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最後の攻防

 三日目の攻防を終えた両軍は、一時自陣営に帰還した。

 二日目とうってかわって、ガゲドラ軍の圧倒的優勢。

 ハルノー軍も奮戦したため双方に被害は出たが、それでもガゲドラ側が圧倒的に被害が少なかった。


 では均衡して、互角で、同等なのか。

 開戦前と変化がないのか。


 そんなわけがない。



 最も強大な敵と戦っていた、両騎士団。

 その中で最も疲弊していたのは、奇術騎士団重歩兵隊であった。

 最新の外法鎧を身に着けてなお、素養の差は埋められず、彼女らはトップエリートによって一蹴されていた。

 もちろんそれは、『トップエリートにして司令官が自ら倒さなければならないほどだった』という意味で、『武人の誉』ではある。


 だがそれは、慰めの意味も深い。

 後方に運び込まれ、処置を受けているオーガの娘たち。

 彼女らは、屈辱と羞恥でマクラを濡らしていた。


「親分……親分……! 私達、あと少し、あと少しだったんです……!」

「あそこまでおぜん立てしてもらったのに……もう、殺すだけだったのに……!」

「とっても頑張ったのに、作戦通りに進んだのに……あんなのって、ないですよ!」


 大型テントの中で、横になっている彼女ら。

 その体には痛々しい内出血が見受けられ、さらに脳震盪までしている。

 さながら交通事故のようだが、『打撃』によるものなのだから笑えない。


 身の丈を弁えぬ激戦、そこに足を踏み入れた代償と考えれば安いかもしれないが……。


「惜しかったな」


 処置を終えたガイカクは、彼女らを勇気づけていた。


「あと少しだったんだろう。次に同じ機会があれば、仕損じるなんてことはないだろう。それなら、それを俺も信じる。なに、弱兵ならすぐに死ぬ戦場を、生き残ったお前達だ。また次の機会がある」


