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祭りの準備のこと


 アムソラル族。

 名は『魂の御子』を意味し、古い時代に精霊のような高次霊体と人が戯れに子を成したことで誕生した、自ら性別を決める希少種族である。

 男でも女でも無性でもかまわない。

 それは自身の願った形で愛を紡ぐためであり、この特性からアムソラルは『愛の種族』とも呼ばれた。

 もっとも、いわれはともかく、現代においては尊ばれるような存在ではない。

 上層と下層で区別された明確な格差社会。

 ヴィラベリート・ディオス・クレイシアは下層の犯罪者の子供として生を受けた。


 神霊結社デルンケム、首領セルレイザ。

 ヴィラベリートは直接悪事を見ていないが、その悪名は広く知れ渡っているらしい。

 アムソラル族の父は男になることを選んだ。膂力が強くなるからという単純な理由だそうだ。母親の顔は知らない。一度質問したことはあったが、父が何も言わず笑ったので聞いてはいけないのだと思った。

 下層は魔獣や怨霊などの害魔こそいるが、食うに困るほど困窮する場所でもない。だが 好き勝手やりたい者はどこにでもいる。

 父は現状を良しとせず、搾取する上層に反発しデルンケムを立ち上げた。

 アムソラル族は魂の質に優れており、高純度の魔力を生成できる。剛腕と魔力によって戦う父は飛び抜けた強さを誇る戦人だった。


 しかし実子であるヴィラベリートは違う。

 空気に過敏反応する奇病に侵され、息を吸うだけでどんどん体が弱っていく。

 なにもしなくても痛い。だから呼吸が荒れないようベッドの上でいっさい動かない生活をしていた。

 遊ばない、おいしい食事もいらない。誰かと話すなんてもっての外。

 会話を楽しめば笑うことになり、たくさんの空気を肺に入れてしまう。感情を抑えつけて一日中天井を見つめるのがヴィラベリートの日常だった。

 父に責められたことはない。でもつらかった。

 物心がついた頃から生きることはただただ苦しいものでしなかった。


『ほら、大丈夫だ。ここでならきっと楽な呼吸ができる』


 ……それが一変してしまうなんて、幼いヴィラは考えもしていなかった。

 誰か助けてと何度も願った。

 助けてくれる誰かが来てくれるなんて、信じていなかった。

 なのにいきなり現れたその人は、苦しむヴィラのために基地を一つ作るなんてとんでもないことをしてくれた。

 ハルヴィエドという青年は、すべてを諦めていた子供を当たり前のように救い、ずっと見守ってくれていた。

 間違えて多くを失ってしまった今ですら変わらず支えてくれる。 

 そんな彼を、この心はどう感じていたのだろう?




 ◆





826:ハカセ

 ひっさびさの理不尽命令きました


827:名無しの戦闘員

 お、ブラック首領ちゃん登場?


828:名無しの戦闘員

 なになに?

 ハカセが弄られんのが俺らの楽しみ


829:名無しの戦闘員

 最悪なこと言われとるやんけw 


830:ハカセ

 もう今さらワイの立ち位置って変わらんのやろな……

 ある日、ワイは統括幹部代理として謁見の間に呼び出された

 幹部ってワイと猫耳くのいちだけやから毎回寂しい感じなんやけど

 今回はなぜかI奈ちゃんもその場におった


831:名無しの戦闘員

 ほんとになんでI奈ちゃんおるん?


832:名無しの戦闘員

 メスガキちゃんがおるとなんか問題起こしたとしか思えん


833:ハカセ

 首領「特別に同席を許しておる」


 I奈ちゃんがグイグイ来るようになったのはここ最近みたいやね

 ハカセ様→冷たくない。ということは首領も……? みたいな感じで接触したらしい

 Lリアちゃんがワイ付きになって伝手もできたしな

 うぅん、首領に友達が増えてワイ感無量……


834:名無しの戦闘員

 相変わらずの謎の保護者目線


835:名無しの戦闘員

 先代もアニキもいないし完全に保護者


836:名無しの戦闘員

 そう考えると首領ちゃんの理不尽ってある意味甘えでもあるんかも


837:ハカセ

 意識的にそういう役割やっとるところはあるわな

 

 首領「ハカセよ、よくぞ来た」

 ワイ「はっ!」

 首領「呼び出したのは他でもない。おぬしにしか頼めぬ、非常に重要な任務があるのじゃ」

 ワイ「それはいったい……」 

 首領「わたし、お祭り行きたい」


 堂々と、ワイや猫耳だけでなくI奈ちゃんがいるにもかかわらず、そんなことを言い出しました


838:名無しの戦闘員

 威厳もなんもねえなw


839:名無しの戦闘員

 首領ちゃんにそんなもんいらん!

