前振り
本作の書籍化二巻
英雄女騎士に有能とバレた俺の美人ハーレム騎士団2 ガイカク・ヒクメの奇術騎士団
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騎士団総本部より招集のかかった、ガイカクとオリオン。
両騎士団長は、当然のように参上し、ティストリアの前に揃っていた。
「よく来てくださいました、お二人とも。先日の防衛戦での傷は、もう癒えましたか」
「はっ! 三ツ星騎士団は、いつでも出撃可能です」
「奇術騎士団……手品のタネは、準備できましたぞ……ひひひひ!」
「それは結構です」
ガイカクの奇行には、もう誰もツッコミを入れなかった。
まあ違法行為が黙認されているのに、マナー違反を咎めるのも変な話であるし。
「両騎士団には、攻城戦への参戦をお願いしたく思っています。大都市などではなく野城ですが、なかなか守りが堅いようで苦戦しているので、そこへの救援に向かってください」
「攻城戦ですか! それはいい! 準備していた手品が活かされそうですな! ひひひ! このガイカクの大手品で、手品のように城を陥落させてみせましょう!」
攻城戦と聞いて、ガイカクの眼は輝いていた。
その輝きに、オリオンは頼もしさと不安を同時に感じる。
(攻城戦か……たしかにヒクメ卿の得意分野だろう。どれだけ堅牢でも『動かない』のならなんとでもできるはずだ。まあ……どうやるかは、私には想像もできないが)
そんな二人に対して、ティストリアは何の不安も抱いていない。
攻城戦を失敗する、などとは毛ほども考えていない。
だが彼女には、懸念事項が確かにあった。
「そのうえで、忠告が一点。ヒクメ卿、貴方に対して自国内のみならず、他国でもいろいろな動きがあるようです」
「動き、ですか」
「それぞれの立場によって方向は違います。貴方を捕らえよう、貴方を殺そう、貴方の技術を盗もう、というものです」
意外でも何でもないことであるため、ガイカクもオリオンも驚きはしなかった。
ティストリア自身、言う意味を感じていないほどである。
だが一種の業務連絡として、彼女は忠告を続けていた。
「先日のライナガンマ防衛戦で、貴方の作成した動力付き気球が活躍したことは、既に他国でも知られています。ライナガンマでは、敵味方を問わず多くの将兵が目撃し騎士団周辺では飛びたつ姿も確認されています。またライナガンマ内では演劇という形で広報もされているそうです」
普通なら『空を飛んできた』なんて話は誰も信じない。
しかし以前にガイカクが『動力付き気球なんて画期的ではない』と言っていたように、構想自体は多くの国で昔から存在したのだ。
多くの目撃情報と戦況を見るに、動力付き気球が実現したと考える方が自然である。
それは実際に動力付き気球に乗り込んで戦った者達こそがよくわかっていることだ。
「それを製造できるのはヒクメ卿一人。しかも航空技術の専門家ではなく、多くの魔導技術に精通していることもまた重く見られるようになったそうです」
殺す、浚う、盗む。
貴人だとか金持ちだとかではなく、複数の国家がそれぞれの事業として一人を狙う。
この部屋にいるガイカクが、それになっている。
これは異常事態でも非常事態でもない。
なるべくして、なっているのだ。
「とはいえ、騎士団長であればおかしなことではありません。私もヘーラ卿も、オリオン卿もセフェウ卿も、ルナ卿も……武勲を上げているがゆえに、狙われている立場です。貴方の場合は、浚われる可能性があるというだけのこと……気にすることはありません」
「ひゃはははは! 私も騎士団長として、世間から認められたということですなあ! 獣人風に言えば、ようやく脅威だと認められたということですね?」
ガイカクの軽口は、まさに真実であった。
