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文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。

「お嬢様、本当に行ってしまうのですか?」


 カーリーがソントの様子を見に来た。ソントはなんでもないふうを装って


「そうよ、(わたくし)には田舎暮らしがあってるもの」


 と微笑んだ。カーリーはソントに憐憫の眼差しを向けて言った。


「私がお嬢様にこんなこと言うのはなんですけど、私が王宮に上がったときにお嬢様には私の侍女として付いてきて欲しかったのですが、仕方ないですわね」


 魅力的なお誘いではあるが、アレクの件があってもなくても、ベンと結婚していただろうから、王宮には行かなかっただろう。


 なんにせよ、現状カーリーとアレクが仲良くしているのを横で見ていることなどできはしないので、断るに決まっているのだが。


「ごめんなさいね」


 そう言ってカーリーを見ると、勝ち誇ったような顔をしていた。驚いて見ていると、鼻で笑って去っていった。


 今まで仲良くやってきていると思っていたのに、カーリーは(わたくし)のことをずっと妬んでいたのだろうか? そう思って、更に落ち込んだ。


 だが、カーリーはこれからあの可憐なヒロインと、悪役令嬢に対峙しなくてはならないかもしれない。

 それを考えたときに、自分では太刀打ちできないと思った。カーリーぐらい勝ち気でないと、社交界での交流やライバルとの渡り合いも難しいのかもしれない。


 そんなことを色々考えているうちに、ソントは自分には関係のないことだ。私のことは気にせず勝手にやっていてください。と言う気持ちになってきた。

 そう思うと清々しい気持ちになり、後ろめたいこともない。今日は新しい門出なのだから明るくここを出よう。そう思った。


 その時エントランスが騒がしいことに気づいた。何事かと顔を覗かせると王太子殿下がいらしていた。恐らくカーリーを迎えに来たのだろう。待ちきれなくなって慌てて来るにしても、なにも(わたくし)が屋敷を出る前に来なくても良いのでは? とソントは少し気分を害した。


 一応挨拶をしなければと、ソントは降りて行った。そこにカーリーが走ってくると


「王太子殿下、お待ちしておりました」


 と出迎えた。まるでエルビー家の家主のようだと、新たな図太い侍女の一面に驚いていると、王太子殿下は


「君は侍女のカーリーなのだな?」


 と確認した。愛している女性にたいしてずいぶん他人行儀だと思っていると、王太子殿下は急に謝りだした。


「君には期待をさせてしまった。申し訳ない、私はプレゼントを贈る相手を間違えていた。とても愚かな間違いを犯した。私が真に愛しているのは」


 そう言うと、ソントのところに真っ直ぐに向かってくると手を取り


「ソント、君だ。君は最初から嘘を言わずに本当に自分の身分を述べていたのだね」


 ソントは訳がわからず


「はぁ」


 とすっとぼけた返事をした。その様子をみて、王太子殿下はいつものアレクの顔になった。


「初めて会ったとき、まさか本当に貴族の娘が単身町へ買い物に出るとは思わず、侍女かなにかなのが恥ずかしいから誤魔化して、ソントと名乗ったと思っていた。舞踏会で侍女と来たときも、その、君は正直そこの侍女より劣るドレスを着ていたので、自分の考えが正しいと、君が侍女なのだと思い込んでいた」


 ソントは恥ずかしくなりうつむいた。ソントの手をつかむ王太子殿下の手は震え、緊張している様子で大きく息を吐いた。


 ソントが王太子殿下を改めて見ると、髪の毛は少し崩れ服装もチョッキのボタンがかけ違えており、タイは曲がっている。よほど慌てたのだろうことがみてとれた。


 王太子殿下は話を続ける。


「今日はお茶会で君との婚約を発表するつもりで、君を緊張させまいと励ますつもりで朝会いに来た。それで君からの告白をうけて、自分が愚かで大きな間違いをしていると気づいたよ。君は最初から私に嘘をつくはずはなかったのに。君の性格を知っていたのに、そんなことに気づかなかった私をどうか許して欲しい」


