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優れている人間の種族的傾向

待ちに待った発売日です!

 かくて、ライナガンマ防衛戦は、籠城側の勝利となった。

 この戦いで最も奮戦した者は、ライナガンマに住まう人々であろうが……。

 やはり『騎士団』こそが、この戦いの主役であろう。


 総騎士団長および直属の騎士、豪傑騎士団、三ツ星騎士団、水晶騎士団……そして奇術騎士団の武名は瞬く間に広がるだろう。

 少なくともライナガンマにおいては、既にそうなっていた。


 呼んだらすぐに来てくれた、そのまま敵将を討ち取ってくれた、そして10万の軍を撃退してくれた。

 騎士団と言えば、正義のヒーロー。子供でも知っている、この国の常識。

 それが、本当に助けてくれた。


 民衆も兵士も貴族たちも、等しく彼ら彼女らを称賛していた。

 まさに、救いの騎士。

 まだ傷を負ったままでありながら、ライナガンマは騎士団を大歓迎していた。



 奇術騎士団、砲兵隊(エルフ)

 今回二号機に乗り込み、砲兵としての本分を果たした二十人のエルフたち。

 彼女らは、ライナガンマにおける最上級のホテルで、大部屋で横になっていた。


 全魔力を吸い上げられて、とても消耗している彼女たち。

 最上級のベッドで横になっているが、それでも時間がたたねば復帰は困難だろう。


 その彼女らの元へ、ガイカクは訪れていた。


「よくやってくれた、とても素晴らしい成果を出してくれたな」


 彼は二十人のエルフたち、一人一人に労いの言葉をかけていた。

 その顔は、やはり笑っている。


「砲台の製造も含めて……早々に攻城塔四つを破壊できたことは、お前たちの功績だ。胸を張って、誇っていい」


 彼女らは、疲れ切っていた。

 彼女らの人生では、よくあることだった。

 だがその疲労に見合う成果、賞賛が常にあったわけではない。


 慰めではない、自分達の労働の成果。

 それをガイカクから褒めてもらえて、彼女らはそれに震えていた。


「お前たちが復帰したら、ライナガンマではパーティーが開かれることになっている。もちろん、街の名士たちがそろって、騎士団をたたえるだろう。その予定がお前たちが起きてからというのはな、ただ日程の問題じゃない」


 そしてそれが身内ではないのなら……。

 それこそ、世界中からであったなら……。

 彼女らは、まさに望外の喜びであろう。


「お前たちが、主役でもあるからだ。これは俺がゴネたんじゃない、ティストリア様が自らそうお決めになったんだ。そのことに、他の騎士団の誰も異論をはさまなかった」


 寝たままで震える彼女らを見て、ガイカクはやはり笑っている。


「みんな、お前たちを待っている。お前たちを捨てた家族が、一生かかっても得られない……遠くから見ることも許されない、素敵なパーティーだ。だから……ゆっくり休んで、元気を取り戻せ。そうじゃないと、せっかくのパーティーを楽しめないだろう?」


