軽食の話し合い
今日は朝から、一学年の実行委員会の話し合いである。
皆のアイデアを発表しよう、と集まったのだ。
今回は階段ではなく、自習室で行われる。アルビーナが学校側に許可を取ってくれたようだ。さすが、我らがリーダーである。
集まっているのは四名。やる気があるように見えなかったフェーベがまだきていないようだ。
「フェーベ君はくるでしょうか?」
おさげ髪の女子生徒、リアが話しかけてくる。
「大丈夫じゃない? まだあと五分あるし」
皆、十分前からやってきていたようだ。ちなみに私はたった今到着したばかりである。
暇を持て余した一組の生徒ユルゲンは、窓の外の景色を眺めながらぼやく。
「あーあ、雪、ほとんど溶けちゃったなー。楽しかったのに」
雪について話し始めたので、ドキッとする。
ホイップ先生が教えてくれたのだが、私が制御せずに展開させた雪魔法は、ヴァイザー魔法学校の全範囲に降り積もっていたようだ。
敷地内には結界が張られているようで、外への影響はなかったらしい。
もしも結界がなかったら、王都全土に雪が降っていたかもしれない、とホイップ先生は話していた。
一応、今回の件は校長先生に報告し、ヴィルが書いた始末書がこの先百年もの間、保管されることになったようだ。
ヴィルはホイップ先生に怒られただけでなく、反省文も提出することになっていたのだ。
本当に、心から申し訳なく思ってしまう。
今後、魔力の使い方の訓練は、生徒だけでしないように、と注意されたようだ。
「毎日雪が降ればいいのに」
「はいはい、私語はそれくらいにして、アイデアの発表の準備をしておいてください」
なんてアルビーナが言っているところに、フェーベがやってくる。
集合時間ぴったりだった。
「おい、フェーベ、遅いぞ!」
「遅くない。時間通りだ」
「そうだけどさー、こういうとき、早めにくるもんじゃないのか?」
少しぴりついた空気になっていたものの、アルビーナが間に入って仲裁する。
「ケンカしないでください。不毛です」
そのとおりだ、とリアと一緒に頷いてしまった。
「では、皆さんが揃ったようですので、第二回の、一学年の実行委員会の話し合いを始めます」
まず、今回の企画について、すでにアルビーナが学校側に報告しているらしい。
「校長先生は検討の末、許可をだしてくださいました」
なんでも決定した私達のアイデアをもとに、学校の食堂で働く料理人が軽食を作ってくれるようだ。
「早めに決めてほしいとのことで、今日の話し合いで決定したいと思います」
早速、発表を始めるようだ。まずは一組のユルゲンから。
「俺は空飛ぶ料理を提案する!」
聞いた瞬間、なんじゃそりゃ、と言いたくなるようなアイデアであった。
「宙に浮いている料理をおのおの取って、食べるんだ。楽しそうじゃないか? 宙に浮いていたらカトラリーを使う必要もないし、洗い物も少なくて済むぜ!」
シーーーーン、と静まりかえる。
これまでにない斬新なアイデアだが、気になることが多々あった。
「発表は以上だ。質問でもなんでも聞いてくれ!」
「では、私から」
アルビーナは咳払いし、皆がもっとも気になっていたであろうことを質問する。
「どういった方法で、料理を浮かせるつもりなのですか?」
「それは浮遊魔法に決まっているだろうが」
「どなたが魔法を展開させるのですか?」
「俺だ! 浮遊魔法は得意だからな!」
専用の魔道具があるのかと思いきや、そうではなかった。がっくりと脱力してしまう。
リアが控えめな様子で挙手し、ユルゲンに疑問を投げかける。
「あの、ユルゲン君はいったい何時間、一つの魔法を維持することができるのでしょうか?」
「魔法の維持? そんなもん、したことない。でもまあ、できるだろう!」
その辺は実績があるのかと思いきや、ただの自信しかなかったようだ。
アルビーナは引きつった笑みを浮かべ、次へと促す。
「ありがとうございました。次は二組のミシャさん、お願いします」
「ええ」
私は家から持ってきた羊皮紙を広げて見せる。
