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茜ちゃんのこと、或いはマッチポンプのこと


221:ハカセ

 そういやこの前エレスちゃんと牛丼食べた


222:名無しの戦闘員

 浮気?


223:名無しの戦闘員

 エレハカ女が推してたボクっ娘背徳浮気ルートがついに……


224:ハカセ

 し て ま せ ん

 単にお昼に偶然牛丼屋で会ったから相席しただけや

 ちょこちょこ雑談はしたけども


225:名無しの戦闘員

 ハカセがフィオナちゃんの想い人ってのを前提にすると地味に気まずい関係じゃない?


226:名無しの戦闘員

 極端に言ったらカノジョの友達と二人きりでご飯食べてる状況だしな


227:ハカセ

 お互いそういう感情があるわけでもなし

 ふつーに牛丼食べて帰っただけや

 お悩み相談くらいはされたかな?


228:名無しの戦闘員

 エレスちゃんの悩みってどんなん?


229:ハカセ

 あー、そこはわりとナイーブな話なもんで

 本人の了承なし晒せん的な内容やな


230:名無しの戦闘員

 ごもっとも


231:名無しの戦闘員

 エレスちゃんって元気っ娘イメージ強いからなぁ

 悩みってどんな感じなんだろ?




 ◆




 よく妹っぽいと言われるが、結城茜には弟がいる。

 結城家は父親と母親、茜、そして弟の(あきら)の四人家族だ。

 晃は中学一年生で、勉強も運動も普通な帰宅部のエースを自称している。無理せずほどほどが信条らしい。

 姉弟仲はそれなりにいいと思う。茜がゲームやマンガなどの趣味に理解を示すのは晃の影響が多分にあった。 


 ただし、この弟すごく生意気。茜に対しては「おい、アカネ!」と普通に呼び捨ててくる。

 なのに沙雪や萌が遊びに来ると「神無月センパイ、こ、こんにちは!」で「朝比奈さん、来てくれたの⁉」である。

 なんと晃は萌のクラスメイトであり、しかも彼女にそういう感情を向けているようなのだ。

 無邪気でかわいらしい萌を好きになる気持ちは分かる。が、初めて萌を家に連れてきた時に「よくやった、アカネ。初めてお前が姉でよかったと思った」とか言ったのは忘れていない。


 しかもこいつ、萌が好きとかいうわりに艶やかな黒髪をした美人さんである沙雪にも憧れがあるらしく、話す時はデレデレ。

 どっちもキレイだから仕方ないと思いつつも、あからさまな態度の差に近頃はお姉ちゃん的評価が著しく下がっていた。


「アカネぇ、昼飯どうすんの?」

 

 ある土曜日のこと。

 その日は沙雪たちと遊ぶ約束もなく、茜は暇を持て余していた。加えて両親がそれぞれの予定で出払っており、昼食を自分たちで用意する必要があった。


「晃は?」

「んー、友達と食ってこよっかなぁって」 


 家事全般ができない晃は適当に外で食べるようだ。茜も料理ができないので、冷凍食品か外食しか選択肢がない。どちらも好きだから問題ないけれど。


「そうだ。も、もしかして朝比奈さんたちが来る予定あったりする?」

「ううん、今日はないよ」


 最近は、時々沙雪とも萌とも予定がつかないことがある。美衣那も忙しいようで、一人ですごす休日が増えた。

 別に仲違いしたわけではないが、前は休みも放課後もほとんどいっしょにいたから少し寂しい。


「あ、そ。じゃあやっぱり外行くわ」

「こいつ……」


 萌たちとの予定がないと知るや否やさっさと出て行ってしまう。茜の弟という立場で知り合ったのに、いっさい姉に対する敬いの心がなかった。

 ちょっと頬を膨らませつつも、リビングに一人残された茜はしばらく「昼どうしようかなー」と考える。すると、なんだか急に牛丼が食べたくなってきた。

 茜の好物はお肉と白ご飯。焼肉とか牛丼が大好きだった。

 それを聞いたクラスの男子は「ホントに結城は男みたいなヤツだなw」なんてからかってくる。

 別にいいじゃん、牛丼好きでも。ということで茜は近所の牛丼チェーンに行くことにした。


「ボクは牛丼並盛と、半熟卵でお願いします」

「私は牛丼大盛で」


 ……そして、なぜか晴彦と相席することになった。

 どちらかが誘ったとかではなく単に偶然出会っただけ。晴彦は土曜日も仕事で、取引先を訪問した帰りだったらしい。時間もないし昼食は近場で済ませようと牛丼屋に入ると茜がいた、という流れだ。


