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騎士団随一の智嚢、奇術騎士団団長ガイカク・ヒクメ。
黒い噂とどす黒い噂しかない、得体のしれない怪物。
その悪名は、オーロラエ地方にも届いていた。
彼がここに来るということで、若きケンタウロスたちも興味津々。
大人のケンタウロスたちも期待と警戒を入り混じらせつつ、彼の到着を待ち……。
そして祭祀長は、誰よりも前に、気を逸らせながら待っていた。
今か今かと待ちわびていると、とろとろと進む馬車が視界に入ってきた。
その馬車は奇術騎士団の旗を掲げており、その所属は明らかであった。
それが目に入った瞬間、祭祀長をはじめとして多くのケンタウロスが駆けだした。
それは周囲からすれば、とても恐ろしい光景であろう。
大量のケンタウロスが一斉に駆けだし、一台の馬車を包囲するように進撃するのだから。
実際、馬車を曳いていた馬は大いに慌てていた。
それを御者は……フードをすっぽりとかぶっていた御者は、やんわりとなだめた。
そのうえで、ゆっくりと馬車を降りる。
「揃ってのご歓待、ありがとうございます。私、ティストリア様より派遣されました、奇術騎士団団長、ガイカク・ヒクメにございます。この度は祭祀長様のお孫様が、毒に倒れた事件に関して、一助になればと参上仕りました」
「うむ、よく来てくれた! それではまず、我が孫の元へ向かって欲しい! 知恵者である貴殿なら、我が孫を陥れたものを調べることもできましょう」
食い気味に話しかけてきたのは、やはり祭祀長であった。
孫がいるだけに年長の彼であるが、その意気ごみには勇猛ささえ思わせる。
その彼に対してガイカクは……。
「どうやら、まだ事態は動いていないようですね」
すこしだけ、ピントのずれた話をした。
それを聞いても、ケンタウロスたちはそこまで驚かない。
なにせ孫が意識を取り戻せば、それだけで終わる話だ。
実際、もうすぐきちんと目覚めそうでもある。
だからこそ、ガイカクの発言はそこまでおかしくない。
だが、次の言葉は、明らかにおかしかった。
「では祭祀長殿。私はまず、ここを動きません」
「はあ?!」
「その間に、確認していただきたいことがあるのです」
ガイカクは趣旨のずれたことを願ったのだ。
「『バリウスニスの弓』を確認していただきたいのです」
いや、ただ趣旨がずれているだけではない。
ケンタウロスの神器である『バリウスニス』は、たしかに弓だ。
だが『バリウスニスの弓』という言い方は、『高級車の車』みたいな言い回しである。
意味が通じないわけではないが、正しくはなかった。
そして奇妙なことに、祭祀長はそれを訂正しなかった。
「……なぜ?」
「今私が到着したから、ですよ。私が到着して作業をしている間に『事態』が明らかになれば、あらぬ疑いをかけられかねませんので」
それを聞いた祭祀長は、顔色を少しばかり変化させた。
ただ怒っただけでだとか、ただ笑っただけだとかではない。
まず何かに気付いて、次いで怒って、しかし慌てたのだ。
「貴殿はこの事件を、そういうものだとお考えで?」
「筋は通るでしょう? それになにより、逆に最初につぶしておくべき可能性だ」
「……貴殿が智嚢であることは理解した。しかし、それは……いや、たしかに、それは最初につぶしておくべき可能性ですな」
神器であるバリウスニスを、『バリウスニスの弓』と言っただけで、二人はある程度の意思疎通が成功しているようであった。
祭祀長は、すこし不満そうに、しかしガイカクに背を向けた。
「お前達、ここで待っていろ。間違っても、彼から目を放すな」
そうして彼は、大急ぎで走っていく。
残されたケンタウロスたちは、何が何だかわからない。
「……その、なんだ。何がどうなっているんだ?」
「さて? 私自身、確証があってここに来たわけではありません。しかし……一番証明が簡単なことでもある」
ケンタウロスたちからの質問に、ガイカクは返事を濁した。
ただでさえケンタウロスたちは、人間より背が高い。
そのケンタウロスたちに囲まれてなお、彼は飄々としている。
その一方で、ふざけてはいなかった。
彼が推測を語らないことにも、それなりの理由はあったのである。
だがそれが無意味であったことは、次の瞬間にわかってしまった。
「あ、ああああああああああ!!」
祭祀長の声が、遠くから響いてきた。
