第九夜 おっちゃんと人探し
おっちゃんは冒険者の店に帰った。冒険者の店では、少年少女冒険者とモレーヌが待っていた。
おっちゃんの顔を見ると、モレーヌがホッとした顔で駆け寄ってきた。
「大丈夫でしたか、お怪我はありませんか」
笑って誤魔化した。
「逃げる能力も冒険者の実力のうちやからね。それで、皆に話があるねん。アリサはん、個室を借りるで」
秘密の話をしたいので、個室を借りた。少年少女冒険者とモレーヌを前に話を始める。
「グールの発生を止められる手懸かりを見つけたんよ。上手く行けばファントム・ナイトも一緒に退散させられるかもしれんのよ」
少年少女冒険者が意外そうに顔を見合わせ、モレーヌの顔を輝かせた。
「本当ですか」
「それでな、ちょっと協力して欲しいのよ。カインとキャロウェルいう冒険者の行方を探ってくれるか」
モレーヌが不思議そうな表情をして首を傾げる。
「その、カインさんとキャロウェルさん、グールの発生と、どういう関係があるんですか」
「まあ、色々あるんよ。魔法剣士の勘いうところかな。詳しい内容は、まだ話せない。けど頼むわ」
おっちゃんは深々と頭を下げた。
少年少女冒険者が神妙な顔で頷いて部屋を出て行こうとしたので、止める。
「ちょっと待って。君たち、どこに聞き込みに行く気?」
魔法使いの女の子のアビルダが、きょとんした顔で発言する。
「どこって、冒険者とか、ギルドとかで聞き込みをしますけど」
予想していた答が返ってきた。
「聞き込みなんやけどね。まず、君たちは普段着に着替えてから、聞き込みをしてくれるかな。そんでもって、冒険者への聞き込みはいいから、遊び仲間とか近所の人とか街の人から、聞き込みして欲しいんよ」
詩人の男の子のクリスが「意図がわからない」の顔をして、疑問を口にした。
「なぜ、普段着で聞き込みですか?」
「冒険者が聞き込みに行くと、一般人は警戒するんよ。だから、街の人の格好になって欲しい。名前が売れていないからできる聞き込みも、あるんよ」
僧侶の子のバートも懐疑的な顔で質問する。
「では、なぜ、遊び仲間からですか?」
「みんな、知り合いじゃないでしょう。だから、交友関係が被らないと思ったんよ。必要なのは、薄く広い情報なんよ」
薄く広い情報が欲しい点は本当だが、仲間からの聞き込みには別の意図があった。
カインの情報を知る当たりの人間は、必ずいる。
だが、当たりの人間がカインと親しかった、ないしは、キャロウェルが嫌いだった場合は、どうなるか。聞き込みをした人間に嘘を教える可能性がある。最悪、カインを逃がそうとする。
少年少女冒険者では、そういう人間の機微に疎い。結果として、おっちゃんよりも先に少年少女冒険者が当たりを引いた場合は、カインを逃す結末がある。なので、仲間からの聞き込みに限定したかった。
盗賊の女の子のキャロルだけが「ふーん」と言った得意げな顔をしていた。キャロルだけが、おっちゃんの意図を察知したようだった。でも、何も意見しなかったので、余計な仕事はしないと予想した。
「ほな、行ってくれるか」
おっちゃんが号令を懸けると、少年少女冒険者は部屋から出て行った。
部屋に残ったモレーヌは「私は、どうしたらいいでしょう」と不安げな顔で訊ねた。
「とりあえず、宿屋に待機していて、少年少女冒険者が帰ってきたら情報を纏めておいて」
おっちゃんは部屋を出て、街で聞き込みを開始した。
その日の夕方におっちゃんは帰ってきた。だが、手懸かりはゼロだった。
(これ、あかんかもしれん。まるで手懸かりがない。完全に無駄足や。これは、えらい苦労するかもしれん)
酒場に戻ると、奇妙な子供たちの一団がいた。
子供たちはモレーヌを囲んで食事をしていた。普段着に着替えた少年少女冒険者の一団だとわかった。
(服装が変われば、雰囲気もがらりと変わるね)
何も当てにせず、少年少女冒険者の近くに行ってモレーヌに訊ねる。
「なにか、わかったんか」
モレーヌが羊皮紙に書かれた文字を見ながら、表情も明るく答える。
「わかりました。まず、キャロウェルさんとカインさんがいたパーティは解散しています。うち、キャロウェルさんはダンジョン内で行方不明になっています」
少年少女冒険者を全く当てにしてなかったので、いささか面喰らった。
「ええ、ほんまにわかったん」
戦士の男の子テリーが歯を見せ笑う。
「それ、俺の情報。剣の師匠がさ、キャロウェルを知っていたんだ。それで、パーティが解散したってわかった」
「そうか、キャロウェルは行方不明か。原因までは、わからんやろう」
モレーヌが羊皮紙を覗き込む。
「わかります。キャロウェルさんはカインさんに突き飛ばされ、落とし穴に落ちて行方不明になりました」
盗賊の女の子キャロルが、澄ました顔で付け加える。
「カインはね、キャロウェルを毒矢から守ろうとして突き飛ばしたんだよ。だけど、運悪く、その先に落とし穴があって、キャロウェルは下の階へ落下。パーティは余力がなくて、やむなく帰還したそうよ」
「世間は狭いな。ほな、カインは、まだ生きているんか? どこにおるかまではわからんやろう」
モレーヌがつらつらと答える。
「予想は付きます。おそらく、カインさんは死んでいます」
狩人の女の子クララが控えめな態度で答える。
「カインは冒険者パーティが解散になってから、香辛料採取の依頼を受けて、ジャングルに入っています。その後、一週間が経過しても、帰ってきていません。おそらくは、ジャングルで亡くなったものと思います」
「それじゃあ、カインを探すとして、目印になるものとかの情報は、あるの? ないと大変やで」
詩人の男の子のクリスが立ち上がる。どうだと言わんばかりの顔で情報を伝える。
「知り合いの話では。カインは常にお守りとして、銀の鍵を所持していたそうです」
知りたい情報がほとんど揃った。少年少女冒険者が得意げな顔を、おっちゃんに向ける。
(この子らを侮っていたけど、意外とやるな。子供や思うて、馬鹿にするのは、止めよう)