前へ次へ  更新
63/263

話し合いをしよう!

 それからヴィルの輝かしい功績を語って聞かされた。

 開校以来、初めてドラゴンを使い魔として召喚しただの、成績が歴代生徒の中でもぶっちぎりでトップだの、新しい魔法を五つも開発しただの。


「そのどれもが、大量のベネフィットを獲得した偉業だと、下級生の間で伝わっているんだ」


 ヴィルのことを頭がいい人だ、と思っていたが、想像していた以上に優秀なお方だったらしい。

 おー、と尊敬の意を込めて手を叩いていたら、おさげ髪の女子生徒が話しかけてくる。


「あの、リチュオルさんが監督生長ハイ・プリーフェクト当番生フォグに指名された、という噂話を聞いたのだけれど、本当なの?」

「あ、俺も聞いたことがある! なんか一年が指名されたって。リチュオルだったのか?」

「ええ、まあ、そう」

記章オーダーは?」

「獅子の横顔があしらわれた銀細工の飾りなんだけど」


 一気に話しかけられ、またしても圧倒されてしまう。

 当番生フォグの証である獅子の銀細工がついたローブはジェムに預けてある。

 ジェムは教室の壁に張り付いたまま私についてこなかったので、この場で披露はできない。


 あの銀細工は記章オーダーというものらしい。そういう呼び方があることすら、ヴィルは教えてくれなかったのだが。


監督生プリーフェクトですら監督生長ハイ・プリーフェクトにあまりお近づきになれないというのに」

「どうやって当番生フォグになれたのですか?」

「ベネフィットを稼げば、監督生長ハイ・プリーフェクトのお近づきになれると思っていたんだけれど」


 どうと聞かれても、私にもわからない。

 それだと納得しないので、ヴィルに口止めされていると言っておいた。


「うう、羨ましい」

「いいなー」


 せっかく集まったのに、話が逸れまくっている。

 昼休みの残りも少ないので、話し合いを開始しなければならない。

 改めて、自己紹介をし合う。

 朝もしたが、人数が多かったので、名前と学年、クラスくらいしか言えなかったのだ。

 一組の生徒から紹介を始める。


「俺は一組のユルゲン・フォン・エグナー。属性は水、得意なことは暗記、趣味は浮遊魔法で空を飛ぶこと。以上!」


 雰囲気から良家の一族の次男坊か三男坊という感じだ。

 継承者教育を受けている男子ならば、もう少し喋り方が丁寧で、落ち着いているだろうから。


 続いて二組は私である。


「ミシャ・フォン・リチュオルよ。属性は雪、得意なことは魔法薬作り。趣味は料理……かしら?」


 まず、固有元素ユニーク・エレメンツを持っていることに驚かれた。それから魔法薬作りも二年から習うため、すごい趣味だ、と言ってくれた。


「やっぱり監督生長ハイ・プリーフェクト当番生フォグに選ばれる人は優秀なのね」

「そうじゃないの。受験の成績は下から数えたほうが早かったし」


 だったらなぜ、選ばれたのか。という皆の訝しげな視線が集まってしまった。


 続いて三組は先ほど私に話しかけてきた、おさげ髪の女子生徒だ。


「三組のリア・クンチェです。属性は火、得意なことは気配を消すこと、趣味は読書」


 父親は魔法医らしい。貴族ではないが、実家はかなり裕福だそう。次は四組。


「四組のアルビーナ・フォン・ノイドハイムと申します。属性は風、得意なことは召喚魔法、趣味は編み物。よろしくお願いいたします」


 ブルネットの美しい髪に猫のようなアーモンド型の瞳が特徴的な美少女である。ノアとは真逆の、大人っぽいタイプだ。


 最後に五組。


「……フェーベ・フォン・リュッゲベルク。お前らとなれ合うつもりはない」


 これまで一言も喋らなかった、眼鏡をかけた男子生徒である。

 途端に雰囲気が悪くなる。


「あの、得意なことだけでも教えてくれる?」

「どうして?」

「何か困ったときに、お互い助けることができるかもしれないでしょう?」


 説得すると、渋々といった様子で教えてくれた。


「魔法生物と喋ることができる」

「まあ、すごいわ。羨ましい!」


 フェーベは言葉を返さず、ふいっと顔を背けた。

 生意気……! と思ったものの、この年頃は反抗したい年頃なのだろう。


 その後、話し合って一学年のリーダーはアルビーナが務めることとなった。

 リアは私がいいのではないか、と言ってくれたものの、ホイップ先生から任された作業があるし、ヴィルの当番生フォグとしての仕事もあるかもしれないので辞退したのだ。


「では、早速だけれど、話し合いをいたしましょう。目標は、ベネフィットを得ること。そのためにはこれまで前例のないことを成し遂げなければなりません」


 私達が小舞踏会で任されたのは配膳である。そこでどうやって独自性を出せばいいものか。

 この話し合いの発案者でもあったアルビーナにはアイデアがあったようだ。


「軽食の発注を、私達でするのはどうかと思いまして」


 通常、軽食は学校側が企画し、学校内で働く料理人が準備していたらしい。


「あの、アルビーナ、突然私達がやると言っても学校側が認めてくれるものなの?」

「ええ。企画がしっかりしていたら、学校側は受理してくれるはずです」


 過去にも、生徒達が企画したものが認められ、実行されたという前例があるらしい。


「独創的な軽食のメニューを考えて、明日の昼休みに発表しましょう」


 思いがけない課題ができてしまったわけだ。 

前へ次へ目次  更新