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コンコンッ……ドアを三回ノックすると「入りなさい」
声が聞こえドアノブを回して部屋の扉を開ける。
入ったと同時に視線が重なり、「すみません!」と
頭を下げた康平。
「私の方にも記者から連絡があったよ。それで事実なのかい?」
事実なのかと問う社長の言葉に俺は一瞬迷った。
続けて社長から「ところで何に対して謝っているんだ?記者に撮られたことか?それともマネジメントするべきタレントに対して手を出したことか?」
何に対して謝っているかと問いかけられた俺は「ご迷惑をおかけしたことです」と直ぐ様そう返した。
康平「事実かと言われれば付き合ってはいません。
ただ……彼女に好意があることは確かです」
俺は今は付き合っていないこと。その今はという言葉に疑問が浮かんでいる社長に四年後の彼女が20歳になった時に付き合うと約束したことを正直に話した。
「そうか…」ただ一言そう呟いた社長はしばらく黙り込んで何かを考えているようだった。
「謝罪だけで済まそうとは思っていません。」その言葉に下を向いていた社長は俺の方にまた顔を向けた。
俺は何故か自分の両手をグーに握りしめていた。
その手に力が入ってることは自分でも気付いている。
康平「彼女のマネージャーからはずれます。
それから……事務所を辞めます」
康平の言葉に社長は驚いたような顔をした。
康平の口から辞めると言う言葉が出てくると思わなかったからだ。
社長は知っている。康平が真面目な性格だということ、何十年もこの事務所で一緒に仕事をしてきているのだ。だからこそ大きな仕事もいくつか任せてきた。
そしてこの仕事が好きなことも誰よりも分かっているつもりだった。
「簡単に辞めるなんて言葉、口に出さないでくれ」
今、俺の目の前にいる社長は悲しそうな顔をしていた。
「この仕事嫌いになったか?
辞めて後悔しないか?」
康平「この仕事はもちろん好きです!
後悔は…するかもしれません。
でもこれが僕なりの責任の取り方です」
「責任の取り方…他にもあるんじゃないか?
彼女の事が好きなら堂々と周りに宣言するとか。
ハハッ…まぁ事務所社長の俺が言えることじゃ
ないが」
康平「それじゃ駄目なんです。彼女を守るには
それじゃ…彼女は歌手として歩み始めたばっか
りで彼女の将来はまだまだこれからなんです。
それをほんの一瞬で台無しにしたくは
ありません。それに…約束しましたから…
四年後にって…ちゃんと守らないと」