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ステップアップ

本作の書籍化二巻


英雄女騎士に有能とバレた俺の美人ハーレム騎士団2 ガイカク・ヒクメの奇術騎士団


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 奇術騎士団本部にて……。

 ガイカクは自室のベッドで横になっていた。

 そんな彼の両脇には、ドワーフとエルフが並んで横になっている。

 いわゆる川の字である。


 なお、全員が解放的な姿でシーツを被っている。


「なあ棟梁~~! 図面の引き方を教えてくれよ~~」

「ねえ先生~~! 次はどんなお薬を作るんですか~~?」


 二人は左右から挟み撃ちにしつつ、可愛らしくおねだりをしていた。


(こいつらはこの手法で問題が解決すると本気で思っているのか?)


 なおガイカクは、この二人が選んだ戦法自体を疑問視していた。

 二人が別々のことを要求しているのだから、上手くいっても片方しか実現しそうにない。

 仮にそうなったら、もう片方はどうするつもりなのだろうか。


「あのさあ……俺だって寝るときぐらいは、魔導のことは忘れるようにしているんだが……」


「え~~?」

「そんな~~」


「あとな、前も言ったけど、俺は別に多人数同時対戦が好きなわけじゃないんだよ……」


 一応の相手をした後で、ガイカクはイヤそうに感想を述べた。

 やろうと思えばオーガ二十人を相手に圧倒できるガイカクではあるが、別に好き好んでのことではない。

 それを強弁してくスタイルを貫こうとしていた。


「でも~~! いい加減、新しいことをしたいんです~~! 砲兵隊はここ最近、備蓄の補充をずっとやってたんですからね!?」

「アタシら動力騎兵隊もだ! 部品ばっか作らせやがって! 完成品、新兵器、画期的な発明を作らせろよ!」


「大体お前ら……おねだりなんかしなくても、その内新しいことをやらせるつもりではあったんだぞ?」


「え、そうなんですか?」

「マジかよ!」


「俺は俺で思うところがあってな……お前達にも高度な作業ができるようになってほしいと思うようになったんだ」


 ふぅ、とガイカクはため息をついた。


「だからもう寝ろ、な?」

「本当ですか、先生! 何をするんですか、何を!」

「アタシらにも教えてくれよ~~!」

「寝ろって言ってるだろうが!」


 なかなか寝付かない二人に怒鳴りつけるガイカク。

 そんな彼の怒鳴り声は、夜遅くまで続いたという。



 翌日のことである。

 動力騎兵隊二十名と砲兵隊二十名は、揃って屋外に集められていた。

 もちろん新しいステップに進む、その講習のためである。


「ということで、お前達には『魔導防護装備』の講習を受けてもらう。高度な作業を行うには必須の講習なので、みんな真面目に頑張ってくれ」


 四十人の作業員の前に出されたのは、対BC装備であった。

 どんな猛毒空間でも活動可能であろう、脅威の魔導技術であった。


 それを前にした四十名は、期待に胸を膨らませている。

 物凄く輝く目で、ガイカクに質問をしていた。


「先生! 私たちはこの服を着て、何を作るんですか!?」

「棟梁! アタシらは!? なあ、アタシらは!?」


「砲兵隊には有害な薬品の調合、動力騎兵隊には人体に有害な塗料を使った塗装をしてもらう予定だ!」


 今までより高度で危険な『作業』に従事してもらう予定である、とガイカクは言い切っていた。

 つまり、防護服を着ているだけで作業内容はほぼ同じである。


 砲兵隊と動力騎兵隊のテンションは、一気に落ち込んでいた。


「高度って……高度って言ったじゃないですか、先生!」

「棟梁、そりゃあんまりだ!」


「何を言う、確実にステップアップしているぞ。かりに給料を支払うのなら、危険手当や技術手当もつくレベルだぞ」


 給料を支払うことを仮定とする、恐るべき上司ガイカク。

 部下への安全指導はばっちりであった。

 魔導士としてのモラルは、極めて高いと言えるだろう。


「少し前に一人で有毒物質の精製作業をしたんだが、面倒極まりなくてなあ……お前らができたらなあ、って思ってたんだ」


(なにしたんだろう、先生……)

(棟梁は、敵に毒をぶちまけるような奴じゃないと思っていたんだが……)


