第七夜 おっちゃんと出陣
啖呵を切って、金貨を依頼カウンターに叩き付けた翌日の昼。昼寝から醒めて、水を飲みに一階に下りる。
冒険者の一団が、依頼受け付けカウンターにいた。人数全部で七人。七人の中にはモレーヌの姿があった。
おっちゃんの姿を見たモレーヌが感謝の色を顔に浮べて声を掛けてきた。
「先日はありがとうございました。これから、グール退治に行ってきます」
「そうか、無事に人手が集まったか。よかったな」
集まった人間をざっと見る。人員構成は少年か少女。上は十五から下は十二歳くらいの年齢。
職業は戦士、戦士、僧侶、僧侶、盗賊、狩人、詩人、魔法使い。装備は真新しいかサイズの合わないボロボロの中古だった。
血の気が引いた。
(なんや、この少年少女冒険者は。あかん、これ、不安以外の何物でもないわ)
アリサを見つけて、すぐに問い詰める。
「ちょっと、アリサさん、何、このメンバー。戦争末期の学徒出陣かて、まだマシやよ。これ、無茶苦茶、不安なんですけど」
アリサが困惑した顔で応じる。
「それが、その、参加希望者が多数に付き、籤を引いたら、こうなりまして」
「籤なんかで決めたら、あかんよ。ちゃんと経験のある人を何人か入れなきゃ。子供を死地に追いやるってこの冒険者ギルド、どこまで、えげつない仕事するねん」
ボロボロでサイズが合わない装備をした少年戦士が口を尖らせる。
「俺の名はテリー。馬鹿にするなよ。おっちゃんは、何様のつもりだよ」
「いっちょ前の口を利きおってからに。おい、小僧、口の利き方に気をつけろよ。依頼人はモレーヌかもしれんが、ワシは金貨二枚を出資している大口出資者やねん。出した金の分だけ、この事業に口出す権利あるねん」
「出資者」と聞くと、文句を言いたそうな少年少女冒険者は、顔を見合わせて黙った。
(子供やけど、金を出している奴が偉いいう、感覚はちゃんとあるねんな)
アリサが困った顔で丁寧な口調で対応する。
「しかし、その、もう、決まった内容でして、指名依頼ではない場合の人選は、冒険者ギルドにあるんですよ」
「そやかて、これ、鬼の所業やで。アリサさんは、子供たちをグールの群れに放り込んで、帰ってこなかったとき、子供たちはグールに美味しく食べられました。第二陣を送ります。ハハハとおっちゃんに報告する気なん。そんな報告されたら、おっちゃん滅茶苦茶に気分が悪いわ」
小さな女の子の狩人から健気な抗議の声が上がった。
「私はクララ。私だって、冒険者だもの。死ぬのも、覚悟のうえだもの」
別の少年戦士が沈んだ顔で、弱々しく声を上げる。
「俺は、テッド。貰った前金は返せないよ。それに、死んだら口減らしになるだけだって、母さんが」
冒険者ギルドも鬼やが、テッドの親も酷いで。子供を死なすような仕事は発注したない。
「ちょっと、アリサさん。あんな内容を子供に言わせて、冒険者ギルドは恥を知らんの。ここは鬼畜の棲家なん?」
「いや、でも、決まりでして」とアリサが困った顔で言葉を濁す。
「わかった。わかったよ。おっちゃんも行くよ。準備するから十二、三分、待って」
背後で誰かが口を開く。
「報酬はないよ」
おっちゃんは叫んだ。
「わかっているよ。おっちゃん自分で金を出して、懐にまた戻す気はないよ。出資者として、事業を監督するよ。本当にもう、おっちゃんが所属しているギルドではなかったら、二度と係わり合いになりたくないよ」
準備を終えて、冒険者の店を出る。
すぐに墓場に行こうとするのを、おっちゃんは止めた。
「ちょっと待ち。この中で、投石紐を遣ったある子、挙手」
誰も手を挙げなかった。
「これだけいて、石投げ遊びとかした子は、おらんの? 珍しいな。石に紐を巻いて投げるやつやぞ」
おっちゃんの意図を測りかねたモレーヌがおずおずと申し出る。
「投石紐なんて高級な物を使わないで、ボロ布を使って代用して遊んでいたのではないでしょうか」
子供たち全員が頷く。
「よし、わかった。まず、武器屋に寄ろうか」
グールの爪に毒がある。
少年少女冒険者に接近戦はやらせたくなかった。投石紐が使えるなら全員に石で戦ってもらう。
急な出費だが、出すしかない。犠牲者が出てからでは遅い。
テリーがサイズの合っていない剣を握って意見する。
「武器なら、あるよ」
「いいから、従いてきて」と指示を出す。
おっちゃんは武器屋に寄って、六人分の投石紐と、肩から提げるタイプの麻袋を買った。
「はい、これ支給品」と、少年少女冒険者に投石紐と麻袋を手渡す。
「じゃあ、次に墓場に行く前に石を拾おうか」と指図する。
「えー」と魔法使いの女の子のアビルダが不満を口にする。
すぐに「出資者命令」と厳しく命じた。
子供たちは、墓場に行きがてら石を拾って進んでいく。
墓場に着く頃には、麻袋にはそれなりに石が溜まっていた。
墓場の入口で作戦の指示を出す。
「基本は固まって移動。モレーヌがグールを見つける。モレーヌが指示を出して、しゃがむ。みんなで投石。モレーヌはターン・アンデッド。倒したら、僧侶の子、名前は――」
お古のボロ僧衣を着た男の子が「バートです」と名乗る。
「バートがグールの死体を清める。以上」
サイズの合っていない剣を手に、テリーが不満を口にする。
「石で戦うのか、格好悪いな」
「アホ、格上と戦うのに、格好悪い良いもない。勝負は、勝つか負けるかだけや」
別の少年戦士のテッドも口も異議を唱える。
「でも、石だけでグールを倒せるんでしょうか」
「モレーヌのターン・アンデッドがある」
盗賊の女の子のキャロルが手を挙げて不満気な顔で質問する。
「でも、弓で戦ったほうが効率がいいのでは」
「距離が短ければ、石も矢も変わらん。とりあえず、行こうか」