それは孫が死んだ報を聞いたというよりも、自分の家の花瓶が割れたとかそういう絶叫であった。
それを聞いてケンタウロスたちは、一気に顔を強張らせる。
そしてガイカクは、にやりと笑っていた。
「はい、真相は明らかになりました。どうやら祭祀長殿も、納得してくださったようで何より何より」
成人したケンタウロスたちは、困惑した顔でガイカクを見つめる。
彼が何を予測していて、祭祀長と何を共有していてたのか。
彼らには、まったくわからない。
その一方で、若者たちは走り出していた。
「おいおいウソだろ……!」
「つまりあれだろ……バリウスニスが壊れてたってことか?!」
「くそ、冗談じゃない!」
彼らにとって孫をどうにかした犯人などどうでもよかったが、バリウスニスが普通ではないのなら、それこそ大ごとだった。
彼らはその俊足で祭祀長の家へ向かうと、そこにはうろたえた様子の見張り番たちと、建物の外へ出てきている祭祀長の姿があった。
「あ、ああ……」
祭祀長は真実を知って、絶望した顔をしていた。
彼の手には、蓋のとれた箱と、へし折れている弓があった。
美しい、黒い弓だった。
※
さて、ここではっきりと言おう。
バリウスニス、あるいはバリウスニスの弓は、たしかに祭祀長の家で保管されていた。
その祭祀長の家は見晴らしのいい土地に建っており、常に見張りが立つことで鉄壁の防犯体制になっている。
ここから物を盗み出すには、それこそ力技に打って出るしかない。
だがそれをすれば、ことは露見する。そうなっていないのだから……。
見張り番が買収されていたのでなければ、誰かがこの家に入り込んで、へし折って、出てきたということになる。
悲しいことだが、壊すだけであれば、盗み出すよりずっと簡単だ。
問題は、誰がどうしてこれをへし折ったのかと言うこと。
なぜガイカクや祭祀長は、その犯人に見当がついているかのように振舞っているのか。
そして、今回の事件となんの関係があるのか。
ケンタウロスたちからすれば、別の事件が起きたようにしか見えない。
なんの関係性もない二つの事件が、同時に起きたとしか思えないのだ。
「さて、祭祀長殿。こうなったからには、真実は明らかでしょう。貴方から話してもよいのでしょうが、ここは私から話しましょうか?」
祭祀長の家の前で、ガイカクとケンタウロスたちは集まっていた。
呆然として箱を抱えている祭祀長を、全員で取り囲んでいる状態になっている。
見張り番たちはすっかり青ざめており、自分たちが失態を犯したのではないか、と気が気でない様子であった。
「……早く話してくれ。俺たちは気が立ってるんだ、演技に付き合う気はない」
その中で、若いケンタウロスたちは話を促した。
もうこうなっては、祭祀長などどうでもよかったのだ。
ガイカクはにやりと笑いつつ、事の真相を明かし始めた。
「まず皆さんには、前提から話さなければなりません。この箱に収まっている『バリウスニスの弓』ですが……」
「いや、バリウスニスという名前の弓じゃないのか? なんで『バリウスニスの弓』と呼ぶんだ」
「……なるほど、そこからですか」
ここで若者たちから、訂正が入った。
訳知り顔の男が見当違いなことを言っていたら、訂正したくなるのがヒトの心であろう。
だがガイカクは、むしろ彼らの方が間違っているのだと解説する。
「ではバリウスニスとは何なのか、ご存じですか?」
「弓のことだろう?」
「ではその語源は?」
「知らん……親父たちなら、知っているかもしれないが」
「いやいや、俺達も知らんぞ。それこそ、祭祀長ぐらいじゃないか?」
若者が大人へ確認をするが、大人たちは語源など知らないと語る。
そうして視線が祭祀長に集まるのだが、やはり彼は何も語らない。
「そもそもバリウスニスとは、バリウスという人が作ったニスなのですよ」
「……ニス?」
ニスと言えば、木材用の塗料であろう。
つやを出すだけではなく、木材を保護する効果もある。
バリウスニスがそれだというのなら……。
「じゃあなにか? 俺達が『バリウスニス』だと思っていたのは、『バリウスが作ったニスを塗った弓』だったってことか?」
「まあそうですね」
思いのほか、シンプルな語源であった。
シンプル過ぎて、誰も異論をはさまない。
祭祀長も否定しないので、真実ではあるようだった。
まあ、正直どうでもいいことである。
