闘員

 不安を煽るような文章だったから俺らも慌てたけどハカセだもんな


454:せくしー

 正直に言うとこの展開は予想外でした

 少なくとも私の知るハカセさんは、切羽詰まれば首領のために命を捨てられてしまいます

 私がにゃんj民さんたちの計画に乗ったのは、自らを天秤に乗せるような策を、あの人ならとりかねないと踏んだからです

 ですが結果は違いました

 ハカセさんは、デルンケムとロスト・フェアリーズの両方を守る道を選んだ

 地球に来て……彼は少し変わりました


455:名無しの戦闘員

 守るって言うか、今ゲームやってんだろ?

 ぶつかるのを避けて、なぁなぁですませようってだけじゃね?


456:名無しの戦闘員

 せくしーちゃん、なんか美談風になってるけどさぁ

 ぶっちゃけハカセがにゃんjに染まったっていうことですよね?


457:名無しの戦闘員

 すいません、俺めちゃめちゃマジに首領ちゃん説得レスしたんすけど

 今さらながらすっごいはずかちい


458:名無しの戦闘員

 まあ、ハカセも成長……成長? したんやね


459:せくしー

 もともと優しくて、普段はおもしろいところのある人ではありました

 ですが先代が亡くなってからは背負い込みやすくなっていました

 今は、いい具合に肩の力が抜けたように思います


 それに、皆さんの言葉は決して無駄ではありません

 勘違いとはいえ首領は日本侵略の中断を決めました

 侵略者である自分達を慮ってくれる皆さんを苦しめるような真似はしたくない、とのことです

 ある意味でハカセさんの願いをあなたたちが叶えた形になりますね


460:名無しの戦闘員

 それじゃあ、日本は一応無事ってことか


461:名無しの戦闘員

【朗報】首領ちゃん、いい子


462:名無しの戦闘員

 よっしゃ! ならハカセを出し抜けたってわけだ


463:せくしー

 その代わり突入した時は大変な混乱でしたが

 

   首領「大丈夫か、ハカセ⁉」←ハカセさんが死ぬ気だと思っている

  ハカセ「え?」←パーティー会場で格ゲー大会中

   首領「き、きしゃま⁉ フィオナめ、ハカセをやらせはせん!」

 フィオナ「なにがですか⁉」←最下位中


464:名無しの戦闘員

 最下位……そっか、フィオナちゃんちっちゃいもんね……

 それがいいんだけどさ……


465:名無しの戦闘員

 でもスタイルって意味ではすごくない?

 モデル並みに均整とれたスレンダー系


466:名無しの戦闘員

 おっと、シリアスを脱したと知ってにゃんJ民がふざけモードに入ってきたぞw


467:せくしー

  首領「それにしてもエレスめ、炎でハカセをいたぶるとは……!」

 エレス「ナオヤ! ボクはナオヤのフレイムブレイドを使ってたってただけ!」

  猫耳「さすがは炎の担い手……素晴らしい炎の扱い方だったにゃ」

 エレス「猫耳ちゃん誤解させる言い方しないで⁉」 

 

 うんうんと頷く猫耳ちゃん

 ちなみにその後は、私と猫耳ちゃんとルルンさんで離れてお茶をしています


468:名無しの戦闘員

「ちゃん」と「さん」の違いはなんだろ


469:名無しの戦闘員

 ルルンちゃん視点だとせくしーさんって謎の女だよな


470:せくしー

 >>468

 やはり距離感でしょうか


 ということで、ハカセさんの無事も確認できました

 ここからは「ハカセの愚痴スレ」から「せくしーの修羅場実況スレ」に変更となります


471:名無しの戦闘員

 やったぁぁぁぁぁぁぁ!


472:名無しの戦闘員

  さすがせくしーちゃんだぜ!


473:名無しの戦闘員

 ハカセは基本いい子って言ってるけど意外と悪ノリするよな、せくしーってw


474:名無しの戦闘員

 だからこその「基本は」いい子だろ?


475:せくしー

 ハカセさんを大切な友達と思えばこそ……

 彼の楽しく面白いところを皆さんに知ってもらいたい……

 そしてハカセさん自身にそれを認めてもらえるのは、本当に嫌がることは絶対しないと信頼されているからです

 つまり実況は友情の証といえるでしょう

 もちろん、わだかまりが残らないようにアフターケアもしていますよ


476:名無しの戦闘員

 それってつまり「ハカセが怒らない絶妙なラインを読み切って悪戯する」って中々タチの悪い所業なのでは?


