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騎士団長のお仕事

英雄女騎士に有能とバレた俺の美人ハーレム騎士団 ガイカク・ヒクメの奇術騎士団


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 騎士団総本部にて……。


 総騎士団長の執務室で、ティストリアとウェズンは今回の報告を確認していた。

 それは依頼人である、ケンタウロスの祭祀長から……だけではない。

 オーロラエ地方の他のケンタウロスからも、多くの報告が届いている。

 内容は、どれも同じであった。


「今回の事件は、祭で扱う神器を孫が壊して、それをごまかそうとして暴走したことが原因だった。加害者はおらず、孫の自滅であった……という内容ですね」

「ヒクメ卿は到着前からこれを予想しており、現地に到着するや否や祭祀長へ確認させて……ことが判明した……普通なら一笑に付すところですが、ヒクメ卿の振る舞いからして、おそらく真実でしょうね」


 ガイカクはこの仕事を振られてほどなくして、何かを察していた。

 どういう論理かわからないが、彼はあの時点で『孫がやらかしてるな』と察したのであろう。

 そのうえで『もう解決しているかもしれないが』と言っていたのは、祭祀長が神器を確認すれば話が終わっていたからである。

 祭祀長の確認ミス……でもあるが、孫が倒れた後で自宅の金庫を確認するか、という話であろう。

 

 ここまでは、まあ……いや、ガイカクがどうやって察したのかはともかく、真相の究明までは筋が通っている。

 問題なのは、その後だった。


「ヒクメ卿はしばらく滞在した後帰った、とありますが……滞在中何をしていたのか、何も書いてありませんね」

「どの報告書からも『最高の対応でした』と書いてあります。おそらく、政治的な事後処理をしていたのでしょう」


 一体どんな対応をしたら、政治的に完ぺきな処理ができるのか。

 優秀の極みであり、ガイカクと同族である人間のエリート二人ですら、まったくわからないことであった。


「とはいえ、任務は完了。経費はいささか多くかかったようですが、ケンタウロス側からも対価をいただいています。騎士団に興味を持ち、参加を希望するエリートも増えたとのこと……さすがヒクメ卿、文句のつけどころがありませんね」

(文句はないが……疑問は尽きないな……)


 ティストリアは相変わらず、顧客からの言葉だけを切り取っている。

 一方でウェズンは、ガイカクの異常な処理能力に言葉が無い様子である。


(重要なのは、オーロラエ地方のケンタウロス全員が、わざわざ報告しているということだ。これはつまり……祭祀長が真実に納得しただけでなく、他のケンタウロスたちからも感謝されている……というか、アリバイ作りに協力しているようだな)


 ティストリアの表現が間違っているわけではない。

 ガイカクが政治手腕を発揮した結果、今回の一件が綺麗に丸く収まったのである。

 真実を探るよりもよほど難しいことをやった彼は、間違いなく有能であろう。

 ろくなことをしていないことだけは、確実であろうが。


「それにしても……」


 ここでティストリアは、人間味のある顔をした。


「……それにしても、ハグェ家でのパーティーに間に合って幸いです。ハグェ公爵と言えば、騎士団のスポンサー。任務ならば出席できずとも仕方ありませんが、出席することに越したことはありませんから」

(今、タイ焼きのことを考えていたな……)


 直属の正騎士であるウェズンは、ティストリアが人間味を漏らす場面を理解している。


(パーティーへ出発する前に、試運転という名目でティストリア様と……ついでに水晶騎士団を招待して、タイ焼きをふるまったからな……)


 ガイカクはドワーフに発注していたタイ焼き機を、実際に試してみようとした。

 その機会にティストリアと水晶騎士団を呼び、自分の部下の分も合わせて作って振舞っていた。

 ついでに、手品も試運転した模様。


「ヒクメ卿は今頃、ハグェ家に着いた頃でしょうね……」

(またタイ焼きのことを考えているな……)


