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一生の思い出

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 ライナガンマ防衛に成功、出発した翌日には十万の敵を撃退。

 という報告が軍のトップに届いたのは、およそ五日後のことであった。


 想定をはるかに超える良い結果に誰もが困惑しつつ、しかし安堵していた。

 都合のいい情報過ぎて、誤報かと思ったほどである。


 だが多くの騎士からの報告書が同封されていたため、信ぴょう性は高かった。


「豪傑騎士団の報告は相変わらず……誰が誰を倒したか、という戦果しか書いていないな……いやまあ、それはそれで大事だが、他のことも書いてほしい」

「その点、水晶騎士団の報告書はありがたいな。気球内で何があったか、気球をどう使ったのかも書いてある」


 水晶騎士団正騎士、アルテミス。

 彼女がまとめたレポートを、全員で回し読みにする。

 それは奇術騎士団が制作した気球の運用法であり、それを操るガイカクのスキルについてであった。


「……まとめるとこうだな。ヒクメ卿が言うように、今回のようなケースを除けば、気球の空輸による作戦は現実的ではない」

「運べる人数が少ない、気候というリスク……墜落すれば全滅。なるほど、危ない橋だったな」

「そこまで上手くいって、ようやく……いや、それでも素晴らしい戦果だな」


 アルテミスのレポートでは、これを即座に大量生産して大量運用、というのは現実的ではないと結んでいる。

 仮にガイカクから設計図を盗み出すなりして、無理矢理大量生産しても、結局は持て余すということだ。


「今回の作戦が上手く行った理由は、やはり奇術騎士団の気球と、ティストリア閣下の指揮があったからこそ。全騎士団が、そういっているな」

「やはりというか、我らが見たとおりに……ヒクメ卿とヘーラ卿、それからルナ卿は上手くいかなかったらしい」

「オリオン卿は、以前の失態を引きずって、強く出られずにいるからな……」


 そして……今回の武勲は、間違いなく大きい。

 ただ十万の敵を退けただけではなく、ライナガンマへの被害を極力抑えた上での勝利だ。

 これによって騎士団全体の株が上がり、さらにティストリアの株も大いに上がる。

 よって、彼女の発言力はより増していくのだろう。


「やはり我らは、この結果を良しとして受け入れよう。これ以上を求めれば、金の卵を生むガチョウを殺すことになりかねん」


 そして軍のトップたちは、今回の結果で満足することとした。

 これ以上望むべくもない結果である。その立役者である奇術騎士団へは、敬意をもって放置と静観を決め込むべきであろう。



 今回の報告は、騎士団総本部にも届いていた。

 現在本部で待機している従騎士、および歩兵隊(にんげん)重歩兵隊(オーガ)はそれを聞かされることになる。

 話すことになったのは、総騎士団長代理を務める、貝紫騎士団団長セフェウであった。

 彼は自分たちの仲間を送り出した面々へ、嬉しい報告をするのであった。


「すでに聞いている者もいるかと思うが、今回のライナガンマ防衛戦は……こちら側の勝利となった。幸いにも、騎士団内での犠牲者はいなかったらしい。奇術騎士団による気球の運用に加えて、ティストリア様を筆頭とする騎士たちの奮戦によるものだそうだ」


 大都市の防衛線なのだから、何日続いても不思議ではない。

 今も戦っているのではないか、今飛び出せば間に合うのではないか。

 そう思っていた従騎士たちは、この結果を喜び合っていた。


「いやあ、さすがはウチらの正騎士サマ、騎士団長サマだぜ!」

「ライナガンマは守られたか……俺の友達は、無事だといいんだが……」


 豪傑騎士団の従騎士たちは、なんとも兵士らしい反応をする。

 軍人からのたたき上げである、彼ららしい反応であった。


「うわ~~ん!! もう全員死んじゃってるかと思ったよ~~!」

「縁起でもないこと言わないでよ! いやまあ、ありえたけどさあ……」

「みんなが無事でよかったわ~~……本当にね」


 水晶騎士団の面々は、なんとも和やかな、若い女子らしいものである。


「……そっか、勝ったのか~~……あああ! やっぱり私たちも行きたかった~~!」

「きっと、凄いドレスを着て、凄いパーティーに出席して、とんでもなく褒めちぎられて、素敵な体験をするんだろうな~~!」


 そして奇術騎士団は、なんとも野心溢れる反応をしていた。

 もちろん仲間の無事を知って喜んでいるのだろうが、それを超えるほど妬ましいらしい。


 そんな三つの騎士団の反応を、三ツ星騎士団の従騎士、そして貝紫騎士団の面々は苦笑いしつつ眺めていた。


「まあ、彼女らの言っていることも、間違ってはいない。今頃ライナガンマでは、騎士団を主役にした、祝勝会が開かれているでしょうね」

「出来れば早く帰ってきてほしいが、これも広報か……」

「いやいや、これも報酬ですよ」


 自分達の仲間が勝利し、生還し、周囲から褒めたたえられている。

 三ツ星騎士団も貝紫騎士団も、遠くの空で元気にしている仲間を思うのであった。



 ずらり、どんどんどん!

