レナ殿下と朝食を
帰宅後、夕食作りに取りかかる。
小さなニジマスが安かったので、乾燥させたパセリと塩、コショウで味つけし、バターを溶かした鍋で焼いていく。
お皿の上に広げたマッシュポテトの上に置いて、ローズマリーの飾りを乗せたらニジマスのムニエルの完成だ。
同じく閉店間際のセールで買ったバゲットは、鉄棒みたいにカチコチになっていた。
さすがに勝てない気がして、表面を切り落としたあと、中の生地を焼いてみる。すると焼きたてのようにもちもち食感となった。
切り落とした皮はパン粉として利用する。あとで粉砕しよう。
左右に揺れるジェムに見守られながら、夕食をいただく。
まずはニジマスのムニエルを一口。
皮はパリパリ、身はふっくら焼けていて、薬草が豊かに香る。
飾りのローズマリーは手に取って、匂いを楽しむ。爽やかな香りが鼻を突き抜けた。
普段、料理に飾り付けなんてしないのだが、ローズマリーは庭にたくさん生えているので、使わせていただいた。
ラウライフにいた頃は秋から春の始まりまで雪深いため、薬草はとてつもなく貴重。
飾りに使うなんてとんでもない、なんて思っていたのだが。
レナ殿下に奢っていただいた料理があまりにも華やかに盛り付けされていたので、あっさり影響されてしまったのだろう。
王都へやってきてからそんなに経っていないのに、都会にかぶれてしまっているようだ。
夕食を食べたあとは、朝食とお弁当の下ごしらえをしておく。
レナ殿下を呼ぶので、スープくらいは用意しなければならない。
市場で購入してきた鶏ガラは水で洗い、余計な肉は取り除く。
続いて鍋に鶏ガラを入れ、灰汁取りをしたのちに、セロリ、ニンジン、タマネギ、薬草類を入れて、しばらくぐつぐつ煮込むのだ。
お弁当の下ごしらえを終えると、私は火の番をしつつ、予習を開始する。
教科書を開いて内容を凝視するも、なんのことだかちんぷんかんぷんである。
ここまで理解できないものなのか、と信じられなかった。
やはり、予習は一人でできるものではないのだろう。
途中で諦めてしまい、あとの時間はホイップ先生が一刻も早く個人指導教師を探してくれますように、と祈りを捧げてしまった。
◇◇◇
翌朝――鳥の目覚ましサブスクで今日も目覚める。
ジェムのウォーターベッドのおかげで、ぐっすり眠れた。
「ジェム、ありがとうね」
球体に戻ったジェムを撫でてあげると、ポンポンと跳ねて嬉しそうにしていた。
さて、と朝食とお弁当作りに取りかかる。
まず、昨晩煮ていたゆで卵を剥き、半分に切り分けて黄身部分をすべて取り出す。
ボウルに入れた黄身に、サワークリームと刻んだフレッシュな薬草、塩、コショウを入れ、よーくかき混ぜた。それを、器代わりの白身に詰め、ディルを飾ったら、スタッフドエッグの完成だ。
続いて、砕いてバターミルクに浸したパン粉をタルト型に広げ、バターで炒めたほうれん草にベーコン、塩、コショウ、パセリ、卵と生クリームを混ぜたものを流し込む。
表面にチーズを振りかけ、温めていた窯で焼いたら、ほうれん草とベーコンのキッシュのできあがりである。
もう一品、昨晩から薬草やオリーブオイルに漬け込んでいた鶏もも肉をフライパンで焼いていく。皮目を下にして、カリッカリにするのだ。
鶏もも肉の薬草ローストの完成である。
すべて冷えるのを確認してから、バスケットに詰めていく。
我ながら、おいしそうにできたものだ。
次に、ポタージュ作りに取りかかった。
茹でたカボチャを乳鉢で擂り、漉したブイヨンに入れる。
バターと小麦粉を弱火で炒め、ミルクと共に混ぜたらカボチャのポタージュの完成である。
朝食はお弁当用に作ったスタッフドエッグ、キッシュと鶏もも肉の薬草ローストに、温野菜のサラダを加えたものを、ワンプレートに盛り付けてみた。
我ながら、オシャレなカフェみたいな一品に仕上がったと思う。
制服に着替え、身なりを整え終えたタイミングで、レナ殿下がやってきた。
「ミシャ、おはよう」
「おはよう」
今日もレナ殿下は太陽に負けないくらい光り輝いているように見えた。
「ミシャ、約束の食材だ」
「わ~~~お」
木箱には新鮮そうな野菜やお肉、魚が山盛りに詰めてあった。
一週間はお買い物に行かなくて済みそうな量である。
ありがたくいただこう。
食材はすべて、魔法仕掛けの冷蔵庫で保存するので、腐る心配はしなくてもいい。
「ありがとう。嬉しいわ」
「よかった」
レナ殿下を家に招き入れ、朝食を振る舞う。
「おいしそうだ。これもミシャが作ったのか?」
「ええ、そうよ。昨日の晩から仕込んでおいて、朝に仕上げているの」
「そうだったのだな」
神様に祈りを捧げたのちに、いただく。
カボチャのスープは濃厚で、頑張ってすり潰したので、舌触りもいい。
スタッフドエッグはなめらかで、いくつでも食べられそうだ。
キッシュは手で掴んで頬張りたいが、レナ殿下がいるので、ナイフとフォークで優雅に食べた。
鶏もも肉の薬草ローストは香ばしく焼かれていて、皮はパリッパリ、お肉もやわらかい。
レナ殿下は一品食べるたびに、瞳を輝かせながらおいしい、と言ってくれた。
と、このように二人で楽しく朝食を食べたのだった。