 それは、オーガへの敬意だった。

 下手な慰めよりも、よほど心に染み入る言葉だった。


「今日はもう休め……俺はお前たちへ『次』を用意するため、戦場に戻る」


 そして、ガイカクは彼女らへ背を向けた。

 そう、もしもここから戦争で負ければ、奇術騎士団の名声は落ちる。

 場合によっては、もう二度と戦場に呼ばれなくなるかもしれない。


「俺に、任せておけ」


 だがそうはならない。

 ガイカクの言葉に、重歩兵隊は、否、奇術騎士団は全幅の信頼を置いている。

 そうでなければ、奇術騎士団は崩壊していただろう。


「お願いします! 勝ってください!」

「おう!」


 底なしの自信を、不敵さを見せて、ガイカクはテントを出た。

 それを見てから、オーガたちは眠る。

 テントの外の、地獄を忘れて。



 奇術騎士団、重歩兵隊の眠るテント。

 その外には、夜の闇を照らすたいまつと、そのすぐそばで処置を受けている三ツ星騎士団の正騎士たちがいた。

 全員が意識をはっきりさせており、椅子や石に座ったまま処置を受けている。

 だが驚くべきことに、全員が奇術騎士団重歩兵隊よりも傷が重かった。


「申し訳ありませんねえ、皆さん。トリアージの原則から言えば、私は皆さんを優先するべきでしたが……私は医療従事者ではないので、私情を優先させていただきました」

「なにをおっしゃる、貴殿から処置をいただけるのなら、少々の順番待ちなど大したことではありませぬ」

「それに、自分の部下を優先することを私情、とは言いませぬ。いえ、我らから見ても、彼女らは勇敢でした。それを優先しても、文句など出るわけもなく……」


 常人なら失神して、意識を保てない重傷者ばかり。

 にもかかわらず、麻酔もなく平然と会話をしてくる。

 さすがは戦場のエリート、尋常の胆力ではない。


「ぷふ、それをあいつらに言わないでやってください。そういう『弱いのに頑張ったねえ』なんて、言われても腹を立てますから」


 ガイカクは口ではいろいろ言いつつ、しかし自分もまんざらではなさそうに笑っていた。


「さて、最初はベルト卿から……いやあ、しかし……よく座っていられますな。これは腕を切り落とさないと、壊死を起こすレベルの骨折ぶりですね」

「なあに、あれだけの猛者と戦って腕一本ですからな。むしろ安いものですよ」


 快活に笑う、エリートオーガのベルト。しかしその腕は、変色したうえで膨らんでいる。

 どう見ても、普通ではない。ここから壊死が始まって、そのまま死んでも不思議ではないほどだった。

 だが幸い、ここには違法医療に精通した魔導士が存在している。


「ふむ……ここまで来ると、骨を交換したほうが良いですな。一旦壊死を防ぐ処置をしておきますので、後日我らの拠点で本格治療と行きましょう」

「ははは! これはありがたい、ガイカク卿から治療を申し出られるなど、エルフの評議会が聞けば泣いて羨ましがるでしょうなあ!」

「げひひひ!」


 小粋なトークをする両者。

 なお、ベルトの肋骨は片側が全部折れており、呼吸するだけで激痛が走る模様。


「ベルト卿、そうして無駄口を叩けば傷が開く。治療に専念したほうが良いのではないかね」

「ははは、違いない。それではしばし黙るとしましょう」


 騎士団長であるオリオンは、『どこに耳があるかわからんから、うかつなことを言うな』と釘をさす。

 それを受け入れて、ベルトは黙った。


「オリオン卿、私は処置を続けますので、お話があれば今でも構いませんよ」

「良いのですか?」

「ええ、私は医療従事者ではないので。その分、少々雑にやってもいいのです」

(どういう理屈だ)


 なぞの返答に、オリオンは困った。

 しかしそう言われては仕方ないので、ベルトへ処置をするガイカクへ話をする。


「はっきり申し上げて、ハルノー軍は限界ですな。今日の衝突で、だいぶやられました。これでは明日の一戦が限界でしょう。とはいえ、それは相手も同じでしょうが……」

「ゲヒヒ! さすがはハルノー軍、ただでは負けませぬなあ。いやいや、そもそも負けてさえいないか」


 当然と言えば当然だが、大番狂わせは起きなかった。

 順当に削り合いが起き、ハルノー軍が『劣勢』にとどまった。

 初日に比べれば、かなり穏当、ましな方である。


 だがしかし、軍と言う生き物が疲れ切る寸前でもあった。


「そちらも痛み分けだったとか」

「敵将、ガゲドラは討ち取れませんでしたが……その配下は倒しました。これで奴の突破力は半減しております」

「半分でも、この戦況では脅威のまま……やはりハルノー将軍が『数』を動かしてくださらなければどうにも……」


 将軍は、軍の大黒柱である。

 それがへし折られていれば、嵐に耐えられるわけがない。

 外から太い柱で補強しても、内側に崩れるだけだろう。


「今晩中にハルノー将軍が目を覚まさなければ、全軍で撤退ですな」

「部下にデカい口を利いた身では、それは避けたい。しかしオリオン卿の提案なら仕方ないですねえ」


 撤退をすれば、追いかけてこない。

 その程度には、敵を弱らせることができた。

 そこから先を求めれば、一気に破綻する。


 ハルノー将軍が、起きるかどうか。

 もはや二人がどうにかできる段階ではない、だが……。

 二人は、起きると確信していた。


「き、騎士団長殿~~! お二人とも、軍の本部へいらしてください!」


 その確信に応えるように、伝令が走ってくる。

 とても慌てた様子の彼には、喜びや安堵があった。


「ハルノー将軍が、目を覚まされました!」

「では少々お時間を、私はまだ三ツ星騎士団への処置がありますので」

「私も少し待たせていただく。その間に、そちらで状況のすり合わせを願います」

「しょ、承知しました」


 だが両騎士団長に、それはない。

 奇跡が起きたわけではなく、当然のことが起きただけであり……。

 ここでようやく、勝機が芽生えただけなのだから。



 三ツ星騎士団への処置を終えたあと、ガイカクはオリオンと共に『本部』のテントへ向かった。

 そこには大型のベッドと、そこで横になっている大男……中年の後半に差し掛かっているオーガの男性がいた。

 その周囲には上級の軍師や将がそろっており……つまり彼が誰なのか、一目でわかる状態である。


「ハルノー将軍。お目覚めになられたと聞き、参上いたしました」

「げひひひ! 我ら両騎士団長……改めまして、遅参をお詫びの上……指揮下に入りまする」


 本陣に無理やり、ベッドごと入っている男、ハルノー。

 彼の前に、ガイカクとオリオンは膝をつく。

 予定通りの時間に到着した両名であるが、この二人が間に合わなかったことも事実。

 遅参を詫びても、そこまでおかしくはない。


「人間流の嫌味か?」


 だがハルノーは、やや苛立たし気だった。

 やや、というのが自分に非があると思っている証左であろう。


「本陣にどっしり構えて、配下の将兵で万全の守りを作ってたってのに……それを敵に初日でぶち抜かれて、その上ほぼ一騎打ちで負けた。そんな情けないオーガの将に、遅れてごめん、てか?」


