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※説明多めです

 



 訓練場の面々と別れ、受付に戻ってきた第7部隊。


 動揺した様子で修太郎へ声を掛けるK。


「ちょ、え?! 修太郎君ってそんなに強いの!? 怜蘭さんとガルボ隊長を圧倒するって、本人の戦闘力だけでもうちのサブマス並じゃない?」


 余談だがギルド受付には施設内全てを監視するためのモニターが備わっており、暇な時間は訓練場のPvPを眺めるのがKのささやかな楽しみとなっていた。


 事前にオネエの戦闘指南役(キャンディー)から「ヤバイ子がそっち行くからね」と通達されていたKだったが、流石に修太郎の技量を見誤っていた様子。


「えーと、とりあえずギルドメンバー募集中! ここだけの話、強い人はそれなりに優遇――」


「あ、ええと、遠慮します」


 勧誘もアッサリ断られ意気消沈のK。

 苦笑を浮かべたバーバラが口を開く。


「勧誘が無駄に終わったところすみません。これから攻略していくエリアについて相談したいのですが、いいですか?」


 机に突っ伏していたKは、ゴロッと頭だけを動かしバーバラへと視線を向けた。修太郎に断られたショックからか、どこか虚な目をしているように見える。


「え? ああ、うん」


「……露骨につまらなそうな顔しないでくださいよ」


 呆れた様子のバーバラ。

 後ろでキョウコが肩を震わせ笑いを堪えていた。




*****




「まず最初に、希望するかしないかは置いておいて〝最前線合流の目安〟を教えておくけど、カロア周辺エリアの全踏破を三周することが最前線合流の最低条件だよ」


 気を取り直した様子のK。

 全員の顔を見渡した後、丁寧に説明を始める。


「俺達紋章はいちギルドだし、全プレイヤーの自由を剥奪する権利は無い。だから強制じゃあない。それでも最前線を体感してきた俺は、より強く、この周辺エリアのマスターはサンドラス城合流の最低条件(・・・・)にしたいと考えてるんだよね」


 つい最近まで最前線で戦っていたラオと怜蘭は、思う所があるようで小さく頷いている。


「周辺エリアというのは具体的にキレン墓地、クリシラ遺跡、ケンロン大空洞の三箇所。場所はココとココとココね」


 Kは地図を広げてみせ、カロア城下町周辺エリアをそれぞれ指でなぞっていく。


「全踏破してもらいたい理由が、この周辺エリアの性質がいわゆるチュートリアルの最終試験のような役割を担っているから。そして、その先のエリアではそれらの応用が数多く存在するから。ラオさんと怜蘭(レイラン)さんなら分かると思う」


 Kに振られ、怜蘭(レイラン)はコクリと頷く。

 Kの意見はもっともだった。


「それでも最前線ではプレイヤーが簡単に命を落とす。それは最前線は常に〝攻略法が分からない状態からのスタート〟だから」


 シオラ大塔までのエリアは、攻略勢(先人)の知恵によって、mobは特性から攻撃パターンまで丸裸にされている。エリアギミックもまた然りで、プレイヤーはその情報さえ頭に入れておけば安全にエリア攻略が行えるのだ。


 初心者〜中堅プレイヤーの死亡数が極端に少なくなったのは、紋章ギルドの手厚い支援も含め、攻略勢の努力の賜物である。


 しかし当然、最前線にはそういった〝道標〟が無い。未知のmob、強力なボス、未知のギミック、未踏の道を手探りで攻略しなければならないのである。


「全てのイレギュラーに臨機応変で対応しながら、未知の敵やボスを倒していかなきゃならない。少なくとも、チュートリアルを完全にクリアして、過去に体験した罠や特殊なmobなんかを暗記する勢いじゃないと、最前線に行くのは自殺行為だと思ってる」


 そう言いながら、Kはラオと怜蘭レイランに視線を移す。


「まぁ今回はバリバリの最前線にいた二人も居るし、隊長さんもよく考えてるからね。三周の間に二次転職も可能だろうから大きな心配はしてないよ……と、まあ警告というか忠告はこんな感じかな。ここまでで何か聞きたい事ある?」


 一通り説明を終えたKは笑顔でそう締めくくり、辺りを見渡す。


 表情を変えず頷くラオと怜蘭。

 緊張の面持ちで頷くキョウコ、ショウキチ、ケットル。

 三人の様子を心配そうに眺めるバーバラ。


 まさに三者三様の様子を見せていた。


 一方、修太郎は――


(やっとβの最前線まで来たんだ! そこからは未知のエリアかぁ!)


