美月と蒼空・その後
★蒼空・その後
大和は平行線の世界の俺が心配だと話していた。探して見つけることが出来たのか気になる。きっと見つけられる。
美月がいなくなって、その空いた穴は塞がる事がないと思うけれど、ふたりで支え合って生きて欲しいと願っている。
「美月を守って……必ず」
大和が言ったその言葉には続きがあって「お腹の子も……」と、小さい声で聞き取りづらかったけれど確かにそういった。
何をするべきか、どっちの世界にいるべきかすごく迷ったと思う。
もし俺が大和の立場だったら、決められないかもしれない……大和の相手を思いやれる気持ちを、これからもずっと尊敬し続ける。
大和の両親のことが気になり電話をしてみると「長い旅にいってくる。ずっと元気だから心配しないでね」としか、伝えていなかったらしい。
子供が産まれて美月の体調が落ち着いた頃、3人で大和の家に行き、真実を伝えた。
いきなりそんな話をしてもまずは疑うだろう。けれど、大和の両親は俺の話をすんなりと信じて受け入れてくれた。
「大和の子なのね……」
大和のお母さんは泣きながら、まだすわっていない首に優しく触れ、それから優しく、愛情いっぱいに抱っこした。
続けてお父さんも久しぶりに赤ちゃんを抱っこすることに緊張しながら、優しく抱っこしていた。
それから、大和の両親は孫を見つめて愛情いっぱいに微笑んだ。孫が声を出して笑うと、両親は綻んだ笑顔になった。きっと、その顔は大和にも向けられていた顔なんだよなぁ。
今は一緒に成長を見守っている。
娘が3歳になった。
ひとつひとつの仕草がたまらなく可愛い。
オムツを取り替えたり、ミルクを飲ませたり、あやしたりする度に、大変だったけれどそれ以上にどんどん愛情が深まって、娘が何か新しいことが出来るようになる度に、本気で喜びもした。
毎日凄く愛しくてたまらない。
血が繋がっているかどうかなんてことは、とてもちっぽけな事なんだと大和には伝えたい。
ご飯を食べている途中、娘が遊び出したので食べさそうとしている時。
「今日ね、仕事のあと個展やらせて貰うカフェの人と打ち合わせあるからちょっと遅くなるかも……保育園のお迎え頼んでもいい?」と、美月が申し訳なさそうに聞いてきた。
「仕事でやらないといけない書類あるけど、家に持って帰って出来るから大丈夫! お迎え行けるよ! あと俺、夜ご飯も準備するわ」
「わぁ、ありがとう! あとね、絵の展示のことでちょっと迷うことがあって、相談に乗って欲しいな!」
「いいよ」
美月が心から楽しそうに幸せそうにしている姿を見るのが、俺の幸せ。
美月には“ 好き”に囲まれて生きていって欲しい。
いつからか、仲良く暮らすのが俺の夢になっていた。
あんなことがここでも起こらないように、彼女を全力で守りたい。
そして大和の “ 大切 ” を守って生きていきたい。
これからは俺が守る番。
☆美月・その後
コンテストで下の方の賞だったけれど、受賞して絵が展示される事になった。
自分の絵がこんな風に飾られるなんて。
嬉しさと緊張が交差して心が落ち着かなかった。
ちょうどその会場にいた時、私の絵をみてくれていたお婆さん2人組が「綺麗ねぇ……温かい気持ちになれるねぇ 」と、褒めてくれた。
こんな私が描いた絵でも、誰かにそう思ってもらえることが出来るんだ!
私の描いた絵が誇らしい気持ちで、堂々と壁に飾られているように感じた。
このコンテストで自信を持ち、どうしようか迷っていた個展を開いてみようと決心した。
「お母さん、私個展開くから見に来てね!」
子供が産まれてから、子育ての大変さを知り、きっと母も大変だったんだろうなぁって考えた。私は気難しい子供で夜泣きも凄かったらしいし。そんなことを考えていたらある日、急に連絡をしたくなった。
以前は自分のことを話すのが嫌だったし、必要な時以外連絡をしたくなかったけれど。母とは今は少しずつだけど、距離は縮まっている……気がする。
「さて、準備しよう!」
長いテーブルの上に並べられた額縁に入っている絵。数ある中から飾る絵を1枚選ぶ。
大人になってから母校で蒼空と大和が無邪気な笑顔でサッカーをしている絵。
別の絵も順番に飾っていった。
そして、雪が降っている海の風景の中に満月を見上げている3人の後ろ姿が描かれた絵を最後に飾った。
自分の手で飾られた最後の絵を見ていると、何故か長く夢見ていた願いが叶った気がした。
個展のテーマは
“ 毎日同じ夢をみる”