017
康平「確かに君の言う通りだね。
好きになるのに年齢なんて関係ないよね…
高校生なのにしっかりしてるね」
優「高校生だからって馬鹿にしないで!………ください」
康平の言葉にイラッとした優は右手を強く握る。
その手には彼からひったくるようにして奪い取った
歌詞の書かれてある紙が…その紙がくしゃっとなる。
「そういうつもりで言ったわけじゃ……
ごめん」軽くペコっと頭を下げた彼。
そして、「君の気持ちは本当に嬉しい…
だけどマネージャーとしてしか
側にいることはできない…」と続けた。
そりゃそうだよね…
私が幼稚なだけだ…
勉強教えてくれるのもただの仕事として
付き合ってくれてるだけだもんね…
はっきりと言われた言葉に目に溜まっていた涙が
こぼれようとしていたとき「ただし、今は!…」と
それもまた優の耳にはっきりと届いた。
「え?…」優が振り向いたとき一粒の雫が
零れ落ちた。
康平「君が成人したとき、それでも僕の事を
好きでいてくれてたら…その時は…」
優「付き合ってくれるの?」
優は初めてマネージャーである康平に対して
敬語じゃなくタメ語を使った。
本人は無意識でありその事はわかっていない。
「あぁ!」康平の顔は今までに見たことないくらいの
笑顔をしていた。いや、そもそも彼の顔をこんなに
真っ直ぐ見たのは初めてかもしれない。
だから気付いていないだけかもしれない。
対して優の顔から零れ落ちた涙は最上級の嬉し涙へと
変わったのだった。
悲しさから溢れようとした涙がこんなにも一瞬で
違う感情の涙に変わるのだ。
「勉強するんだろ?」そう言うと泣いている彼女に
ティッシュを手渡した彼は「気持ち切り替えろ!」と
声を掛けた。
なんて…俺も中々気持ち切り替えられないんだけど…
心の中で思ったがマネージャーとして
顔には出さないように平静を装う。
康平「どの教科からやる?」
優「えっと…数学からかな」
康平「よし!やろう!」
この日から彼女が彼に対して使う言葉は
タメ口となった。
もちろん周りに人がいるときは敬語を使うのだが。
成人したら付き合うと言っておきながら
この二人の普通の会話のやりとりでさえ
マネージャーと歌手としてなのか
それとも恋人同士としてなのか
本人達にもよく分かっていないのだった。
だが誰かが見ていたら、きっとこう言うであろう。
まるで恋人同士みたいだね…と
その雰囲気がだだ漏れだ。
周りにバレないように振る舞うのに
必死な二人であった。