なのでケンタウロスたちも、とりあえず黙った。
「ここからが重要なのですが……バリウスニスの原材料は、コブラリコリスなのですよ」
「……はあ!?」
「おそらくですが、祭祀長殿もそれはご存じだったはず」
ガイカクの質問に、祭祀長は力なく頷いていた。
「……祭祀長に、代々受け継がれていた『禁』じゃ」
「ケンタウロスの法に触れる知識、と言うわけですね。まあ私からしても、納得の掟ですが」
ここまで話して、察しのいいケンタウロスたちは『あ』と気付き始める。
そうこの前提知識があれば、話はものすごくシンプルにまとまるのだ。
「そのことを、お孫さんは知っていましたか?」
「うむ……製法もふくめてな」
「この祭祀長の家に出入りをするのは、貴方とお孫さん以外に誰かいらっしゃいましたか?」
「……おらぬ」
「見張りの方、どうですか?」
ガイカクは遠巻きにこちらを見ている見張り番に確認をした。見張り達は、あわてて首を振る。
怪しい人物の出入りどころか、入っていたのは住人である祭祀長と孫だけだという。
「お孫さんに、その弓は見せましたか?」
「うむ……少し前にな」
「それを触らせましたか?」
「まさか……触りたがったが、止めた。コレを使っていいのは、祭で優勝した者だけだとな。孫が大きくなって、大会に出られる歳になって、頑張ったらと……」
「そうですか、では失礼……」
ガイカクは懐から、大きな綿毛のようなものを取り出した。
そして祭祀長が抱えている箱に入っている、折れた弓にポンポンと当てる。
すると、子供の掌の跡が浮かび上がっていた。
掌紋、指紋を確かめるまでもない。
明らかに、子供がつかんだ跡であった。
「バリウスニスを塗った弓は、とても頑丈になります。だからこそ、年に一度とはいえ使っていたにもかかわらず、長年にわたって残り続けた。しかし、それでも経年劣化には勝てない。まして、子供の力とはいえ……本来の弓と違う力のかけ方をすれば……まあ折れますね」
頑丈な弓だと聞いていたら、実際に確かめたくなるのが人情であろう。
いや、子供とはそういうものであろう。
大人も若者も、それを聞いて納得せざるを得ない。
「さて、今更ですが、事の真相はこうです」
ガイカクは、時系列通りに話を始めた。
とはいえ、もう全員が理解していることではあったのだが。
「祭祀長からバリウスニスの弓について説明を受けたお孫様は、触れないことを不満に思い、祭祀長の目を盗んで箱を開けて、バリウスニスの弓で遊び始めた。そして壊してしまった」
祭祀長の家に入っていたのが二人だけで、子供は祭祀長の孫だけ。
ならば犯人は、その孫なのであろう。
「パニックになった彼は、ひとまず弓を箱に戻した。しかし祭りが始まれば、嫌でも事態は明らかになる。その上、犯人が自分であることは余りにも明らか」
それは孫自身もわかっていたのだろう。
だからこそ、大いに慌てていた。
「そこでお孫様は、祭祀長から聞いていた製法通りに、コブラリコリスの花を採集して『バリウスニスの弓』を複製しようとした。まあ実際にバリウスニスを作ることも、塗る弓の方も準備できるとは思えませんが……子供ですからね。そして、彼はそのまま倒れた」
あまりにも、筋が通っていた。
祭祀長自身も、それを認めていた。
本当に、子供の悪戯だったのだ。
そして加害者も被害者もいなかったのだ。
「バカな孫が自滅したってだけかよ……けっ」
「乱暴な言い方ですが、まあそうですね」
ケンタウロスの若者の暴言を、ガイカクは認めた。
実際、巻き添えをくらった方、あらぬ疑いをかけられた方はたまったものではない。
「あ~~、まあ、しょうがないだろう。子供なんて、そんなもんだ」
「まあ罰をくれてやりたいが、もう何日も毒でうなされてるんだ。もう十分だろ」
「バリウスニス……じゃなかった、バリウスニスの弓が壊れたのは残念だが……まあ壊れちまったもんはしょうがないだろう」
真実が明らかになったことで、大人たちは大人の対応をした。
毒で倒れた『犯人』と、憔悴しきっている祭祀長本人。
それをみて、これ以上の追及はできなかったのだろう。
「待てよ」
だがここで、若者たちの中心。
若きケンタウロスのエリートたちは、異を唱えた。
「親父たち、話をちゃんと聞いていたのか? バリウスニスの……じゃなかったバリウスニスの弓の……いや、この場合どっちもただしいが、とにかく製法はわかってるんだろう」