 俺は気ままにハカセに甘える首領ちゃんが見られればそれでいい!


840:名無しの戦闘員

 同じく! 我ら首領ちゃんの幸せを応援し隊にとってはワガママもご褒美!


841:名無しの戦闘員

 妙な団体できとるけど首領ちゃん一応悪の首領やでw


842:名無しの戦闘員

 これもう首領ちゃんがアイドルになって歌って踊れば一定数戦闘員確保できん?


843:名無しの戦闘員

 悪の組織の首領でのじゃっ子でアイドルで無性で甘えっ子

 属性が大渋滞しとる


844:ハカセ

 首領がアイドルになって魅了することで日本侵略……意外とありか?

 いや、そうなるとフィオナたん・エレスちゃん・ルルンちゃんによる三人組アイドルユニット『ロスト☆フェアリーズ』が台頭する可能性も

 そして最後には覚えておりますか手と手が触れあった時


845:名無しの戦闘員

 マジメに考えんなw


846:名無しの戦闘員

 全然マジメじゃないから

 むしろ全力でふざけてるぞ


847:名無しの戦闘員

 三角関係で歌でアイドルなあれも履修してんのね


848:ハカセ

 当然首領の部屋でいっしょに見たで

 わりと気に入ったらしく、お部屋で歌いつつダンスしながら「キラッ☆なのじゃ」していたと猫耳くのいちより報告が上がっております


849:名無しの戦闘員

 それ絶対バラしちゃダメなやつだろwww


850:名無しの戦闘員

 猫耳ちゃんえげつねえw そこは内緒にしてやれよw


851:名無しの戦闘員

 首領ちゃんカワ(・∀・)イイ!!


852:ハカセ

 なおワイも俺の歌を聞けやってみたい模様らぶはーと


853:名無しの戦闘員

 なんの報告だw


854:名無しの戦闘員

 祭りの話どこいった


855:ハカセ

 837の続き


 ワイ「お祭り、ですか」

 首領「うむ。我らは日本に来たが現状一部の者しか基地の外に出られておらん。ここらでレクリエーションを行いガス抜きが必要なのでは、ということじゃ」


 ワイとかN太郎くんとかは外に出とるけど内勤の子達はそんな機会はない

 メンタルケアとしてはそんなに悪い案ちゃうかな


 首領「ちなみに今回の発案者は戦闘員I奈じゃ」

 I奈「はぁーい! 私、M男お兄ちゃんとぉ、縁日デートしたいんです♡」


 そういうのは隠してもらえませんかね?


 I奈「あと最近分かったんですけどぉ、あんがいハカセ様って男女問わず子供に甘いから私が上目遣いで頼んだら企画通るかなぁーって♡」

 

 だから隠せ


856:名無しの戦闘員

 もう戦闘員にも見透かされてんぞ


857:名無しの戦闘員

 というか舐められとる


858:名無しの戦闘員

 メスガキちゃんに舐めてもらえる⁉


859:名無しの戦闘員

 おまわりさんこいつです


860:ハカセ

 ワイの最低ラインは成人してるかどうかです。そもそもM男くんの恋人やからね?

 それはともかく企画自体はええんちゃうかな、首領も乗り気やし。

 

 首領「正直私も縁日に行ってみたいしのう。全面的に賛成なのじゃ」

 ワイ「なんならお忍びで行ってみますか?」

 首領「やだ。おそと怖い」

 ワイ「えぇ……」

 