 ウェズンも直属の正騎士として、毒見もかねてタイ焼きを食べている。

 お世辞にも上品ではなかったが、下品でもなかった。

 シンプルかつ素朴な味わいであり、かつなかなか美味であり……。

 タイ焼き機を使った調理は、たしかに絵本らしさ、童話らしさがあった。

 ちょっとしたパーティーなら、たしかに人気を狙えると彼も思う。


 だが、ここまでティストリアが入れ込んでいるのは、ある種の異常である。

 もちろん、彼女の嗜好が少し変、極端……と言う話であった。


(まあ、この程度ならいいのだが……さて、ヒクメ卿は今頃どうされているのやら)



 公爵と言えば、貴族の中で一番上に位置する。

 その屋敷ともなれば、本当に超でかい。

 王族の宮殿と比べてもそん色ないそこに、ガイカク率いる奇術騎士団は参上していた。


「げひょひょひょ……ラサル・ハグェ様、サビク・ハグェ様。お久しゅうございますぞ……ひょひょひょ!」

「うむ。ヒクメ卿、よくぞ来てくれた」

「貴殿の活躍は、我らの耳にも届いている。支援している我らとしても、実に鼻が高い」

「おお~~~……身に余る光栄にございますぅ~~!」


 道化師ムーブを強めに行っているガイカクを、ハグェ家の有力者二人は冷静に対応していた。

 かなりの悪ふざけではあるが、失礼や無礼とはまた違うので許されていた。

 だいたい、パーティーなのだから多少の悪ふざけも必要だろう。


「……団長楽しそうだなあ」

「親分、スポンサーさまにもあんな感じなんだぁ……」


 それを見ていて、切なくなる奇術騎士団、歩兵隊と重歩兵隊。

 せっかくのパーティーなのだから、紳士に振舞って欲しいところである。

 こういう時にわざとふざけるのが、ガイカクの悪いところであろう。

 もちろん、他にも悪いところはたくさんあるのだが。


「ああそうそう……こちら、私の忠実なる部下でございます」


 騎士団長への愚痴を言っているところで、その本人から『忠実なる部下』として紹介されて、歩兵隊も重歩兵隊もあわててかしこまる。


歩兵隊(にんげん)百名、重歩兵隊(オーガ)二十名……いずれも我が奇術騎士団における、主力と言って過言ではありません。先日のライナガンマ防衛戦では惜しくも選抜から除外されましたが、カマナッカ平原の戦場では三ツ星騎士団と共に誰よりも危険な持ち場を死守し、戦績へ貢献いたしました」

「ほう……では彼女らが、ガゲドラの側近たちと相打ったという……」

「勝負、勝敗は時の運。弱い敵に勝つよりも、強大な敵と引き分ける方がよほど難しい。その立役者に会えるというのは、光栄だ」


 さすがは公爵であろう。

 ハグェ家の二人は簡潔かつ丁寧に、ガイカクの部下を褒めていた。


「~~~~!」


 これには全員、おもわずにやける。

 全身が波打つように身ぶるいし、顔を赤らめていた。


 何がこんなに嬉しいのかと言えば、何一つ嘘が無いということだ。

 勝利にこそつながらなかったが、死に物狂いで頑張ったことが評価されて、感極まった顔をしている。

 実に初心な、しかし真面目な騎士であった。


「なるほど……ただ騎士団に属しているだけ、名義を置いているだけの名ばかり騎士など、招待に値しないが……それほどの戦績をお持ちならば、歓迎しないわけにはいかないな」

「来賓たちにも胸を張って紹介できる。ヒクメ卿は、良い部下をお持ちだ」


「げひゃひゃひゃ! さすがの私も、一人では何もできませぬよぉ……汚れ仕事、危ない仕事を請け負ってくれる彼女らあってこそ、騎士団でございます……持ちつ持たれつでありますなあ……ひゃひゃひゃ!」


