016
優がトイレに行っている間、康平は机の上に置いてあるファイルに手を伸ばす。
今日も勉強を教える約束をしているためファイルの中にはいくつかの教科の課題プリントが入っている。
パラパラとめくっていると「ん?これは…」
1枚の紙だけ他のプリントとは違い、その紙には
歌詞が書かれてあった。
好きなのに好きじゃない 自分にそう言い聞かせて
歌を歌っていたあの日、声を掛けてくれたのは
あなたでした あの時はまさか自分がこの場所に
立てるなんて思ってもみなかった
感謝とゆう言葉だけじゃ言い表せられない
これだけじゃ充分じゃないよね? だけど言わせて
本当にありがとう
感謝や尊敬とは違う別の感情を持ったのは
いつからだろう だけど本当は気づいてる
あの日だ そう 君のファンだってそう言ってくれた
あの日
人っていつの間にか好きになるものなんだね
だけど好きになっちゃいけない関係も
ある その事にも気づいてる ちゃんと分かってる
だから今日も自分の気持ちに蓋をしたまま
いつもと同じ毎日を過ごす それしかないんだ
好きなのに好きじゃない 自分にそう言い聞かせて
最初から最後まで歌詞に目を通した康平は
紙を戻そうと、そっとファイルに手をかける。
康平の顔は変わらない。今彼が何を考えているかは
分からない。
、、と、ちょうど優がトイレから帰ってきた
「あ!それは!」康平がファイルに戻そうと右手に1枚の紙を手にしているのを見た優はバッとひったくるように奪い取った。「あの!これは違うんです!失敗作ってゆうか…」奪い取ったその紙をすぐさま後ろに隠す優。
康平「曲、完成してたんだね」
優「だから…その…失敗作です…」
「そっか…」と康平はそう言ったあと無言になる。
しばらく二人の間には、静かな空気が流れていた。
その空気に耐えられなくなった優は「今日は帰ります!…」鞄を持つと帰ろうとドアノブに手をかけるが
「嬉しいよ」と後ろから今自分が想いを寄せている人の声が聞こえた。
「素直に嬉しかった」康平は優の方を向いて
話し出した。彼女は背中を向けているため
表情は伺いしれないがそのまま続けて喋る。
康平「嬉しかったけどそれと同時に
びっくりもしたかな。
だって僕、君より遥かに年上だよ?」
その康平の言葉に「好きになるのに年齢なんて
関係ないと思います…」彼に背中を向けたまま
そう言った優は自分の言った言葉に少しだけ後悔して
顔が茹でダコのように赤くなる。
私って馬鹿…そんなこと言ったら好きって認めたようなものじゃんか…
好きじゃないフリをしなきゃいけないのに…
その茹でダコのような顔が康平からは見えてないのがせめてもの救いだった。