 ぶっちゃけおった

 ここで言えるのは、I奈ちゃんにも気を許しとる証拠かな

 ということでお祭りには行きたいけど基地の外は怖い首領のために第一回組織祭りの開催が決定した


 企画:首領・I奈ちゃん

 準備:ワイ


861:名無しの戦闘員

 傍から見てると首領ちゃん理不尽で草、で済むけど

 実際にハカセの立ち位置になったらたまったもんじゃないぞこれ


862:名無しの戦闘員

 ぶっちゃけやりたいことを言うだけで他全部丸投げする上司やからな


863:名無しの戦闘員

 これに関してはハカセも悪いというか

 たぶん首領ちゃんって基本いい子っぽいから、ダメならダメで諦めると思うんだ

 だけどハカセは文句言いつつ大抵の無理難題を解決しちゃってる

 首領ちゃんが「ならこれもいけるんじゃ?」的な発想になるのも自然の流れだよな


864:名無しの戦闘員

 首領ちゃん目線だと困ってもハカセに頼ればなんとかなる、ってのは基本みたいだしね


865:ハカセ

 そこらへんワイも自覚ある

 ただ好き勝手できること自体が尊い子からどうしてもなぁ

 お祭り準備スタート、でもワイは独りやない

 ……イカしたメンバーを紹介するぜぇ!


  猫耳「調理は任せる、にゃ」

 Lリア「お任せくださいハカセ様」

 N太郎「可能なところは僕たちが担当を」

  首領「わーい、お祭りお祭り」

  I奈「えぇ、私もですか?」


866:名無しの戦闘員

 普通に首領ちゃんおるぞw


867:ハカセ

 ワイ「お祭りって……皆で作り上げるものだと思います。その苦労も過ごした時間も、いつか大切な思い出になるんじゃないでしょうか」

 首領「な る ほ ど!」

 

 わりと簡単に手伝ってくれることになりました


868:名無しの戦闘員

 チョッロ過ぎぃ!


869:名無しの戦闘員

 将来が心配になるレベルのチョロっぷり


870:名無しの戦闘員

 でも首領ちゃんはチョロインでこそ輝くって聖典に書かれてた


871:名無しの戦闘員

 聖典ってなんだ


872:ハカセ

 お祭りの準備自体はそんなに大変やない

 日本でやろうと思ったら自治体とかに許可とって近隣住人に挨拶伺いもせなあかん

 せやけど基地内でならスペースもあるし面倒な折衝もない

 多目的ホールにやぐらを作って出す屋台決めて人員配置、その他もろもろ

 ワイらの独断で店の並びまで決められるのはデカい

 物品の搬入はもうN太郎くんやLリアちゃんに任せられるしな


873:名無しの戦闘員

 補佐役制度イイ感じになってきたなぁ

 初期の尋常じゃない労働状況が改善されてきたようでよかったよかった


874:名無しの戦闘員

 代わりに気を抜くとエレスちゃんが危険になる仕様


875:名無しの戦闘員

 Lリアちゃんの忠誠心パねえよな


876:ハカセ

 いや、うん

 ホンマにええ子なんやで、Lリアちゃん

 それはそれとして着々と進む準備

 屋台の方を覗いてみればちょっとびっくり

 

 猫耳(たこ焼き)「たこ焼きは経験済みにゃ」

 猫耳(焼きそば)「ソースが香ばしいにゃ」

 猫耳(焼きとうもろこし)「秘伝の醤油ダレにゃ」

 猫耳チョコバナナ「かかったチョコは厳選品にゃ」

 猫耳ベビーカステラ「にゃ」

 猫耳(りんご飴・フランクフルト)「にゃ」「にゃ」

 猫耳(綿あめ・イカ焼き・焼き鳥)「にゃ」「イカ、大好きにゃ」「にゃ」

 

 お料理に自信ありな猫耳が分身の術的なのを使ってまで全ての屋台におった

 当然止めました


877:名無しの戦闘員

 卓越したくのいちスキルの無駄遣い


878:名無しの戦闘員

 ちょっとしたホラーじゃんw


879:名無しの戦闘員

 その術をハカセが覚えれば平和になるのでは?


890:名無しの戦闘員

 一人につき一人のハカセ……いけるやん!


881:名無しの戦闘員

 前の生放送で映った銀髪のすげーきれいな女の子が猫耳ちゃんなんだろ?

 いっぱいいるなら一人くらいくれませんかねぇ……


882:名無しの戦闘員

 ワイも甘えてくる義妹欲しいンゴ


883:名無しの戦闘員

 >>879

 天才のそれ


884:ハカセ

 猫耳が望まない限り誰も認めません

 首領もお手伝いしてくれたで、といっても子供のお手伝いちゃうけど

 ワイやLリアちゃんについてもらって全体の進行を把握してもらう

 監督役に慣れてもらわんとな


885:名無しの戦闘員

 お前幹部やめて教師とかになったら?