 ふかぶかと、ため息をつくハルノー。

 その言葉は、極めて理性的で、つまり意識がはっきりしている証拠だった。

 彼の意識がしっかりしていることを含めて、彼の生還を喜んでいた。

 これで意識があいまいだったら、それこそなんかの薬を使われているのでは、と疑うところである。

 いや、実際使われているのだが。


「……なあ、ガイカク・ヒクメ卿。アンタに関しては、黒い噂とどす黒い噂しか聞かねえんだが……もしかして、俺にもぶち込んだか?」

「ええ、鎮静剤をたっぷりと。オーガの戦闘中の興奮を、抑える薬も適量に」

「道理で気合が入らねえわけだ……今はいいが、明日になってもこのままじゃあ、いよいよ戦争にならねえぞ」

「おやおや、その『御怪我』で戦場に立つおつもりで?」

「……さすがに怒るぜえ、真っ黒騎士団長」


 ハルノー将軍は、まさに将軍という風格を持っている。

 それこそ、凡俗からすれば羨望さえ覚える『英雄』であった。


「今しがた、部下から戦況を聞いた。明日だ、明日で全部決まる。俺に、それがわからないとでも?」

「それだけ意識がはっきりしているのなら、おわかりでしょうねえ……」

「……マジメな話なあ、おらあ、死んだと思ったよ。体ん中に、ぶっといもんがぶっささったんでなあ。それを生かしたうえで、こうもぺらぺらしゃべらせてくれるんだから……アンタがすげえのはわかった」


 そして英雄とは、傷ついても立ち上がるものである。


「俺を、明日の戦場で戦わせてくれ」

「……げ、ゲヒヒ!」


 ガイカクは、体を揺らしながら笑った。

 それがいかなる意図の笑いなのか、オリオンにもわからない。

 だがガイカクの言葉は、ある意味まともだった。


「お忘れで? 私は貴方の指揮下にいるのですよ? ちゃんと、貴方の権限、責任の下で命令してくださいな」


 やや悪戯気味な言葉は、しかし反論の余地も、議論の余地もなかった。


「そうだったな……俺を、明日、戦場で立たせろ。寿命を削ってもいい、後遺症が残ってもいい、明日の夕日を拝む前に死んでもいい。俺の体にどんな薬をぶち込んででも……戦わせてくれ」

「そんな便利な薬はありませんよ。ですが……別の準備は済ませてあります。今晩の内に『特別な処置』をすれば戦えるでしょう」


 そう、ハルノーが戦うことを、誰も止められなかった。

 

「ただ、地獄を見ることになります。本来なら薬で『副作用』を抑えるのですが、今から薬抜きをするため、ただ耐えていただきます。本来なら中和薬を投与すればいいのですが、それはそれで別の……」

「耐えればいいんだろう、それなら耐える(・・・)


 絶対の自信をもって、耐えると断言するハルノー。

 それは鎮静剤をもってしても鎮まりきらない、武将としての矜持と使命感があった。


「そうこないとな」


 そしてそれに応じるガイカクは、やはり騎士団長としての威厳を持っていた。


「俺の部下が、お前らのしりぬぐいで死にかけているんだ。お前もそれぐらい必死になってくれないと困る」

「そのとおりだ」


 仮にも自分を指揮する者へ、お前だのしりぬぐいだのと言う。

 しかしそれを言う権利が彼にあること、自分が言われても仕方ないことを、ハルノーは認めていた。

 また、オリオンも同じである。


(私が同じ立場でもそういうだろう……ガイカク卿側でも、ハルノー閣下の側であってもだ)



 ハルノー将軍は、オーガである。

 フィジカル、特に怪力に特化した種族である。

 半面、魔力はとても乏しい。

 本来なら魔術が使えないというだけの話だが、医療用生体魔法陣を使用する際には効果が弱くなるという難点も抱えている。

 だがこれを補うのは、そこまで難しくない。

 輸血ならぬ、輸魔力。つまり、デモン・タワーの応用として、砲兵隊から吸い上げた魔力をハルノーに注ぎ込めばいいのである。


 現在ハルノー将軍は、生体魔法陣が描かれたシーツの上に寝かされている。

 そしてそのシーツの横には、その生体魔法陣へ魔力を注ぐ係の砲兵が配置されていた。

 現在彼女から吸い上げられた魔力が、そのままハルノー将軍の肉体を治すために消費されているのである。


 それだけなら、なんと便利な、で済むだろう。

 問題なのは、『重傷を一晩で治す』という回復スピードである。

 エルフなら肉体が耐えられず死ぬであろうし、ゴブリンや人間でも返って重症化することは間違いない。

 オーガのエリートでも強い副作用に苦しむだろう。問題ないのは、オークぐらいではないか。


(うげえ……凄い辛そう)


 魔力を供給している砲兵は、彼の肉体に起きている『急速な変化』を見て、寒気を覚えていた。

 それこそ目視で変化が分かるほど、傷口で新陳代謝が行われている。

 これが薬物によって『信号』が抑えられているのならともかく、素で脳に達しているのなら、それこそ苦痛で死にかねない。

 あるいは、拘束が必要ではなかろうか。

 だがハルノーは、耐えていた。鎖などの拘束をされずとも、傷口をかきむしるような愚行をせず、ただ耐えている。

 鎮痛剤を打ってくれ、という弱音をこぼすこともない。ただ、ただ耐えている。


(コレが、オーガのエリート。その中でも、将軍になったほどの人)