「すまないな、相席になってしまって」

「晴彦さんなら全然大丈夫ですよ!」


 お世辞や気遣いの類ではない。

 歳こそ離れているが晴彦とは親しくさせてもらっている。妹の美衣那も含めて仲のいい友達のつもりだ。

 注文してから早いのが牛丼屋のいいところ。二人して「いただきます」と言って箸をつける。


「よし、と」


 晴彦は牛丼の上に紅ショウガをたっぷり乗せて、ワシワシと食べている。

 普通の食事風景なのに違和感が強い。


(その、なんというか…………牛丼が、似合わない)


 すごく整った顔をしている晴彦は、茜のイメージだと子牛のブルゴーニュ風なんちゃらとかをナイフとフォークで召し上がる人だ。しかし実際は嬉しそうに牛丼をかっ込んでいる。


「晴彦さんって、すっごくおいしそうに食べますね」

「実際ににおいしいよ。まだ仕事の途中だからキムチは控えておいたが」


 その返しも意外だった。

 喫茶店ニルのマスターから晴彦の過去をさわり程度だが聞いている。もともとは上流階級の出身らしいので、ファミレスやチェーン店は好まないと思っていた。


「ですよね、牛丼いいですよね。でもクラスの男子、ボクが好きだって言ったらバカにするんですよ?」

「そうなのか? まあ、イメージの問題かな。アイドルが食べていたら少し違うな、と私も感じるかもしれない」

「アイドルって、ボクですよ? あはは、ないない。普段から男の子扱い受けてますし!」

「……うん、せやねー」


 なんでかちょっと優しい感じの微笑みを向けられた。どゆこと?


「イメージって言うなら晴彦さんもじゃないですか。もっとこう、コースな料理食べてそうな感じがするというか」

「私は牛丼もラーメンも好きだよ。なんなら意に沿わない高級料理よりも、よほど」


 茜が小首を傾げると、晴彦はからかうように口の端を吊り上げる。 


「いいことを教えてあげよう。大人になると、おいしくないご馳走を食べる機会が増えるぞ。お偉いさんと食べる高級料理なんぞ味が一切しなかった」

「うわぁ……やだなぁ」

「上司だの先輩だの、社会人になれば嫌いな相手と笑顔で食事をしないといけない場面も多い。大変だぞー、特に茜ちゃんはかわいいから絶対に誘いがあるからなー」

「いやいや妙な脅しをかけないで……というか普通にかわいいとかやめてくださいよっ⁉」


 晴彦は、最近女性をちゃんと褒めるようになった。沙雪と親しくなった影響かもしれない。

 褒められるのは素直に嬉しいけれど照れもするから困ってしまう。 

 クラスの男子はああだし、弟もあれだしで、実は茜をかわいいと言ってくれる男の人は晴彦だけだったりする。


「でも、今はなにを食べても大体おいしいよ。今日は茜ちゃんもいるから余計に」

「もう、またそう言うことを……美衣那ちゃんに言いつけますよ?」

「すみません。少しからかい過ぎました」

「わー、すなおー」


 このお兄さん、実は美衣那にすごく弱いのだ。

 茜は知っている、妹のワガママに振り回されつつも優しく見守り微笑む晴彦のことを。

 ウチの弟は見習ってください。……あれ、この場合見習うのは自分の方だろうか?


