子供に夢を与える仕事
英雄女騎士に有能とバレた俺の美人ハーレム騎士団 ガイカク・ヒクメの奇術騎士団
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新進気鋭の奇術騎士団は、つい先日のライナガンマ攻防戦によって、大いに武名をとどろかせていた。
悪名も大いにとどろかせているのだが、それはまあご愛敬であろう。
むしろ、その悪名にこそ興味がある者たちも多い。
唯一のスポンサーであるハグェ家が、奇術騎士団を主役としてパーティーを催す。その報せを聞いて、多くの貴人、富裕層がハグェ家を訪れていた。
よく晴れた日の昼前、会場にはすでに多くの来賓が来ていた。
多くの豪華な食事に加えて、富裕層でも見たことのない料理がいくつか並んでいる。
「ねえ、お母さま! アレを見て! あそこに、タイ焼きが並んでるよ!」
「それは絵本のお話でしょ! 魚の形をしたケーキなんて……あったわ」
「でしょでしょ!?」
「お父さま~~! あそこ、あそこ~~! お米の大砲がある~~!」
「……本当に、絵本の通りの大砲があるな」
「でしょでしょ~~! たべた~い~~!」
ガイカクが持ち込んだ調理器具によって、タイ焼きやドン菓子が並んでいる。
絵本を今も読んでいる子供たちは、それを見て興奮気味だった。
とはいえ、さすがは富裕層の大人たち。
公爵家のパーティーで粗相をするわけにはいかず、殴ってでも止めていた。
「ごほん……ラサル・ハグェである。皆、よく集まってくれた。先日は我らが身内のことで、大変に迷惑をかけてしまった……許してほしい。本日はその謝罪もかねて……ライナガンマ防衛戦で大活躍をした、奇術騎士団の祝勝パーティーを催そうと思う。あいにくと、騎士団長であるヒクメ卿以外の防衛戦参加メンバーは欠席だが……カマナッカ平原での戦いで敵将ガゲドラの側近としのぎを削った、歩兵隊と重歩兵隊が出席している。彼女らに対しても、惜しみのない賞賛をしてほしい」
そうしていると、ラサル・ハグェから挨拶が始まった。
しかしながら、ガイカクの姿は見えない。
さてどうしたのかと思っていると……。
「失礼します~~!」
大きめの台車を押して、オーガが会場の中央に向かった。
その台車の上には、関節のある大きな板が乗っていた。
オーガは少し苦労しながら、その板を立方体にしていく。
中に何も入っていないことが明白な大きい箱が、来客たちの前に現れたわけである。
「ちょっと失礼しま~~す!」
今度は非常に大きな布を、二人のオーガが引きずってきた。
彼女たちはそれをゆっくりと、慎重に箱へ被せる。
それを終えると、三人のオーガは礼をしてから出て行った。
(ははぁ……今の布を引きずっていたところを見ると、その中にヒクメ卿が隠れていたのだな。おそらく今の立方体の壁のどこかが、ドアのように開くようになっていて、そこから入ったのだろう)
察しのいい大人は、すでに座興だと理解していた。
奇術騎士団を名乗っていることもあって、騎士団長もちょっとした手品を披露するつもりらしい。
(トリックは一目瞭然だが……ふふ、文字通り、馬脚は見せなかったのだ。ここは黙って……ん?)
