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第二十四夜 おっちゃんと祖龍

 おっちゃんは街の復興に、誰より張り切って冒険者を派遣した。冒険者に頭を下げ、宥め、取引して、とにかく街のためになる仕事以外は、冒険者にさせなかった。


 だが、そうはいっても、復興が進めば、仕事はなくなる。コンラッドに依頼を出してから十二日目。街の通路からはモンスターの屍骸が消えた。


 冒険者の店には『雷鳴の剣』も戻ってきた。冒険者の力を借りなくても自力再生が可能な段階に達した。当然、ダンジョンへの出入りが禁止されている現状に不満も出てくる。


(やばいな。これは、もう、おっちゃんでは抑え切れん)


 おっちゃんは『瞬間移動』でボス部屋にいるザサンの許に急いだ。

「ザサンはん。あかん、もう冒険者を留めておけん。モンスターは、どれくらいできたん」


 ザサンが悪びれもなく「一体だ」と答えた。


「はあ?」上司には悪いが思わず素で口にした。


 散々たる状況に、思わず喰ってかかった。

「ちょっと、待って。二週間以上も時間があって、一体しかできないって、どういう状況」


 ザサンがなんら悪びれた様子もなく口にする。

「ダンジョン中枢を復帰させようとして、失敗した。結果、一体のモンスターが生成された」


(さらりと言ってくれる。なけなしの一体はモンスター生成事故でできたモンスターやん。これは、やってられんぞ)


 モンスター生成事故。ダンジョンで魔物を生み出す過程で起きる事故である。

 時に、産み出そうとしたモンスターより強い個体や、全く予期しない個体が生成される。だが、そのほとんどが、制御できなかったり寿命が短いなどの短所を持つ。


 期待を持たずに質問する。

「それで、どんなモンスターが生まれたん」


「祖龍だ」


 ザサンの言葉に耳を疑った。祖龍は太古の昔に滅んだとされる伝説のモンスターだった。

 現存する龍種で最強といわれる。ゴールド・ドラゴンになら、おっちゃんも会った経験がある。だが、祖龍はゴールド・ドラゴンすら上回る能力がある。伝説では、神話に出てくるような英雄が神様の協力を得て初めて倒せる存在だった。


「祖龍って、龍の祖先の。あの祖龍。祖龍なんて生成できんの?」


 ザサンは厳つい顔で、平然と発言した

「普通はできん。だが、できた。それが全てだ」


(現物を見ていないから疑わしい。もし、ザサンの言葉が本当ならダンジョン学会で報告して賞が取れるで)


 希望が湧いた。伝説が本当なら、祖龍一頭は万の軍隊に勝る。冒険者に負ける訳がない。

「ほんまに祖龍やったら、超強いモンスターでっしゃろ。祖龍一頭でダンジョン中枢を防衛できるんと違いますか」 


「防衛は、できない。祖龍は、こちらの命令を受けつけない。現にダンジョン中枢の守護を命じても、命令に従わず、外周をずっと歩き回るだけだ」


 爆弾発言だった。

「そんなん、どうするんですか」


 ザサンの態度に焦りは見られなかった。ザサンは重大な内容をサラリと伝える。

「どうにも、できない。さらに悪い事態に、祖龍は体を維持するのに膨大な魔力を使う、おそらく、あと三日以内に祖龍を討伐できないと、ダンジョンは限界を迎え崩落する」


 天国から一転して地獄だった。祖龍を倒す行為は国家に戦争を売るに等しい。三日で倒せ、なんて無理だ。


「そんな、ダンジョンにモンスターがほとんどいない状況で、どうするんですか」


 ザサンが威厳のある表情で、鷹揚な口調で命令した。

「冒険者に頼るしかないな。というわけで、おっちゃん、冒険者を誘導して、祖龍を討つのだ」


(もう、なんや、口だけ偉そうに。この人、まったく仕事できんやん。それに、祖龍を討たれたら、ダンジョン中枢を誰が守るん。祖龍に勝った冒険者にザサンが勝てると発言するなら、ザサンが祖龍を倒してくれや)


 心の中でどう怒ろうが、問題は解決しない。問題解決能力が全然ない奴と仕事をしても無駄だ。


 冒険者ギルドに戻った。冒険者ギルドの部屋に戻り、寝転んで「どないしよう」と悩んだ。


 部屋のドアをノックする音がする。返事をするとアリサが深刻な顔で入ってきた。


「あのね、ギルド・マスターを見た人がいるの」


 少し良い話だった。冒険者ギルドにギルド・マスターが戻る。


 ギルド・マスターなら、おっちゃんの相談に乗ってくれる気がする。もしかしたらだが、祖龍の封印方法を知っているかもしれない。事情を打ち明ければ、冒険者にダンジョン中枢に手を出さないように計らってくれるかもしれない。


 一人で重い荷物を持つより、二人で持ったほうが荷物は軽い。

「本当か、よし、ワシが探しに行ったるで。どこや」


「おっちゃんに、かつて調査を依頼した洋館のあった場所」

 意外な場所だった。


「なんで、そんな、場所にギルド・マスターがおるん?」


「さあ」とアリサが困った顔で首を傾げた。


「わかった。とりあえず、おっちゃんが、行って見てくる」


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