「あれだ、毎日頑張って仕事をしていればゲテ以外はだいたいおいしい、みたいな」

「雑にまとめましたね。でも、やっぱりお仕事忙しいんですか?」

「それなりにはね。買って出た苦労ではあるんだけど、なんとも」


 普段苦労を感じさせないから勘違いしてしまうが、やはり社会人にはいろいろあるのだろう。


「茜ちゃんは? 少し、落ち込んでいたように見えたけど」


 晴彦は茜のささいな変化に気が付いていたようだ。

 以前のトレーニングの時もそうだが、彼は意外によく見ている。

 誤魔化すこともできたかもしれないが、たぶん精神的に弱っていたのだろう。茜は一度箸を止めて、溜息とともに悩みを打ち明けた。


「悩みっていうほど、大きい話じゃないんですが」

「うん」

「最近なんだか、疎外感があって……」

(えぇ……)

 

 内容は沙雪や萌のこと。

 普段は大の親友だし、すごく仲がいい。けれど変身してデルンケムと戦う時だけ、二人とも微妙に今までとノリが違うというか。萌は積極的に敵を倒すようになったし、沙雪は奇妙なくらい首領セルレとハルヴィエド統括幹部を意識している。

 この前は『いくら敵とはいえ、ハルヴィエドに対する首領セルレの行いは認められないわ』と真剣な表情で言っていた。

 その気持ちは分からないでもない。首領セルレは確かにひどい奴だと思う。ただ、なぜそこまでハルヴィエドに肩入れするのだろうか。「他の男の人を気にかけるのって、晴彦さん的には嫌なんじゃないかなー」とか思ってしまう。


「ケンカしてるわけじゃないんですよ? でも時々、なんというか」

「あー、つまり。沙雪ちゃん達と仲がいいのに噛み合わないタイミングがある、みたいな話でいいのかな?」

「はい……」

「そうか……(ヤバイ、完全に私が原因だ)」

 

 デルンケムの話を誤魔化したから、ふんわりとした説明になってしまった。

 それでも納得してくれたみたいで、晴彦がこちらに向き直る。


「ごめんな。それはきっと、私のせいだな(ガチで)」


 そして茜の目をまっすぐ見て語りかけてくれた。


「えっ?」

「ほら、沙雪ちゃんを誘って、で、デートをしたり、しているだろう? 君たちの邪魔をしないよう気遣っているつもりではいたんだが、それでも違和感が出てきてしまったのかもしれない。うん、そんな気がする」


 言われてみれば、確かに。

 まだ付き合ってはいないが、実質沙雪はカレシ持ちみたいなものだから、少しだけ意識の違いみたいなものが出てきたのかもしれない。


「萌ちゃんも、中学一年生だったか。成長するほどに秘密は増えるだろうしね。でも、茜ちゃんは二人が大好きなんだろう?」

「はい、それはもちろん!」

「なら少しだけ、見ないふりをしてあげてくれないかな(主に私のことを)。私の方もこれまで以上に気を付けようと思う。迷惑をかけてすまない」


 申し訳なさそうに晴彦は頭を下げた。大人の男性の真摯な謝罪に茜は慌ててしまう。


「あ、謝らないでくださいよ晴彦さん! ボクの方こそなんかごめんなさい!」


 茜は沙雪と晴彦の関係を応援している。いつか二人が恋人同士になれたら、なんて想像もしていた。

 ただ萌の変化や戦う際の足並みのズレなどが重なったせいで、疎外感に繋がったのだと思う。


「お話聞いてくれてありがとうございます、なんかすっきりしました!」

「こちらこそ、ごめんな? 感謝されるとすごく心苦しい」


 お礼を言っても恐縮されてしまった。

 茜のような子供と真剣に向き合ってくれるのだから、やはり晴彦はいい人だ。

 問題自体が解決したわけではないが気分は少し軽くなった。茜は一気に牛丼を食べる。


(……そう言えば、ボクと晴彦さんが二人きりって珍しい気がする)


 沙雪は当然だが萌もかなり懐いており、二人で出かけたという話を聞いている。たぶん晴彦と一番距離があるのは茜だ。


(交流自体はボクに声をかけてくれたところから始まってるのに。なーんかちょっと、納得いかないよーな?)


