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魔石探しの授業

 エアには鳥翰魔法を使い、個人指導教師テューターに今日から勉強を教えてもらえるようになった、と知らせる。

 するとよかった、と自分のことのように喜ぶ返信を送ってくれた。

 ヴィル先生のおかげで、今日はよく眠れそうだ。


 翌日も鳥の鳴き声サブスクで目を覚まし、朝食とお弁当を作り、レナ殿下と朝食を囲んだあと、登校する。

 エアは今日も元気いっぱい、挨拶をしてくれた。


「よう、ミシャ、おはよう」

「おはよう、エア」


 話題は私に勉強を教えてくれることになった個人指導教師テューターについて。


「どんな先生なんだ?」

「十九歳の若い先生なの。勉強の教え方がとっても上手で、今日は安心して授業を受けられそうよ」

「それはよかった」


 ただ、エアは少しだけガッカリしているようだった。


「ミシャにオベントウを作ってもらう代わりに、ノートを見せたかったんだけどな」

「これからも見せてもらうわよ。とは言っても、授業が始まるまでだけれど」

「え、なんで!?」

「教える先生が違ったら、違う視点から学べるかもしれないでしょう」

「たしかに!」


 エアは嬉しそうにノートを貸してくれる。


「私のノートも貸しましょうか?」

「それだと、オベントウのお礼にならないだろうが」

「そうだったわ」


 ホームルームが始まるまで、エアから借りたノートをじっくり読ませていただく。

 一限目の授業は総合魔法。魔法と名の付くものを広く浅く習う教科である。

 今日は魔石の探し方を習い、残った時間は実際に探しに行くようだ。

 魔石探しは実習用の森でするらしい。野外授業は初めてなので、なんだかワクワクしてしまう。

  

「魔石探しは二人一組でしてもらう。ペアはくじで決めるので、一人一枚ずつ引くように」


 くじが入った箱から、紙を一枚引く。

 同じ絵柄の者同士がペアとなるようだ。


「なあ、ミシャ、なんだった?」

「猫よ」

「そっかー。俺、犬だったんだ」

「残念だわ」

「いい機会じゃないか。ミシャは友達を百人も作るんだろう?」

「そうだったわね」


 壁に張り付いていたジェムをペリペリと剥がし、くるくる丸めて小脇に抱える。

 いったい誰がペアなのか、ドキドキしながら発表を待った。

 先生が紙に描かれてあった動物を一組ずつ読み上げる。


「次は、猫のくじを引いた者!」

「はい」


 凜と返事をしたのは、公爵令嬢アリーセだった。

 また、相性が悪い相手と当たってしまったようだ。

 私も渋々と返事をする。

 どうせ嫌な顔をするんだろう、と思っていたものの、アリーセは私がやってきても反応を示さない。

 どこかぼんやりしていて、顔色が悪いように思えた。


「ねえ、あなた、大丈夫なの?」

「え?」

「今にも倒れそうよ」

「大丈夫ですわ」


 そんなごくごく普通の反応を示すなんて、アリーセらしくない。

 いつものように、この愚民! みたいな目で私を見て、心にグサグサ突き刺さる嫌味の一つでも言えばいいのに。


「実習先で倒れたら、大変なことになるんだけれど、本当に平気なの?」

「ええ、ご心配なく」


 本人が大丈夫だと言うのであれば、これ以上何も言えない。

 一応、先生にはアリーセの顔色が悪く、元気がないことを伝えておいた。

 先生も一言二言話しかけたようだが、問題ないとばかりに送り出されてしまった。


 実習用の森へは校舎内にある、転移扉で移動するらしい。

 なんだか既視感を覚える転移扉を前に、ふと、子どもの頃に見ていたアニメを思い出してしまう。

 

「どーこーでーもー」

「どうかしましたの?」

「いいえ、なんでもないわ」


 異世界で猫型ロボットの真似をしても、アリーセに笑ってもらえないだろう。

 前世を引きずる気持ちを追い出し、自分達の番を静かに待った。


「次、猫組」

「はーい」


 先生が開いた扉を、はぐれないようアリーセと手を繋ぎながら通って行く。

 すると、景色が一瞬で変わった。


「わっ!」


 タイムラグなどなかったので、転移魔法とは違った驚きがあった。

 周囲は深い森、といった感じだった。

 すぐに振り返ったが、私達が通ってきた扉はすでになくなっている。


「ねえ、アリーセ、転移扉は初めて?」

「いいえ、自宅にもありますわ」

「そうなんだ」


 さすが、セレブ令嬢である。きっと私とは天と地ほどもかけ離れた暮らしをしていたに違いない。


 小脇に抱えていたジェムを地面に置くと、球体に戻った。

 私のあとをしっかりついてくるように、と言うと、キリッとした顔で頷く。


「魔石を探しましょう」

「ええ」

「先に私から魔法を発動するから、アリーセは後半をお願いね」

「わかりました」


 杖を取り出し、魔力の塊を感知する魔法を唱えた。


「――魔力を探れ、審検サーチ!」


 杖の先端から魚影探査器のような広範囲に光が浮かび上がる。地面に魔石が落ちていれば、反応を示す仕組みなのだ。


 なんでもここの森には、先生が配置した魔石が落ちているらしい。

 杖を右に、左にと振りながら、反応を示すのを待つ。

 私よりも先を転がっていたジェムが、突然ピカピカと発光した。


「ジェム、どうかしたの?」


 振り返ったジェムの口元には、魔石が咥えられていた。


「あなた――お手柄ね!!」


 本来ならば魔法で探さないといけないのだが、使い魔に探させるな、とは言われていない。

 そのため、私は魔石を発見したこととする。


「ジェム、偉いわ! いい子、いい子!」


 盛大に褒めてあげると、ジェムは目を細め、嬉しそうにチカチカと淡く点滅していた。

 一組につき一つ、魔石を発見すればいいので、私達の課題はクリアとなった。

 背後を歩いていたアリーセに報告する。


「ねえ、アリーセ。魔石を発見したわ」

「そうですの。よかったですわ」


 どこか他人事のように言うアリーセの反応を前に、私は我慢が限界となった。


「あなた、やっぱりおかしいわ。いつものアリーセだったら、私なんかに魔石を発見されて、悔しがっていたはずなのに」

「そんなことありませんわ。あなたはとても努力していますので、当然かと」


 素直過ぎると逆に怖い。

 よくよく見たら、目が赤かった。瞼も腫れているし、涙目でもある。

 おそらく昨晩、よく眠っていないのだろう。


「早退したほうがいいわ」

「あなた……どうしてそこまで心配してくださいますの?」

「私達、猫組の仲間でしょう?」


 そう口にした瞬間、アリーセは大粒の涙をポロポロと零し始める。


「えっ、嘘でしょう!?」


 おろおろしていたら、ジェムが触手を伸ばし、私のポケットに入れていたハンカチを取り出す。

 受け取ったそれをそのままアリーセに涙を拭くよう差しだした。


「うっ、うう……!」


 彼女の身にいったい何が起こったというのか。

 ひとまず、早く泣き止むように、と背中を優しく撫でてあげた。 

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