 今まで奇術騎士団は、多くのエリートと戦い、勝ってきた。

 だがそれは、スペック的に優れているというだけで、メンタル面においてはむしろ社会不適合ですらあった。

 それらと比べて、このハルノーのなんと雄大なことか。


 既に満身創痍でありながら、なおも戦おうとする。

 国家という社会、軍隊という組織、そして勝利と言う結果の為に最善を尽くそうとしている。

 心にも体にも、なんの憂いもない……文句をつけたくても、つけるところがない、最高の雄。


(……これが、真のエリート)


 心技体、どれ一つとっても自分達より優れている者。

 それに頼もしさを覚える一方で、強い嫉妬を禁じ得なかった。



 明朝。

 ハルノー軍中央、ハルノーのテント前にて。

 多くの将兵たちが、固唾をのんで、待機していた。

 誰かが招集したわけではなく、ハルノーの体調が噂話となって、自然と将兵たちが集まる形となっていたのである。


 多くの兵が信頼を寄せるからこその、将軍。

 今ここにいる兵たちの中には、彼が生きている、立ち上がると信じていたからこそ、踏ん張れた者もいるだろう。

 まさに精神的支柱。彼が復帰するか否かで士気、戦争の勝敗を分けるだろう。

 否、今彼が立てなければ、今日の戦場は始まることもない。ガゲドラ軍の、不戦勝となるだろう。


「……ああ、かゆいかゆい! かゆくて死ぬところだったぜ」


 だが、立つ。立つからこその、将軍。

 ここで立てないのならば、彼はそもそもここまでの信頼を集められない。


「かきむしりたくなるけど我慢しろってのは……マジで地獄だったな。だがまあ……」


 ずしずしと、とんでもない自重を自力で支えながら。

 テントの中から、男の中の男、オーガの中のオーガが歩いてくる。


「この通りだ!」


 やややつれた姿ではあるが、はっきりと覇気のある声で、健在な姿を将兵たちに見せていた。


「てめえら、心配させて悪かったな……今日で決着をつける! ガゲドラ軍を、ぶちのめすぞ!」


 肚の底から出た、野太い声。

 その勇壮さに、兵たちは喝さいをあげる。将校たちも、安堵で崩れていた。

 それだけの期待が、重責が、彼にのしかかっている。

 だがそれを笑って背負うからこそ、ハルノーは将軍であった。


「ハルノー閣下、ご復帰なさって何よりです」

「ええ、我が砲兵隊を全員使い潰した甲斐はあったようで……ゲヒヒ!」

「おう、オリオン卿にヒクメ卿か!」


 ずずず、と。

 ハルノーはオリオンとガイカクの間に立ち、その二人と無理矢理肩を組んだ。

 種族が違うので体格も異なるため、それはもう、本当に無理矢理である。

 傍から見れば、肩を組んでいるというよりも、もたれかかっているように見えた。

 いや、実際そうだったのである。


「オリオン卿、ちょいともたれさせてくれや」

「はっ……お気遣いなく」

「で、だ。ヒクメ卿、おかげでだいぶ楽になった。本当に大したもんだぜ、アンタ。騎士団長にしておくのが、惜しいぐらいだ」

「ゲヒヒ! それは誉め言葉、ですかねえ?」

「褒めてるんだよ。で……薬ってのも抜けてきた。だが、このままじゃ、まだ戦えねえ」


 現在ハルノーの体調は、頑張れば歩ける、というものだった。

 生死の境をさまよっていたことを考えると、奇跡的で劇的な回復である。

 だがまだ、奇跡が足りない。彼はここから、戦わなければならないのだ。


「まだ、なんかある。そう期待していいんだよな?」

「ええ、もちろん……外法の手品を、用意しております」