 初対面の時を思い出す。

 よくよく考えると晴彦は、最初から茜を「美しい」と評価している。もしかしたらお世辞ではなく本気で褒めてくれているのだろうか。意識すると途端に恥ずかしくなってきた。


「茜ちゃん、どうかしたか?」

「いっ、いえ⁉ 牛丼おいしかったですね! ま、また今度食べに来ましょう⁉」

「そうだな。機会があったら、また」


 勢いで次の約束までしてしまった。

 沙雪の想い人だし、別にそういう意味での好きじゃない。だけど牛丼一杯分くらいは仲良くなれたことが嬉しかった。

 だから茜は満面の笑みと「ごちそーさまでした!」の一言で話を締めくくった。

 楽しかったような恥ずかしかったような、そんな土曜日のことだった。


「今度は沙雪ちゃん達も誘おうか」


 でも、やっぱり晴彦さんは晴彦さんでした。




 ◆




238:ハカセ

 最後はいい感じの笑顔を見せてくれだけどな

 明確に解決策を撃ち出せたわけでもないし、なんや申し訳ない気分でいっぱいです



239:名無しの戦闘員

 そもそも論としてエレスちゃん的にはハカセも悩みの種じゃね


240:名無しの戦闘員

 デルンケムの幹部で、ロスフェアちゃんのリーダー誘惑する悪い男

 これは悩むンゴねぇ


241:名無しの戦闘員

 年頃の女の子だしなぁ

 ハカセたちのせいで貴重な時間を潰されてるのは否めない


242:ハカセ

 否定し切れんのが辛い

 お詫びにもならんけど一応牛丼は奢っといた

 ご飯をおいしそうに食べるエレスちゃんかわいい

 前のパスタの時もそうやけど、あの子ご馳走しがいがあるわー

 それはそれとしてワイが原因の悩みをワイに相談するのはどうなんですかね?


243:名無しの戦闘員

 自分が原因って認めやがったw


244:名無しの戦闘員

 エレスちゃんは合体技の時といい地味にハカセにダメージ与えてくるよな


245名無しの戦闘員

 変身ヒロインの攻撃は甘んじて受けろよ悪の組織の科学者w








【今回の裏側・モブ男子から見る結城茜ちゃんのこと】


 俺のクラスには結城茜という女の子がいる。

 一年生の頃は女子バスケ部だったけど、膝を壊して辞めてしまった。

 そのせいで一時期は落ち込んでいたが今では怪我も治ったらしく、元の明るい彼女に戻った。ただバスケはもう趣味だけのようで、そこは残念だ。


「おっはよー!」

「おう、結城」

「バスケ部の調子はどう?」

「俺らは三年だからな。最後の大会で引退だよ」

「そっか、頑張れ! ボクも応援してるよー!」


 結城は自分のことをボクと呼ぶ。

 それに元気で明るくて遠慮のない性格だから、誰とでも仲良くなる反面、女子としては意識されづらいようだ。

 他の男子から告白されたとかは聞かないし、本人も女の子らしいオシャレとか家庭的な趣味は一切ないと言っていた。

 でも俺だけは知っている。

 結城はすごくかわいい。背は小さいけど胸は大きくて、なんというかすごい。

 そんなことを口にして嫌われたら困るから、俺も親しい男友達としての接し方を崩さないけど。


「そういやさ、委員長にカレシできたらしいぜ」

「うそ⁉ 全然知らなかった……」

「はは、結城はそういうの興味ないもんなぁ」

「そ、そんなことないよ。ほら、ボクもシシュンキの女の子、として?」

「なに言ってんだ、こいつ」


 俺はバスケ部で、一応レギュラーなせいだろう。

 クラスの男子の中でも特に結城と親しい。(※勘違い、茜ちゃんは皆と仲良しです)