477:名無しの戦闘員

 まあ俺らからしたらハカセを弄れりゃなんでもいいけどな!


478:せくしー

 首領は、ロスフェアによってハカセさんがコロされると考えています

 逆にフィオナさんは、ハカセさんが首領セルレに虐げられていると思っています 

 そんな二人が対峙……ですが争いには発展しませんでした

 なんというか、首領って強くないんですよね

 フィオナさんどころか戦闘員にも勝てるかどうか


   首領「ごめんなさいっ! 謝るのでハカセを許してください!」

 フィオナ「えぇ⁉」

   首領「父上は大切……でもそれにこだわってハカセを失ったら私は後悔するのじゃ」

 

 なので土下座するまで早かったですね

 正義のヒロインの前で悪の首領が全力土下座、もうフィオナさんもびっくりですよ

 ……というか、十五歳を迎えてないはずなのにもう女の子にしか見えませんね?


479:名無しの戦闘員

 首領ちゃんw 


480:名無しの戦闘員

 敵わないと見て速攻で白旗w


481:名無しの戦闘員

 首領ちゃんの土下座……

 あれ、なんだろう……ちょっと興奮するンゴ……


482:せくしー

 フィオナさんはそんな首領を優しく気遣います


 フィオナ「あ、頭を上げてください。 というか、まずあなたはいったい……?」

 首領「むむ?」


 そう、根本的なことを忘れていました

 首領、遠隔怪人セルレリアンで活動していましたから

 フィオナさんはそもそも首領が何者か分からずに困っていました


483:名無しの戦闘員

 屈辱に塗れてもハカセを救いたい

 まさに覚悟ある行動、さすが首領様だ


484:せくしー

 そこからとてとてと駆け寄ったルルンさんも参加しました


  ルルン「前にテレビでやっていました。首領セルレは金髪の女の子を捕まえて閉じ込めてるって!」

  エレス「それボクも見た! じゃあ」

 フィオナ「まさか、この子は首領セルレの虜囚……⁉」


 フィオナさん、気付いてしまった! みたいな顔しています

 違います、全然気付けてないです

 そこのかわいい子が首領です


485:名無しの戦闘員

 あれ、フィオナちゃんってロスフェアの頭脳役だったはずなのに……?


486:名無しの戦闘員

 勘違いが勘違いを呼んどるw


487:せくしー

 フィオナさんが首領をギュッと抱きしめます


 フィオナ「辛かったでしょう……? よく、頑張ったわね」

   首領「む、むむ? な、なにを」

 フィオナ「大丈夫、大丈夫だから」

 

 そのまま頭をなでなでしています

 でも忘れてません?

 その子、ついさっきあなたを淫欲のフィオナと呼んだんですが


488:名無しの戦闘員

 いwんwよwくwww 俺らのレスのあだ名が定着しちゃってるじゃんw


489:名無しの戦闘員

 首領ちゃん視点だとハカセを誘惑する女の子ではある


490:名無しの戦闘員

 緊急生放送の時の「毒婦のフィオナ」に続く新しい名称が来たな

 これも俺達の言葉が首領ちゃんに届いた証明だ


491:せくしー

  首領「あ、ママ……ではない! こ、この程度で懐柔されはせんぞ!」

 フィオナ「安心して。私たちはあなたを、そしてハカセさんを救うためにここへ来たの」

  首領「……むむ?」

 

 あ、首領の方もピンと来ていません。まだすれ違いに気付いていないようです


492:名無しの戦闘員

 フィオナちゃんは美少女だけどママってほど母性な部分大きくなくない?