トリックについて察していた者もいたのだが……ここで手品の仕込みは終わらなかった。
なんと、同じようにして、四つの箱が同じように運び込まれ……それぞれ離れた場所に置かれたのである。
一体何事かと思っていると、一つの箱から声がした。
「さあ、私はどこでしょう」
明らかに、男の声だった。
箱の中から聞こえてくるので少し聞こえ方は違うが、明らかに男の声だった。
「こっちかな~~?」
別の箱から、同じ声がした。
「こっちかも~~?」
三番目の箱からも同じ声がした。
観客たちは、何事かと思って混乱している。
「さあ、正解は~~!」
四番目の箱から声がして、そのすぐ後に……。
「ここでした~~!」
布が被ったままの、最初の箱。
その布を吹き飛ばしながら、ガイカクが現れた。
そのすぐ後に、同じように布をとりつつ、箱の中から歩兵隊が出てくる。
当然ながら、全員が女性である。
「どうも皆さん、こんにちは!」
「こんにちは~~!」
「ご紹介に与りました……奇術騎士団団長、ガイカク・ヒクメにございます!」
「その部下の、歩兵隊でございます~~!」
ガイカクはひたすら陽気に、歩兵隊の面々は緊張気味に、堂々と名乗りを上げていた。
その光景に、一同が唖然としている。
中に入っていたのがガイカクを含めて男ならわかるのだが、ガイカク以外全員女。
しかも聞こえてきたのは、明らかにガイカクの声であったはずだった。
(伝声管で真ん中から声を?! いや、それなら真ん中からも声が聞こえたはず……どんな手品だ?!)
ガイカクが披露した、純然たる手品。
それを目の当たりにした来賓たちは、そのトリックが分からず呆然としていた。
(……凄いクオリティのが来た)
なお、公爵家に雇われていた道化師たちも、その光景を見ていた。
自分達もこの後芸を披露するのだが、そのハードルが大幅に上がったと理解したのである。
「父上、あのトリックについてですが……」
「軍事機密だ、と言って教えてくれなかった」
「やはりそうですか……」
なお、主催者の二人もトリックについては教えてもらえなかった模様。
(さ、撤収だよ~~!)
(いそげ、いそげ~~!)
そうしている間に、台車とその上に乗っていた箱、そして布が重歩兵隊によって回収されていく。
さて、トリックであるが……非常にシンプルで、無駄にハイテクである。
ガイカクが入っていた最初の箱以外の四つには、それぞれ『蓄音機』が運び込まれていたのだ。
蓄音機、つまりはレコードプレイヤー。
原初の音声記録機械であり、その構造は極めてシンプル。
音声を振動として針につたえ、その針で記録媒体に傷をつける。
その傷の上で針を移動させると、針が振動してスピーカーから音となって出る……というものである。
ガイカクはそれを四つ作って歩兵隊に持たせ、合図と共に動かしたのだ。
もちろん音質はそこまで良くないのだが、箱の中から音を出させたことで、ある程度はごまかせている。
もうトリックというレベルではない、純然たるテクノロジーであった。
もちろんそれらも、箱や布と一緒に回収されている。
「この度は我が騎士団を祝うために集まっていただき……感謝感激、光栄の至り! その皆様をお迎えするために、趣向を凝らせております! どうか、お楽しみください!」
ガイカク・ヒクメ。
今回のパーティーを絶対に成功させるため、それはもう意気込んでいたのであった。
※
さて、いよいよパーティー本番である。
歩兵隊と重歩兵隊にとって、念願の時であった。
百二十名の勇敢なる女戦士たちは、とても緊張した面持ちでパーティー会場で立っている。
一体何をすればいいのかもよくわかっていなかったが、それを心配する必要はなかった。
「奇術騎士団が誇る歩兵隊と、重歩兵隊ですな? お噂はかねがね」
「ジャイアントキリングのアルテルフから奇襲を受けるも、逆に返り討ちにしたという話も聞いております」
「いやいや、やはりカマナッカ平原での戦いこそ、素晴らしいものでしょう。あの戦いには、私の親族も参加しておりましてな……」
「ええ、私の息子もです。ハルノー将軍さえも初日で倒した、あの猛将ガゲドラの側近と、真っ向から打ち合ったとか……」
「誰よりも危険な戦場で、その武威を示す……まさしく騎士の誉かと」
「む、むふぅ……そ、そうですね! あ、あの戦いは、本当に大変でしたよ!」
「ねえ! ええ! うん!」
「て、敵が本当に強くて、怖くて……三ツ星騎士団の正騎士様がいなかったら、やられてましたよ~~!」
奇術騎士団の中でも、重歩兵隊と歩兵隊は『普通』の部隊である。
どちらも主戦力であり、むしろ普通の戦力であることを求められている。
そして、他の普通の軍隊とのつながりも強い。
もちろん、その分辛い役目も多い。
それを乗り越えた彼女らには、相応に感謝が届いていたのだ。
(親分についてきてよかった……これが騎士! 騎士じゃないとしても、騎士団に属している感じ!)