 返事をするように頷く彼女らを見てから、ガイカクはその部屋を出た。



 同ホテル、大広間にて。

 倒れている砲兵隊とガイカクを除く、騎士団の全員がその場に集まっていた。

 傷を負っている騎士たちもいるが、既に手当ては終えている。

 どの騎士も席に着き、それぞれの嗜好や体質にあった料理を食べていた。


 空の旅での料理がまずかったわけではないが、やはり量が足りなかったし、酒もなかった。

 騎士たちは勝利に酔いしれながら、宴を楽しんでいた。


「いや~~! 間に合ってよかったぜ、なあ!」

「おうよ……俺達の到着が遅れていたらと思うと、ぞっとするぜ」

「敵も大したもんだぜ、アレだけの軍勢を準備したんだからよ。確かにこのライナガンマを落とすには、あれぐらい用意してくれないとなあ」

「だがな! だがなだがな! 俺達が来ればあの通りだぜ!」

「まだまだ兵は残っていたってのに、尻尾巻いて逃げ帰りやがったぜ!」


 特に楽しんでいたのは、豪傑騎士団であろう。

 もとより彼らこそが、もっともこのライナガンマを守りたがっていた。

 それを達成できたのだから、喜んでいて当然である。


 そんな……粗野で傲慢なところの彼らであるが、それでも分というものはわかっていた。


「それもこれも……お前たちのおかげだぜ、奇術騎士団!」

「ここまで連れてきてくれたこともそうだけどよお……砲撃といい爆撃といい、痺れたぜぇ!」

「よくわかんねえけどよお! お前らのアレにビビって、敵が逃げたらしいじゃねえか!」

「それがなきゃ俺達今頃お陀仏だぜ! 感謝してるぞ、奇術騎士団!」

「これからもよろしくなあ!」


 今回この都市を守れたのは、奇術騎士団のおかげ。

 彼女らの尽力が無ければ、ライナガンマにたどり着くこともできなかった。

 それだけでもありがたいことなのに、自分達を生還させてくれた。

 豪傑騎士団は酔っぱらいつつも、奇術騎士団の面々を褒めたたえていた。


「……はい」

「うす……うっす……」

「御殿様……助けに来て……」


 なお、奇術騎士団は涙目であった。

 普段は強気な獣人やドワーフでさえ、目を合わせることもできなかった。

 せっかく御馳走があるのに、食べることができずにいる。


「お待たせしました~~……いやあ、部下の見舞いを優先してすみません~~。ガイカク・ヒクメ、これより食事に参加します~~」


 そんな祝いの席に、ガイカクは現れた。


 彼はその眼で自分の部下を探すと、豪傑騎士団に囲まれている……豪傑騎士団の方が少ないので囲まれているとは言い難いが……自分の部下たちを見つけた。


「……なんだお前ら、ずいぶんとつまんなそうだな」


「棟梁~~助けてくれ~~」

「族長、とても脅威です……脅威です!」

「御殿様、もっと早く来てください……」


「あそこで楽しそうにしている、ゴブリンたちを見習ったらどうだ」


 なお、工兵隊(ゴブリン)たちだけは違っていた。

 ガイカクが指さした方におり……。


「このライナガンマには、とても多くのお菓子屋さんがあって、競合しているのよ!」

「きょうごう?」

「誰が一番おいしいデザートを作れるのか、勝負しているのよ!」

「そっか~~! じゃあ旦那様も、ここで『きょうごう』できる?」

「ん~~、イケるかも? ヒクメ卿は、遠くの国のお菓子も作れるしね」


 水晶騎士団団長ルナと一緒に、楽しそうにお菓子を食べていた。

 実に微笑ましい光景である。


「というかだなあ……言いたくないが、俺が来るまでの間は、三ツ星騎士団を頼れよ。けっこうこっちを見ているじゃないか」

「ああ、いや、そのなんだ……ヒクメ卿」


 そこで、オリオンがガイカクに説明を始めた。


「彼女らは気球を燃やした後、こちらへ合流しただろう? その時に見たのだよ」

「何を見たと?」

「我らの(わだち)だ」


 今回騎士団は、千もの兵を討った。

 十万からなる軍勢からすれば、大した数ではないだろう。

 凄いことは凄いが、それ自体が戦局を変えることはなかった。


 だが、実際に千人分の死体を見れば、考え方は変わってくる。

 騎士団は敵の中枢に突入し、そこで本陣とその周辺の数百人を殺した。

 そしてそのまま、ライナガンマ正門前まで、殲滅しながら前進した。


 その後に残った死体こそが、騎士の轍。

 敵兵が去りきった後で、ライナガンマの兵たちはそれを見た。


 たった千人の死体を見て、彼らはぞっとした。

 騎士団の『着弾地点』はクレーターのように、死体が円形に広がっていた。

 騎士団の通過地点は、赤い道のように死体がまっすぐ並んでいた。

 

 つまり敵の中枢も、通過地点も、騎士団を逸らすことも退けることもできず、一方的に殺されていたのだ。

  そして彼らは納得するのだ。こんなヤバい奴らが来たのなら、敵が逃げても不思議ではないと。


 皮肉だが、奇術騎士団もそれを見た。

 そして自分たちの武勲で盛り上がっていた彼女らは、格の差を思い知り、萎縮してしまっていたのだ。


「この場の二十三人で……千人ぐらいころしてるとか……騎士、怖い……」

「なんで全員で来て、飯食ってるんだよ……おかしいだろ……」

「脅威だ……我らとは比べ物にならないほどの脅威だ……」


「何を今更」

 

