空を飛ぶ!?
パーティーでふるまわれるような軽食……と聞いてうーんと唸ってしまう。
貴族のご令嬢として生まれ変わったものの、軽食がでるような華やかな集まりに参加したことがなかった。
前世まで遡ってみると、会社の創立パーティーや、結婚式などにでたことはあるものの、セレブ学校の生徒達が喜ぶようなメニューなんてなかったような気がする。
思いつくものは、王道のカナッペやピンチョス、タコスやフリットくらいだろうか。
ただ、普通の軽食では、ベネフィットとやらを貰えないのだろう。
これまで誰も思いつかなかったような軽食を考えないと、ポイントにならないはずだ。
と、考え事をしている場合ではなかった。授業に集中しなければ。
午後からの授業は、校庭で行う。科目は〝浮遊〟だ。
ただ、物を飛ばすものではない。自分自身が宙に浮いて飛ぶのだ。
筋骨隆々の、魔法使いらしからぬ若い先生が担当し、私達に浮遊魔法の危険性について寒空の下で延々と語ってくれた。
続いて、先生が浮遊の見本を見せてくれる。
「――浮かんで漂え、浮遊!!」
先生は一瞬にして高く浮遊し、校舎の遥か上まで飛んでいってしまった。
「す、すご……!」
さすがとしか言いようがない。
戻ってくるのも一瞬だった。
「これが浮遊だ。さらに、飛んで移動する場合には、飛行道具が必要だ」
有名な物だと箒だろうか。
他にもスケートボードみたいな飛行板や、翼を模した飛行翼など、魔法使いの空の移動を助けてくれるようだ。
「浮遊の授業がある程度進んだら、飛行に移るから、飛行道具は用意しておけよ」
そういえば、必要な品物の中に飛行道具もあったのだ。
購買部でも販売しているので、購入はあとでいいと書かれてあったため、すっかり忘れていた。
また出費が……と思ったものの、今日のところは浮遊の授業に集中しよう。
一時間半ほど先生の授業を聞いたあと、実際に浮遊魔法をやってみるようだ。
「二人組になって、互いに観察するんだ。何か危険なことがあれば、すぐに先生に報告するように」
誰と組もうかな、と立ち上がった瞬間、手をぎゅっと握られる。誰かと思っていたら、レナ殿下だった。
「ミシャ、一緒にしよう」
視界の端で、ノアが憎らしそうに私を睨みつけていた。
しかしながら、他のクラスメイトが大勢押しかけ、一緒に組みたいと口々に言うと、「みんな争わないで」と嬉しそうにしていた。
「えーっと、私でいいの?」
「ミシャがいい」
ここまで言われてしまっては、断る理由なんて見つからない。
そんなわけで、レナ殿下と一緒に浮遊魔法をやってみることとなった。
「さて、どちらからしようか?」
「私はあとでいいわ。正直なところ、浮遊魔法は得意じゃないの」
受験のときも、手紙はホイップ先生に届かず、床に落ちてしまったのだ。
あれ以来、試していないのである。
「ならば、私からやってみよう」
レナ殿下は美しいエメラルドが填め込まれた腕輪に触れ、呪文を唱える。
「――浮かんで漂え、浮遊!」
レナ殿下の足元に魔法陣が浮かび上がり、体がふわっと上昇する。
一メートルくらい飛んだだろうか。
「わ、すごい!」
他の生徒は高くても五十センチ程度の高さくらいだったので、かなり飛んだほうだろう。
先生もレナ殿下の浮遊に気付き、絶賛する。
「見てみろ! あれくらい飛べたら、飛行便の配達員になれるぞ!」
クラスメイト達がわーっと拍手すると、レナ殿下はにっこり微笑んで手を振った。
浮遊魔法を展開しながら、あのように周囲に気を配る余裕があるなんて。さすがとしか言いようがない。
レナ殿下が地上に降りてくると、今度は私の番となる。
ドキドキしながら杖を握り、精一杯集中したのちに呪文を唱えた。
「――浮かんで漂え、浮遊」
高く飛んでいかないよう、踏ん張っていたものの、変化はなかった。
「え、やだ、失敗?」
「いいや、僅かに浮いている」
レナ殿下がしゃがみ込み、私の足元を確認しながら教えてくれた。
「え、これ、浮いているの!?」
「ああ。紙が一枚通りそうなくらいの隙間がある」
「嘘でしょう!?」
先生がやってきて、「そのように僅かに浮遊できるのは、逆に器用だな」と言われてしまった。
「ただ、このレベルの浮遊は使いようがあるのですか?」
「ないな!」
はっきり言われ、がくっと肩を落としてしまったのは言うまでもない。