(このために頑張ってきたんだ……たどり着いたんだ、絶頂に!)
彼女らの周囲には、彼女らの苦労や苦戦を讃える者が大勢いる。
他の仲間が味わったものを、一歩遅れてだが手に入れていた。
それはもう、にやけている。
そんな初心な彼女らを、周囲の者達はやはり好印象に受け止めるのであった。
(なんか、思ったより普通だな……)
(やはり変なのは、あの騎士団長だけか……)
普通というだけで、好印象なのだった。
※
さて、ガイカクである。
騎士団長である彼は、ものすごく張り切っていた。
前回のパーティーでは手品を披露するどころではなかったので、それを後悔していた。
今回は多くのパフォーマンスをするべく、たくさんのタネを用意していた。
「さあ皆さんお立合い! これよりこの平面の袋に、命と空気を吹き込みます!」
大勢の客人の前で、すっかりしぼんでいるゴム風船に、手動ポンプで空気を入れ始めた。
だんだん大きくなっていくゴム風船は、やがてクマのぬいぐるみのような形になって行った。
その膨らむ過程をみて、子供たちは大興奮。大人たちも凄いわ、と驚いていた。
芸人たちは『すげえ技術力だ……』と困っていた。
テクノロジーで殴られると、技量差では埋めがたいのであった。
「さあて、次は少々趣向を変えましょう! こちら縦に長い風船でございます!」
ガイカクは手動ポンプで、細長い風船に空気を入れ始めた。
膨らみきるまで入れるのではなく、八分程までである。
そこから膨らんでいる位置を調節して、気前よくねじり始めた。
そうして造形していくと、シンプルな動物らしい形になる。
「さあて、これはなんでしょう」
「犬!」
「正解! それではこちらを御進呈!」
「あ、ありがとうございます!」
ガイカクはバルーンアートでのパフォーマンスを始めた。
きびきびと気前よく風船人形を作っていく様は、まさに芸人である。
「では次は大物を……」
「あ、あの! きしだんちょう、さん!」
今度は大きめの高反発マット、ちょっとしたトランポリンを作ろうとしたところで、他の子供から声をかけられた。
「おやおや~~! どうしましたか~~?」
「た、タイ焼き、もうなくなっちゃったの! お、お願いします!」
「おお~~、それは失礼しました! それでは一旦、調理をさせていただきます~~!」
ガイカクはキャンプのコンロのように、すこし低いレンガ積みのコンロの上に、タイ焼き機を置いていた。
子供達からでも焼ける工程が見えるように、という配慮である。
もちろん、近づかないように注意はしている。
「さあて……歯の間に詰まらないように、こしあんにして……クリームやカスタードなど、種類も追加して……と」
子供たちの見ている前で、タイ焼きを作っていく。
もちろんすぐできるわけでもないので、子供たちは少し逸り気味だ。
香ばしい匂いも漂ってきて、食欲を大いにそそられる。
本職のパティシエは、むしろ自分も食べたそうにしている。
「『海で暮らすお魚は、陸の人に嫌われていました』」
待っている間退屈しないように、ガイカクは絵本の朗読まで始める。
それはおかしな魔女シリーズで、タイ焼きの出るエピソードであった。
「『形が怖い、鱗が怖い、手足が無いのが怖い、口が怖い』」
子供たちも知っているので、その脳内には絵が克明に浮かんでいた。
「『魚は悲しくて泣いてしまいます』」
ガイカクはわざとらしく、泣きまねまで始めてしまった。
「『泣いている魚を見つけた魔女は、慰めながら聞きました。お魚さん、どうしたの?』」
絵本の内容を、しっかり復習しているガイカク。
さすがのマメさである。
「『みんなが僕の見た目を怖いって言うんだ……』『それなら、貴方によく似たお菓子を作りましょう。そうすれば、みんなあなたを怖いと言わないわ』『僕に似たお菓子なんて作れるの?』」
そして、おかしな魔女のキメ台詞。
「『私はなんでも作れるのよ!』」
そのタイミングで、タイ焼きが完成する。
時間調整も、ばっちりであった。
「さあ、おかしな魔女のタイ焼きですよ~~! 熱いので、ゆっくりどうぞ~~!」
「ありがとうございます、きしだんちょうさん!」
「さあ、一人一つずつどうぞ~~!」
湯気の上がる、出来立てのタイ焼き。
エンタメ性もばっちりであった。
「きしだんちょうさん! 今度は、ドン! ドンを作って!」
「はいはい、わかりました~~!」