 なお、同行していたガイカクは、まったく動じていなかった。


「そもそもなあ、今回の作戦は軍部が提案したんだぞ? 俺達の作戦抜きでも、たったの二十三人で戦局を変えられると思っていたんだぞ? 俺だって、勝算があるつもりだったんだぞ?」


 もちろん軍のトップたちも、ここまでの攻勢が成功するとは思っていなかっただろう。

 だが……。


 騎士団をライナガンマへ直送すれば、籠城がより一層堅牢になると思っていた。

 騎士団を周辺の軍と合流させられれば、敵軍へ有効打を浴びせられると思っていた。

 あるいは今回のように、攻城兵器を片っ端から壊して回ることを期待していたのかもしれない。


 それができるだけの強さを、実際に持っていたのだ。


「しかも、その半分ぐらいを豪傑騎士団が倒したとか……」

「三ツ星騎士団の人も想像以上に強かったし……これから先、やっていける自信がないです……」

「助けてください、御殿様~~!」


「まったく……じゃあ騎士団辞めるかって言ったら、辞めないくせに……」


 ガイカクはここで、大きくため息をついた。


「これからは豪傑騎士団とも仲良くしないといけないかもしれないんだぞ? ここで慣れておけよ」

「おっ、いいこと言うねえ」


 そしてそのガイカクを、後ろから抱え込むヘーラ。

 彼女はすでに酔っぱらっており、その上かなり興奮していた。


「それじゃあとりあえず、騎士団長同士で仲良くしようじゃねえか、なあ?」

「……おい、待て、おい」

「正直な、私はお前にイライラしてたんだよ」

「それはこっちのセリフだ!」

「よし、じゃあ勝負としゃれこもうじゃねえか!」

「違う!」


 率先して仲良くしようとする、騎士団長の鑑へ―ラ。

 自分で仲良くしろと言っておいて、仲良くしようとしないガイカク。

 なお、襲われそうになっているガイカク。


「じゃあ抜けようぜ~~」

「おい、待て! そもそも俺は、まだ何にも食ってない!」


 そして悲しいかな、オーガのトップエリートに捕まれると、ティストリアでも抜け出せない。

 ガイカクは猫のように摑まれて、部屋の外に運ばれていった。


 それを奇術騎士団は、ただ黙って見守るばかりである。


「……あ、あのさあ……同じオーガの女としてこんなことを言うのもどうかと思うけどさあ……助けに行ったほうがいいんじゃないの? 戦った後のオーガの女ってさ……凄いからさあ」


 なお、水晶騎士団のポイペーは、とても心配そうにしていた。

 奇術騎士団の前まで行って、助けたほうがいいのか聞いている。


「ああ~~……大丈夫だろ、多分」


 なお、奇術騎士団の面々は、まったく心配していなかった模様。



 一時間後。

 一風呂浴びたような姿のガイカクが、大広間に戻ってきた。

 その顔は、とても嫌そうになっている。


 彼だけが戻ってきて、しかも平気そうな姿なので、誰もが驚いていた。(ティストリアと奇術騎士団を除く)


「まったく、無駄に運動させやがって……」


 ガイカクはようやく御馳走にありつく。

 その顔は、本当に不機嫌そうだった。


「あ、あの……だ、大丈夫でしたか?」


 ガイカクの健在な姿に驚きを隠せないポイペー。

 だがガイカクは、平然としていた。


「酔っていたうえに興奮していたので、簡単に気絶させられましたよ」

「……そうですか」


 一体どうやったんだろう。

 オーガの女でありながらとても初心な彼女は、そこから踏み込んだ質問をすることができなかった。


(何をどうやったんだろう……)


 しかしほとんどの者が、口にしないまでも疑問を抱くのであった。


「どうやらヘーラ卿とは、互いを良く知ることができたようですね」

(物は言いようだな……)