「というか、防護服を着ての作業ってのは、本当に高度で専門的だぞ? お前らがレベルアップした証拠だぞ? 何が不満だ?」


「先生がやっているような、研究とかがしたいです!」

「棟梁がやっているような、設計がしたいんだよ!」


「……こんなことを言ったらお前たちはがっかりするかもしれないが、そもそも畑が違うぞ」


 作業員と研究者、設計者というのは根本的に別の業種である。

 それこそ、大工と設計士ぐらい違う。

 工場の作業員と、研究所の職員ぐらい違う。

 もちろん、要求されるスキルも違う。


「俺は全部できるけども、それは俺が天才だからであってだなあ……」


 頭脳労働と名のつくものは、全部できる男。

 ガイカク・ヒクメ、天才魔導士である。


「大体お前らは高度なことがしたいっていうのもフワフワしてるんだよ。具体的に何がしたいっていうのがないんだよ。まああっても教える手間が増えて面倒なんだけども」


「……ぐすん」

「くっそ~~!」


「でもまあ割と真面目な話、こういう防護服を着て作業するってのは高度な『作業員』の証だ。以前のお前達なら、希望したってやらせられなかったからな」


 対BC装備をしたうえで、今までと大差ない作業に従事する。(給料は相変わらずゼロ)

 そんなことを希望する日など永久に来ないだろう。

 なまじ期待していただけに、四十名の顔は曇っていた。


(……マズいな、マイナス5ぐらいは出ているぞ)


 わかりやすく傷ついていたので、ガイカクは策を練り始めていた。

 その時である。


「今よろしいかな?」


 現れたのは、三ツ星騎士団団長、オリオンであった。

 その表情は真面目ではなく、やや緩いものであった。

 そのうえ動力騎兵隊と砲兵隊がそろっているところを見たうえで、話をしようという雰囲気がある。


(これはプラスの気配……!)


 ガイカクはこれを好機と思い、この場で話をすることにした。


「げひゃひゃひゃ! これはこれは、我ら奇術騎士団の朋友、三ツ星騎士団団長、オリオン卿ではありませんか! 一体どうされたのですかな!?」

(……いつも以上にふざけているな。これは意図があってか……まあ付き合うほどではないが)


 さすがに付き合いも長くなってきたので、オリオンはガイカクの意図を察していた。

 そのうえで、無関係というわけでもない、彼女らの前で話をする。


「実は私どものスポンサーの多くが、出資を打ち切るとおっしゃりましてな」

「なんと! 三ツ星騎士団は名門中の名門! そんな騎士団への出資者なのですから、それこそはるか以前からのお付き合いなのでは!?」

「それはそうだ。だが……条件が折り合わなかったのでな、仕方ない」


 出資を打ち切られる、というのはわかりやすく一大事である。

 それを聞いた動力騎兵隊と砲兵隊は、最悪の事態を想像した。


「あ、あの~~……まさか、奇術騎士団と同盟を組んでいるから、とかじゃないですよね?」

「ウチ、ヤバいことしかしてないからな……」


 どんな任務も手品のような違法行為で解決する奇術騎士団。

 そんな色物と同盟関係を結んでいることは、三ツ星騎士団にとって間違いなくマイナスであった。

 それを理由に出資を打ち切られたとしても、まったく不思議ではない。

 なんなら、今まで打ち切られなかったことがおかしいぐらいだ。


「そうと言えばそうだが、方向性がちがう。我らを通して、貴殿らに接触をはかろうとしていたのだ」


 実態は逆である、とオリオンは語った。


「私が言えたことではないが……ヒクメ卿の技術を欲しているらしい。出資者自身もそうだが、他種族からもな」

「ひょひょひょ……それはご迷惑をおかけしますなあ」

「気になさることはない。貴殿らと同盟を結ぶとはこういうことだと理解している」


 他でもないオリオン自身が、同盟を条件に助力を願った者である。

 その彼からすれば出資者からの要望を断るのは気が引けただろう。

 それでも彼は、一線を守っていた。


「そのうえで……我らの出資者の都合で、奇術騎士団に迷惑をかけることはできん。出資を断ることで話を治めた」


 スポンサーというのは、非常に強力な発言力を持っている。

 出資を受ける側がそれを跳ねのけるには、出資を断るという自爆に近い手を打つしかないのだ。


「だ、大丈夫なんですか!?」

「そ、そうだって! 棟梁に頼めば、少しぐらいは融通を……」


「資金であれば、問題ない。ライナガンマ周辺の有力者が、新しく出資を申し出てくださっているのでな」


 そういってオリオンは、ガイカクを見た。

 その視線には、敬意と感謝が含まれている。


「元々彼らは、奇術騎士団に出資したかったそうだ。だがヒクメ卿は『ハグェ家以外からの出資を受けることはできない』と言って断っていた。その結果、奇術騎士団と同盟関係にある我らに出資が集まったのだ。これはもちろん、感謝の気持ちによるものだ」


