ミシャの魔力について
「び、びっくりしました! これはなんなのですか!?」
「魔力の共鳴状態だ」
「リゾナ……え?」
魔力の共鳴状態というのは、術の使用者と同じような魔力の使い方ができるよう、導くための魔法らしい。
「ミシャの魔法の質を見たところ、魔力の使い方がよくわかっていなかったようだから、本来の力がだせるよう、きっかけを作ってやっただけだ」
「これが、私の本来の力、なのですか?」
「ああ。ただ、今さっき使ったのは一部だ。ミシャはもっとすごい雪魔法を使えるだろう」
長年、従姉のリジーから大したことはない、と評されていた私の雪魔法だったが、もっともっと大規模な魔法を使えるようだ。
「魔法を習ったのは家庭教師か?」
「いえ、両親です」
「先天属性は?」
「父が水で、母が風です」
「なるほど」
魔法使いの家系に生まれた者は、たいてい両親か家庭教師に魔法を習う。
そのさい、初めに習うのが魔力の使い方なのだ。
「四大元素と、固有元素の魔力の使い方はわずかだが異なる。そのため、実力の三分の一以下も使えていなかったのだろう」
「もしも本来の魔力の使い方を会得したら、通常の魔法の力もすごくなる、ということですか?」
「ああ、間違いない」
今日、浮遊の授業で、ほんの僅かしか体を浮かせることしかできなかった、という話をヴィルにしてみたら、それも魔力の使い方が原因だろうと言ってくれた。
「浮遊魔法でも、共鳴状態を試してみるか?」
「はい!」
ヴィルと両手を繋ぎ、呪文を唱えた。
「――浮かんで漂え、浮遊!」
魔法陣が浮かんだ瞬間、私とヴィルの体はふわっと宙に浮いた。
「え、わっ、嘘!!」
さっきは紙が一枚くらいしか浮上できなかったのに、みるみる上昇していく。
温室の屋根辺りまで体が浮かんだが、まだまだ余裕だった。
「すごい! 私、ちゃんと空を飛んでいます!」
「その気になれば、雲の上まで行けるかもしれない」
「さすがにそこまでは怖いですし、凍えそうです」
「たしかにそうだな」
もう一度確認するが、この力はヴィルのものではないらしい。
あくまでも、私の実力を導いてくれただけにすぎないようだ。
地上へ降りたものの、いまだ信じられないような気持ちでいた。
「どうした?」
「あの、驚いてしまいまして」
物語の主人公のように、派手でかっこいい魔法を使うことをこっそり夢見ていた。
けれども実際に私に身についていた力は、さほど大きなものではなかった。
雪は小降り程度だし、魔法の実技の成績は後ろから数えたほうが早いし……。
正直なところ、少しだけがっかりしていたのだ。
けれども魔法がかかわる仕事は、魔法を使うだけではない。
魔法に関する知識だって、大いに役立つ。
前世の世界では魔法すら存在しなかったのだ。それに比べたら、魔法があるだけ夢があるだろう。
そう、自分に言い聞かせていた。
「頑張って魔力の使い方を習得したら、私は人並みの魔法を使えるわけですね」
「もちろんだ」
固有元素の魔力の使い方を知っているということは、ヴィルは四大元素以外の属性なのだろうか?
教えてくれるかわからなかったものの、質問してみる。
「ちなみに、ヴィル先輩の属性はなんなのですか?」
「私は〝聖〟だ」
「それは、とてつもなく稀少な属性ですね」
聖属性は聖職者向きの固有元素だ。
歴代の枢機卿や大司教などは、聖属性を持っていたような気がする。
ちなみに聖属性といえば回復魔法が有名だが、それは神聖学校に通って習わないと使えないらしい。
「ヴィル先輩はどうして、神聖学校に入学して、聖職者の道を選ばなかったのですか?」
「神聖学校は酷くつまらなそうに見えたから。それに、聖職者は腹芸が得意でないと務まらないとも聞いていたから、向いていないと判断したのだ」
「そういうわけだったのですね」
聖属性は回復魔法や、浄化魔法など、サポート系のイメージがあるものの、聖なる槍や、神々の怒りなど、強力な攻撃魔法も存在する。ヴィルにはかっこいい聖属性の攻撃魔法のほうが似合いそうだ。
「そういえば、ヴィル先輩の使い魔のセイクリッドは聖なる竜でしたね」
「ああ。セイクリッドは私の固有元素に引きつけられた結果、召喚に応じる形となったのだろう」
「なるほど」
使い魔を召喚するさい、すべてが召喚者の属性に由来するものではない。
けれども関連があった場合は、強力な使い魔が召喚されるようだ。
「ミシャの使い魔の属性はわかっているのか?」
「いいえ」
ジェムは家のドアに張り付き、寛いでいるように見えた。
「まあ、雪属性ではないことはたしかかと」
「間違いないな」
今後、ヴィルは魔力の使い方を教えてくれるという。
お願いします、と頭を下げたのだった。