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文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。
屋敷へ帰ると、エルビー男爵は明らかに落胆した様子になった。だが、すぐに笑顔になり
「大丈夫、お前なら嫁ぎ先はどこでもある。私が良いところを見つけてやるからな」
と、ソントを励ました。
次の日の朝、エントランスが騒がしかったので下に降りると大量の花でエントランスが埋め尽くされていた。何事か執事に聞くと
「お嬢様、申し訳ありません。侍女のカーリーに花やプレゼントがこのように大量に」
と言った。昨日の舞踏会にカーリーも一緒に行っている。どこかの貴族がカーリーを見初めたのだろう。
「どなたがプレゼントを?」
この質問に動揺しながら執事は
「それが、王太子殿下からなのです」
と言った。ソントは驚きながらも、こんなこともあるのだなぁ、身分差はどうするのだろうか? とぼんやり考えながら執事に朝食を部屋まで運ぶように申し付けると、自室に戻った。
カーリーはこれから人生が大きく変わるだろう。それに悪役令嬢やヒロインの女の子とも絡むことがあるだろう。大変だけど、頑張れ! そう思いながら朝食に運ばれてきたトーストを頬張った。
今日は町で知り合った、アレクという青年と買い物をする予定であった。アレクは街中で町民にからかわれているところを、ソントが助けたことから友達になった青年だ。
アレクはソントより少し年上なのに、あまりにもものを知らないので、おそらくどこかの貴族が市民に扮してお忍びできているのだろうと容易に想像できた。
ソントは貴族と言えど貧乏貴族なので、よく町に出掛けており、アレクに色々なことを教えてあげることができた。
アレクはとても優しく、とても紳士でソントの話も黙って聞いてくれた。気がつけばソントはそんなアレクのことが好きになっていた。
ソントはアレクに、自分の身分を偽らずに話していた。だからアレクがどこかの貴族で、いつか結婚を申し込んでくれないだろうか? と、若干淡い期待を寄せていた。
待ち合わせの雑貨屋の前で待っていると、アレクがやってきた。
「待たせてしまったかな?」
ソントは微笑んだ。
「問題ありませんわ。アレクはいつも時間通りですのね。私が早く来すぎたのです」
アレクはソントの全身を見ると少し首をかしげた。
「ソント、今日も素敵だね。だけど、今日はなんというかその、少しばかり地味じゃないか? 今朝素敵なプレゼントがあったはずだよ?」
ソントはピンときた。アレクはどこかでエルビー家に大量のプレゼントが届けられたのを見たのだろう。
「私にプレゼントはありませんわ。侍女にプレゼントがありましたの。あの子は素晴らしい方に見初められたから、これから幸せになれるんじゃないかしら」
そう言うと、アレクは頷き微笑んだ。
「そうか、侍女、ね。わかった、そう言うことにしておこう。君はその侍女は幸せだと思うんだね?」
ソントは、アレクが自分の好みを聞き出そうとしてくれているのでは? と、淡い期待をしながら答えた。
「もちろん、そう思いますわ。でもやっぱり好きな人にプレゼントされるのが一番ですわよね」
すると、アレクは満足そうに頷いた。
「君ならそう言うと思った」
そう言って、ソントの髪を一束指ですくうとキスをして、じっとソントの瞳の奥を見つめた。ソントはそっとアレクの頬を撫でた。アレクはその手をつかむと手のひらにキスをした。
「さて、今日はどこに買い物に行こうか」
こうして二人は共通の時間を楽しんだ。
二人は楽しい時間をすごすと、いつも別れるときに次の約束をしていた。
「ソント、私はしばらく忙しくて会えそうにない。そこで、二人の連絡手段として渡したいものがある。ちょっと付き合ってくれ」
そう言われて案内されたのは、伝書鳩を扱っているお店だった。そして、アレクは伝書鳩をソントにプレゼントした。
こんなことせずとも、ソント宛にエルビー家に使者を出してくれれば良いのにとも思ったが、伝書鳩でやり取りをするなど、秘密の恋人のようでソントは少しドキドキした。
「わかりましたわ。なにかあればこれでアレクと直接連絡できますのね?」
そう言って鳩を受け取った。アレクは嬉しそうに微笑んだ。
「なにかなくとも、なんでも連絡して欲しいな。君のことをもっと知りたい」
ソントは照れながらこくりと頷いた。
それから数日経ち、他愛のない日常のこと、昨日どこに行ったとか、好きな色の話などを伝書鳩でアレクとやり取りするようになった。
アレクは言っていた通り忙しいのか、買い物のお誘いはしばらくなかった。
相変わらず侍女のカーリーへの王太子殿下のプレゼントは続いており、幸せそうにしているカーリーを羨ましく思ったが、自分もアレクという想い人がいたので、さほど気にはならなかった。
ある日王太子殿下が視察でこちらにやってくるという話を聞いて、カーリーが浮き足立って
「お嬢様、お願いです。一目見に行ってもよろしいでしょうか?」
とお願いしてきたので
「もちろん、私もどんな方なのか知りたいですもの。一緒に行くわ。でももしかしたら貴女は、正式にお呼ばれするかも知れなくてよ」
その言葉にカーリーは顔を赤くした。
当日、王太子殿下が通る予定の場所で、町民に紛れてカーリーと王太子殿下が通るのを待った。
歩兵と騎兵が来ると、その後ろを派手な装飾の馬車が続いているのが見えた。
「お嬢様、あれですわ! きっとあれに王太子殿下が!」
カーリーは興奮しながら必死で馬車に手を振る。馬車の窓から王太子殿下らしき人物が、こちらを覗いた。その顔を見てソントは胸を撃ち抜かれるような衝撃を受けた。それはどう見てもアレクだった。王太子殿下と目が合い、思わず目を伏せた。
「お嬢様、王太子殿下がこちらを見て挨拶をしてくださいましたわ!」
そう言うと、顔を伏せているソントを心配した。
「お嬢様、人混みに酔われてしまったのですか? 大変ですわ、すぐに戻りましょう」
ソントは無理に笑顔になり
「カーリー、大丈夫よ。少し立ちくらみがしただけで、もう大丈夫。でも、今日はもう戻りましょうか」
と言った。帰り道、ひたすらカーリーの惚気話を聞かされながら戻ることになり、ソントにとっては拷問のような時間だった。
誤字脱字報告ありがとうございます。