021
「本当に君は真面目だな」
「それしか取り柄がないので」社長の言葉に康平はそう返した。
「それだけじゃないだろう。君は優秀だ。
マネジメント能力も凄い」
康平「ありがとうございます」
「彼女を守りたいのはマネージャーとしてか?
それとも好きな相手だからか?」
社長はからかうような顔をしていた。
康平は微笑み「どっちもです」そう言った。
「そうか」さっきもその相槌を聞いたなぁ…と康平はふと思った。けど一つ違うのは先程の暗い感じではなく微笑みを混じえた明るい相槌であったこと。
「知り合いに芸能事務所をやっている人がいるんだ。
そこでやってみないか?いくら止めたところで君の
覚悟は変わらないのだろう?」
覚悟とは辞めることを指しているのだろう。
そう…誰に何と言われようと俺の辞める意思は固かった。これぐらいしないと彼女の事は守れない。
例え側にいられなくても彼女が歌手としてどんどん成長していくことを願ってる…
「はい!変わりません」はっきりと強く言った俺の言葉を聞いた社長は「やってみるか?」と改めてそう聞いた。
康平「是非、チャンスがあるのであれば
やらせて頂きたいです」
「場所が海外でも?」
社長のその言葉に康平の頭の中には一瞬はてなマークがたくさん浮かんだ。
「海外ですか?」聞き返すと「そうだ。その事務所は
海外にあるんだ」と返ってきた。
海外…海外…海外…
「あぁ、そうそう。アメリカなんだがね」
アメリカ…
行きます!…と俺はその言葉がすぐに出てこなかった。
前までなら家族を持っていない俺は速答しただろう。
どこへだって行ったはずだ。
ただ今は……
俺の考えてることが分かったのか
「彼女の歌手としての姿を近くで見ていたいか?」
そう聞いてきた社長。
康平「いや、僕は事務所を辞めるわけですし」
「今答えを出さなくてもいい。数日、考えるか?」
俺は…俺は…
康平「いえ、行きます!行かせてください!
これも成長するチャンスですから」
「本当にいいのか?」
「はい!」俺は社長の目を真っ直ぐ見てきっぱりと言った。
「なら話をしておくよ」
「はい、宜しくお願いします」俺は社長の部屋を後にした。
車で自宅に帰ってる途中、すぐに社長から電話がかかってきた。1週間後に向こうに行くことに。
それまでは休暇扱いだ。