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「うおおおおすげええ!!!」

「超人少年現る!!! まじかよ!!」

「精鋭部隊に呼ばれるガルボ隊長を?!」

「見えなかった! なにあれ見えなかった!」


 今度の歓声は修太郎を称える言葉に溢れた。


 実力者だがルックス的な人気のほうが強い怜蘭よりも、単純な手練れであるガルボの方が純粋な強さで目立っていたからだ。


「いやあ、負けた完敗だよ。ところで最後の攻撃、なんでおじさんの場所が分かったのかな?」


 片手を差し出し握手を求めるガルボ。

 修太郎はそれに笑顔で応える。


「怜蘭さんの時も後ろからだったので、今回はそうしてもらうように動きました」


 その返答にガルボは驚愕する――修太郎が〝前回の経験を活かすため、あえて背後に来てもらうよう誘導した〟と言っていたからだった。


 もちろんそんな芸当ができるプレイヤーは限られているし、ましてや精鋭揃いの紋章ギルドで第6部隊の隊長を任されている男を相手にやってのけるなど、才能という言葉で表すには足りない。


 まさに、怪物。


第六位魔王(バート)との特訓でこういう場面は何回も練習したからなんとかなった。一安心一安心)


 心の中で胸を撫で下ろす修太郎。


 加速機能を使ったスキルの反則級レベル上げに加え、魔王直々の戦闘指導を受けた彼にとって、精鋭とはいえただの〝人〟相手では対戦も苦にはならない。


「まさか俺の瓜二つ(ドッペルゲンガー)を初見で避ける奴なんて初めてだからなぁ。いやあ、ここまでの強者(ツワモノ)とは思わなんだ、がっはっは!」


 完膚なきまでにやられた割に、スッキリとした表情のガルボ。裏表のない彼の気持ちのいい性格がよく現れているようだった。


 そんなガルボの隊員達が睨むように寄ってくる。


「いやいや、ガルボさん固有スキル普通に使うんすね」

「大人気なさ過ぎて引きました」

「あれで勝って何が楽しいんですか。恥ずかしいですよ」


 当然、非難轟々である。


 実のところ、ガルボの固有スキルは初見ではまず対処できない強力な代物だった。


 ガルボの固有スキルは瓜二つ(ドッペルゲンガー)


 効果は〝HP1の自分の分身を作る〟というもので、他のステータスはオリジナルと同じ数値で作られる。


 体力が少ないため分身は脆いが、攻撃能力は同じであるため、うまく使えば囮にも瞬間火力の上昇にも使える非常に使い勝手の良いスキルである。


 ガルボは固有スキルである瓜二つ(ドッペルゲンガー)を用いて分身を作り、分身の方を修太郎に斬らせ、その隙をついて背後から一撃をお見舞いしたのだ。


 とはいえ、〝その勝ち筋〟は修太郎によって仕組まれていたのだが。


 PvPで固有スキルを使うのは特に珍しいことではないが、試合前に初めから「固有スキル有り」であると予め宣言しておくのがマナーだと一部のプレイヤーは考える――勿論その風潮も承知するガルボは、バツが悪そうに額を掻いた。


「がっはっは! いやぁ、思った以上に修太郎君が強くてな、俺も負けん気が強い所をなんとかせにゃならんなぁ……がっはっはっはっ! ……すまん」


「固有スキル使ってあっさり負けるのは恥ずかしいっすよー隊長」


 項垂れるガルボに苦笑を向ける隊員達。

 それを聞いて項垂れるプレイヤーがもう一人。


「あーらら、それはこの子にも刺さるなぁ」


 同じように苦笑しながら、ラオは項垂れた様子の怜蘭へと視線を向けた。


「負けたことより、固有スキルを使った罪悪感を抱いているわけだ」


「……」


 怜蘭もまた、ガルボと同じように昂る感情のまま固有スキルを使っていた。しかしそれは修太郎の〝勘〟による超回避によって攻略されていたし、スキルの性質上(・・・・・・・)気付かれにくいというのもあり、それに気付いているのはラオくらいだった。


「まさか怜蘭もガルボ隊長も、似たような局面で同じように固有スキル使ってまで勝ちに出たのは、流石というかなんというか」


「大人げない、よね?」


「あー、うん、そうだね」


「だよね」


 かくして、大勢のプレイヤーを巻き込んだ練習試合は勝者一人、心の負傷者二人という結果に終わり幕を閉じる――その後、二人が修太郎に謝罪したことは言うまでもない。

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