今度は別の子供から、ドン菓子を作ってほしいとねだられる。
これにもガイカクは、快く対応をしていた。
「『わははは! 俺は最強のドラゴンだ! どんな武器も魔術も効かないぞ~~!』」
「『エルフもオーガも、最強のドラゴンには勝てません。みんなこまって、泣いています』」
「『そこで魔女さんが立ち上がりました! みんな、私に任せてちょうだい!』」
「『ドラゴンを倒せるお菓子なんて、作れるんですか?』」
「『私はなんでも作れるのよ!』」
ど~~ん、と、ドン菓子が完成する。
轟音豪風と共に出来上がったお菓子に、子供たちは大興奮であった。
「はいみなさん、熱いですよ~~!」
「わ~~い!」
「これがドンか~~! あ、あつっ!」
「きしだんちょうさん! こんどは、これ、コレ作って! 果物が、素敵なドレスを着る話!」
「ああ~~、それですか~~」
そうしていると、いつかのようにリクエストまでされてしまった。
チョコフォンデュの出てくる絵本を見せられて、ガイカクも困った顔をする。
「す、すみません、勝手なことを……たくさんあるんだから、それでいいじゃない」
「やだ~~! 果物さんの、素敵なドレス~~!」
「ふっ、ご安心を。もう作っておきましたので」
そういってガイカクは、隠していた箱を取り出した。
そこに入っていたのは、チョコフォンデュの一種、チョコバナナであった。
「『果物さんは、泣いています。僕たち、食べられるときに包丁で切られちゃうのが怖いんだ』」
「『だけど、切らないと食べてもらえないよ~~そんなの悲しいよ~~』」
「『魔女さん、僕たちを切らないで、お菓子にしてもらえませんか?』」
「『私はなんでも作れるのよ!』」
「『魔女は黒い蜜のシャワーを作って、果物たちにかけてあげました』」
「『するとなんということでしょう、果物たちは真っ黒なドレスに身を包んでいたのです!』」
さすがにチョコフォンデュ用の機械は面倒極まりないので、鍋であらかじめ作っていたガイカク。
それを子供たちの前に並べて、勢いでごまかそうとしたのであった。
(もうだいぶ食ってるからな……さすがにお代わりはないだろう……完璧なセッティングだぜ!)
もう一回作ってと言われたら困るので、タイミングを見計らっていたガイカクであった。
そうして計画通りに進んでいたことを喜ぶガイカクであったが、その彼へ嬉しそうに話しかける女児の姿があった。
もちろん富裕層の子供なので、とてもよい服を着ている。
そしてそのすぐ後ろには、母親らしき若い女性もいた。
「あのね、きしだんちょうさん……とってもおいしかった! ありがとうございます!」
「それはようございました……この奇術騎士団団長、ガイカク・ヒクメ……身に余る光栄でございます!」
「本当にありがとうございました、ヒクメ卿。私もいただきましたが、どれもとてもおいしいですね」
「大人向けのお菓子も、ご要望とあれば用意いたします故、何なりとお申し付けを!」
ハグェ家の為に、パーティーを盛り上げるぞ~~! とやる気満々のガイカク。
その彼に、女児は果敢に話しかけていた。
「きしだんちょうさん! 私、大人になったら、きしだんちょうさんみたいな、きしだんちょうになる!」
「おお、それはとても素晴らしい夢ですね。まあ私のような騎士団長には、ならないほうがいいですが。それこそ夢は大きく、ティストリア様のように素敵な総騎士団長など……」
「きしだんちょうさんが、いいです!」
女児は、大いに目を輝かせてこう言った。
「きしだんちょうになって、みんなにお菓子をつくってあげて、幸せにしてあげるんです!」
笑顔だったガイカクは、ここで真顔になった。
その変貌ぶりに、母親も困る。
「お嬢さん……こういってはなんですが、騎士団長はそういう仕事じゃないですよ」
「そ、そうよ! 今はご厚意でお菓子を作ってくださっているだけで、お菓子を作るのは仕事じゃないわよ?!」
「ちがうもん! きしだんちょうになるんだもん!」
勘違いしたまま怒り出す女児。
果たして彼女を咎める権利が、ガイカクにあるのだろうか。
「いや、その……騎士団長の仕事でお菓子を作っていると言えないこともないけども……業務内容にそれはないですよ~~?」
「きしだんちょうは、せいぎのみかたで、みんなの憧れで、お菓子を配る人だもん!」
(情報が混線している……!)