 砲兵隊も動力騎兵隊も、ライナガンマでの輝かしい歓待を思い出してにやけた。

 社会の底辺だった彼女らが、最上位に繰り上がった瞬間である。それはもう、思い出す度にニヤニヤする。


「……正直な話、ありがたかったのでな。受け入れさせてもらっている」

「ひょひょひょ、元は我らがご迷惑をおかけした結果にございますれば……」


 ここでガイカクは、オリオンからの援護射撃を有効利用することにしたのだった。


「ところで、他種族からの要望があったということですが……どのようなものですか?」


 ガイカクとしてはドワーフやエルフが自分に接触したがっているという話にして、そこを軸に砲兵隊や動力騎兵隊に優越感を覚えてほしいという算段であった。

 そしてそれは、実際にかなっていた。


「ケンタウロス族からは、なにやら弓の製造に協力してほしいとの要求があった。貴殿がオーロラエ地方に向かった後で『新品の神器』ができたので、勘ぐったらしいな」

(なんだ、連中は結局話さなかったのか。まあ、猛毒だしな。薬が効いたというか、毒が効いたというか……)

「それでドワーフからなのだが……新しい鉱山の開拓に協力してほしいと……」


 ここで動力騎兵隊は、声を上げていた。


「はあ!? 新しい鉱山は、まだ見つかってないのか!?」

「ああ。以前の鉱山が枯れたあと、全力で探しているそうだが……やはりそう簡単には見つからないらしい。そこでヒクメ卿の知恵を借りたいそうだが……」


 ガイカク・ヒクメなら、手品のように新しい鉱脈を見つけてくれるのではないか。

 そうした期待を向けられていると知って、本人は……。


「いや、それは流石に無理です。俺だけ知っている鉱脈なんてありませんし、鉱脈の探し方も既知のもんしか知りませんて」

「……やはりそうでしたか」

「俺にできるとしたら、既に見つかっているものの、利用価値が低いからといって放置されている金属の利用価値を上げることぐらいですねえ」

(別の角度でなんとかはできるのだな……)


 要求は無理だけど、代案は出せる、という有能さであった。


「ほ、他にも、貴殿の製造している動力付き気球の製造に参加させてほしいとの要望も……」

「軍事機密なんて、核心部品には触らせられませんね」

「それはそうだな……まったくだ、うむ」


 その有能さを持っているうえで、ガイカクはドワーフたちに関わる様子がない。

 それを聞いて、動力騎兵隊のモチベーションが上がっていく。


「へへへ……あいつら、ずいぶん苦労していると見える」

「棟梁の知恵と技術に触れたくて仕方ないってか……残念だねえ!」


(よし、調子に乗ってるな)


 ドワーフ社会の思惑が外れて喜ぶ動力騎兵隊を見て喜ぶガイカクという構図であった。


「え、エルフ! エルフからもありましたか!」

「エルフも接触を求めてきてませんか!?」


 砲兵隊もエルフ社会が困っていると嬉しいので、積極的にオリオンへ訪ねていた。


「もちろんだ。貴殿ら奇術騎士団が新規の騎士を募集していないので、同盟関係にある我ら三ツ星騎士団へ騎士を参加させようとしている」

「断ったんですよね!?」


 かなり食い気味で、エルフ社会からの要求を断ったと確認していく砲兵隊。

 

「ああ、もちろんだ。そもそも三ツ星騎士団は騎士養成校の卒業生以外は入れないのでな。その規定に従ったまで」

「おおうぅ……奴らの思惑が外れてる……いい!」

(やはり……恨み骨髄というわけか。無理もないが)


 ガイカク以外のメンバーは、黒くないが闇が深い。

 それも社会の闇そのものである。

 彼女らが自種族の社会を憎むのも、むべなるかなであった。


「よおし、棟梁の部下として頑張るぞ!」

「先生の生徒として頑張りましょうね!」


 憎い相手が困っている、こんな嬉しいことはない。

 砲兵隊も動力騎兵隊も、対BC装備を付けた訓練に乗り気になっていた。

 かなり闇深い理由だが、それでも頑張れるのでアリであろう。


「そうした強い要望を跳ねのけてくださるとは……さすがは我らが同胞、三ツ星騎士団! 感謝感激雨あられでございます!」

「そう過剰に感謝せずとも……それよりもヒクメ卿」


 部下がやる気を出したことで嬉しくなっているガイカクへ、オリオンは真面目な顔になった。


「貴殿は大いに名を売りました。おそらく他国も、貴殿をマークするでしょう。その意味は、お分かりですな?」

「もちろん!」


 ガイカクは、心底から愉快そうに笑っていた。


「ティストリア様の忠実なるしもべ、奇術騎士団団長、ガイカク・ヒクメ! どんな任務も、手品のように解決してみせましょう!」


 だがガイカクは、まだ知らなかった。

 これから先に待つ戦場が、どんなものなのかを。

 それは彼の想像を、思惑を、趣味嗜好さえも裏切るものであった。

そろそろ本格連載に戻ります!

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