そこには五種類ほどのカナッペやピンチョスなどのフィンガーフードを描いてきたのだ。
発表する私の代わりに、ジェムが羊皮紙を広げ、皆の前で見せてくれた。
「私が提案するのは、一口で食べられる、フィンガーフードです」
カクテルグラスに入れた冷製野菜スープに、トマトとベーコンの一口パイ、マッシュルームの香草焼きに、串に刺した炙り肉、鴨パテのクラッカー載せなどなど、見た目が美しいだけでなく、幅広い年齢層の人達が堪能できるメニューにしてみた。
「これまでにない、美しい軽食だと思います」
アルビーナの意見に、リアも深々と頷いている。
「こういうのだったら、いろんな種類を食べることができて、楽しめるかと」
女性陣二名は好意的だったが、男性陣二名はそうではなかった。
まず、ユルゲンが意見する。
「俺、こういうのだったら、百個食べてもお腹いっぱいにならないな」
たしかに、育ち盛りの生徒達が大勢いる中で、フィンガーフードは物足りない、という問題はあるのかもしれない。
その辺については気づいていなかった。
ユルゲンの意見に続き、フェーベも追い打ちをかけてくる。
「それに、そんなちまちましたもんを全生徒分作れって、酷な話じゃないのか?」
「――っ!」
ぐうの音もでないような状況となってしまった。
アルビーナは空気を読んで、先へと進めてくれた。
「えー、では、次に三組のリアさん、お願いします」
「はい」
リアも絵を描いて持ってきたようだ。
丸めていたものを、皆に広げて見せてくれた。
「私は、とにかく大きな料理を作ってもらうのはどうか、と閃き、提案しました」
そこには巨大なステーキや、焼き魚、パンなど、子ども心をくすぐるような料理が描かれている。
控えめな性格に見えるリアだったが、アイデアは大胆だった。
このアイデアには、ユルゲンやフェーベもお気に召したようだ。
「なんだそれ! おいしそうだし、楽しそうだ」
「たしかに、このアイデアだったら、調理側の負担も少ない」
これまでの発表の中で、もっとも好意的だったと言えよう。
リーダーであるアルビーナは最後に発表するとのことで、次はフェーベである。
「俺が考えたのは、魔法生物が調理した作りたての料理を提供する、魔法のキッチン」
フェーベと契約している魔法生物の使い魔は、なんと、料理ができるらしい。
想像するだけでかわいらしい!
「もちろん、魔法生物がすべての料理を作るわけではなく、料理している様子を楽しんでもらうのが目的だ」
たとえば皆が見えるところで魔法生物がオムレツを作り、その背後で料理人達が次々とオムレツを作る。
皆、魔法生物が調理する様子を楽しみながら、できたての料理を待つわけだ。
すばらしいアイデアだが、気になった点を言ってみる。
「面白そうだけれど、目的がショーになってしまいそうね」
「たしかに、そうなってしまう可能性がありますね」
アルビーナも同意してくれた。
皆、それぞれいいアイデアを考えてきたようだ。聞いているだけでも、なかなか楽しい。
最後はアルビーナである。
「私が提案する軽食のテーマは海、です。巨大な水槽に海を見立てたゼリーを作り、おのおの掬って食べたり、魚を使ったメインの他、海の生き物を象ったパンや、お菓子、飲み物などを楽しんだり、海を堪能していただきます」
ここ最近、貴族の間で肉食が流行り、魚は安価で取り引きされる傾向にあるらしい。
海を身近に感じ、魚を愛し、ゆくゆくは市場を活性化させたい、という願いから企画を作ったようだ。
ここまでアイデアを考え込んで企画を作ったのは、アルビーナのものだけだった。
投票をした結果、満場一致でアルビーナのアイデアが採用される。
私のアイデアは却下となったが、納得いくような結果だった。
今年最後の更新となりました。
毎日お付き合いいただき、ありがとうございました。
2024年からは、しばらく多忙なスケジュールとなるため、隔日更新とさせていただきます。
(1月1日は更新します!)
引き続き、物語にお付き合いいただけたら嬉しく思います。