戦闘員のあの恰好のこと
その日、各局のニュース番組はこぞって一つの話題を取り上げた。
【ロスト・フェアリーズ、浄炎のエレスあわや敗北か⁉】
といっても重症を負ったわけではない。デルンケムからの刺客と戦い、単純に力負けして膝をついただけだ。
ただしエレスは防戦一方であり、敵が撤退していなければ敗北したであろうことは容易に想像がついた。
彼女が真っ向勝負でそこまで押されたのは初めてで、ネット上でも大きな騒ぎになっている。
ロスト・フェアリーズが出動していながらデルンケムの行動を阻めなかったことの影響も大きい。
今回のデルンケムの目的はとある企業が開発した装置の奪取。妖精姫が防衛についてなお、それを奪われてしまった。
いったいどのような装置なのか企業は明らかにしていなかった。
◆
152:名無しの戦闘員
これは何と言っていいのか……
153:名無しの戦闘員
ハカセおめでとう、でいいのか?
154:名無しの戦闘員
日本人としては、おめでとうは違うくない?
155:名無しの戦闘員
しかもある程度事情を知ってる俺らからするとなぁ。
156:ハカセ
いや、うん
ワイもちょっと反応に困る……
157:名無しの戦闘員
そりゃあなぁ
158:名無しの戦闘員
まさかロスフェアちゃんを初めて追い詰めたのが怪人でも魔霊兵でもなく、Lリアちゃん(十七歳)たち戦闘員のアイドル三人組とは……
159:名無しの戦闘員
つーかLリアちゃんたちが着てたメタルヒーローものみたいな全身装甲、あれなによ?
160:名無しの戦闘員
そうそう
ハカセが造ったパワードスーツ的なのは分かる。
中身がLリアちゃん・Sやかちゃん・I奈ちゃんだってのも聞いた
でもあの状態で出撃してエレスちゃんに勝っちゃう、これが分からない
161:名無しの戦闘員
そんだけすごい性能のパワードスーツなんだろうけど、あれ戦闘員用の新装備?
162:ハカセ
あー、なんと言おうか。順を追って説明するわ
始まりはな、首領に呼び出されたことや
首領「時にハカセよ、女性の制服についてどう思う?」
ワイ「どう思う、ですか? ウチは男女とも同じ黒の全身スーツを採用しておりますが」
首領「うむ、同じだ。男女ともに同じということは、女性差別ということじゃ」
ワイ「すみません、首領が何を言いたいのか良くわかりません」
首領「だよね? 私、間違ってないよね? 私も言ってて意味が分かっとらん。ただ、現状の全身スーツに不満が出ておるのじゃ。特に女性陣から。なので、任せた!」
あ、これいつものパターンやん
首領、面倒くさくなってワイに振ったな?
163:名無しの戦闘員
はいハカセの仕事追加入りまーす!
164:名無しの戦闘員
身の上知ってもやっぱりブラック首領はブラック首領だなw
165:ハカセ
ようわからんけど、とにかく女性戦闘員からのクレームがあるらしい
そんでやってきたのが戦闘員Lリアちゃんや
Lリア「ハカセ統括幹部代理様、本日はお時間をとっていただきありがとうございます」
ワイ「ん、どないしたんやLリアちゃん?」
Lリア「実はご相談があります。私というよりも、女性戦闘員の意見と受け取っていただけると嬉しいです」
そらまたデカい話やな
166:ハカセ
Lリア「既にお聞きかとは思いますが、戦闘員スーツについて」
「現状で一定数の女性戦闘員が不満を抱いています」
ワイ「むむ、自画自賛になるけど耐衝撃性に伸縮性、魔力によるパワーアシスト機能」
「戦闘員の装備としては一級品だと自負していたんやけど。不具合でもあったか?」
Lリア「いえ、もちろんハカセ様の発明は素晴らしいものです! ですが、その……」
もじもじと、恥ずかしそうに彼女が言う
Lリア「ぴっちりし過ぎて、ですね。その、カラダのラインが……はっきり、出てしまい」
