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準備

 

 ハルバー十三階層のボス部屋が見つかった。

 探索で見つけた小部屋。

 扉が開いたので入ってみると、そこが待機部屋だった。

 待機部屋は扉が前と後ろの二ヶ所しかないので、すぐに分かる。


「奥がボス部屋か」

「ピッグホッグのボスはピックホッグになります。前脚のつめを振り下ろしてくる手ごわい相手です。ロクサーヌさんなら大丈夫だとは思いますが、くれぐれも気をつけてください」


 奥の扉が開いた。

 デュランダルを出して突入する。


「三人はピックホッグを。グラスビーは俺がやる」

「はい」


 お付きの魔物はグラスビーのようだ。

 さくっと片づけた。


 ピックホッグの囲みに加わる。

 ボスは、十三階層の魔物であるピッグホッグよりも一回り大きいイノシシ型の魔物だ。

 前脚が錐のように尖っている。

 半立ちになってその尖った前脚を持ち上げ、正面のロクサーヌめがけて振り下ろしていた。


 イノシシの短い足でよくあんな行動が取れるものだ。

 突いたりしないみたいなのが救いか。

 と思っていたら、頭から突進した。

 ロクサーヌがひらりと回避する。


 さすがはロクサーヌだ。

 俺なら喰らっていたな。

 いや。後ろにいるからといって絶対に攻撃してこないとも限らない。

 せいぜい注意しながら、デュランダルで削る。


 注意したせいか攻撃を受けることなく、ピックホッグを倒した。

 クーラタルでは十五階層のボスまで倒している。

 十三階層くらいでは問題にはならないだろう。


「セリー、ハルバー十四階層の魔物は何だ」

「サラセニアです」


 サラセニアか。

 食虫植物の魔物であるサラセニアの弱点は火魔法だ。

 ロクサーヌの案内でハルバーの十四階層を進む。

 ファイヤーストーム五発でサラセニアを屠った後、ウォーターボール三発でピッグホッグをしとめた。


 三種類の魔物が入った団体とも交戦する。

 まずはサラセニア二匹を全体火魔法五発で倒した。

 その後、グラスビー一匹をブリーズストーム三発で落とし、ピッグホッグ一匹はウォーターボール一撃で屠る。

 全部で九発か。


「うーん。まあ三種類になっても増えるのは魔法一発。一発なら誤差みたいなもんか。この三種類の魔物がいるところにも案内してくれていい」

「分かりました」


 ロクサーヌに命じた。

 戦闘時間は延びたが、ハルバーの十四階層でも戦える。

 一種類の魔物しかいなければ全体魔法五発で倒せるし、一匹残るだけならロクサーヌがシャットアウトしてくれる。

 このくらいはしょうがないだろう。



 ハルバーの十四階層を出て、昼すぎにはボーデの迷宮にも寄ってみる。

 ターレとボーデの迷宮にはときどき立ち寄って、探索状況を確認していた。

 クーラタルの十六階層みたいに、戦いやすい階層があるかもしれない。


「探索はどこまで進んでいる」

「十一階層です」


 入り口の探索者が答える。

 ターレやボーデの迷宮はベイルの迷宮よりも探索の進みが遅いようだ。

 領内に三つの迷宮があることで騎士団の力が分散されているのだろう。

 あるいは、騎士団はハルバーの迷宮に傾注しているのかもしれない。


 公爵とカシアのパーティーもゴスラーが率いるパーティーも確かハルバーの迷宮に入っていた。

 ゴスラーのパーティーなら、ボーデの十一階層くらいはすぐにも突破するだろう。

 しかし、上の階層で戦えるゴスラーのパーティーがボーデの十一階層を探索するのは無駄でしかない。

 力を分散させず、一つずつ順番に片づけていくのが合理的だ。


 今のところ、俺は探索には直接貢献していない。

 迷宮に入るだけでもいいらしいので、問題はないはずだ。

 兇賊のハインツも倒したし。

 騎士団は見回りを減らしただろうから、その分役に立っている。


「帰りにちょっと家具屋に寄っていこう」

「家具屋ですか」

「さすがにベッドがちょっと狭いからな。いつまでも今のままというわけにも」


 ボーデの一階層に入って、入り口の小部屋で切り出した。

 なるべく不安を隠すようにして。

 ハーレムメンバーを増やそうというときにはいつも緊張する。

 誰かが反対するのではないかと。


 いや。今はまだ増やすのではない。