他国から脅威だと思われない騎士団など、存在意義がない。
騎士団長とは、狙われることもまた仕事の内なのだ。
「その通りです。よって私が忠告することは一つ……敵の動きが今までとは違ってくる、ということです。それぞれの思惑によって対応は変わってきますが……『上層部』からの指示によって、定型ができると思ってください」
この場合の定型とは、『何が何でもガイカクを浚おうとする』とか『何が何でもガイカクを殺そうとする』などがあげられる。
現地の将の性格などが一切反映されない作戦が決行される、ということだ。
「ひゃはははは! 望むところでございます!」
(ヒクメ卿も騎士団長ということだな……まあ今までの振舞からして、目立ちたくない、などとは言わないだろうが……)
※
騎士団総本部から戻ってきたガイカクは、団員を全員集めて報告をしていた。
それはもう、大変うれしそうに伝えている。
「よろこべ、俺たちはついに『賞金首』になったぞ」
まさにアウトローな発言だった。だがそれを聞いて、団員のほとんどが歓喜していた。
「俺たちの武勇は、多くの武勲を上げてきた」
重歩兵隊が、歩兵隊が震える。
「なにがなんでも排除しなければならない脅威であると認定された」
高機動擲弾兵隊の毛が逆立つ。
「何をしてくるのかわからない、どんな兵器を出してくるのかもわからない、理解できぬ想像外の怪物だと認められた」
動力騎兵隊が、砲兵隊が笑っていた。
「みんなが凄いと褒めてくれる、みんなが頼ってくれる大人になったわけだな」
工兵隊も、抱き合いながら喜んでいた。
「そんな俺たちの、次のステップに進んだ最初の任務は……攻城戦だ。参加するのは、高機動擲弾兵隊、重歩兵隊、歩兵隊、砲兵隊、夜間偵察兵隊だな。工兵隊と動力騎兵隊は、今回はお休みしてくれ。三ツ星騎士団との合同任務だ、すぐに終わって帰ってくるさ……ひひひひ!」
上機嫌そうなガイカクを見て、不安そうにしているのは夜間偵察兵隊だけであった。
彼女たちはその種族特性もあって、ある意味冷静だった。
(……大丈夫だと思う?)
(絶対大丈夫じゃない……!)
奇術騎士団は、ガイカク・ヒクメの私物そのものである。
良くも悪くも、ガイカク・ヒクメの思う通りにしか動かない。
そしてガイカク・ヒクメの弱点を、彼女たちは良く知っている。
(御殿様は事前の準備さえ整えば何でもできるけど……想定外の事態には弱い)
(自分でも言っていたけど、智将には強くても、猛将の類には弱い……!)
ライナガンマを10万の軍勢で包囲したマルセロ。
彼は間違いなく智将であり、その最高峰に位置するだろう。
そんな彼でさえ、ガイカクにとっては大好物だった。
味方の被害を抑えようとする『智将』では、マルセロですらガイカクに勝てない。
定石なんてものは、駒が一種類増えるだけで激変する。ガイカクはその駒の種類をアホほど量産できるので、勝ち目などあるわけもない。
その一方で、ガゲドラやアルテルフに対しては苦戦を強いられていた。
味方の犠牲をいとわない『猛将』。彼らはガイカクの惑わしに目もくれず、最速でこちらを殺しに来る。
そしてそれは、敵側も把握しているだろう。
アルテルフが重歩兵隊に殺されたのは運がなかったからであり、ガゲドラはあと一歩のところまで追い詰めたのだから。
(たまたま偶然猛将に遭遇するだけで……私たちは負けるんじゃ?)
(私たちを倒せば大金が入る……オーガとかオークとか獣人の猛将が来そう!)
(今回の攻城戦も……攻城戦、も?)
そこまで考えたところで、夜間偵察兵隊は気づいた。
(城に篭っている敵の親玉が、大胆な行動をする猛将……それはないか)
すくなくとも今回は、そういう想定外がなさそうだと結論付けるのであった。
その結論が正しくなかったと知るのは、少し後のことである。