 と並ぶ、大量の服。


 現在奇術騎士団は、大きな屋敷の中に運び込まれた、多くの服に囲まれていた。

 どれもが各種族用のパーティードレスであり、一着一着が超高級品であった。

 それを前に、奇術騎士団の面々は黄色い声を上げる。


「ほ、本当にいいんですか? この服、好きなだけ着ていいんですか? 貸してもらえるとかじゃなくて、もらえるんですか?!」

「うぉおお! ドワーフ用のドレスがこんなに……ヤバいぜ、いいのか?!」

「ダークエルフ用のドレスって、こんなのだったんだ……知らなかった、初めて見た」

「わ~~! 可愛い~~!」


 騎士団設立以来、一度も給料をもらったことが無い奇術騎士団。

 彼女たちは自分たちが無一文であることをアピールしつつ、この服を持ってきた人に確認をしていた。


「ええ、もちろんでございます。皆様だけではありません、他の騎士団の皆様にも、それぞれに準備をしておりますので、ご心配なく」

「このライナガンマを救ってくださった騎士団の方から、お代などいただけません。どれだけお持ち帰りいただいても、かまいませんよ」

「我らからの、ほんの気持ちにございます」


 この服を提供したのは、この街で大商人と呼ばれるような名士たち。

 彼らは本当にうれしそうに笑いながら、大喜びする奇術騎士団を見ていた。


「騎士団長殿、貴方はよろしいので?」

「私はこの服が好きでしてね。それに、ウチは人数が多い。この上自分まで、いただくわけにはいかないでしょう」


 ガイカクだけは、服をもらうことを辞退していた。

 なんなら、申し訳なさそうな顔さえしている。


「というよりも……できれば代金を払いたいぐらいです。厚意に甘えるというのは、私の信義に反する。私は黒い噂の絶えない男ですが、あさましい真似だけはしたくない」


 任務で助けた相手から、過剰にお礼をもらうというのは、彼の主義に反するらしい。

 そしてこの状況は、過分であると考えているようだった。


「そうはおっしゃいますが……今回、騎士団の方は着替えなどもたずに飛び出してきてくださったのでしょう。その状態で祝勝のパーティーに参加していただくなど、心苦しい」

「ライナガンマが招待したパーティーに出席していただくため、ライナガンマで服を購入してもらう……など、詐欺も甚だしいかと」

「今回のパーティーで出すお料理やお酒で、お代をいただくわけではない。それと同じでございます」

「そうですなあ……どうしても気が進まないのであれば、対価として『奇術騎士団御用達』の看板を許していただければ」


 一方で名士たちは、どうしても代金を受け取りたくない様子である。

 奇術騎士団に、すこしでも何かを送りたいようであった。


「良いのですか? 我が奇術騎士団は、黒い噂とどす黒い噂の絶えない騎士団ですよ?」


「構いませんよ……それに、ライナガンマでそんなことを言う輩こそ、石を投げられるに値する」


 そこには、新事実だとか、隠された真実だとか、そんなものはない。

 騎士団が自分たちを助けに来てくれた、という一点だけで、彼らは感謝しているのだ。


「……私の息子や孫も、今回の防衛線に参加する予定でした。この都市が陥落せずに済むとしても、それまでに死んでいるかもしれなかった。それを助けてくださったのは、身を捨てて敵を撃退してくださった皆さんのおかげ」