 ガイカク・ヒクメは、前日後方に引っ込んでいた。

 その間、何をしていたのかと言えば……。

 急ごしらえの手品を準備していたのである。


「さささ、我が奇術騎士団のテントへどうぞ……消化によい食事も準備しておりますので」

「おっ、悪いねえ……」

「軍議と言う名目で、そちらに向かいましょう……もうすでに、兵たちの士気は回復しておりますので……」


 この軍のトップ三人は、肩を組んだまま奇術騎士団のテントへ向かう。

 酔っぱらいの面倒をみているような雰囲気だが、実際足取りはおぼつかない様子である。

 だがそれでも、先ほどまでの鼓舞で兵たちは感激していた。

 それこそハルノーの思惑通り、彼らは大いに盛り上がり……ハルノーの弱っている姿は、見えない様子であった。


 実に涙ぐましい、豪傑ぶりである。



 この戦争が始まって、四日目。

 あまりにも急展開過ぎる戦いによって、双方の兵力は疲弊していた。

 二日目から参戦した両騎士団の戦力もほぼ壊滅的であり、それを含めて今日が最終日になることは必至であった。

 運命を決する本日の陣形、それは初日と同じものであった。


 軍の中央にハルノーが立ち、その周囲を堅く将兵が守る。

 初日に突破されてしまった縁起の悪い陣形であるが、今度こそ守って見せると兵たちも奮い立っている。

 そんな分厚い守りのど真ん中、ハルノーのすぐ隣にはオリオンも一緒であった。

 精強なる他の騎士たちは、ほぼ周囲に居ない。昨日の激戦で、ほとんどが戦線離脱せざるを得なかったためだ。

 戦えるのは、己だけ。その状況でも、彼はハルノーと共にあるつもりであった。


「……」


 そのオリオンが心配するのは、病み上がりのハルノーではない。

 自分と同じように、ハルノーの傍にいるガイカク・ヒクメであった。


「ゲヒヒ……いかがですか、ハルノー将軍。急ごしらえのフレッシュ・ゴーレムは、たしかに機能しておりますか?」

「おう、だいぶ楽だ。不思議なもんだなあ……力を入れなくても立ってられるってのは。それに、だんだんと力も戻ってきている感じだぜ」

「先ほど栄養補給もしました、おそらくその関係でしょう」


 およそ、まったく戦闘能力を持たないであろう、ガイカク・ヒクメ。

 彼は現在ハルノーの真横におり、なおかつ彼がここにいることを旗で示している。

 敵から真っ先に狙われる場所に、非戦闘員がいるという状況。

 それに対して、オリオンはいろいろと思うところがあった。


「ひ、ヒクメ卿……そ、その……安全な場所に下がった方が良いのでは?」

「異なことをおっしゃいますなあ、ここが一番安全でしょう。なにせ一番守りが堅い!」

「それはそうですが……」

「下手に隠れれば、そこを突かれかねませぬ。ならばいっそ、ここが安全でしょう」


 ヒクメの発言に、オリオンは説得を断念した。

 もとより、ガイカク・ヒクメは騎士団長としてここにいる。

 騎士団長がもっとも敵に狙われる場所にいても、それは職務を全うしているだけのことだ。

 同じ騎士団長である自分が、どうこう言えるわけがない。


(戦術上も、間違ってはいない。仮にヒクメ卿が別の場所にいれば、敵へそこを攻撃する『口実』を与えかねない……我ら三人がそろえば、ここを攻めるしかなくなる!)

 

 敵将ガゲドラの求心力、それは単純に武力である。

 先日は最も守りの堅い布陣を破ってハルノーを倒してのけ、それによってハルノー軍の士気を下げ、ガゲドラ軍の士気を上げていた。

 

