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飛行魔法を習おう

 ついに、今日から飛行道具を使った授業に移る。

 結局、魔力の制御は習得できておらず、一ミリも飛べない。けれども飛行道具を使えるということが嬉しいのだ。

 購買部で購入した純白の箒は大のお気に入りである。

 エアがスカイ・ボードに〝フレイム号〟と名前をつけていたので、私も〝ブリザード号〟と箒に名付けてみた。


 皆、個人用のロッカーにしまっていた飛行道具を取りだし、いそいそと校庭に向かっていた。

 私もブリザード号を手に取る。


「おや、美しい箒だ」


 振り返った先にいたのは、レナ殿下だった。


「柄から穂先まで白い箒は初めて見るな」

「雪属性専用の箒みたいなの」

「なるほど。そうだったのだな」


 レナ殿下は喋りながら校庭にいこうとしたので、飛行道具は持たなくてもいいのか、と声をかける。


「私の飛行道具はこの腕輪に収納してある」

「そうだったのね。とっても便利だわ」


 それを口にした瞬間、隣を転がっていたジェムが、突然口をかぱっと開いた。


「え、何?」


 触手を伸ばし、ブリザード号を指し示す。


「ブリザード号を?」


 触手を口元へ持っていき、ここに入れろとばかりの仕草を取った。


「あ、そう! そういえばジェムにはアイテムを収納できる能力があったわね」


 ただ、これまではブローチや筆記用具など、小物しか預けていなかった。


「こんな長くて大きな物、大丈夫なの!?」


 ジェムは深々と頷き、早く入れろとばかりに触手を動かしていた。


「口の中に突っ込むのは抵抗あるけれど」


 ジェムがブリザード号サイズに巨大化したらどうしよう、と思ったのだが、早くしないと授業が始まってしまう。ここで躊躇っている時間などないのだ。


「ジェム、入れるわよ!」


 声をかけると、ジェムはさっさとこい! とばかりに触手を振っていた。

 意を決し、ブリザード号をジェムの口の中に突っ込んだ。

 ジェムはポッキーを食べるように、小刻みに動いてブリザード号を呑み込んでいく。


「えっ、すごい!」


 ジェムは大きさを変えることなく、ブリザード号を収納してくれた。


「ミシャの使い魔は相変わらず素晴らしいな」

「ありがとう。本当に器用な子で」


 褒めてもらって光栄だが、私の記憶力が乏しいせいで、ジェムの能力を使いこなせていないのかもしれない。その辺は申し訳なく思ってしまう。

 まあでも、この子はお手伝い大好き、やる気のあるタイプでなく、こうやって私の手助けするのも気まぐれだ。私はそれでもいいと思っているので、相性は抜群なのかもしれない。


 クラスメイト達は校庭に集合し、各々飛行道具を自慢し合っている。

 アリーセは使い魔のキティをモデルにした、猫が織られた魔法の絨毯を皆に見せていた。

 ノアは天使の羽みたいな飛行道具を背負っている。あれはどういうふうに飛び立つのか、気になるところだ。

 レナ殿下の船型の飛行道具はクラスの中でもっとも豪華なので、注目を集めていた。

 

「レナ様の飛行道具、すばらしいですわ」

「本当に」


 クラスメイト達は口々に絶賛している。

 レナ殿下の船型飛行道具の形状は、手こぎボートに似ているのか。

 大きいので魔力の消費がすごそうだ、と思っていたが、船の前後に魔石があしらわれている。おそらくこれで、飛行の魔力をサポートしてくれるのだろう。


 他にも傘型や椅子型、木馬型など、さまざまな飛行道具があるようだ。

 どんなふうに飛ぶのか、とても楽しみである。

 個性的な飛行道具は多種多様にあるが、中でももっとも多いのは箒型であった。

 同じ箒型でも、穂先が鳥の羽根だったり、葉っぱだったり、花だったりといろいろあって、見ているだけでもかなり楽しい。


 お喋りに夢中になっていたが、無情にも授業が始まった。

 先生がやってきて、飛行道具の初歩的な使い方について教えてくれる。

 

「最初にしなくてはならないのは、自分の飛行道具に魔力を感知させ、繋ぐことだ。これを成功させないと、空を飛ぶことはできない」


 浮遊魔法で物を飛ばすことの応用となるが、対象が大きくなる分、制御も難しくなるようだ。


「今日は高く飛ばないように、特製の結界を張っている。だから怖がらずに各々やってほしい」


 今回は三人組でやるように言われた。アリーセとエアが同時にやってきたので、皆でやることに決めた。


「ミシャ、一緒にやろうぜ!」

「もちろん! アリーセもよろしく」

「ええ」


 レナ殿下は今回、ノアと取り巻きのひとりと三人で組んだようだ。

 前回、前々回とレナ殿下とペアを組んで睨まれ続けていたので、よかったと胸をなで下ろす。


「では、見本を見せるぞ!」


 先生は身の丈ほどもありそうな箒型の飛行道具を取りだし、跨がっていた。

 サドルがない、棒に座るタイプだった。

 それを見たエアが、こそこそと話しかけてくる。


「なあ、ミシャ。先生のあれ、痛くないのか?」

「痛いはずよ」


 私達がこそこそ会話しているのをアリーセは不審に思ったようだ。


「ニヤニヤしながら、何を話していますの?」

「あっ、いや、それは……」

「なんでもないです」


 しようもない会話をしているうちに、先生が飛行魔法の見本を見せてくれた。


「――飛び立て、空中飛行フライト!」


 箒に跨がった先生の体が、ふわりと浮かんだ。

 おお! と声があがる。


「魔力を制御し、まずはこれだけ飛んでみろ!」


 飛行魔法の授業が始まる。

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