「じゃあもう一本作ればいいじゃないか。いや、この際何十本でもな」
若きエリートたちは、野心に燃えた目をする。
製法が明らかで、原材料も近くにある。
それなら、新しい『バリウスのニス』が作り放題で、それを使った弓も作り放題ではないか。
彼らはそう提案したのだが……。
「無理じゃ」
祭祀長が、力なく反発した。
「たしかに、祭祀長は代々製法を伝えておる。しかしそれは……作れるという意味ではない」
「どういうことだよ」
「それは……その……」
煮え切らぬ祭祀長。
それに対して、若者たちは苛立つが……。
「祭祀長殿。隠したい理由はわかりますが、こうなってはもう無意味ではありませんか」
ガイカクは祭祀長に寄り添いつつ、しかしはっきりと方針の変更を申し出た。
「理由はどうあれ、貴方はバリウスニスの弓を守れなかった。これは『祭祀長』としての失態でしょう。それに原材料が明らかになっている時点で、隠す意味も半分以上ない」
「そうじゃな……では、頼む」
「わかりました、では私が説明しましょう」
祭祀長の一族が『バリウスのニス』の製法を代々語り継ぎ、しかもそれを隠してきた。
これはケンタウロスの掟であり、つまり製造することを禁じてきたということ。
実はこの法律……ケンタウロスに限ったことではないのだ。
「我ら人間の国でも、『バリウスのニス』の製造は禁じられています。これには理由がありまして……」
世の中には、文化や風習、価値観に根差した法律というものがある。
これは別の地域で暮らす者、あるいは世代をまたぐ者からは理解できない法律になってしまう。
だが複数の地域を跨いでいる、共有されている法律というものもある。
それは大抵、確固たる理由があるのだ。
「原材料であるコブラリコリスが、有毒であることは皆さんもご存じでしょう。ですがバリウスのニスを作るには……いや、正しく言うと……バリウスのニスを作ると、大量の危険な廃液が生じてしまうのです」
毒草を精製すると、猛毒が生まれる。
これはわかりやすい理屈であり、誰もが納得せざるを得なかった。
「この廃液、飲むと死ぬとかそういうレベルではありません。地面にぶちまければ、塩害ってレベルではないほどに大地を汚染します。これを処理するには長い年月が必要であり……その処理をせず、海に捨てたり川に捨てたりする輩が現れたため、人間の国では製造が禁止されたのですよ」
「ケンタウロスの掟ができたのも、同じようなものじゃ……。ゆえに、バリウスのニスに必要な原材料すらも、祭祀長だけの禁としていた。欲しがるものが、バカをせぬためにもな」
こういわれると、若者たちも困る。
実際この場で発言していない者の中にも『後で試してみようかな~~』と思っていたバカが結構いたのだ。
こうなれば、誰もが沈黙せざるを得ない。
「ゆえにわれら祭祀長は……製造してはいけないという意味で、製造法のリスクを伝えてきた。実際に作ったことなど、一度しかない。この、保管されている弓を除いてな」
「賢明な判断ですよ、祭祀長殿。所詮は多少頑丈でキレイなだけのニス。それの為に、土地を犠牲にしては意味がない。世の中には、正しい廃液の処理法を知っていても、無視して雑に行うものばかりですからね」
正しい処理法が広まっていても、それを面倒がる者など大勢いる。
だからこそ、製法そのものを禁じるというのは、それなりに合理的だった。
「さて、真実は明らかになりました。それでは私はこれで……」
ガイカクは、わざとらしく挨拶をした。
そして、演劇のように、ダンスのように、くるっと方向を転換しようとする。
「おい、待てよ」
その彼へ、若きエリートたちが話しかけた。
「お前、そこまで話せるってことは……最初から廃液の処理法を知ってるな?」
「ええ、もちろん」
「で、お前……ここに来る前から、孫がバカをしたって見当をつけていたな?」
「ええ、もちろん」
「でっかい馬車を持ってきたが、それの中に廃液を処理するための準備をしてきたな?」
「ええ、もちろん」
ガイカクは、待っていましたとばかりに、獰猛な笑みを浮かべた。
「ですが……まさか私に、騎士団長である私に、違法行為をしろと?」
物凄く邪悪な、まさに悪人の顔をしていた。
「一応言っておきますが、私が持ってきた薬品、それ自体は合法のものです。私が運搬してきたものは、ご法度ではありません。しかしバリウスのニスを作るとなれば、それは思いっきり違法。魔導的に正しく処理をするとしても、法を犯していることに変わりはない」