 だがだからこそ、同じような状況で、同じことができなければ、兵たちはガゲドラを信仰できなくなる。

 精強なる側近を失い、なおかつ疲労しているガゲドラは、それでも先日と同じことをするしかないのだ。


「……ガゲドラは、ここにたどり着くでしょう。それまでの間に、彼をどこまで削れるか。つまりあなたの兵の強さに、この戦いはかかっています」

「そんなのは、いまさらだ。俺は……いつだって兵を信じて率いてきた。兵を信じられなければ、将軍は務まらねえ」


 たとえ先日ぶち抜かれたとしても。

 先日よりも兵が減っているとしても。

 それでも、兵を信じる。

 ハルノーは、将軍であった。


「三ツ星騎士団と奇術騎士団が奮戦してくださったおかげで……俺にも十分、勝機がみえている。十分だ、十分すぎる希望だぜ」


 即席のフレッシュ・ゴーレムを着込んでいるハルノーは、来る戦いへ気を高ぶらせていた。



 必要な技を必要な時必要な分だけ使う。

 という素朴なものが、武術の奥義だという。


 実のところ、用兵の奥義もそんなものである。

 ディケスの森で、エルフの精鋭が凄まじい破壊の魔術を発揮したように……。

 サジッタ率いるケンタウロスの盗賊が、手出しできぬほど大暴れしたように……。


 その土地環境で最適な兵科、種族のエリートをそろえるのが一番強い。

 複合兵科、種族複合の編成を考えるなど、知ったかぶりに過ぎない。

 今回の戦場も、オーガのトップエリートを、複数のオーガエリートが補佐するのが一番強かった。

 あくまでも人間の兵士が大量に補佐としていることが前提だが……結局それが一番強く、どうしようもない。


 だからこそ、ガゲドラが仕掛けた初日の突撃は成功したのだ。

 もしもこの編成以外なら、その突撃は失敗していただろう。


 では、彼の側近が倒れた今、四日目の突撃は成功しないのか。

 結論から先に言うと、成功率は下がるが可能、である。


 まず初日の時点で、彼は突撃を成功させている。

 ということは、ハルノー軍の精強なる兵士達は、その日のうちに倒されているということだった。

 であれば、現在ハルノー将軍を守る兵たちの質は、どうしようもなく落ちている。

 もちろん両騎士団の騎士や兵たちもいないではないが、三日目の戦いでほぼ使い切ることとなった。


 その三日目の戦いで奮戦したガゲドラの体力とて、もちろんベストコンディションからほど遠い。

 それでも彼は、突撃の最前線で、巨大な武器を振るっていた。


「おおおおおおお!」


 極めてシンプルに、そして相手にも見透かされているように、ガゲドラは他の作戦をとることができない。


 やや極端な言い回しだが、清廉潔白を売り(・・)にしている将軍が、ガイカクのような邪道の作戦をとればどうなるか。

 兵の心は、あっさりと離れるだろう。


 ガゲドラも同じである。

 俗に言いまわせばキャラづくりであり、彼はそれを命がけで実行しているだけだ。


 いざ戦場に立てば、誰よりも勇敢に、最前線で敵将へ切り込む。

 そういう将として、兵からの信頼を集めているからだ。


 そして……。

 彼自身、そんな自分を誇りに思っている。


「おおおおおおお!」


 彼は将として、二日目の最前線を見捨てた。

 だがしかし、ほぼ全員が壊乱したと聞いて、軽蔑してもいた。


 彼自身にも兵士だった時代があり、同じような戦場に立つことは多かった。

 彼はトップエリートだからこそ、過大な期待を背負わされ、酷使されていた。


 辛くなかったわけではない、苦しくなかったわけではない。

 むしろそれを乗り越える己を、共に戦う仲間を誇りに思っていた。


 だからこそ、言い訳をする者を嫌う。役目を果たさない者に、軽蔑を向ける。

 

