地域活動
「賞金稼ぎのスキルである生死不問というのを知ってるか」
セリーに訊いてみた。
「魔物や盗賊に一撃死を与えるスキルだと聞いています」
「そうか」
いや。そう思ってさっきからやっているわけだが。
賞金稼ぎのスキル、生死不問が単体攻撃スキルであることは多分間違いがない。
生死不問と念じると、対象の指定を求められる。
しかし、対象の指定を求められるだけで、一向に発動した気配がなかった。
あるいは、単に少しダメージを与えるだけのスキルなんだろうか。
グラスビーに何度も喰らわせたのに結局倒すのに魔法八発かかったから、大きなダメージは与えられていない。
与ダメが持っている武器に依存している可能性もあるとはいえ。
ロッドの物理攻撃力に期待はできないだろう。
ちなみに、僧侶の代わりに賞金稼ぎをつけたら、弱点の異なる魔物を倒すのに魔法が八発かかるようになってしまった。
ピッグホッグを仕留めるのにウォーターストームが五発かかるのは今までどおりだが、さらにグラスビーを倒すのに追加のブリーズボールが三発必要だ。
別の四匹の団体も、グラスビー二匹を屠るのにブリーズストーム五発かけ、ピッグホッグ二匹を追加のウォーターストーム三発で倒したので間違いない。
(グラスビーには毒があるので、数が同じなら先に倒した方がいい)
変えたことといえば、僧侶を賞金稼ぎにしただけだ。
フォースジョブの僧侶だが、ちゃんと有効だったらしい。
レベルが十や二十、三十のころには分からなかったが、上がってくればさすがに違いが出るようだ。
まあ僧侶Lv40から賞金稼ぎLv1に落としたのだ。
多少の戦力ダウンはやむをえない。
スキルを調整してシックススジョブまで取得し、僧侶と騎士をつける。
僧侶を戻したので、また魔法七発で倒せるようになった。
僧侶は六番目のジョブにしてみても有効。
賞金稼ぎと騎士の代わりにレベルが高くて知力上昇の効果がある錬金術師と商人をつけてみたが、変化はなかった。
そんなむちゃくちゃに大きな影響はないのだろう。
ジョブを二つにしたらステータスが二倍になった、というほどの効果はないに違いない。
それだったらセブンスジョブまでつけたらえらいことになるしな。
ちょっとしたボーナス程度か。
最初魔物を倒すのに魔法八発かかったときには、生死不問が攻撃スキルではなく回復スキルなのかと疑った。
対象の生死を問わず、元気にさせるとか。
スキルを使わなくても結果は変わらなかったので、それはない。
回復職ではなく賞金稼ぎが持っているスキルだし。
「下の階層の魔物の方が一撃死が出やすいそうです。経験を重ねて強くなればなるほど発動しやすいという話も聞きました」
セリーがさらに説明する。
まあノーリスクで百パーセント一撃死が発動するなら最強すぎる。
パラメーター依存かレベル依存かで発動確率が左右されるということか。
一階層の魔物になら発動するのかもしれない。
こっちがLv1ではあまり発動しないかもしれないが。
MPもそれなりに使うみたいなのでノーコストというわけではない。
無理に使うほどのスキルではないだろう。
騎士のスキルも見てみた。
防御には、対象の指定はない。
他の行動も取れたので、専守防衛のスキルでもないようだ。
単に防御力アップのスキルだろうか。
デュランダルを出したときに使ってみたが、よく分からなかった。
インテリジェンスカード操作は、普通に操作するだけだろう。
どういう操作ができるか興味があるが、今はいい。
任命というのはなんだろう。
これも対象の指定を求められる。
攻撃スキルではないだろうし、ロクサーヌを任命してみる。
おおっと。
鑑定してみると、ジョブが獣戦士Lv32ではなく村長Lv1になっていた。
村長に任命するスキルなのか。
セリーとミリアも任命してみる。
ミリアだけ村長Lv1に任命できた。
俺自身にも任命できない。
自分を対象に指定することはできないようだ。
セリーを任命できないのは、アイテムボックスに回復薬を持たせているからか。
アイテムボックスに物を入れていると、探索者も動かせなかった。
鍛冶師も同様にアイテムボックスに何か入っていると動かせないのだろう。
任命は村長をファーストジョブに設定するスキルだから、鍛冶師がファーストジョブから動かせなければ任命できない。
パーティージョブ設定を取得して見てみたが、村長のジョブを獲得だけしているということもなかった。