 そして、跪いた。


「君を愛している。王宮に来ても絶対に君を守る。君の希望するお互いが支え合い、歳をとってもいつまでも二人寄り添って生きていける、そんな素敵な夫婦になろう。お願いだ、こんな愚かな私だが、捨てないで欲しい」


 王太子殿下はソントの手を強く握り、必死に訴えた。


 ソントは涙を流して言った。


「アレクとカーリーのことを側で見るのはつらいと思っていました」


 王太子殿下は立ち上がり、ソントを抱き寄せた。


「私は君を傷つけた。でも、愛しているのは本当に君なんだ。町で出会ってから、君の素直で明るく前向きな性格や、その笑顔にどんなにつらい時期も、何度励まされたかしれない。手紙のやり取りが、唯一の私の楽しみだったんだ。絶対に大切にする。これからは君をどんな辛いことからも守ってみせる。お願いだ私と結婚すると言ってくれ」


 ソントは後から後から溢れる涙をなんとかこらえると


「はい……、ふつつか者ですが宜しくお願い致します」


 と言った。その瞬間エントランスに集まっていたほぼ全員が歓声をあげ、口々に祝いの言葉を述べ幸せな若い二人に拍手を送った。


 ひとり納得いかない顔のカーリーは、不機嫌そうに自室に戻って行った。恐らく辞めるのだろうとソントは思った。残ったとしても、流石に侍女として王宮へ行かないか? とは口が裂けても言えない。



 王太子殿下はソントを抱き上げると、その場をぐるぐる回った。ソントが慌てて落ちないように王太子殿下に抱きつくと、王太子殿下は少し体を離しソントにキスをした。


「ずっとこうしたかった。正式な婚約者でもないし、正体を正式に言ってなかったからこんなことをするのは君に対して不誠実だと思ってね、我慢していたよ」


 そう言うと更に深くキスをした。


「愛してるよ、一生大切にする。君を手に入れて私は今最高の気分だ」


 そう言って、ソントに頬擦りした。そして、ハッとした。


「せっかく荷物をまとめているのだから、そのまま王宮に運び入れてしまおう」


 ソントは流石にそれはよろしくないと思った。


「アレク、それは結婚してからでも……」


 言っている最中で、アレクは荷物を運び出すよう部下に命令し始めた。紳士的なアレクにこんなにも強引なところがあるのかと、ソントは驚きながらも、その強引なところも魅力的だと思った。


「本当は舞踏会の日に君を婚約者として発表したかったのだが、あの日君はあっという間に帰ってしまった。追いかけたら、君は私にぶつかったんだが、それでも君は私だと気づかなかったね。まだアレクが王太子殿下だと君が気づいていないと思ったから、もう少し時間をかけようと思ったんだ。その間に、『王太子殿下』としての私にも興味をもってもらいたかったしね」


 ソントは王太子殿下を見つめた。


「そんな、あのときに仰ってくだされば良かったですのに」


 王太子殿下は笑うと


「すまない、もう少しドラマチックに演出したかったのだ」


 そう言って、ソントの頬を撫でる。ソントはその手に顔を沿わせた。王太子殿下はそんなソントをうっとりと見つめた。


「愛してる、ソント、君を心から愛してる。片時も離れていられないよ」


 そして、人目もはばからず二人はもう一度深くキスを交わした。



 その後、侍女と結婚すると言っていた王太子殿下が、男爵令嬢と結婚すると言いだしたことに、国王も貴族ならかまわないと了承した。


 カーリーがもしも王太子殿下と一緒になるとしても、側室にしかなれなかっただろう。

 カーリーは出自に問題があったので、爵位を与える訳にも行かなかったからだ。


 カーリーは間違って贈られていたプレゼントの山を慰謝料として受け取り、エルビー家から去っていった。



 ソントはその後すぐに王太子殿下と婚約し、日々王妃教育に追われることになったが、持ち前の明るさや前向きな性格で、問題なく乗りきることができた。


 そして、婚約者になってからも街中を単身買い物に出かけるため、こっそり護衛がつけられたり、市民からも愛される王妃になったのだが、それは別のお話。


誤字脱字報告ありがとうございます。

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