あぁ、そこかぁ……
167:名無しの戦闘員
そういやしばらく出撃してないけどデルンケムの戦闘員って昔ながらの全身黒スーツだったよな
168:名無しの戦闘員
そうそう、フィット感は高いんだろうけど確かに体のラインは出るか。
169:ハカセ
ワイ的には定番の戦闘員服を作ったつもりやったんや
ぶっちゃけデザインは伝統のデルンケム・スーツのまんまで、ちょっと材質変えて魔力式のパワーアシストを搭載しただけやからな
せやけど誰でも手軽にハイパワーの上、拳銃どころかマシンガン・散弾銃さえ防げる脅威の防御力やぞ
170:名無しの戦闘員
普通に警察が欲しがりそうな装備だな
171:名無しの戦闘員
つか俺が欲しい
172:ハカセ
デザインは昔から変わってないから今さら不満が出てくるとは思っとらんかった
173:名無しの戦闘員
あ、首領が言ってたことの意味分かった
女子社員から「なんで女性だけスカートの着用とかお化粧を強制されるんですか?」とか「こんな格好、性的搾取です!」とかのいわゆる女性権利に関する訴えが出てきてるのか
174:名無しの戦闘員
こっちの世界の企業でもけっこう制服変更したりするぞ
企業がでかくなったから制服もそれに相応しいモノにしたいとか。若い人向けの新しいデザインが欲しいとか
単純に流行りじゃないから、とかも
今は女性が強い時代だし、男性のみに合わせたものはすぐに炎上する
時代によって求められる装いって変わるんだよな
175:ハカセ
今までよかったからこれからも同じでいい、はワイの怠慢やった
不満がある以上は改善するのが開発担当の仕事や
こうして、ワイの新たなる挑戦が始まった
ちゃっちゃちゃーらっちゃちゃー ちゃっちゃーららっちゃちゃー♪
176:名無しの戦闘員
プ〇ジェクトX気取りかw
177:名無しの戦闘員
順調に日本に馴染んでんなこいつw
178:ハカセ
ワイは女性戦闘員の話を聞くことにした
無暗に聞き回ったらただの変態やからLリアちゃんにある程度不満をまとめてほしいと頼んどいた
改めてワイを訪ねてきた時には戦闘員SやかちゃんとI奈ちゃんもおった
Lリア「私だけでは意見が偏るかと思い、協力を頼みました」
Sやか「ハカセ様、よろしくお願いします!」
I奈「わぁー、ハカセ様の研究室初めて入った! なにこれなにこれ⁉」
ごめんね、I奈ちゃん
あんまり弄らんといてくれる?
179:名無しの戦闘員
戦闘員Sやかちゃん、普段はともかく上司への態度はちゃんとしてるんだよな。
180:名無しの戦闘員
I奈ちゃんはメスガキのまんまだけどな
181:ハカセ
で、改めて話を聞いてみた
仕事着だからデザインが画一的でかわいくないのは諦める
でもやっぱり体のラインが出るのはイヤ
特に胸の部分に男の人の視線が集まるのが恥ずかしい
M男お兄ちゃんならどれだけ見てもいいよ?
ていうかー、そもそも全身スーツってダサーイ
あと汗をかくと張り付いて余計に周囲の目が気になってしまう。
こんなところか
内勤なら性能よりデザイン重視にして、って感じやね
182:名無しの戦闘員
おーい、なんかメスガキ的な超個人的意見も混じってるぞー
183:ハカセ
改善要求が出そろえば解決策もすぐに出る。ワイはさっそく改良にとりかかった
まず体のラインを隠すために全身装甲、これで外見は完全に隠れる
ただ重量は増えるから従来のパワーアシストだと物足らん
なんで各部に分散してパワーユニットを配置してスムーズな動きを実現
となるとエネルギーの確保も必要になるか
簡易偽造魂を使えば解決はできるが、それではコストがかさみ過ぎる
全身装甲式では伸縮性がないため装備者を選ぶのも困るな
魔力伝導可変型のMG金属材を使用したいがやはり高価だ
人造魂よりも軽量小型の専用蓄積式魔力器を開発した方が早いか?