 あえて傲慢な振る舞いをするハグェ親子に対して、ガイカクもより一層おどける。

 その小芝居を見て、奇術騎士団の面々はますます興奮し、呼吸が荒くなっていく。

 無礼千万に、踊りだしてもだえそうになるほど、彼女らの感情は高ぶっていく。

 でも、もっと褒めてほしい。そう思ってさえいた。


「謙遜が過ぎますな。聞けば先日、オーロラエ地方で起きたケンタウロスたちのもめ事を、見事に仲裁したそうな」

「それも……我らの時と同じように、一人で解決したとか」

「おや、ご存じでしたか。これはお恥ずかしい……」


 なお、シームレスにガイカクが褒められ始めた模様。

 歩兵隊と重歩兵隊は、直立不動のままがっかりしていた。


「総騎士団長殿から、急な任務が入ったため、貴殿が出席できないかもしれない……という連絡をいただいてな。私も父も、少々困っていたのだよ」

「ひゃははは! 私の如き胡散臭い小物が出席せずとも、ハグェ家のパーティーに招待されるだけで大喜びでしょう!」

「いや、それがな……」


 ハグェ家の有力者二人は、少々恥ずかしそうな顔をしていた。


「貴殿との縁を結ぶことになった、あの本に絡む事件……その際に、出席者を長期軟禁していたのでな」

「しかも、犯人が雇っていた料理人で、外部とは何の関係もないと来た。表立って不満をぶつけられることはないが、あまり好意的に思われていなくてな……」

(なんか、ケンタウロスの時と同じな感じだな……)


 先代公爵サビク・ハグェの非嫡出子が殺されたため、その犯人を見つけ出すべくガイカクが招集された。

 ガイカクはエンタメを織り交ぜつつ犯人から自白を引き出したため、その知略の評価は大いに高まった。

 だがハグェ家全体は、信頼を損なっていた。


「そんな我が家の強みは、支援している奇術騎士団が躍進していることだ。あんなことがあったにもかかわらず、貴殿が出席するのなら自分も……という家が多いのだよ」

「貴殿の多才ぶりは、既に国境さえ超えているそうだ。パティシエとしても、酒職人としても、手品師としても、医者としても、翻訳者としても、他に類を見ない実績を持つと聞いているよ」

「……こ、これがお二人から以外であれば、『俺は騎士団長だ! 他の仕事はしない!』と怒るところですが……す、スポンサー様ですからねえ……げひゃひゃひゃ!」


 予想外なことに、ハグェ家はガイカクを必要としているらしい。

 ガイカクも信頼できるスポンサーが没落すると困るので、割と顔を引きつらせていた。


(座興になればと思って持ってきた品が……まさか必須であったとはな……気合を入れていくか!)



