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次へ続かせる力

 今回の戦争は、費用対効果からすれば『骨折り損のくたびれもうけ』であろう。

 それに関しては、悔しいが、当事者の全員が認めるところである。

 とはいえ、詳しい資料を受け取った軍の上層部は、『よく引き分けに持ち込んだな』と震撼していた。


 三ツ星騎士団、奇術騎士団、ハルノー、ガゲドラ。

 どれもが傑物だからこその、異様な潰し合いだった。


「ヒクメ卿は国一番の医者でもあるという噂は聞いていたが……致命傷を負ったオーガを回復させるとはな」

「だが初日で瀕死になりながら、四日目で戦線に復帰し、ガゲドラと戦ったというハルノー将軍も……さすがとしか言えん」

「そのハルノー将軍を相手に、本陣へ切り込んで一騎打ちで倒して、そのまま生還し……三日目、四日目も大暴れをしたガゲドラも、敵ながら天晴れとしか……」

「いやいや、オリオン卿も流石ですよ。今までの実績も合わせての評価ですが、将の抜けた軍を良くまとめています。我らでも、これ以上の対応はできないでしょう」


 報告書に書かれた内容は、一つとっても異常なことだった。

 兵士や指揮官たちが熱気に包まれ、士気が跳ね上がっていたのも納得である。

 だからこそ、犠牲も大きくなってしまったのだが……。

 これを咎める、というのはやりたくないところだった。


「……ごほん。やや忖度に聞こえるやもしれませんが、あえて申し上げましょう。もしもヒクメ卿やオリオン卿が、初日の時点で全面撤退を決めていれば、ここまでの被害はなかったでしょう。しかしその場合、ガゲドラの武名は大いに轟き……我が国へ不利益をもたらしていたかもしれませぬ」

「そうですな……割とシャレにならない効果になる」

「あのハルノー将軍を、一日で破ったなど……宣伝効果としては、申し分ない」


 今回の被害は、決して無視できるものではない。

 だが敵にも同等の打撃を与えているし、名誉などを考えれば咎められたものではない。

 それにある意味では、ガイカクやオリオン、ハルノーの評価を上げる戦いにもなっただろう。


 もしも彼らが友軍に参加してくれれば、これより心強いことはない。


「もしも……ガゲドラが初日にハルノー閣下を討ち取っていなければ、それこそ二日目でそのままハルノー軍が勝利していた可能性も」

「それは言うべきではありますまい。とはいえ、奇術騎士団と三ツ星騎士団の同盟は、思った以上に『堅い』。今後も彼らには合力を願いたいですなあ」

 

 彼らの報告書には、こう結ばれている。


 ハルノー将軍、三ツ星騎士団、奇術騎士団。

 負傷者多数。

 現在奇術騎士団の本部にて、その負傷者は療養中。

 復帰、遠からず。


 と。

 


 奇術騎士団が帰還して、およそ半月。

 奇術騎士団本部では今も、歩兵隊、重歩兵隊、三ツ星騎士団、ハルノー将軍の治療に人員が割かれていた。

 外科的な施術はおおむね終わっており、投薬やリハビリ、療養の段階に入っている。

 いわゆる山を越えた段階であり、全員が現場に復帰できるだろうと、ガイカクが太鼓判を押している。


 だがそれはガイカクが違法魔導による医療の限りを尽くしたからであり、普通なら死んでいるか、そうでなければ再起不能だっただろう。

 今回の戦争で『潰れ役』になった面々は、それだけの死線に身を投じていたということである。


 それを一番歯がゆく思っていたのは、やはりドワーフたちだった。

 彼女らは食堂に集まり、酒をあおりながら大声で不満を露わにしている。


「オーガの奴ら、敵将から『手強い』なんて言われたらしいぜ?」

「ああ、オリオン卿が言ってたそうだな……くそ~~! アタシらも言われたい!」

「動力騎兵恐るべし、って、敵から言われたい~~!」

「いやまあ、この前も大活躍したのは認めるけどもさあ……!」


 彼女らも、現在の仕事に不満はない。

 動力騎兵として、とても面白い機械を製造し、それが戦地で効果を発揮するのは確かに気持ちがいい。

 ある意味では、ガイカクと同じ視座で、快感を得ている。


 だがそれはそれとして、戦士らしい、騎士らしい振る舞いにも憧れがあった。

 実際に三ツ星騎士団の働きぶりを見て、またそれと共に戦う歩兵隊、重歩兵隊を見て、その思いは強まった。


 やはり裏方や支援ではなく、実戦で戦いたいという思いがあった。


「おいお前ら、なにを生産性のないことを言ってやがる」


 その愚痴があまりにも大きかったため、ガイカクが彼女らの元へやってきた。

 その顔は、すっかり呆れている。


「重歩兵隊も立派に仕事をした。それを評価するのはいいが、嫉妬するのは違うだろ。同じ仕事はできねえんだからな」

「それは戦場において、ドワーフはオーガの下位互換ってことか!?」

「あの戦場ではそうだな」


 ドワーフたちからの熱い抗議に、ガイカクは忖度なく答えた。


「お前らはあの環境で、素の重歩兵隊と戦って勝てるか?」

「……そうだよな、わかってるよ!」

「腹立つなあ~~!」


 ガイカクの質問に、返す言葉はなかった。

 こういう率直な返答の方が、ドワーフからすれば『好ましい』。

 彼女らもわかってはいるので、あっさり引き下がる。


 ただ、愚痴を言いたい気分ではあったのだ。


「ずいぶん不満がたまっているようだな……安心しろ、治療の合間に研究や設計を進めておいた。お前らの不満も、すぐに吹き飛ぶ」

「へえ、どんな計画があるんだい?」

「お前らドワーフ専用の休憩施設を作る。不満がかなり下がるぞ!」

「……あ、そう」


 相変わらず、不満解消の方向が雑だった。

 彼女らの不満を、プラスとマイナスだけで見ている。

 実際、そこまで間違った対応でもないのだが、マイナスの理由を取り除こうという努力がない。

 まあ、効率が悪いことに労力を割きたくないだけだろうが……。


「それから……新兵器のメドが立った。いよいよ試作機を作る、お前たちはここからが忙しいぞ?」


「それは……やる気がわくねえ!」


 前線で戦えないのは、正直残念だ。

 だがそれが吹き飛ぶぐらいに、後方の機械いじりも楽しい。

 ドワーフたちは先ほどまでの不満をすっかり忘れて、大いに笑うのであった。

 その笑みは、やはりガイカクのそれによく似ていた。

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