 そんな中、平然と近づいて挨拶をするのは、ティストリアだった。

 相変わらず、何にも思っていない顔をしている。


「確認が遅れましたが、貴方の部下である砲兵隊の容体はいかがですか?」

「意識ははっきりしていましたので、明日にはだいぶ良くなるでしょう。ただ、やはり三日は見ていただきたいですね」

「かまいません。元々、戦争の直後。華やかな催しをするには、一週間はかかります。その間に、ゆっくりと復調してください。私も上官として、お見舞いに伺いますので」

「そうしていただければ、皆もきっと喜ぶかと……」


 先ほど砲兵隊へガイカクが言ったことは、本当であった。

 ティストリアは、あくまでも砲兵隊の復調を待つつもりである。

 他の騎士たちも、まったく文句や不満を持っていないようだった。


「しかし……そうなると、帰還が遠のくのが不安ですな。我らが騎士本部に戻れるのは、長めに見て一か月後ほどでしょうね」


 なお、オリオンは別のことが不安になった様子である。

 なにせ五つの騎士団が本部を離れている。その分、通常の任務はたまっているだろう。


「やむを得ないでしょう。そもそも我ら騎士団は、こうした国難に対応することこそが本分。今回のライナガンマ防衛よりも優先することなど、ありはしません」


 一方でティストリアは、仕方が無いと切り捨てていた。

 実際、手が全く空いていないのだから仕方ない。


「そもそも今回の強行軍で、我らはそれなりに消耗しました。すぐに戻ったとしても、任務に就くことは難しいでしょう」


 そして……一日、まともに体を動かせない気球の中に入っていて、その後凶行着陸をして、さらに千人相手に戦ったのだ。

 さしもの騎士団も、休息が必要であろう。


「……そのことですが、ティストリア様。我ら奇術騎士団は、当面の間任務に付けません。備蓄の類をほぼ使い切ったので、補充をしなければならないのです」


 特に消耗が激しかったのが、奇術騎士団であった。

 通常の騎士団以上に、準備へ時間や労力、金銭を投じなければならない。

 それを今回で使い切ったのだから、もどっても当分は補充が必要だろう。


「あ~~……そうだよねえ。あの気球、全部燃やしちゃったんだもんねえ」


 気球が燃やされたことを知って、再び惜しむルナ。

 他の騎士たちも、同じように頷いている。

 なお、奇術騎士団の面々は泣いている。


「ねえヒクメ卿。今後の任務で遠出が必要な時は、また気球で運んでほしいんだけど……ダメかな?」


 一度便利さを知れば、人は離れられないものである。

 ゴブリンのルナは、おねだりを試みた。


「いや~~……当分気球は作りませんよ」

「えええ?!」


 なお、そもそも次回作の予定がない模様。

 これには、ほぼ全員が驚いていた。


「やっぱあれ、奇術騎士団だけだと持て余しますわ。今回みたいに、アホみたいな精鋭との連携じゃないと、到底成立するもんじゃない」


 今回の作戦が大成功を収めたのは、他の騎士団からトップエリートを引き抜く形になったからである。

 それが無い状態で凶行着陸を含めた気球の運用をしても、上手くいくとは思えなかった。

 弱兵しかいない奇術騎士団では、運用に無理があるのである。


「それに、今回の旅は気候に恵まれましたが……強い雨風にぶち当たったり、ドラゴンフライのトラブルが起きた場合は、対応しきれるもんじゃありませんからね。三号機とか、絶対爆発していましたし」


 ガイカクは改めて、今回の作戦が無理矢理だったと強調する。

 向かう先へ風が吹いていたことも含めて、運の要素が濃すぎたのだ。


 それは船でもよくある話なので、誰も異論を挟めない。


「それに……強行着陸も成功したので、満足って感じです。当分はいいかなって」


 なお、これには異論を挟めないというより、呆れて言葉もなかった様子である。


「他にもたくさん作りたいものがありますし……今回活躍させてやれなかった、重歩兵隊(オーガ)歩兵隊(にんげん)も活躍できる作戦を練りたいですしね」


(そうか……こいつも人間だったな……)


 ガイカクの理屈を聞いて、人間ではない騎士たちは『優れた人間の傾向』がガイカクにも当てはまっていると気づいた。


 他の種族からすれば、優れている人間とは『なんでもできる人間』である。

 ティストリアもそうだが、そういう種類の人間は、自分の特技や成果に思い入れを持たないケースが多い。

 なんでもできるからこそ、こだわらずに諦めたり飽きたりできるのだ。


 それが優れている人間の傾向……だと、他の種族は思っている。


(一緒だと思って欲しくないな……)


 なお、人間のエリートであるティストリア直属の騎士たちは、ガイカクやティストリアと同じように思われたくない模様。



 なお、ヘーラは翌日まで目を覚まさなかった模様。

英雄女騎士に有能とバレた俺の美人ハーレム騎士団 ガイカク・ヒクメの奇術騎士団。

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