魔力について
先生が去ったあと、アリーセが抱きついてきた。
「ミシャ、すばらしかったですわ! 美しい飛行でした」
「あ、ありがとう」
エアも「ミシャ、やるじゃん」と言って褒めてくれた。
「ミシャ、浮遊系の魔法が苦手って言っていたから、びっくりした」
「私も、こんなに上手くいくとは思わなかったわ」
これまで魔力を上手く使いこなせていなかったのは、適切な魔道具を使っていなかったからなのか。
一応、魔法道具を売る商店がおすすめしてくれた、つららを固めて作った杖を使っていたのだが。
改めて、杖を手に取ってみる。
手に馴染み、魔力が活性化されるような気がしていたものの、ブリザード号でやったときとは大きく異なる。
その違いについて、私は今になって気づく。
氷柱を固めて作った杖は、氷属性なのだ。その一方で、ブリザード号は雪属性である。
この違いが、私の魔法を展開させる腕前に影響を及ぼしていたのだろう。
せっかく高いお金をだして買ってもらった杖だが、雪属性の杖を買い直したほうがいいのかもしれない。
ひとまず、魔力についての対策がわかったのだ。大きな一歩だろう。
「次はアリーセね」
「え、ええ。頑張ってみせるわ」
アリーセは魔法の絨毯を広げてみせる。地面に置いたら汚れるのではないか、と思っていたが、絨毯はかすかに浮いていた。
よくよく見たら、絨毯の縁に呪文が刺繍されている。キラキラ輝いているので、普通ではない。魔力が溶け込んだ糸で作った、とっておきの刺繍なのだろう。
「えっ、すごい。この絨毯、浮遊魔法が付与されているのね」
「そうですの。こうして広げたときだけ、浮遊魔法が常時展開されるようで」
ただこれは汚れ対策で使うもので、空を飛ぶことができないという。
あくまでも、飛行道具というわけなのだ。
アリーセは靴を脱いで絨毯の上に腰を下ろす。それを見て、エアがぼそりと呟いた。
「土足厳禁か」
「そうみたいね」
アリーセの体が少し傾いている。その原因は明白であった。
「ねえ、アリーセ。端ではなくてもっと中心に座らないと、重心が偏るわよ」
「わかっているのですが、キティの顔が織られた場所に座るなんてできませんわ!」
まさかの踏み絵的な理由だったようだ。がっくりと項垂れてしまう。
どういうふうに説得しようかと迷っていたら、エアがもの申す。
「そんな変な乗り方をしてケガでもしたら、キティが悲しむと思う」
「ああ、そ、そうですわね」
エアの一言で考えを改めてくれたようで、中心に座り直してくれた。
「で、では、やってみます!」
アリーセは力んだ様子で、呪文を唱えた。
「――飛び立て、空中飛行」
絨毯は勢いよく上昇したものの、先生の膝くらいの高さで止まった。そのまま、飛行を維持し続ける。
「アリーセ、とっても上手よ」
「ほ、本当ですの?」
「嘘は言わないわ」
その後、アリーセは無事、着地する。飛行から帰ってきたアリーセを、エアは拍手で迎えていた。
私達は問題なく飛べたので、残りの時間はクラスメイト達の飛行する様子を眺めることにした。
レナ殿下は大きな船を華麗に操り、見事な飛行を見せている。ノアは本当の天使のごとく、美しく羽ばたく姿を確認できた。
皆、思いのほか、きれいに飛んでいるようだ。
授業の終わりに、先生は皆の前で思いがけない話をした。
「二学期になったら雪山課外授業がある。そこで魔法生物であるトナカイが引くそりに乗る体験学習があるのだが、次の授業から魔法生物が引く乗り物の制御について学んでもらう」
雪山課外授業――ヴァイザー魔法学校が所有する雪山で、さまざまな体験を行い、心身ともに鍛える教育課程である。
雪山が私の故郷より過酷な環境でないことを祈るばかりであった。
以上で授業は終了となった。
エアやアリーセと一緒に、雪山課外授業について話す。
「雪山課外授業かー。ミシャの故郷とどっちが雪が積もっているんだろうな」
「山のほうがすごいと思うわ」
「ミシャの故郷にも負けてほしくないなー」
「勝負じゃないんだから」
私達の会話を聞いていたアリーセに、くすくすと笑われてしまった。
「あなた達、本当に仲がよろしいのね」
「それほどでも」
「普通だよ、普通」
お互いに我慢しきれなかったのだろう、同時に噴きだしてしまった。
その後、どうってことのない話で大笑いしながら教室へ戻ったのだった。
こういうのが青春なのか、と思ってしまった。