 結城は根戸羅学園へ進学するつもりらしく、高校でも俺といっしょになる予定だ。

 案外進学したら、ちょっと意識が変わって付き合い始めたり、なんて想像をすることもあった。

 そんなある日、「クラスの女子で一番かわいいのは誰だ」なんて男子連中四人で盛り上がった。


「でさぁ、誰が一番かわいいと思う?」

「やっぱ胸だよ胸」

「あの子かわいくね?」


 定番なのはお淑やかそうな子、ギャルっぽくてスタイルがいい子。甘え上手な女の子って感じ。当然結城の名前は上がらない。


「じゃあさ、結城とかどうよ?」

「えー、あ、あいつは男友達みたいなもんじゃん」


 男子の意見はこんなもの。美少女なのに普段の言動で損してる感じだ。


(結局、あいつの魅力に気付いてるのは俺だけってことなんだよな……)×4


 ちょっとした優越感がある。実際、俺があえて話題にあげてみても反応は微妙だった。


「結城はないって。ま、俺は仲いいけどさ」

「そーそー、スカートはいても似合わないしさ」

「なんか性別関係ない、みたいな。あいつを好きになる男とかあんまいないんじゃね?」


 つまり友達以上の感情はないということらしい。


(よし、ちょっと安心したぞ)×4


 そう思ったのも束の間、この時の話が結城の耳に入ったようだ。

 正確には、クラスの女子が結城をからかう感じで「あの男子四人が結城ちゃんのことを色々言ってた」みたいな告げ口をしたらしい。

 くそ、余計なことを。

 結城は激しく怒ったりこそしなかったが、さすがにちょっとムッとした様子だった。


「えー、ちょっとひどいなぁ」

「わ、悪かったよ。ただ俺らは、結城は男友達みたいに仲がいいって言いたかっただけなんだって」


 焦った俺はすぐに謝る。

 結城なら謝れば許してくれるし後に引きずらない。さっぱりしていて接しやすいヤツなんだって、俺は知っている。

 だから反論されるなんて思ってもみなかった。


「別にいいけどね、怒ってる訳じゃないし。それに、キミ勘違いしてるからね?」

「へ?」

「へへん、聞いて驚け。ボクにだって、ボクのことを心配して大切だって言ってくれる男の人がいるんだぞー」


 朗らかに、冗談めかして。なのにほんの少し頬を赤く染めて彼女は言う。

 男友達だったはずの結城がなんだか遠く感じられた。


「お、おい、結城。それって」

「えー、なに⁉ 結城ちゃん、詳しく教えてよ!」

「わあっ、い、いきなり抱き着かないで⁉」


 俺が聞くより早くクラスの女子が結城をもみくちゃにしまう。

 さすがに女子達の輪の中には入れなかった。そのせいで予想もしていなかった言葉が耳にこびりついている。

 大切だって言ってくれる男の人。

 俺は伸ばしかけた手を戻すこともできずに教室で立ち尽くしていた。


 


 ※ ※ ※




 モヤモヤを抱えたまま、謝れないまま日数が経ち、ある土曜日。

 その日はバスケ部の練習がないため俺は駅前に出かけた。

 適当に見て回っているとちょうど昼飯の時間になったので、近くの牛丼屋に足を運ぶ。

 そういや結城のやつも牛丼好きだとか言ってたよな。

 ったく、ホント女の子っぽいところが全然ねーやつ。

 そういうところがかわいいとは思うんだけどさ。


 そんなことを考えながら牛丼屋に向かうと、店舗のガラスの向こうに結城の姿を見つけた。嬉しくなって店に入ろうとするが俺の足はピタリと止まる。

 あいつの隣にはモデルみたいな大人の男がいた。

 声は聞こえない。でもなんだか楽しそうだ。

 男が何かを言うと結城は顔を真っ赤にしていた。怒ってるように見せてるけど、口はもにょもにょと動いている。

 たぶんあれはじゃれ合ってるだけなんだろう、ということは簡単に分かった。

 しばらく話し込んでる二人。途中ちょっと変な様子だったけど、最後に結城は満面の笑みを男に向けていた。

 

 ……俺が今まで見たことのない笑顔だった。

 

 だから俺は結局牛丼屋に入らなかった。

 誰が最初にあいつのことを男友達みたいなんて言ったんだっけ?

 分からないけれど、あの店に俺の男友達はいなくて、すごく魅力的な女の子がいた。



   

 ※ ※  ※




 そんなこんなで夜のこと。


「ふわぁ、今日は楽しかったなー…………………はっ⁉」


 お風呂に入っていた茜は「よくよく考えたら今日のボクっていわゆる相談オンナなのでは?」と気付いて青ざめていた。

 わりとレディコミとか好きです。 



【相談オンナ】

 友達のカレシに「あのぉー、私ちょっと相談があってー」とか言いつつ近付いて奪っていくタイプの女性。




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