理想は地球産の素材を使い動力だけを私が用意する形なんだが
これは意外と面白い題材だな
184:名無しの戦闘員
キャラ変わってるキャラ変わってる
185:名無しの戦闘員
時々ハルヴィエドが出てくるよな
186:ハカセ
いかんいかん。とにかく試作を三着作ってみた
名付けて【女性でも安心♡ メタル系戦闘員服ウサギさんタイプ】及び【お犬様タイプ】や
正式名称は【魔導装甲メタルラヴィ】と【魔導装甲メタルハウンド】やな。
ちっちゃいI奈ちゃんには小型版の猫さんタイプ【魔導装甲メタルキティ】も造ったで。
これでボディライン対策は完璧
蓄積型の小型軽量魔力器を搭載しとるから魔力生成量が低い人でも使用可能
スーツ内の温度調整機能付き、パワーやスピードが上がった分感覚強化もされる仕様
なんと海中での活動も可能な優れモノや
187:名無しの戦闘員
あー、確かに耳の辺りにうさ耳っぽいのと犬耳があったわ
一際ちっちゃかったネコミミがI奈ちゃんか
188:名無しの戦闘員
フォルムもどことなく丸みを帯びてはいたよな
かわいいかと言われると微妙だけど
189:ハカセ
うーん、あくまで動物モチーフの男女兼用のデザインの試作やからな
あんまりかわいらしすぎて文句が出ても困る
とりあえず完成したんで、Lリアちゃん達に試着してもらったわ。
ちなみに往年の特撮に倣って『獣甲着装!』のキーワードによって一瞬で自動装着可能や
さすワイ
190:名無しの戦闘員
それ正義のヒーロー側w
191:名無しの戦闘員
技術だけはほんとにすごいんだけどね
192:ハカセ
Lリア「確かにこれなら体のラインは出ませんね」
Sやか「意外と快適だし、重さも感じません。パワーもすごいです」
I奈「ハカセ様ぁ、これあんまかわいくなーい」
まあ意見はそれぞれ、まずは動かしてみてくれ。その程度のつもりやったんや
……いやあ、びっくりですよね。
まさか初陣でエレスちゃんをあそこまで追い詰めるとか。
193:名無しの戦闘員
言っとくけど驚いてんのこっちだかんな⁉
194:名無しの戦闘員
怪人も魔霊兵も倒してきたエレスちゃんが普通にやられるとか予想外すぎるわ⁉
195:ハカセ
ワイだって驚いとりますが⁉
SやかちゃんとI奈ちゃんは別にいい! 戦闘員のパワーアップの範疇やった!
なんなのLリアちゃん⁉ あの子こっちの次元生まれで魂も魔法使えん程度の生成量しかないんやぞ⁉
それがどうやったらあんな三次元超高機動ができるんや⁉
だいたい通信システム科所属で普段訓練もしとらんのに!
魔法使えんし運動能力も低いけど戦闘センスだけなら猫耳くのいちにも匹敵するわ!
196:名無しの戦闘員
ハカセも荒ぶってらっしゃる……。
197:名無しの戦闘員
本当に想定外だったんだな。
198:ハカセ
途中で魔力切れ起こしたから撤退したけど、あれはヤバイ
自分で造ってなんやけど魔導装甲あかんわ
身体機能や魔力なくてもセンスと発想だけで最上位の実力者になれるとか下手に量産したら下剋上が簡単すぎる
199:名無しの戦闘員
ロスフェアちゃん倒せても幹部が戦闘員に勝てなくなるとか嫌だもんね
200:名無しの戦闘員
マジでLリアちゃんだけ動きの次元が違った
安全装置的に緊急停止機能つけといた方がいいよ。
201:名無しの戦闘員
というか内勤の子にあんなパワードスーツ必要ねえよ
202:名無しの戦闘員
実戦に出す意味もね
203:ハカセ
そこはSやかちゃんが「これ、私たちも戦えませんか? お願いします、機能を試してみたいんです!」って頼むからしゃーなしに
もちろんワイも出撃していざという時は庇うつもりやった
まさかあのレベルとは思わんよね。ワイが天才すぎるゆえに起こった悲劇……
あとLリアちゃんのセンスが怖すぎる。もう魔導装甲は封印や
204:名無しの戦闘員
うん、その方がいいと思う
205:名無しの戦闘員
侵略される側としてもあんな化物戦闘員が複数で襲いかかってくるとか想像したくない
206:名無しの戦闘員
でも女性用戦闘服問題はどうするの?