886:名無しの戦闘員

 ハカセって自分がいなくなっても問題ないように首領ちゃんを指導してる気がして時々不安になる


887:ハカセ

 >>879

 絶対ムリ


 猫耳くのいちはファンタジック・ニンジャの宗家の生まれ

 しかも十歳の時点でその奥伝まで極めたっていうすっごい子やぞ

 教わったところで同じことできる自信ないです


888:名無しの戦闘員

 はえー、猫耳ちゃんすごいんやな


889名無しの戦闘員

 ハカセ先生とエレスちゃんの禁断の恋……それもまたよきかな


890:名無しの戦闘員

 新しい情報が出てくるたびに思う。

 普通の商家の生まれなのに幹部に名を連ねてるせくしーさん何者なの? って


891:ハカセ

 ワイって教師は性に合わん気がする

 そんなこんなで開催にこぎつけた組織祭り

 みんな準備を頑張ってくれたし、当日はたくさん遊んでもらうつもりやった

 ……が、先回りされてしもた。


 Lリア「ハカセ様もどうぞ、今日は楽しんでください」

 

 どうやらLリアちゃんはワイも休めるように手筈を整えとってくれたらしい

 

 首領「ということなのじゃ! さあハカセ、屋台を回るぞ!」

 ワイ「え、あ、はい」


 そうして手を引っ張られてワイも首領といっしょに屋台巡りや


892:名無しの戦闘員

 縁日デート!


893:名無しの戦闘員

 やはり首領ちゃん……

 首領ちゃんこそがデルンケムそのものよ……


894:名無しの戦闘員

 おいやめろ縁起でもない

 それ最期に基地と共に爆散するタイプのボスじゃん


895:ハカセ

 首領「うむ、やはりたこ焼きはおいしいのう」

 首領「おめん買ってー、あと金魚すくいも!」

 猫耳「おう、めんこい子にゃ。クジ引いてかない?」(クジ屋さん中)

 首領「それも! 三等のおっきいプラモは私のなのじゃ!」

 

 楽しんでくれるのは嬉しいけど、我儘な美女みたいな防衛用機動兵器のプラモとか作れるんやろか

 ちなみにワイはビールじゃなくラムネと焼きそばでプハァよ

 せくしーの手作りとは趣が違うけどこういう焼きそばもうまい


 首領「ハカセ、射的で勝負なのじゃ!」

 ワイ「ほう? 負けませんよ」


 勝とうが負けようが取った商品は首領にプレゼントするけどね

 なんで好きそうなのを狙う

 カッコいい系のフィギュアとぬいぐるみ両方ゲットしたで


896:名無しの戦闘員

 首領ちゃん尊い


897:名無しの戦闘員

 病気で外に出れなかったんだもんな

 日本式のお祭りを楽しんでくれてなにより


898:名無しの戦闘員

 どうでもいいけどハカセって浴衣? 

 あのイケメンで浴衣とか一部のお姉さんが騒ぐな。


899:名無しの戦闘員

 のじゃっ子は間違いなくキツネ耳+浴衣


900:ハカセ

 キツネ耳はないけど今日はみんな浴衣や

「M男お兄ちゃんを誘惑する♡」とか言ってI奈ちゃんは着崩しヤバかったけど

 そして首領は女性用の浴衣を自分で選んだ、たぶんそういうことなんやろな


901:名無しの戦闘員

 ついに選ぶ性別決めたのか


902:名無しの戦闘員

 よっしゃ首領はかわいい女の子です派大勝利いぃぃぃぃぃぃぃぃ!


903:名無しの戦闘員

 うるせえ!


904:名無しの戦闘員

 (首領ちゃんはかわいい女の子です)


905:名無しの戦闘員

 (ファミチキください)


906:名無しの戦闘員

 いやチキンは関係ないw


907:ハカセ

 首領「次に行くぞ次に!」

 ワイ「はいはい、走って転ばないようにな」

 