「早い仕事には、その分の追加料金が発生するでしょう? それと同じです」


 こんなにも早く騎士団が到着したのは、奇術騎士団のおかげである。

 それはすでに周知されていたため、奇術騎士団に対しては、格別の感謝が集まっていた。


「このライナガンマを守ってよかったと、皆さんに思っていただきたい。その一心なのですよ」


「そういわれては、断れませんねえ」


 現在も奴隷であり、けっして恵まれた生まれではない奇術騎士団の面々。

 彼女らは、出生からすればあり得ない服を、より取り見取りで手に取っている。

 それは彼女らが今日まで積み重ねてきた、努力の成果である。

 決して、憐れまれて施されたものではない。彼女たちへの、感謝の証であった。


「先生! これとこれ、どっちが似合うと思いますか? 明日のパーティー、どれを着ていったらいいと思います?」


 ガイカクの前に、エルフが一人現れた。

 彼女は両手にエルフ用のパーティードレスを持っており、どちらにするか悩んでいる様子だった。


「どちらも品のよい服だな、確かに甲乙つけがたい。それで、俺が決めていいのか?」

「はい!」

「それじゃあ、今回はこれを着てくれ。もう一つの方は、本部に戻ってから催されるパーティーの時にな」

「……はいっ!」


 素敵なお洋服を、好きなだけもらえる。

 それを着て、なんどもパーティーに出席できる。

 それも、自分が主役のパーティーで。


 その幸福をかみしめながら、エルフは下がっていった。


「私の部下は、ずいぶんと楽しそうにしている。これでは、こちらの方が心苦しいですよ」

「そうですか……それはそれは、申し訳ない」


 今もなお、奇術騎士団の面々は『自分の服』を選んでいる。

 それはまさに、彼女たちが求めていた、少女の夢だった。



 遠足は、準備をしている時が一番楽しい。

 そんな言葉が、実際にある。


 だが、予想を超えることだってある。

 今回の祝勝パーティーでは、奇術騎士団の面々はそれを体験することになった。


 奇術騎士団の面々が、一度も入ったことが無いような、大都市の、大会場。

 そこには彼女たちの家族が、生涯をかけても見ることのできないような調度品と、高級料理と高級なワインが並んでいる。

 そして、それにふさわしい階級の人々が、輝かしい服を着て立っている。


 そこは、まさに『雲の上』。

 そこいらの貴族よりも金を持っている人々が、ずらりと揃っていた。


 その彼らは、今、奇術騎士団を、他の騎士団達を見上げている。

 そこに嫌悪はなく、無関心さもなく、全員が興味と感謝を向けていた。


「ライナガンマの皆様。この度は我ら騎士団の為に、このようなパーティーを開いてくださり、ありがとうございます。総騎士団長の、ティストリアと申します」


 パーティー会場で挨拶をするのは、やはりティストリアであった。

 普段から誰よりも美しい彼女は、今まさに光を放っている。

 その美貌に、美声に酔いしれる人々も少なくなかった。


「私の部下が評価され、感謝される。総騎士団長として、ありがたいことです。しかし今回の作戦で特に活躍して下さった騎士団について、特に皆様へ伝えさせていただきます」


 他の騎士団が十人にも満たない中で、奇術騎士団は百人以上もいる。

 そのため、一人一人への印象は若干薄くなってしまう。

 そうならないようにと、ティストリアは強く紹介をしていた。


「それは、ガイカク・ヒクメ率いる、奇術騎士団です。この騎士団は通常の騎士団と編成は異なりますが、それは彼女たちのこなしてきた実績を軽くするものではありません。そして今回の作戦でも、特に大きな活躍をしてくださいました。どうか皆さま、奇術騎士団へ惜しみのない拍手を」


 ティストリアに合わせて、会場が拍手に包まれた。

 奇術騎士団の面々は、あわてて周囲を見る。

 そこには、自分達を讃えている者しかいない。

 誰も自分たちを憐れまず、無視せず、蔑んでいない。

 むしろ羨望、感謝の目線さえ向けている。


「~~~!」


 新しいドレスを着ている彼女たちは、それぞれに身震いをしていた。


 そうした挨拶が終わると、街の有力者たち、周辺の領主たちが近づいてくる。

 誰もがにこやかに笑いながら、奇術騎士団へ握手を求めていた。


「ありがとうございます、奇術騎士団の皆様。おかげで、救われました」

「手を握ってくださり、ありがとうございます。とても光栄です」

「貴方たちへ挨拶をするために、この会場へ参上しました」

「私たちは見ていることしかできませんでした……不甲斐ない! 奇術騎士団に比べると、恥じ入るばかりです」

「兵を、部下を代表して感謝を……よくぞ来てくださいました」


 これだけの人々から、感謝されるだけのことをしたのだろうか。

 した、と言い切れる。


 それは自分の実力によるものだろうか。

 ただ幸運によって、たまたま偶然成果を出しただけではないか。

 違う、と言い切れる。


 彼女たちは、今回の任務と、それに至るまでの中身を持っている。

 だからこそ誰もが、胸を張っていた。照れつつも、恥じることはなかった。


 そうして、握手に応じていた。


(ああ、よかった……先生を信じて、ここまで来てよかった。報われた……幸せ!)


 思わず、涙がこぼれそうになる。


 砲兵隊(エルフ)が、工兵隊(ゴブリン)が、高機動擲弾兵(じゅうじん)が、夜間偵察兵(ダークエルフ)が、動力騎兵隊(ドワーフ)が。

 全員が、人生の絶頂を味わっていた。



 騎士の幸福を、彼女たちは味わえていた。

英雄女騎士に有能とバレた俺の美人ハーレム騎士団 ガイカク・ヒクメの奇術騎士団。

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