54 ep.6 【アルセテウス王国文官の願い】◆
2回分を同時に投稿しました。
アルセテウス王国の文官ヒルズが国王に謁見を求め、許可が出た。
「折り入っての相談とはなにかね、ヒルズ」
「船乗りたちと共にこの国の様子を拝見した上で、お願いがございます。ぜひ我がアルセテウス王国と国交を開いてくださるよう、伏してお願い申し上げます。私は我が国の王にその判断を委ねられておりました。この国の民と触れ合い、その上で判断せよ、と。我らが国王は、国交樹立を望んでおります」
「しかし我が国の民には獣人の知識がないゆえに、そなたたちへの偏見があるのだよ」
それを聞いたヒルズが優雅な笑みを浮かべる。
「存じております。そのために王都の店々に足を運び、自らの目で確かめておりました。怖がる民もいれば笑顔で接してくれる民もいました。根強い偏見があるのを承知の上で、両国の交流を希望します。情報がないための偏見ならば、人々の中に我々が入ることによって知ってもらいたいと思います」
エルドール八世が無表情なまま質問をする。
「ヒルズよ。それほどまでに国交樹立を急ぐ理由はなにかね。国交を樹立させるには多大な時間と人手を要する。欲しいものははっきりと言葉にすべきだよ」
ヒルズは一瞬言葉に詰まるが(そちらがそう言ってくれたら話は早い)と腹を括った。
「この国の魔法使いを我が国に派遣していただきたいのです。その代わりに、我が国からは豊かに採取される真珠、鉱石をこの国に輸出したいと存じます」
「魔法使いか。少し時間がほしい。話し合わねばならぬ」
「もちろんでございます」
ヒルズはまだ言わねばならないことがあった。
「陛下、厚かましいのを承知の上で、もうひとつお願いがございます。どうかリーズリー氏の罪を軽くしてくださいませ」
「それは我が国の内政に関わることだ」
冷ややかな声で即答された。ヒルズは国王から発せられる威圧感をもろに浴びてしまう。ヒルズの背中に冷や汗が噴き出す。だがどうにか声が震えないよう、腹に力を入れて言い募る。
「失礼を覚悟で申し上げております。我が国の民が大勢、リーズリー氏に助けられました。『帰国すれば罪に問われるはず』と本人から聞き、皆が心配しております。私はアルセテウス王国の国王、貴族、民に『罪に問われないよう尽力してくれ』と頼まれております」
国王エルドール八世がわずかに微笑んだ。
「リーズリーはそこまで慕われていたか。リーズリーに強制労働を科しては、貴国の人々に恨まれそうだな」
「陛下、なにとぞ、なにとぞリーズリー氏をお許しくださいませ。氏が我が国に飛ばされたのは、偶然の事故だそうでございますので」
「善処しよう」
エルドール八世が微笑むのを見て、ヒルズは安堵した。
その日の内にジュゼル・リーズリーは簡易裁判を経て釈放された。ただし、魔導具のダイヤを消費してしまっている。重鎮たちの話し合いの上、ダイヤの半分相当の金額を今後分割で支払うこととなった。
かなり甘い判決になったのは、「リーズリーのこれまでの功績、アルセテウス王国での功績、魔導具が戻ってきたこと、それらを考慮するように」
そう伝えた国王の言葉の後押しが大きかった。