 その準備だ。

 増やすこと前提の準備だが。

 なのでやや後ろめたい。


「そうですね。それもいいでしょう。私たちのためにありがとうございます」


 主に俺のためだというところが非常に申し訳ない。

 クーラタルの冒険者ギルドへ出て、家具屋に赴いた。


「あまり大きいサイズのはないな。今と同じような大きさのベッドをもう一つ買って、横にして並べてみようと思うのだが、どうだろう」


 ベッドを見ながら、提案する。

 今のベッドは結構長い。

 それを横にすれば、あと二、三人増えても大丈夫だろう。


 単純に二つくっつける手もあるが、真ん中に溝ができる。

 俺が中央で寝ることになるから、それは避けたい。

 横にして並べればベッドの合わせ目は多分お尻より下にくるから、問題にはならないだろう。


「大きすぎるかもしれません」

「パーティーメンバーは、いずれ増やしていくからな」


 気をもみながらも、強気に出た。

 ハーレムを拡張することは常に言い続けておいた方がいい。

 そのときになって反対されても困る。


「そうですか」

「そ、それに、今のベッドが無駄になるのももったいない」


 あわてて他の理由もつけ加える。

 このあたりが駄目駄目だ。


「分かりました。そのようにしましょう」

「後は、棚も一つ買っておくか」

「棚ですか」


 こっちは、主に三割引対策だ。

 家具屋の主人は商人なので三割引が効く。

 メンバーが増えれば荷物も増えるからその準備でもあるが。


 棚を買うといってベッドをついでにすればよかったんじゃね、という気もするが、まあいい。

 男は常に正々堂々。

 正面突破を図るべきだろう。


 正面から揉みしだき、突き入れるべきなのだ。

 バックからなどとは卑怯千万。

 うらやましい。


 実際の家具選びは、三人に丸投げする。

 棚なんかは三人の方が使う機会も多いだろうし。

 三人にまかせた方がいい。


 ロクサーヌを中心にセリーとミリアが加わってワイワイ言いながら家具を選んだ。

 俺はあまり意見をはさまずに見守る。

 選ぶのにはかなりの時間がかかった。

 三人の選んだ家具を購入して、家に帰る。


「家具屋が荷物を運んでくるまで、家にいてくれ。今日はもう迷宮はいいだろう。後は夕食を頼む。俺はその間にベイルに行ってくる」

「ベイルの、商館ですか?」

「そうだ。ただ、今回はメンバーを増やしに行くわけではない。それに備えての情報収集だ。帝都の商人を紹介してもらった礼も言ってないしな」

「分かりました」


 ロクサーヌが受け入れた。

 パーティーメンバーは多くいる方が明らかに有利だ。

 拡充はしなければならない。

 ロクサーヌもセリーもそこにいやはないようだ。


 しかし、セリーが来てからまだそんなに月日も経っていない。

 ロクサーヌやセリークラスの美人がそうそう入ってくることもないだろう。

 だから今回は情報収集だ。


 パーティーメンバーは六人まで。

 闇雲にメンバーを増やすわけにはいかない。

 次のメンバーは慎重に選ぶべきだろう。


 帝都の商人のところへまた行っても、今はあのやる気のなさそうな美人しかいない。

 ベイルの商人のアランなら他の奴隷商人を紹介してくれるかもしれない。

 聞いてみたいこともある。

 帝都の商人は奴隷のオークションがあると言っていた。


 セリーに尋ねれば知っているかもしれないが、セリーには訊きにくい。

 奴隷商人のアランなら教えてくれるだろう。


「では行ってくる」

「はい。いってらっしゃいませ」

「いってらっしゃいませ」

「いってらっしゃい、です」


 三人に見送られ、家を出た。

 ベイルの冒険者ギルドに出て、アランの商館へと向かう。

 町並みにまったく変化はない。


「店主はおられるか」

「こちらでお待ちください」


 迎えに出た男に話すと、中に通された。

 いつもの待合室だ。


「これはお客様、ようこそいらっしゃいました」


 やがてアランがやってくる。

 奥の部屋に案内された。


「この前、帝都の奴隷商のところへ行ってきた。いい店を紹介してもらったと感謝している」

「話はうかがっております。よい商売ができたと、あちらも喜んでおりました」


 三割引を強制したけどね。

 本当のところどう思っているかは、分かったものではない。