493:名無しの戦闘員

 どっちかって言うとエレスちゃんの方が相応しい


494:名無しの戦闘員

 お前らそろそろフィオナちゃんに謝れw


495:せくしー

   首領「いやいや、何を言っておるのか。私はハカセを助けるためにじゃな」

  エレス「心配しないで! ボクたちが悪の首領をなんとかして見せるから!」

   首領「悪っ⁉ いや、悪だけども! そうでなく!」

 フィオナ「ハカセさんは、首領セルレに虐げられている。それを見逃すつもりはないわ」

   首領「ち、違う! 私! 私が首領なのじゃ!」

 

 ここで正体をばらす首領。目が点になるフィオナさんたち

 妖精姫からすると組織の首領は六本腕の化け物ですからね


  エレス「これ知ってる……。洗脳、ブレインコントロール!」

  ルルン「そんなことって……」

 フィオナ「くっ! なんて卑劣な……!」

 

 首領「だーかーら、ちーがーうーのー!」


 とても悲しそうな目で首領を見るフィオナさんたち

 それをおもしろそうな目で見る猫耳ちゃん

 あとエレスさん、洗脳はブレインウォッシュだと思います


496:名無しの戦闘員

 せくしーも微妙に知識の抜けがあるのね


497:名無しの戦闘員

 首領ちゃんタダの子供になってるじゃんw


498:名無しの戦闘員

 エレスちゃんもフィオナちゃんも悪口言ってきた首領ちゃんを普通に助けようとしとる

 なんだかんだ言っても正義の変身ヒロインやな、優しいわ


499:名無しの戦闘員

 でも根本的なところを間違えてるんですがw


500:せくしー

 ちなみに私は実況しつつ料理も楽しんでいます

 

 わたし「あ、このラタトゥイユパスタおいしいです」

 ハカセ「それは私が作ったものだ」

 わたし「そうなんですか~。私、ハカセさんの手作り初めて食べました」

 ハカセ「せくしーや猫耳には劣るが、私もなかなかやるだろう?」

 猫耳「ローストビーフはソースも手作りにゃ」

 わたし「では、そちらも」

 

 ここで私を立てるのを忘れないのがハカセさんですよね

 首領たちの騒ぎから目を逸らしているとも言います

 久々の猫耳ちゃんの料理おいしいです、最高です


501:せくしー

 ハカセ「私としてはあの子達が仲良くなってくれると嬉しいんだが」

 わたし「うーん……」

 

 なかなか難しいことを仰います

 彼は根本的に成人してない子は異性として意識してないんですよね

 でも、子供だって本気でほにゃららするんですよ、ハカセさん 


 ハカセ「放置しておくわけにもいかないか、仲立ちはしないとな」

 

 そうしてハカセさんは少女たちに声をかけました


502:名無しの戦闘員

 火中の栗を拾いに行ったか


503:名無しの戦闘員

 火に油を注ぎに行ったの方が正しいと思ふ


504:名無しの戦闘員

 リッチな料理に舌鼓なせくしーちゃん、いい性格してんなーw


505:せくしー

  ハカセ「フィオナちゃん。あの、だな。本当に、この子が首領なんだ」

 フィオナ「ハカセさん……?」

  ハカセ「君が見た巨漢は、遠隔型の怪人。それを操作していたのがこの子だ」

  エレス「……じゃあ、ボクを、きょ、巨乳とか誘惑とか言ってたのも?」

  ハカセ「そこはすっごくごめんなさい」

 

 ロスフェアが驚いています

 特にエレスさんは顔を赤くしていますね

 そこからハカセさんのかくかくしかじか


 首領が父の遺志を継いで侵略を始めたこと

 父の目的、義兄との反目

 だからこそハカセさんは首領も組織も見捨てられなかったこと

 理不尽に思える扱いも組織のみんなが心配だから率先して引き受けていたこと


 話を聞き終えると、ロスフェアの皆さんは悲しそうな顔をしました


506:名無しの戦闘員

 敵だと思ってた首領が実はただのお父さんっ子だった

 でもやってきたこと自体はなくならない

 フィオナちゃんたちも複雑だろうな


507:名無しの戦闘員

 正義の敵が悪なら、悪が悪じゃなくなった時、正義の味方は成り立つのか


508:名無しの戦闘員

 ん? かわいいは正義だから首領ちゃんもフィオナちゃんたちもどっちも正義やない?

 少なくともワイはどっちもかわいいから両方の味方ンゴね


509:名無しの戦闘員

 猛虎弁に諭されるのはシャクだけどそれくらいに考えておいた方がいいのかも


510:名無しの戦闘員

 じゃあネコミミ義妹嫁も正義!


511:名無しの戦闘員

 LリアちゃんもA子ちゃんもSやかちゃんもI奈ちゃんも正義!


512:名無しの戦闘員

 当然せくしーちゃんも正義だから気にせず実況よろしく!


513:せくしー

 ありがとうございます、皆さん



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