207:ハカセ
猫耳「統一性のある、露出が少ない服装を個人の好みに合わせて複数パターン用意すればいいだけでは? にゃ」
ワイ「いや、それだといざという時の戦闘力に不安が」
猫耳「ハカセならアクセサリー型の強化・防御用魔道具くらい簡単に作れるはず、にゃ」
うん、そうやね
猫耳くのいち、成長したな……
208:名無しの戦闘員
それができるなら最初からやれよw
209:名無しの戦闘員
指摘されるまで気付かなかったのか。
210:ハカセ(デザイナー中)
ということで内勤の子にはこちらでパターンは用意するが自分の好きな服を着る形で落ち着いた
防御力という点ではどうしても落ちてまうから、ワイが特製の魔道具を用意して補う
身体強化と魔力障壁、あと簡易結界くらいは張れるようにせんとな
Sやか「は、ハカセ様。あの、N太郎くんとペアリングって作れますか?」
I奈「あ、Sやかちゃんずるーい。私もM男お兄ちゃんとお揃いがいい!」
Lリア「二人とも! すみません、ハカセ様。私は手間のかからない物であれば」
首領「私はやはりネックレス型がいいのじゃ」
ワイは戦闘員たちの要望を聞いてその子に合ったアクセ作成の毎日や
せくしー今だけでも帰って来てくれんかな……。かわいい系のデザインはあの子の方がうまいんや
猫耳は楽しそうに服のデザインをしとる
そう、パターンを用意すると言いつつ服はすべて猫耳くのいちデザイン
これもう絶対幹部の仕事やない
猫耳「楽しい、にゃ。いずれ、こういう仕事もしたいかも、にゃ」
ワイは次のターゲットをアパレル系企業に決定した
あと首領、ネックレスのおねだりは大人になって、自分の大切な人が出来た時にしてくれ
211:名無しの戦闘員
どんだけ猫耳ちゃんに甘いんだよお前w
212:名無しの戦闘員
いずれ猫耳ちゃんの服が市場に流れるかもな
213:名無しの戦闘員
でもさぁ、おかしくない?
214:名無しの戦闘員
なにが?
215:名無しの戦闘員
あのメタルアーマー戦闘服超強いじゃん。
封印するんなら侵略の邪魔するロスフェアちゃん倒してからが普通じゃない?
216:名無しの戦闘員
そりゃフィオナちゃんを倒したくないんだろ
217:名無しの戦闘員
じゃあ首領のことはどうなんの?
わりとハカセやってることがチグハグ
218:ハカセ
おっと、そこまでや
ま、ワイは悪の組織の科学者ポジやからな。ちゃんと策略ってもんがある
今はその時ではない、ってやつやな
219:名無しの戦闘員
その策略って?
220:ハカセ
な・い・しょ
秘密が男に深みを与えるもんや
221:名無しの戦闘員
童貞のくせしやがって
222:名無しの戦闘員
キモっ
223:名無しの戦闘員
氏ね
224:ハカセ
ワイの扱いぃ……
◆
ハルヴィエドは自室で集めたデータを吟味する。
「……魔導装甲の実験は成功。が、現状では戦闘員に任せるとやりすぎる。性能は高いが安定性が低い、ということにして一時封印するのが無難か。いずれは簡易版を魔霊兵に装着させて安価高性能な軍勢を得られると報告すれば、ヴィラ首領も納得するだろう。騙して悪いとは思うが、そうすれば暴発的な侵略は起こらない、はず。今の拮抗を維持するには、もう少しロスト・フェアリーズには頑張ってもらわないと困るな」
魔導装甲を導入すれば侵略の速度が上がってしまう。スムーズにいきすぎるのはハルヴィエドにとって望ましくない展開だ。
しかし停滞がすぎると焦ったヴィラベリートが暴走する可能性もある。そうなれば被害のコントロールが難しくなってくる。
デルンケムは怪人による襲撃を繰り返しているが敵にも味方にも一般人にも死傷者は出していない、という状況をできる限り長く続けたかった。
「あとは、レングにした〝頼み事〟も確認しておかないといけないか。しかし今回奪取した装置……日本人にもアホウがいるな。環境汚染に目をつむって効率のみを追求した動力なんぞ今後のためにならん。こんなものさっさと壊しておこう。関連企業にも制裁が必要だな。怪人を配置して、と。しんどい……ゼロス様、戻ってきてくれないだろうか。いや、これも首領の為だ。フ〇スクよ、私に力を与えてくれ」
お気に入りのクール系タブレットを複数個口に含む。
頭すっきり爽快リフレッシュ、これでまだまだ仕事ができる。
「さて、息抜きをするか。うん、ミーニャが服飾に興味を持ったのはいいことだ。あの子が通える服飾学校もリストアップしとこう。と、その前に高校だな。入学手続きに、今のうちに弁当作りを学んだ方がいいか……? 学校行事には私も参加するのだから、スーツの新調も必要だな。ミーニャの兄として恥ずかしくない格好をしなくては。……いじめがあった時のために、隠密系の能力を持った怪人も用意するべきだな。ふふ、ミーニャが学生かぁ。こいつは楽しみだ」
Q.現状で変身ヒロインを倒す手段を持ちながら悪の科学者がそれを封印する理由は?
A.まだ彼の目指す場所が遠いから。