 野外に準備された、とても広いパーティー会場。

 本格的なパーティーはまだ先だが、下準備としてガイカクはここを訪れていた。


「当日は、ここに何百という来賓を迎える予定だ。本来であれば貴殿も来賓の一人、主役であるが……」

「来賓は貴殿の『手品』に期待を寄せている。それに応える何かを、用意してほしい」

「ひっひっひっひっひ! お任せください、準備をしてきましたので……」


 なんでも用意しておくもんだなあ、と思いつつ……。

 ガイカクはまず、大きめの酒樽をいくつか持ち込んだ。


「こちら、奇術騎士団印の密造酒にございます」

「ほう、コレが噂の密造酒か」

「貴殿の密造酒は、利き酒の名手を狂乱させるほどだと聞くが……まさか目にできるとはな」


 騎士団が酒を密造して、それを公爵家のパーティーに出すことへは、もはや誰も突っ込まない。

 これを売りさばいて巨万の富を築いているのなら話は別だが、そんな話はまったくなかった。

 むしろ幻の酒であるため、スポンサーであるハグェ家のパーティーでもなければ手が届かないのである。


「この酒はどんな料理や肴にも合いますが、ここは公爵家。専門のソムリエがいらっしゃると思いますので、その方に一度確認していただきたいですね」

「もちろんいる……来なさい」


「はっ!」


 ソムリエといえば、お客様へワインを提供する仕事である。

 大抵の場合は料理に合うワインを用意するが、今回はガイカクの持ち込んだ密造酒に会う料理を提案することとなっていた。


 なのだが、その『ソムリエ』が十人ぐらい来た。

 全員が、試飲する構えである。


「……多くないですか?」

「う、うむ……貴殿が来ると聞いて、ソムリエの他にも醸造所やブドウ農家、樽職人なども試飲をしたいと申し出てな……問題があるかね?」

「いえ、そんなことはないのですが……本職の方に試飲されるのは。気恥ずかしいですな」


 たとえるのなら、日曜大工で作った机を、本職の家具職人に見られるようなものだろう。

 それなりの自信作ではあるが、本職には遠く及ばないとも自覚している。

 だからこそ、ガイカクは恥入っていた。


「では……お、おおお! これはまさしく、キャララ……若いキャララ!」

「原木が絶滅し、もう拝めないと思っていたが……」

「噂は本当だったのか……これが、キャララ……三大奇酒、キャララ……!」


 その一方で、専門家たちは大いにうなっていた。

 ガイカクの密造酒を試飲して、大いにうなっていた。


「……そのなんだ、ヒクメ卿。これはそんなに有名な酒なのかね?」

「ええ、まあ。知る人ぞ知る奇酒、キャララです。醸造に『キャララ』という木で作った樽を使うのですが、その原木が伐採され過ぎて絶滅していましてね……」

「ではなぜ貴殿は作れるのだ。まさか本のように、もっている、と言うわけでもあるまい」

「いえいえ、苗木を持っております。大量生産は利きませんが、楽しむ分には不足が無いかと」

「ほう……貴殿は何でも持っているな」


 ラサルもサビクも、試飲をしている。

 二人とも美味しそうにしているが、そんなには驚いていなかった。


「キャララか……昔飲んだ覚えがあるが、さて……こんな味だったかな」

「父上は、飲んだことがおありなのですね」

「うむ……しかし前のことなのでな。正直、違うのかもわからない」


 過剰に驚かない一方で、これをパーティーに出すことに反対することはなかった。


「だが良い酒だとは思う。癖もなく、強くもなく、料理にも合いそうだ」

「その評価で十分でございますよ。来賓の皆様にも、特に構えず楽しんでいただきたいですなあ」


 あとはソムリエの人たちが、この酒に合う料理を選んでくれるだろう。

 そう思っていたのだが……。


「ヒクメ卿……恐れながら、この酒を造ったのは貴殿……というのは、本当ですかな?」

「え、ええ……まあ、はい。恥ずかしながら」

「も、もったいない!」


 専門家たちが、感極まっていた。

 全員が泣いており、全員が不満を持っていた。


「キャララの原木を使っているのにも関わらず、それが素人の作とは……!」

「我らに任せていただければ、完璧な仕上がりにできるというのに……!」

「惜しい、余りにも惜しい……!」


 困った様子のガイカクを、じろじろと見ている。

 それこそ、原木のありかを追求したくてたまらない様子であった。


「み、見せびらかすような真似をして、申し訳ありません……」


 ガイカクは、『よし、見せびらかせよう』と思ったら、大いに見せびらかす男である。

 だがその気が無いのに周囲が反応すると、恥入ってしまう男である。


「気に病むことはない、これもまた貴殿の強みであろう? それよりほかにも出していただけるものがあるのなら、お願いしたいが」

「タイ焼きを用意しております。いくつか『アン』も準備をしておりますので、こちらもご賞味いただければ……」


 この後、シェフやパティシェから様々な種類の餡について興味を持たれるのだが……。

 やはり、売るほど作っていない、でなんとかしのぐのであった。



「ガイカク・ヒクメ……騎士団長にしておくには、余りにも惜しい……!」

「農家に転職してくれないだろうか……大農園を経営してくれないだろうか……」



 祝われに来たはずなのに、全然そんな気がしないのであった。



(なんかすげえことを言われている気がするぜ……)

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