「セリー、騎士のスキルである防御というのは」
「しばらくの間防御力を上昇させるスキルです。ボスと戦うときなどに使います」
「なるほど。ボス戦対策か」
「そうです」
やはり防御力を上げるスキルのようだ。
今のところまだボス戦はほとんどシャットアウトできているが、今後は有効なスキルだろう。
「それは使えるかもしれないな。今後のことを思えば、騎士という選択肢も必要かもしれん。誰か、騎士になってみたい人はいるか」
「ご主人様のお役になれることでしたら、私がなりたいです」
「騎士になるには長い間戦士の修行をしなければなりませんが」
ロクサーヌがすぐに手を上げ、セリーは懸念を示した。
そういう問題もあるのか。
ミリアの海女もすでにLv30になったし、実際にはあまり障害でもない。
「大丈夫だ。それはなんとかする」
「薬を使うのですか」
「薬で騎士になれるのか?」
「ドープ薬という薬です。これを使うと少しだけ強くなるとされています。大量に服用することで、上位職への転職も可能になるそうです。ただ、ドープ薬を服用した人は、長年実際に修行を積み重ねた人よりも弱いという意見が一般的です」
そんなアイテムがあるのか。
転職が可能ということなら、レベルアップアイテムなんだろう。
懸念もある。
レベルが上がるだけで、パラメーターなどは上がらないのかもしれない。
俺は使わない方がいいな。
「そうなのか。しかし別に薬を使うわけじゃない」
「そうですか」
「役に立てるならミリアもなると言っています」
それはロクサーヌが言わせたんじゃないのかと。
「まあ、とりあえずロクサーヌからいってみるか」
実際に騎士になるのは一人でいい。
誰かが騎士になって、俺を村長に任命してくれればいい。
公爵のところへ行って村長にしてくれとはいえないだろうし。
はたしてロクサーヌに防御が必要かという気もするが、悪いともいえない。
強い魔物と戦っていけば、ロクサーヌでも回避できない攻撃をしてくる魔物がいる可能性はある。
回避に特化していると、敵の攻撃が当たりだしたときに脆いだろう。
そのとき防御を使うという選択肢があれば心強い。
「はい」
「一人だけの転職の場合、狩場の階層を下げないことも多いようです。複数のメンバーが騎士を取得しても重複するだけですし、ロクサーヌさんがなるのがいいでしょう」
ミリアのジョブを海女Lv30に戻し、ロクサーヌを戦士Lv1にした。
セリーのアドバイスにしたがって十三階層で様子を見る。
俺の英雄の体力中上昇やHP中上昇、ミリアの海女の体力中上昇やHP小上昇が効いているはずだ。
階層を下げなくても一撃でやられることはないだろう。
……一撃でやられるどころか魔物の攻撃がかすりもしないわけですが。
相変わらずロクサーヌには魔物の攻撃が当たらない。
当たる気配すらない。
戦士Lv1になったのに。
つまりパラメーターじゃなくて基本性能が違いすぎるのか。
かえって、獣戦士の敏捷中上昇がなくなってデュランダルを出したとき俺が攻撃を喰らうことが増えた。
のは気のせいだとしておきたい。
「ミリア」
「はい、です」
戦闘中、ロクサーヌが命じる。
一言名前を呼んだだけで、ミリアがあわてて下がった。
ミリアには少々独断専行の嫌いがあるようだ。
一人だけ前に出すぎるときがある。
猫人族は集団戦はあまり得意ではないという話だったか。
最初のころはそういうそぶりも見せなかったが、このごろはたまに一人だけ前に出ることがある。
それだけ戦闘に慣れたのだろう。
レベルもセリーと差がなくなってきているし。
ロクサーヌが先頭にいればグラスビーの遠距離攻撃はロクサーヌに集中する。
セリーの槍で敵のスキルをキャンセルすることを考えても、陣形はしっかりと保っておくことが望ましい。
それにしても戦士Lv1のロクサーヌが一言名前を呼んだだけでビシッと従うのな。
返答も丁寧語だし。
迷宮では「です」をつけなくていいと言ったのは俺だが。
夕方、結局ロクサーヌが攻撃を浴びないまま、狩を終えた。
クーラタルで夕食の食材を買い込む。
買い物の途中、金物屋のおばちゃんから声をかけられた。
家を紹介してくれた世話役の人だ。
「よかった。これからお宅へ行こうかと思ってたんですよ」
「何か」
「先日の大雨でドブの一部の堤が壊れたんです」
「大雨……」
聞いたことがない。
いつの大雨だ?