 ああはなりたくない。


 彼は言葉にしないが、そう思っている。


 今彼は、その重い体で重い防具を着て、重い武器を振り回しながら、全力疾走している。

 敵陣に切り込み、大量の敵に囲まれ、四方八方から攻撃を受けながら、それでも前に進んでいる。


 常人の四十倍を超える腕力を持った、オーガのトップエリートと言えど、その命は一つしかない。

 そしてそれは、彼に従い、今も力尽き倒れていく、突撃に付き合う兵達も同じ。

 自分が蹴散らしていく、役目をはたして散っていく敵兵たちも同じ。


「……ぜぇ……ぜぇっ」


 そして、敵陣の中央で自分を待っていた、ハルノー将軍も同じだった。


「ずいぶんと疲れた様子だな、ガゲドラ。水を飲む時間ぐらいはやるぞ」


 他でもない初日の戦いで、自分の武器で致命傷を与えてやったはずの男がそこにいた。

 初日と変わらず、泰然とした態度で、自分の脚で立ってそこにいる。

 表情も、声色も、何も変わらない。


 だが顔は、顔の色は違う。それこそ土気色、病人の背中に棒を刺して、無理矢理立たせているかのようだった。

 いや、実際そうなのだろう。きっと彼は本来死んでいるはずで、無理矢理蘇生させられて、そのうえで戦場にも無理矢理立っている。


 まさに無理に無理を重ねて、役目を果たそうとしている。


 敵ながらあっぱれ、同種であり、同志であった。


「そっちこそ、棺桶に片足を突っ込んでいるどころか、棺桶の中で立っているようにしか見えないぞ?」

「如何にも……その通りだ」


 彼もまた、逃げることが許されていない。

 一度自分を倒した男が相手でも、老骨に鞭を打ってでも、瀕死から蘇生してすぐでも。

 大事に扱われている一方で、逃げることが許容されていない英雄だった。


「だがここは死地……その死地を仕事場とする我らが……死地で出世した我らが、それを言い訳にはできんだろう」

「その通りだ」


 そのハルノーの傍らには、昨日側近を壊滅させたオリオンが並び立っている。

 彼もまた、万全とは程遠い。それでもなお、戦う意気を隠さない。


「我らが軍の堅守を抜けてきて、死力を使い果たした者が相手でも……全力で殺すまで」

「二対一……卑怯と言いたければ、好きにせよ」


「ははは! 三対一、ではありませんか? 私も騎士団長であることを、お忘れなく……」


 最後の役者は、戦う気さえないくせに、死地で待ち構えていた男。

 自分の、奇術騎士団の旗を掲げるためだけに、ここにいた男。

 いかに疲れ切っているとはいえ、オーガのトップエリートの前に立つ男。


 命をかけているのは、味方だけではない。

 敵もまた、同じように命をかけている。


 こんなに嬉しいことはない。


「くくく、騎士団長が二人に、将軍が一人……ここまでの手柄、そうそう望めるものではないな!」


 どうせ命をかけるのならば、倒すに足る敵を相手にしたい。

 誰だって、そう思うのではないか。


 ガゲドラは、笑って前進した。



 奇術騎士団の面々は、ほぼ後方に下がっていた。

 普通の騎士団である三ツ星騎士団でさえ半壊したのである、弱兵ぞろいの奇術騎士団がそうなっても仕方なかった。

 もちろんドワーフやダークエルフのような、前線で戦っていない者達もいる。だがその彼女らは、既に倒れている者達の看病で忙しかった。


「なんでアタシらが、こんなことをしてるんだ!」

「ど、ドワーフさんがいないと、その、オーガさんとかの治療が……」

「そんなこたあわかってんだよ! 愚痴だ、愚痴!」


 オーガの看病は、相応の腕力が無ければ務まらない。

 そういう意味で、ドワーフたちがいたのは、ダークエルフたちにとってありがたかった。

 普段ならメインの看病担当であるエルフたちも、昨晩の治療のために使い倒されている。

 彼女らもまた、看病される側だ。


「おい、獣人! お前らはどうなんだ! お前らは砂投げてただけだろう! 寝てないで手伝え!」

「無理を言うな……獣人に、スタミナはない。砂を投げるだけと簡単に言うが、どれだけの時間、全力で跳ねまわったと思っている……少なくとも、今日は無理だ」

「それじゃあなんで、同じ獣人のオリオンは今日も戦ってるんだよ!」

「それは……」


 昨日の戦闘で、体力を使い果たしている獣人たち。

 彼女らは、同僚からの指摘に、力なく、そして情けなさそうに答えた。


「彼が、彼らが……英雄だからだろう」


 彼女らのいる陣地には、今も戦場の喧騒が届いている。

 それはあくまでも戦闘が続いている証拠であり、負けていない証明ということだった。



 四日目の戦場は、灼熱だった。

 どちらの陣営も士気が高く、真っ向から衝突し、なおかつ指揮が万全だった。

 双方ともに、指揮官の指示の元、兵たちが倒れていく。

 泥仕合ならぬ、血まみれの戦争。多数の兵士たちが、順当に死んでいく。


 これを狂気と言わずなんと言うのか?

 あるいはこれが、野生の正常なのか?

 いずれにせよ、ここで起きていることは『有益な殺生』に他ならない。


 国家と言う社会、最大数の利益のために、個々人と言う最小の利益が消費されていく。

 これを冷笑する者がいたとして、それに対して様々な反応ができるとして……。

 ともあれ、当事者たちはなぜ戦えるのか。

 家族のため、故郷のため、仲間のため、報酬のため。それも、あるだろう。

 だがその理由の一つに……旗印たちの戦いぶりがあることは、間違いあるまい。


「おっ……おおおお!」


 片や、ガゲドラ。

 その体には、多くの矢が刺さっている。魔術攻撃による焦げ跡なども刻まれており、彼が敵陣へ切り込むにあたって、すでにその段階で満身創痍になっていたことは明らかだった。


