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「へえ、ウル水門の背景ってそんな感じなんだ。村を壊滅させた怪物っていうのは、今後のイベントへの伏線なのかな?」


「最前線にいた時にも紐付けされたボスやイベントは未確認だったから、今後出てくる可能性はあるかもね。それにしてもマニアックな記事までよく読んでるね」


 感心するように唸るバーバラと、

 修太郎の知識量に苦笑する怜蘭。


 三人が居なくなってからも残りのメンバーはレストランでの優雅な食事を楽しんでおり、話題は修太郎がこよなく愛する〝βテスター・ヨリツラが行く〟のブログ記事になっていた。


「ウル水門ではクエストを持ってるNPCが居ないから、きっとアリストラスかエマロにいると思う。そしたらウル水門が廃村になった理由も分かる」


「私は修太郎君の記憶力に驚いてる」


 鼻を膨らませて語る修太郎。

 饒舌に語る修太郎にやや引き気味のキョウコ。


「因みにキレン墓地にアンデッドが溢れたのは、そもそもアンデッドが怨念により生まれるって設定があるから、城主NPCが裏でとんでもない事をやっているからなんだってさ。奴隷売買、人体実験!」


 熱く語る修太郎。

 怜蘭は首を傾げる。


(本当は、デュラハンが住み着いたからっていう公式の理由があるんだけどね……)


 ヨリツラの考察を真実と鵜呑みにしている修太郎であるため、怜蘭はそれを苦笑いでスルーした。


 そんな修太郎に、バーバラが意地悪そうな顔でこう尋ねる。


「修太郎君はさ、今の私達の構成でキレン墓地の攻略は問題ないと思う?」


 修太郎は「間違った認識だったらごめんね」と先に謝罪しつつ、私見を述べる。


「キレン墓地のmobは不死属性を持っているからレベル差以上に攻略が難航するエリアだけど、でもこっちには火属性魔法が使えるケットルと聖属性が使えるバーバラがいるし、レベル的な余裕もあるから充分優位に戦えると思う」


 言い終えた修太郎はグイとジュースを飲む。

 バーバラは安心したようにため息を一つ。


「やっぱり修太郎君は問題なさそうね。よし、そうと決まれば行く場所はあそこね」


 そう言ってバーバラは立ち上がる。


 続いて怜蘭とキョウコが立ち上がり、修太郎はよく分かっていない表情でシルヴィアを抱いて立ち上がり、そのまま一行はレストランを後にした。



*****



 ラオ達三人とは別の方向へとやってきた修太郎達は、お世辞にも綺麗とは言えない廃屋のような小屋へと辿り着き、バーバラは何食わぬ顔で中へと入った。


 中は乾燥した草や魚やイモリがぶら下がっていたり、瓶詰めの目玉のような物が動いていたりと、不気味この上ない空間が広がっている。


 部屋に明かりはほとんどなく、破けた行灯(あんどん)から覗くロウソクが部屋の隅で揺れているだけだ。


 怯えた様子のキョウコとは対照的に、興味深そうに瓶を突いている修太郎。バーバラと怜蘭は奥にいるボロ切れを纏った老婆と話している。


「何か用かえ?」


 濁った瞳で二人を見上げる老婆。

 バーバラと怜蘭は顔を見合わせ、怜蘭が老婆に話しかける。


「死んだ友人が家にやってきた」


 修太郎にはそう聞こえた。

 老婆の表情が変わるのが分かる。


「何を言うかと思えば、そんな戯言を……」


「胸のペンダントが無ければきっと気付かなかった。彼には首が無かったから」


 一見して噛み合っていない二人の会話だったが、老婆が何かを悟ったように深く溜息をつくと同時に、修太郎の視界の隅に『クエスト受注 呪われたキレン墓地』というポップが浮かんだ。


 老婆が語り出す。


「首無し公の仕業さ。墓守だった儂の息子も、変わり果てた姿で家の戸を叩いていったよ。奴が朽ち果てない限り、生者は死者となり、死者は首をとられ夜な夜な町を彷徨う――」


 しばらく老婆が語った後、再び修太郎の視界の隅に『キレン墓地の鍵を入手しました』というポップが現れた。


 今度は怜蘭が語り出す。


「これがキレン墓地の鍵を貰うためのクエスト導入。一応この家に住んでた息子の部屋に、アンデッド系の弱点を示唆する手紙が落ちてるけど……」


「ん、ありがと怜蘭さん」


 怜蘭を労うバーバラ。

 ちょうどその時、ラオからのメールが届いた。


「色々時間掛けたいから明日合流しようってさ」


 皆にメール画面を見せながら、

 バーバラは修太郎に向き直る。


「修太郎君はそういう心配(・・・・・・)が無いと判断したから言うけどね、ショウキチ達は今頃、先のエリアについての情報を必死に集めてると思う」


「先のエリア?」


「そ。カロア城下町周辺エリアに出てくるmobの性質やレベル、特攻属性、特攻武器、正確な道、道中の罠、そして鍵入手クエストまで――あの子達は何も知らなかったから、ラオさんが気を遣って連れ出してくれたのよ」


 攻略情報のほとんどを記事で収集している修太郎にも耳の痛い話だったが、バーバラはあくまでも〝姿勢〟に対してを言っていた。


 この先情報だけが命を繋いでくれる。


 その情報を自分で知ろうとしない者は、この先できっと痛い目を見ることになる。ショウキチとケットルにはその危うさがあったのだ。


「これらを自分の目と耳で情報を集め、経験していくことで癖がつくわ。自分で調べる癖がね。その癖を常に持って、慢心せず油断せず歩幅を合わせるのが、これから先は特に大切だから」


 と、説明するバーバラ。

 理解した修太郎も頷いた。


(ラオは過去に辛い経験があるから、余計にあの子達の力量や成熟度をしっかり測りたいのかもしれない)


 心の中でそう呟く怜蘭。


 気の緩みが死に直結するこの世界。

 特に少年少女の死亡率が異様に高いのは、ここに理由がある。


「次は武器屋でも行きません? 火属性が付与された矢をストックしておきたいです」


「ん、じゃあ行こっか」


 キョウコの言葉に、バーバラが頷く。


 修太郎は今後黒騎士の形で攻略することになれば、NPCを用いた情報収集が鍵となることを学んだのだった。


「あ、僕はちょっと用事が」


「ん? そっかそっか、なら最終集合場所はね――」


 と、バーバラから集合場所を聞き三人を見送る修太郎。明日のエリア攻略に向け、一度ダンジョンに戻る必要があったからだ。


『デュラハンの事なら直接本人に聞けますね!』


『多分それをみんなに伝えても信じてもらえないかな、僕の固有スキルは話せないし』


『おお、なるほど!』


 シルヴィアと会話交わしながら歩みを早める修太郎がプレイヤーとすれ違う――



「ログアウト、したくないですか?」



 雑多な声が一瞬、静まり返ったような感覚に襲われた。


「え?」


 停止した思考が再稼働し、修太郎は数秒遅れですれ違った人物を探す――しかし声の主はすでに人混みに溶けた後で、修太郎は首を傾げながら、再び足を進めた。

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