少なくともガイカク自身は正義の味方ではないし、憧れでもない。
まあ、お菓子を配ってはいるので、その点だけは正解だろう。
しかしそれは、空手家が瓦割りをしているところを見て『空手は瓦を割る競技なんだね』と思うぐらい間違っている。
あるいは儀仗隊を見て、『兵隊は踊って演奏する仕事なんだね』と思うぐらいには間違っている。
「きしだんちょう、なるもん……!」
「す、すみません……うちの子が失礼を!」
「い、いえ……私が勘違いをさせるようなことをしてしまったので……」
「そんなことはありません! さ、ご迷惑にならないように、あっちに行くわよ!」
「きしだんちょうになるんだも~~ん!」
夢を叫ぶ女児は、母親に連れていかれた。
残されたガイカクは、想定外の事態に固まっていた。
「オリオン卿やルナはともかく……ヘーラには殺されそうだな。アイツが『お菓子ちょうだい』とか言われたらお前のせいだろ、とか言われそうだ……実際そうだしな。ここは趣向を変えるか……!」
お菓子ばっかり作っていたのが良くなかったのだろう、とガイカクは判断した。
そこで別の座興に移行する。
「ではみなさん! 奇術騎士団の手品をお目にかけましょう! これなるはやまびこの箱にございます!」
ガイカクは内部に蓄音機を仕込んだ、大きめの箱を用意した。
その箱はガイカクだけ壁がなく、底から手を突っ込んで操作できるようになっている。
「さあご婦人、お声をどうぞ」
「な、何を言えばいいのかしら……」
ガイカクは蓄音機を操作して、最初に呼んだ女性の声を再生する。
『な、何を言えばいいのかしら……』
「え、私の声……すごい、どんな手品なの?!」
「おお~~……」
もう手品でも何でもないテクノロジーなのだが、驚いてくれたのでよし、であった。
『らしかのいいばえ言を何、な』
「な、なに?!」
「おっと、手品が失敗してしまったようで」
「び、びっくりしました……」
ガイカクは驚かせようと、逆再生をしてみる。
自分の声がひっくり返ったことで、女性は更に驚いていた。
どう考えても声真似ではない手品に、老いも若きも大いに感心していた。
「凄いですね……さすが奇術騎士団、手品の腕も一流ですわ」
「どんな任務も手品のようにこなすと聞いていましたが……これは納得だ」
(ふっふっふ……これで奇術騎士団の株は上がり、ハグェ家の株もあがるという寸法よ……!)
「すげ~~! 騎士団長は、こんなこともできるんだ~~!」
「俺も騎士団長になりたい~~!」
(……これ、成功しているのか?)
好感度を上げる方向で頑張っていたガイカク。
彼は子供達へ間違った常識を教えているのではないか、と不安になるのであった。
(いやそもそも、俺自身がまともな騎士団長じゃないし……じゃあしょうがないか!)
自分をごまかして、無理に笑うのであった。
「さ、さあ、次の方、どうぞ!」
黒い噂やどす黒い噂は気にしないのに、間違った情報を流すことは気にするガイカクであった。