「がぁあああああ!」


 片や、ハルノー。

 先日致命傷を負い、そこから奇跡の生還を遂げた男。

 しかしその体はすでに瀕死。戦場に立つ前から瀕死で、その死に瀕する度合いが、さらに増していく。


 両者、死ぬ寸前。

 それでもなお、ガゲドラの方が圧倒的に強いはずだった。

 ケガの度合いが、余りにも違う。


「ぬ、ぬぁああああ!」


 その劣勢をなんとか五分まで持ち込んでいるのは、オリオンが助力しているからに他ならない。

 本来スタミナに乏しい獣人である彼は、奇襲を狙うなどということを一切せず、ごく普通に、オーガのエリート同士の戦いに参加している。

 目立った怪我こそないものの、フルマラソンを終えた後にさらにトライアスロンへ参加するような、余りにも無謀な肉体の酷使。


 まさに、精神力の世界。

 そこは、超人の世界。


 見ているだけで尊敬してしまう、近寄りがたい世界。


 そう、超人とは……疲れないのではない。

 どれだけの理由(こうじつ)があっても、それでもなお自分で戦おうとする者たち。


 武をもって成り上がったならば、その武に命をかける。

 武への信頼に、自らのすべてを賭す。


 そこに、言い訳はない。

 戦いのさなかで、頑張らなくていい理由を探さない。

 それを見つけても、脳によぎっても、見て見ぬふりをする。


 そこに熱狂や陶酔はない、義務や使命感があるだけ。


「ふひゅううう……」


 その間近に、頭脳をもって成り上がった男はいた。

 手品師、奇術師とも呼ばれる彼は、ただ責務を全うしていた。


 彼の背後には、旗が立っている。

 総騎士団長から受け取った、己の旗がある。

 彼はそれを背にして、ただ立っている。


「たまらねえ」


 彼は、今、何もしていない。

 なんなら、奇術騎士団そのものが、何もしていない。

 奇術騎士団は、二日目と三日目で、すべての手品を使い果たしていたがゆえに。


 最後は気力体力精神力……などという言葉がふさわしい状況になっている。


「くくく……たまらねえ、たまらねえ」


 だが、奇術騎士団は無価値だったのか。

 彼女らの奮戦は、なんの意味もなかったのか。

 今日まで積み重ねてきたすべては、しかし、真のエリートたちがぶつかる戦場で意味を持たないのか。

 それは、違う。


 彼女らがいなければ、まずここにたどり着けなかった。

 なんてことはない、普通にガゲドラが勝って終わっていた。


 最後は云々など、その最後までたどり着いたことを無視しての浅い言葉だ。


「あの底辺奴隷どもが……この瞬間にまでたどり着かせた。いやはや……敵からしても、味方からしても、悪い冗談としか思えないだろうよう……」


 ガイカクがここにいることも、無駄ではない。

 彼は奇術騎士団の団長として、最後まで役目を果たそうとしている。


「そんなお前らが、奇術騎士団が……三日目で敗退して、四日目には旗も出せませんでした……なんてのは、嫌だよな」


 愉快そうに笑う男は、この世で最も恐ろしい戦いを、砂被りで見守っている。

 彼は部下の名誉、騎士団の名誉のために立っている。

 命をかけるには、十分すぎる理由だった。


 次の瞬間に殺されてしまったとしても、後悔などあるわけもない。

 部下のため、騎士団のためだった。だから死んでも仕方ないと、諦められるだろう。


「俺達だって、騎士団だもんなあ」


 ガイカクが笑う中も、戦いは続く。

 双方ともに、決定打を出し切った後の、泥仕合。

 それは地力の比べ合いであり、それでもなお、双方は互角で……。



 夕刻。

 朝から戦っていた双方の将兵は、この時刻になっても戦場にいた。

 いた、というのは、双方ともに疲れ切って、立つのがやっとだったということだ。


 もう、血も汗も涙も、気力も魂も残っていない。

 なんなら、撤退して自陣営に戻る力さえ残っていなかった。


 双方、風前の灯。

 だからこそ、どちらが勝ってもおかしくなかった。

 あと一要素があれば、そのまま片方が殲滅される、そんな状況だった。


 そして、その一要素を、どちらも持っていなかった。


「二対一……いや、三対一だってのに、粘ったじゃねえか、若造」

「そっちこそ、老いぼれのくせに、良く戦ったもんだ」


 ハルノーもガゲドラも、そしてオリオンも立っていた。

 太陽が沈んでいく中で、最後の交渉を行おうとしている。


 双方の将兵たちは、自然と静かになり、それを見守ることとなった。


「……はあ、もう無理だ。もう疲れちまった、これ以上は戦えねえ」


 ハルノーは、明らかな弱音を吐いた。

 本来なら、武将が言っていいことではない。


 だがそもそも彼が瀕死であったこと、今の今まで死力を尽くして戦っていたことを知る者たちは、それを咎めることができない。

 その弱音を吐くまで、どれだけの一線を越え続けたのか。それを思えば、本当に限界なのだとわかる。


「俺もだ。ああ、帰って寝たいぜ」


 ガゲドラもまた、弱音を吐いた。

 並の兵の、何十倍もの武者働きをした男は、それでもここが底であると認めた。


 これもまた、オーガの作法であった。

 限界まで戦ったのなら、見栄を張るのはかえって滑稽。

 もう戦えないのならば、それを素直に認めるべきだと。


「引き分けってことで……全軍撤収!」


 ガゲドラは、あっさりと思えるほど軍事的な決定を下した。

 そしてそのまま、胸を張って、しかしよろよろと歩いて帰っていく。


「ふん……気を使われちまったな」


 ちょうど、太陽が沈む。

 だんだんと戦場が暗くなる中で、ハルノーを支えていたフレッシュ・ゴーレムが崩壊した。

 肉と骨で作られた鎧が、限界を迎えたのである。


 それと同時に、ハルノーもまた地面に倒れた。

 彼の体にはもはや、立つ力さえ残っていなかった。

 いや、それはそもそも、最初から……。


「ハルノー将軍、私の作った仕掛けが不具合を起こしたようで……申し訳ありません」

「……へへへ、とんでもねえ。アンタの仕掛けがなくちゃあ、ここまでもたなかったさ」


 文字通り、肌身離れず巨体を支えていた鎧。

 それを作った男は、飄々とした雰囲気のまま、倒れているハルノーに語り掛けた。


「改めまして、閣下の戦いぶり、間近で拝見させていただきました」

「おう、どうだった?」

「ティストリア様やオリオン卿のおっしゃるように、とても素晴らしい武将でございました」


 笑うに笑えない、最悪なジョークを口にする。



「初日で倒れていたので、拝めないかと思っていましたが、杞憂でしたねえ。ゲヒヒヒヒ!」

「はっ……そうかい。心配させて悪かったぜ」



 奇術騎士団初となる、大規模な戦場への参戦。

 その結果は、死力を尽くすも引き分けというもの。


 しかしそれは、強大な敵と不利な局面で戦い、しのぎ切って手に入れた戦果であった。

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