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73 ep.8 【ヘンリーと養父ミッチェル・ハウラー】◆

本日2回目の更新です。予約設定中に操作を間違えました⸜(*˙꒳˙*)⸝

一個前のを読んでからじゃないと意味が通じないので、お手数ですが前のも読んでくださいませ。

 マイと別れて寮に戻ったヘンリーは考え込んでいた。

 マイにはダイヤを大量に差し出すことを思いとどまらせたが、それはマイの気持ちを無にすることだ。彼女のやる気を押さえつける発言を繰り返していれば、いつか自分とマイはギクシャクするだろう。


(かと言って、リヨルと同じ道をたどるようなことはさせられない。マイさんは平和な世界から来たから、この国の権力者の恐ろしさを知らない)


 いろんな手を考えるが、どれも不確定な要素があり、不安が付きまとう。

 考え込んでからずっと、一人の男性の顔が思い浮かんでいる。金色の髪に緑の瞳。無表情なこの国の最高権力者。国王エルドール八世だ。


 国王にダイヤを差し出せば、他の人間にはその出所でどころを探られることなく寄付できる。だが国王は国王であるからこそ、寄付したのが誰なのかを知りたがるだろう。

 ヘンリーは国王の人柄を全て知っているわけではない。筆頭文官になって数回言葉を交わしただけだ。


 ここでグダグダ考えても無駄だと判断してヘンリーは寮を抜け出し、イリスに乗った。行き先は『隠れ家』だ。

 戻ってきたヘンリーを見て、マイが驚いている。


「マイさん、あなたが作ったダイヤを国に寄付する最上の方法は、陛下に直接渡すことだと思うのですが、マイさんはどう思いますか?」

「あのダイヤがお役に立てるなら私はかまいません。望むところです」

「だけど陛下があなたを取り込もうとする可能性がゼロではないんだ」

「私を閉じ込めて延々とダイヤやオパールを作らせるかもしれないってこと? あれから私も考えたんですけど。ふふっ」


 深刻な話の途中で、マイが笑う。


「陛下は実の息子であるあなたの恋人を取り上げるような、私を酷使しそうな方ですか?」

「そこに自信が無いのです。父親としてはそんなことをしないでしょうが、国王としてはどう出るか読み切れない」

「万が一そんなことになったら、私は逃げます。お城のどの部屋に閉じ込められようと、石壁を砂に変えてしまえばいい。その穴から逃げ出しますよ。矢や剣で襲われても、結界を張ればいい。魔力を封じる魔導具があっても、私を利用する時はその魔導具を外さなきゃならないわけでしょう? 外された瞬間に魔導具を粉々にします」


(そうだった。マイさんはそれができる人だった。俺、不安で頭が鈍っていたな)

 

「どうしても私を敵に回すなら、お城を砂の山に変えることもできますし、剣や弓を砂鉄や木片に変えることもできます。ただ、そこまでもめるくらいなら、ダイヤのことは黙っていた方がいいかもしれませんね」

「さっき言ったことと逆の提案をして申し訳ないけれど、結論を出すのはまだ早い。養父は陛下の友人です。一度養父に相談してもいいですか。あなたの魔法のことも含めて」

「もちろん。私のことは全て話してくれてかまいません。私はヘンリーさんを育ててくれた子爵様を信頼しています」


 早々に馬に乗ってハウラー家を目指す。マイの堂々とした笑顔を思い浮かべながら、ヘンリーは少々慌てていた。


(そうか。マイさんは王城を砂の山に変えることができるんだ。周囲からの攻撃も結界で無効化できるし、武器そのものを破壊できる。マイさんて……もしかするとこの国一番、いや世界最強の存在なのでは?)


 幸いなことに養父は起きていて、「どうした。こんな夜更けに珍しいな」と嬉しそうな顔で迎えてくれた。その笑顔を見ながら(この人は本当に自分を愛して育ててくれたな)と思う。


「父上に相談したいことがあって参りました。魔法部の瞬間移動装置にダイヤが使われていることをご存知ですか?」

「知っている。歪みのない形で魔力を増幅し、物質を移動させる役目をすると聞いている」

「そのダイヤが消失したことは?」

「それも知っている。魔法部の長がうっかり使ってしまったそうじゃないか。それがどうかしたのかい?」


 ここで口に出したらもう引き下がれない。だが、ヘンリーの勘が「彼女の能力を隠させ続けた先に、幸せな未来はない」と訴える。ヘンリーの勘は今まで外れたことがなかった。

 

「国にダイヤを寄付したいと考えている人物がいます。文官の立場では無理のある話なので、父上に頼みたいのです。父上なら、その人物を表に出さずに国に寄付できますか?」

「それはかまわないが、ダイヤの数はどのくらいだ?」

「ざっくりですが、ティーカップで五、六杯分くらいです」

「なっ……」

 

 ミッチェル・ハウラーは、ヘンリーが両手のひらで示した量が大きすぎて理解ができない。


「ヘンリー、他言はしない。それは誰だね。貴族なのだろう? ダイヤと引き換えに何を持ち掛けられた?」

「なにも。その人は……この国の権力に全く興味がないのです」

「それは誰だい?」


 義父の目の中に欲はない。あるのは純粋な親心と心配だ。ヘンリーは崖から踏み出すような覚悟で言葉を発した。


「マイさんです」


 ヘンリーの養父は「マイさん?」と言ったきり、何も言わない。

 そこからヘンリーはマイのことを全て語った。合間にミッチェルが質問をして、それにも正直に答えた。


 全てを聞き終えたミッチェル・ハウラーがぐったりして天井を眺めている。そして天井を眺めたままヘンリーに話しかける。養父の声が普段より小さい。


「マイさんのことは、お前を受け入れて愛してくれる善良で貴重な女性だと思っていたが。いやはや、実はとんでもない存在だったのだな」

「私もつい先ほど、彼女が世界最強ではないかと思ったところです」

「世界最強。確かに。ふふふ、ヘンリー、彼女と結婚したら、退屈しなさそうだな」

「ええ」


 そこでミッチェルが姿勢を正した。


「私に任せなさい。陛下はマイさんを閉じ込めて宝石を作らせるようなお方ではない。だが、陛下の周囲の人間はどうかわからん。私が間に立って、マイさんのことが表に出ないようにしよう。多くの貴族は知らないことだが、陛下と私は親友だからね、少し時間をくれ」

「よろしくお願いします」

「お前が私にこんな頼みごとをするのは初めてじゃないか? 私は嬉しいよ」



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