魔導的に、あるいは安全面で問題が無いとしても……。
法的には、思いっきり大問題である。
「それも、人間の法ではない。ケンタウロスである、貴方たちの法律です。しかも……土地が毒されるかもしれない、というわかりやすいデメリットまである。それでも作れと、おっしゃるのですかね?」
白々しいとはこういうことか。
毒を抽出したというバリウスのニスの廃液も、ここまでの毒は含むまい。
悪の中の悪は、正論を説いていた。
「きゃ~~! 大問題!」
「てめえ……」
「ですが!」
ガイカクは、あくまでも邪悪に笑っていた。
若者に対してではなく、祭祀長に対してである。
「その大問題を背負うに値する、罰を受けるべき方がここにいらっしゃる。私にとって、とても好都合なことにね」
「……何が言いたいのじゃ」
「交渉ですよ」
そしてガイカクは今回の件について、ティストリアから自分が何とかすると、あえて進言していた。
「この地域をまとめてくださる貴方たち祭祀の一族が失脚することは、騎士団としても好ましくない。ですが、我らを巻き込んでまで問題を大きくした祭祀長や後継者を、ケンタウロスたちは信頼しきれない」
今回もガイカクは、違法行為をもって問題を解決するつもりであった。
「どうでしょうか、祭祀長殿。今回の責任をとるために、貴方たちがコストやリスクを負う、というのは」
「具体的に……なにをすればいい」
そしてそれは、祭祀の一族こそが望んだもの。
ここでなあなあで済ませても、信頼は失われて戻らない。
ここにいる次世代の者達は、誰もが祭祀の一族を軽く扱い、相手にすることはないのだ。
それを避けるには、今ここで責任をとるしかない。
「まず第一に! 私がバリウスのニスを作ることを黙認し、これを騎士団に報告しないこと! もちろん他の方にも周知徹底していただきますが、依頼人でありこの地の法を守る貴方にこそやっていただきたい」
「……それは、もちろんだ」
ガイカクは、まず法的な問題をクリアした。
クリアしたというか、まず法を思いっきり無視した。
それでも一応手順をふんでいるのだから、笑えない。
「第二に! バリウスのニスを作る時に生じた廃液を、貴方達の土地で保管すること! 私はもちろん適切な処置をしますが、それでも五年間は密閉のまま保管していただく。これが盗まれる、あるいは破壊されるとしても、それは貴方たちの責任ということにしていただく」
「……ああ、甘んじて受け入れよう」
バリウスのニスを作ることで生まれる廃液は、もはや危険な魔導兵器である。
それが無害化するまで、責任をもって預かる。
なるほど、贖罪には十分だろう。
高いリスクが伴うからこそ、祭祀の一族には有難いことだった。
これを達成すれば、信頼は多少なり取り戻せる。
「最後に! 祭祀の一族には、労働をしていただく」
「労働?」
「ええ。実は私は大勢の『女』を手元に置いていましてね……しかし、多過ぎて、プレゼントを渡す余裕がない」
ここでガイカクは、『設計図』を懐から取り出して祭祀長に渡した。
「私の女の為に、ブローチを作っていただきたい。騎士の業務外、法律外の仕事への報酬というわけですな」
「そ、そうか……まあ、それぐらいなら、たやすいことじゃが……」
「百人分です」
「……た、たやすくなさそうじゃな」
「まあお願いしますよ、こっちもそれぐらいには大変なんで」
ここでガイカクは、周囲を見た。
祭祀長以外の、ケンタウロスたちである。
「この条件を祭祀長殿が飲んでくださりましたので……バリウスのニス……作らせていただきます」
大人たちは、苦笑いしつつ。
若者たちは、鼻息荒く納得した。
「アンタ、最初からそのつもりだったな」
「ええ。ケンタウロスの作る最高のブローチを、バリウスのニスで塗れば……最高のプレゼントになりますからね。法律外のことをするのなら、これぐらいの『チップ』は頂かないと」
「……なるほど、知恵者だぜ。おまけに、女たらしだ」
「お嫌いですか?」
「いや……アンタが来てくれてよかったよ」
まあつまり……誰もが合法を求めているわけではないのであった。
英雄女騎士に有能とバレた俺の美人ハーレム騎士団 ガイカク・ヒクメの奇術騎士団
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