「なので当面はいいが、いずれはパーティーメンバーも増やしていくことになろう」

「迷宮の探索を順調に進めているようで、なによりでございます」

「ロクサーヌやセリーのおかげも大きいがな」


 最初ロクサーヌを買うときにはお金が足りなくて待ってもらった。

 それが今では四人めを買おうかというのだ。

 奴隷商人から見れば、順調すぎるほどに順調だろう。


「ですが、迷宮に入る以上、パーティーメンバーは数よりも質です。あまり性急に増やすのではなく、よい戦闘奴隷をじっくりと選ぶべきでしょう」

「そうだな」


 パーティーメンバーは六人までという制約があるので、数をそろえてもしょうがない。

 俺の精力的にも。

 色魔があるからまだまだいけそうだが。


「より上の階層を目指すなら、力のあるパーティーメンバーを求めるべきです。力のある奴隷を求めるなら、オークションでしょう」

「オークションか」


 期せずしてオークションの話になった。


「奴隷のオークションは、年に四回、季節の間の休日に開かれます。場所はクーラタルの商人ギルドです。休日は通常のオークションが休みになるのでここを借り切って行われます。場所柄、冒険者や探索者向けの戦闘奴隷が多く出品されます」

「その中から力のある者を選べると」

「そうです。参加費として、会場に入るのに一人千ナールを支払います。これは興味本位の者や入札するつもりのない者をはじくための処置です。落札した場合には落札価格にあてることができます」


 千ナールというのは、それだけを見れば高いようにも感じる。

 しかし何十万ナールの奴隷を落札するための費用としてはそれほどでもないのだろう。


 おまけに落札すれば返ってくる。

 参加費を取り戻そうとみんなが入札すれば落札価格も跳ね上がる、というわけだ。

 巧いこと考えられている。


「そうやって入札を煽るわけか」

「それが分かっておられるなら、闇雲に踊らされることはないでしょう」


 奴隷商人がニヤリと笑った。


「アラン殿も出品を?」

「はい。奴隷商人にとっても晴れの舞台ですから。一番の目玉になれそうな奴隷は、残念ながら事情があってオークションに出すことができず、もうお譲りしてしまいましたが」


 ロクサーヌのことだろう。

 事情というのが何か知らないが、別に聞くことはない。

 必要なことなら、ロクサーヌの方から教えてくれるだろう。


 ロクサーヌをオークションに出したら四十二万ナールではきかなそうだ。

 三割引が効かないし。


 そうか。

 オークションだと三割引が効かないという問題もあるな。

 こつこつと奴隷商人のところを回るべきか。


 しかし休日まではもう一ヶ月もない。

 今の時期いい商品は見せてくれないということも考えられる。

 オークションに出した方が高く売れるなら、いい品はそっちに回そうとするだろう。

 オークションが終わってから回っても、売れ残りしかいなかったら困る。


 やはり多少高くなってもオークションを狙うべきか。

 少しのお金をケチるような段階はもうすぎているとはいえる。

 オークションならたくさんの選択肢があるだろうし、その中から選べるのは魅力だ。


「オークションでならいいメンバーを選べそうだ」

「はい。オークションでお会いできるのを楽しみにしております」


 話を切り上げて、家に帰った。


「今度の休日にオークションがあるそうだ。次のパーティーメンバーはそこで探してみようと思う。戦力の拡充は必要だからな」


 帰って三人に話してみる。

 こういうことは常々言い聞かせておいた方がいい。


「分かりました」

「オークションでなら確かにいいメンバーが選べるかもしれません」

「ミリアがお姉ちゃん、です」


 セリーはやはりオークションのことを知っていたようだ。

 ミリアより年下になるかどうかは分からないが。

 まあミリアが先輩になることは確かか。


「お姉ちゃんになるから頼むな」

「はい、です」


 その後、運び込まれていたベッドの使用感を試してみた。


「新しいメンバーが増えるまで、たっぷり可愛がってください」


 などといったロクサーヌをどうして可愛がらずにいられようか。

 メンバーが増えても変わらずに可愛がる所存である。

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