 手を引かれたまま屋台を見て回る

 打ち上げ花火くらいはやれたらよかったんやけど基地内ではなぁ

 いつか外に連れて行ってあげたいなぁなんて考えつつ、お祭りを堪能するワイら

 ちょっと隅っこで休憩中、首領は笑顔を見せてくれた


 首領「ハカセ、お祭り楽しい!」


 うんうん、やっぱりこうやって無邪気に遊べる方がええよな。


 首領「ハカセはいつも私のワガママを聞いてくれる。それが嬉しくて、ちょっと申し訳ない。でも、今私が楽しいのはハカセのおかげだと思っておるのじゃ」

 ワイ「それは勿体ないお言葉です」


 お手々に持ったりんご飴をちろりと舐めて首領はすごく嬉しそうにしとる


 首領「うむ! こうやって、またみんなでお祭りをしたい! その時は、いっしょに手伝ってくれる?」

 ワイ「もちろんですよ」

 首領「そうかそうか! うはははははは!」


 こんなに喜んでくれるならお祭りやってよかったわ


908:ハカセ

 結果、日本侵略の大規模作戦が決定した

 すまんお前ら

 首都住みの奴らがおったら今のうちに逃げとけ


909:名無しの戦闘員

 もう首領ちゃんこれあれでしょ?

 乙女パワー全開なやつなんでしょ、知ってるんだからね!


910:名無しの戦闘員

 けっこう前から女の子に傾いてたし当然の結果

 首領ちゃんしゅき


911:名無しの戦闘員

 甘ずっぺぇ……ワイが経験できなかった甘酸っぱさがあるンゴ……


912:名無しの戦闘員

 は?


913:名無しの戦闘員

 ちょっと待って、いきなりすぎて脳が追い付かない


914:名無しの戦闘員

 なにがあったの?


915:名無しの戦闘員

 ハカセ、冗談にしてもちょっとタチが悪い


916:ハカセ

 冗談でも何でもない

 簡易版の魔導装甲を装着した魔霊兵による首都襲撃

 狙いは国会議事堂、立案者は首領自身や

 もう時間稼ぎはできん。首領は本気で日本侵略を叶えようとしとる




 ◆



 

 ヴィラはハルヴィエドといっしょにお祭りを回った。

 綿あめおいしい。くじ引きはハズレで悔しかった。

 射的では負けたが、ハルヴィエドはぬいぐるみとフィギュアを両方プレゼントしてくれた。

 たこ焼きも焼きそばもおいしい。全部は食べきれないから二人で分ける。


「ハルヴィエド、お祭り楽しい!」


 伝える言葉にも向ける笑顔にも偽りはない。

 ワガママを聞いてくれることが嬉しくて、困らせてしまうのが申し訳ない。

 だけど彼がいてくれたから、今の自分はこんなにも幸せなのだと、そう思っている。

 

 しかし忘れられないのだ、父がいた頃の組織を。

 まだミーニャはいなかったが、病を気にしなくてよくなってからのデルンケムは、ヴィラにとってひたすらに楽しい場所だった。周囲からは悪評ばかりの非道の犯罪集団だと知った後もそれは変わらない。

 豪快で頼りがいのある父 強くて格好よくて優しい義兄。

 女性幹部のレティシアとよくお喋りをして、ゴリラみたいに暑苦しいレングだって出かけるとお土産を買ってくる。

 

 そしてハルヴィエドは今と変わらず、ヴィラのワガママを「仕方ない」なんて小さく笑って受け入れてくれた。

 すごく楽しくて陽だまりのようにあたたかい場所。なのに父が亡くなり、ヴィラが首領になったことでそれは失われてしまった。

 

 全部全部、自分のせいだ。

 だからこそ思う。自分が首領として正しい在り方を示せれば取り返せる。

 義兄もレティシアもレングも、戻ってきてくれるに決まっている。

 そして今度はミーニャやリリアやアイナもいっしょに、あの楽しかった日々の続きを始めるのだ。


「ハルヴィエドよ、私はデルンケム首領として日本の政権を奪取する」


 それが、きっと正しい道だよね?

 



 ◆




926:名無しの戦闘員

 ハカセ、どうするつもりなん……?


927:ハカセ

 ワイは首領の味方や。組織の皆のためなら、この命に代えても………


 って、昔のワイなら言っとったな

 でも今は違うで

 首領のことが大切で、フィオナたんたちも大好きや

 アニキらとの飲み会もお前らとグダグダすんのも楽しい

 だから自己犠牲なんてクソ喰らえや

 ワイは絶対全部にカタを付けてまたこのスレに書き込んでやるわ


928:ハカセ

 せやけど、そのためには

 首領には〝うまく負けてもらう〟必要があるんよなぁ

 はぁ、最後の最後で裏切りもんかぁ……



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