ワープで移動し、迷宮にこもっていると、外の天気はあまり関係がない。
雨の日もあったので、そのときだろうか。
「領主様から許可が下りて、明後日修復作業をすることになりました。作業は昼すぎから夕方まで。その時間、下水には何も流さないようにしてください。浚渫やリコリスの植えつけもついでに行います。できれば各家から一人、人を出してください」
地域活動か。
町内会みたいなものだろう。
めんどくさい。
「ばっくれるわけにはいかないよな」
適当に返事をして帰り、夕食のときに訊いた。
「私が出るから大丈夫です」
「誰も参加しないのはまずいと思います。私が出ます」
ロクサーヌとセリーが答える。
さすがにサボるという選択肢はないのか。
「いや、まあ別に俺が出るからいいが」
「ご主人様は参加しないでください」
ロクサーヌにとめられた。
「俺が出るとまずいのか」
「顔を見せることはかまいませんが、所詮はドブさらいです。ご主人様がなさっては侮られます」
「そうか」
よく分からないがドブだからな。
汚い場所ではある。
自由民がやるような作業ではないということか。
「××××××××××」
「ミリアが絶対に自分が参加すると言っています」
「出る、です」
なんだろう。
勘違いしている気がする。
「魚は、獲らないぞ」
いないかもしれないが。
上流でどこかの川から取水しているらしいから、いるかもしれない。
いずれにしても食べたくはない。
「はい、です」
「いても食べるなよ」
「はい、です」
目が泳いだぞ。
「食べないように言い聞かせたので大丈夫でしょう。多分ですが」
「夕食を魚にしないと危ないと思います」
ロクサーヌとセリーの懸念も同一のようだ。
「出る、です」
ミリアはあくまでも自分が出ると言い張る。
「ミリアが参加して、言葉は大丈夫だろうか」
「獣人の参加者もいるはずです。大丈夫でしょう」
「いなかったら」
「金物屋さんのところで下女をしている女性が獣人です。彼女が出てくるでしょう。ミリアのことも頼んでおきます」
ロクサーヌはいつの間にそんなご近所づきあいを。
まあ大丈夫だというなら大丈夫か。
「そんなに難しい作業をすることもないはずですから、大丈夫です」
「大丈夫、です。夕食は魚、です」
セリーがいうなら安心できる。
ミリアがいっても不安だが。
というか、明らかに目的が違ってきてるだろ。
いや。ドブ川の魚が目的じゃないなら安心か。
ミリアに参加させることにして、翌々日の朝ハーフェンの魚市場に飛んだ。
魚を買って釣っておかないとどうなるか分かったものではない。
桶も持ってきている。
「夕食の魚に、この前みたいな小ぶりの魚を選んでくれるか」
「はい、です」
ミリアが真剣な表情で魚市場の中をうろついた。
すぐに前と同じところにたどり着く。
結局ネコミミのおばちゃんのとこか。
魚の下処理に確かな技術を持っているのかもしれない。
「じゃあそれを八匹でいいな」
「はい、です」
この間と同じアジっぽい魚だ。
ミリアが注文し、選んで桶に入れた。
おばちゃんのところにはエビも置いてある。
見た目クルマエビっぽい普通のエビだ。
クルマエビと同じ調理法でいけるのではないだろうか。
「エビは焼けばいけるよな」
「はい」
「夕食でも大丈夫か」
ロクサーヌに訊く。
ロクサーヌが訳してネコミミのおばちゃんに尋ねた。
おばちゃんがエビをつつく。
エビが跳ねた。
「二、三日は大丈夫だそうです」
生きてんのね。
「じゃあそれも八匹」
ロクサーヌが訳して注文する。
おばちゃんが葉っぱで包んだエビを桶に載せた。
載せてから、おばちゃんが桶の魚を数える。
「エビが二匹で一ナール、全部で十二ナールだそうです」
言葉は分からなくても、数えたのは分かった。
十二ナールを払い、家に帰る。
一度迷宮に入った後、ミリアに下処理をしてもらって、ドブさらいに送り出した。
ミリアは生きているエビだろうがおかまいなしだ。
魚は三枚におろし、エビは頭を落として殻をむき、背わたを取り除く。
エビの下処理のやり方も地球と変わらないらしい。