 一人テンションが上がっていた。

 Kの説明は続く。


「キレン墓地からはエリアに施された〝鍵〟を開けなければ進入できない。まずココがいままでのエリアとは違う点かな」


 修太郎は、かつて黒騎士の姿で第一位魔王(エルロード)と共に体験したことを思い出していた。


 最前線より先のエリアである〝ソーン鉱山〟と〝セルー地下迷宮〟に行った際、エリア内部に進めなかったのはこの鍵が無かったからだった。


「鍵の入手手段は様々で、前のエリアの重要な宝箱に隠されていたり、ボスが稀に落としたり、クエスト報酬だったり、プレイヤーの持つ〝何か〟が鍵の役割になったり……と、エリア開放のために毎回手探りで鍵探しをしているのが現状なんだ」


「って事は、俺達はまず鍵探しからスタート?」


 明らかに面倒くさそうな口調で尋ねるショウキチに、Kは「よくぞ聞いてくれた」と言わんばかりの表情で首を振る。


「心配ご無用! 少なくとも同じギルドか、パーティ内に鍵を所持するプレイヤーが居ればエリアは進めるんだ。だから紋章ギルドメンバーは極端な話、最前線のシオラ大塔まで鍵要らずで進むことができる」


 シオラ大塔というワードで、一瞬ラオの顔に影が落ちる。それに気付いたのは怜蘭だけだった。


「なら、三周してほしいって約束も無視して進む事も可能なわけですね?」


 キョウコが複雑そうにそう尋ねる。


「本来ならね。でもそれだと無知で無謀な力自慢が、なんの準備もなしに突入しちゃうんだよね。実際何件かそういう事故もあったし――だから紋章の鍵には、ある仕掛けが施されてる」


「仕掛け?」


「うん。ギルドマスター(ワタル)がカロア支部の支部長に、鍵の使用権限を与えているんだよ。このため自分達で鍵入手までの条件を満たしても、ギルドでもう所持しているから入手する事はできない。だからエリアに進むためには、まず支部長の許可が必要になるって仕組み」


 おもむろに指先をくるくる回すK。


 小さなポリゴンが集まっていくと共に、看守が持つようなリングに繋がれた鍵束がジャラリと音を立てて現れた。


「ま。それ俺なんだけどね」


 そう言って、受付改め紋章ギルドカロア支部支部長のKは微笑んだのだった。




 *****




「けっこー面倒くさいんだな最前線に行くのって。誠のおっちゃんも、ちゃんと三周して向かったのかなぁ」


 カロア支部にあるレストランにて、フォークでソーセージを転がしながら頬杖をついたショウキチがそう愚痴る。


『おむらいすって美味しいですね! 感動しました。でも次からぐりーんぴーすは取り除こうと思います』


『グリーンピース苦手って、シルヴィア子供みたいだね』


『子供ッ?!』


 その間、修太郎はシルヴィアと談笑しながら食事を楽しんでいた。修太郎の横では、銀色の小狼が大盛りのオムライスに食らい付いている。


「私、行けるんだったら墓地は飛ばした次のエリアからがいいな」


 Kから貰った地図を眺めていたケットルが呟く。


「へ? なんで?」


「だってアンデッド系って見た目が苦手なんだもん。このゲーム、妙に凝ってるからグロいし」


「確かになー、でもKは全エリア三周が条件って言ってたぜ?」


「行くわよ。行くけどさぁ……」


 愚痴を言い合うティーン組を無言で見つめるラオ。困った顔で、怜蘭が優しい口調で二人に声をかける。


「でもね、不死属性のアンデッド系に効くのは聖属性と火属性で、ちょうどケットルちゃんが――」


「待った。その辺の説明したら学べない(・・・・)から大丈夫。バーバラ、この子達借りてもいい?」


 怜蘭の言葉を遮る形でそう尋ねるラオ。

 その表情は、どこか怒っているようにも見える。


 バーバラは何かを察したように「任せたわ」と、どこか嬉しそうに頷いた。ショウキチとケットルは「えっ?」と、驚いたようにラオを見上げた。


 ラオが二人の後ろに陣取ると――


「うらっ!」


「「ぎゃ!!」」


 ショウキチとケットルの首を腕でロックするようにして席から立たせたラオは、愉快そうに笑いながら店の外へと引きずってゆく。


「おーし! 昨日は怜蘭だったから今日はお姉さんとカロア観光しようなー!」


「力強っ!! ゴリラだ!!」


「さ、拐われるぅー!」


 三人が消えた後のレストランは、嵐が去ったように静まり返った。

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