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使い魔について

「初めまして、魔法薬学科の教師であり、この二組の担任である、ホイップ先生よ~。年齢は二百五十歳だけれど、ハイエルフの中では若手なの」


 暗に、年増と言ったら許さん、みたいな圧を感じた。


「魔法学校に入学しただけなのにい、同じクラスに押し詰められて、さぞかし窮屈でしょうねえ。生徒同士生まれも育ちも違えば、性格も性別も違う。そんな人達が集まって、上手くやれと言われても難しいと思うの~」


 みんなで仲良くという理想は掲げないという。


「同じクラスだからって、お友達にならなくてもいいわ。でも、その代わり、歴史あるヴァイザー魔法学校の厳しい受験に合格した仲間として、クラスメイトに敬意を払うことだけはしてほしいわ」


 いかなる差別も、いじめも、非難も、ホイップ先生は見逃さないし、許さないようだ。

 それらの行為は強制退学にもなるので、よほどのばかでない限り、実行に移す者などいないだろう。


「さて、次は自己紹介をしていただきましょうか~」


 成績順から始めるらしい。私の順番はだいぶ後なので、ひとまずみんなが言った自己紹介からテンプレを作ろう。

 まずはレナ殿下からだ。


「はじめまして、私はレナ・フォン・ヴィーゲルトです。趣味は乗馬、特技は魔法式の計算。クラスメイト全員とお友達になりたいです。どうぞよろしくお願いします」


 なんてことだ。百点満点中百億点くらいの完璧としか言いようがない自己紹介である。

 思わず「よっ、未来の国王陛下!!」と声をあげそうになったが、寸前にごくんと飲み込んだ。


 お手本のような自己紹介を受け、テンプレが仕上がったようだ。

 続くアリーセも、同じように自己紹介を始める。


「はじめまして、わたくしはアリーセ・フォン・キルステンと申します。趣味は、ね……いいえ、音楽鑑賞、特技は風魔法ですわ。趣味が合うお方は、お声かけくださいませ。一年間、よろしくお願いします」 


 ね……とはいったい?

 本人は涼しい顔をするばかりで、指摘できないような空気を作っていた。

 きっと何か特殊な趣味をお持ちなのだろう。


 それからクラスメイト達は次々と自己紹介をしていく。

 驚いたことに、二組のほぼ全員が貴族出身だった。

 王太子のいるクラスなので、配慮した結果なのか。


「では~、次はミシャ・フォン・リチュオルさん」

「は、はい」


 考え事をしているうちに、私の出番となったようだ。

 勇気を振り絞り、立ち上がった。


「どうもはじめまして、ミシャ・フォン・リチュオルです。趣味は、えーー魔法薬作り。特技は故郷が雪国だったので、雪下ろしです。友達百人作ります。どうぞよろしくお願いいたします」


 背後からエアの笑い声が聞こえる。

 真面目に考えた自己紹介だが、趣味の魔法薬ってなんだよ、と思ってしまった。

 友達百人云々も、笑ってもらおうと思って言ったのに、エア以外にウケていなかった。

 まあ、いい。きっちり爪痕を残したことだろう。

 続いて、エアの自己紹介に耳を傾ける。


「俺の名はエア・バーレ。下町生まれ、下町育ちの十七歳。文句ある奴はかかってこい! 以上!」


 これまでクラスメイト達が築き上げたテンプレを無視した勢いのある自己紹介に、思わず笑ってしまう。

 振り返ると、エアはどうだ! とばかりの表情でいた。


「おい、ぜんぜんウケてねーじゃねえかよ」

「とっても面白かったけれどね」


 なんというか、魔法学校でエア以外の友達ができる気がしない、と思った瞬間であった。


「はーい、自己紹介が終わったので、最後にお楽しみの使い魔を召喚しましょうねえ」


 ホイップ先生の手には召喚札の束があり、一人ずつ配っていく。


「まだ、触ったらだめよお。大人しくしていてねえ」


 クラスメイトは聞き分けがいい子がほとんどのようで、言われたとおりにしている。

 私の学習机にも、召喚札が置かれた。

 サイズはトレーディングカードと同じくらいで、魔法陣と呪文が描かれている。


 まずは使い魔について、ホイップ先生は召喚札を配りながら軽く教えてくれた。


「召喚できる使い魔は、主に四種類あって、幻獣、妖精、精霊、魔法生物ねえ」


 幻獣というのはとても賢く、人間のよき友人となってくれるらしい。

 精霊は高い魔力を持ち、魔法使いをサポートしてくれる。

 妖精は草花の知識に長け、魔法薬作りの手助けをしてくれるようだ。


「魔法生物というのは、猫や犬などの小動物に魔力と知能を与え、使い魔として使役するために繁殖された存在よお」


 すでに野生化されている個体も多く、その数は幻獣と精霊、妖精を足した数よりも多いらしい。

 よって、魔法学校の生徒が召喚する使い魔のほとんどが魔法生物なのだとか。


「幻獣や妖精、精霊がでたらかなりの幸運よお」


 あともう一種類、確率は低いものの、召喚に応じる生き物がいるらしい。


「それはー、善良な魔物よお」


 ゴブリンやコボルト、コカトリスなど、邪悪な思想に染まっていない個体を召喚してしまうことがあるらしい。


「ただ魔物は賢くなく、おばかな子が多いの。だから、使えない子が多いわねえ」


 もしも魔物を召喚してしまった場合は、契約を破棄し、もう一度召喚札を使うチャンスが与えられるようだ。


「みんなは、何を召喚するのかしら~。とっても楽しみだわあ」


 全員分配り終えると、ホイップ先生が召喚札の使い方について教えてくれた。


「まずー、額にカードをくっつけてー、呪文を唱えるの。すると、魔法陣が浮かび上がるから、それに触れたら召喚されるわ。そのあと、名付けをもって契約完了となるのよお」


 使い魔の召喚は一人ずつ行うという。学習机を端に避け、教室の真ん中で行うようだ。


「まずはレナからやってみて~」

「はい」


 レナ殿下は背筋をピンと伸ばし、教室の真ん中へとやってくる。

 一番最初なので緊張するだろうと思いきや、彼女は堂々としていた。

 ホイップ先生に言われたとおり、額に召喚札をくっつけ、呪文を発する。


「――いでよ、召喚サモン!!」


 レナ殿下の前に魔法陣が浮かび上がり、手で軽く触れる。

 すると、魔法陣は床の上に広がり、眩い光を放つ。


「これはきっと、ふふ、大物ねえ」


 そう呟いた次の瞬間、光の中から巨大なシルエットが浮かび上がる。

 いったい何を召喚したというのか。

 光が治まり、使い魔の姿が明らかになる。

 クリスタルの角が輝く白馬――ユニコーンだ。


「すばらしい。一角馬なんて、初めてみたわあ」


 使い魔の中でも稀少レアな一角馬を召喚したようだ。

 ただ、レナ殿下は困惑の表情を浮かべる。

 なぜかといえば、一角馬は純潔を守る乙女だけを愛する変態だから。


 一角馬はレナ殿下にすり寄る。

 皆、一角馬の性癖なんて把握していないのだろう。すごい、すごいと絶賛していた。


「使い魔は出し入れできるのよお。連れ歩くのもいいけれど、こういう大きい子は必要に応じて下がらせたほうがいいわねえ」


 そんな助言を聞いたレナ殿下は、即座に一角馬に〝シュヴァル〟と命名し、下がらせていた。 

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