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 カロア城下町の武器屋はアリストラスの武器屋よりも品揃えが良いなぁ――と、展示されている剣を見つめながら修太郎はそう分析していた。


 アリストラス周辺エリアのレベルは3〜15なのに対し、カロア城下町の周辺エリアのレベルは20〜30である。


 アリストラスよりもレベルの高い素材の供給量が多いのが理由であった。


「いらっしゃい。何かお探しかな?」


 白髭を蓄えた老人の店主NPCがそう尋ねると、剣士の少年(ショウキチ)魔法使いの少女(ケットル)は同時にアイテムを掲示した。


「これで片手剣作ってくれ!」


「これで両手杖作ってください!」


 二人の手には、レベル37のボス《ネグルス》から得た素材が握られており、それを見た老人NPCは嬉しそうに笑ってみせた。


「ほっほっ。これはすごい品じゃ。剣にはこれに見合うレベルの鉱石のインゴット、杖には同じく木の枝が必要になるが、足りない場合はゴールドで代用できるよ」


「あ、じゃあゴールドで!」


「ほっほ。今回は特別に400万ゴールドで請け負うぞい」


「ぼったくりじゃない! ××じじい!」


「ケットルくちわるっ」


 二人が店主と言い合いしている間、

 修太郎は適当な装備を見て時間を潰していた。


 アリストラスよりも性能の良い装備は揃っているが、もちろんそれは第五位魔王(セオドール)の作った装備よりも劣るため、購入するには至らない。


「修太郎君は依頼しなくていいの?」


 不意にかけられた声に修太郎が視線を移すと、そこには怜蘭(レイラン)の姿があった。


 華奢な体に不釣り合いな十字架の大剣を背負う怜蘭レイラン。子供と話すのが苦手なためか、目線は修太郎の斜め下を見つめている。


「僕は間に合ってるから大丈夫! それよりも、ここで装備の作成を依頼していいものなの?」


 修太郎が二人からアイテムを受け取る老人NPCに視線を向けながら言うと、怜蘭(レイラン)は苦笑しながらそれに答える。


「お金はあるけど素材が足りないならNPCに頼むのが一番かな。プレイヤーは腕次第で品質の良いものを作れるかもしれないけど、決まった素材が揃ってないと作れないの」


「へえーそうなんだ!」


 感心したように目を輝かせながら、修太郎は店主と話す二人に視線を向けた。


 二人の間に、しばらくの沈黙が流れる。


 頑張って話題を探す怜蘭(レイラン)に、修太郎が笑顔で尋ねる。


「怜蘭さんは黄昏の冒険者ってギルドに居たんだよね? なら僕の知り合いと同じだね!」


「え? そうなの? なんて人?」


「キイチさんとヨシノさん」


 怜蘭レイランはしばらく考えた後、目伏し気味にそれに答える。


「ん、ごめんなさい、黄昏も紋章ほどではないけど結構大勢所属していたから……」


「そっかぁ」


 残念そうに下を向く修太郎。


 再び訪れる沈黙。


 怜蘭レイランは心の中で「せっかく話題を振ってくれたのに」と嘆いていたが、修太郎はどこ吹く風と更に尋ねた。


「ここから行けるキレン墓地って、たしかβ時代の最前線だよね。ボスのデュラハンはボス特性とアンデッド属性で攻撃が通りにくいって見たことあるんだけど、鎧を着てるなら武器は剣よりも鈍器の方が有効なの? それともアンデッドだからそれも意味ないのかな」


 顎に手を当てながら展示されたメイスを眺め呟く修太郎。


 十かそこらの少年からそんな冷静な分析を聞かされるとは思っていなかったのか、怜蘭(レイラン)は少し驚いたような表情を見せた後、最前線を戦ってきた経験からそれに的確に答えた。


「それは結構議論された話題なんだけど、鎧の中は中身がない(空洞だ)し、期待した以上の効果が無かったから、手持ちの一番攻撃力の高い武器で戦う方がいいって結論が出たわ。勿論、聖属性と火属性の付与(エンチャント)つきの武器が一番だけどね」


 そこまで答えて、ハッとなる怜蘭レイラン

 長々と語って引かれたのではと修太郎に視線を向けるも、修太郎は目を輝かせ興奮気味に熱弁を振るう。


「β時代だと最終的に槍使いの《ジャンプ》でデュラハンの首部分から内部に入って《竜の咆哮(ドラゴン・シャウト)》連打するのが一番安全に中盤戦まで行けるって書いてあったよ!」


 一瞬キョトンとした怜蘭(レイラン)だったが、すぐに吹き出し、小刻みに肩を震わせた。


 修太郎は首を傾げる。


「それどうせ〝ヨリツラが行く〟ブログの情報でしょ? あれデマだよ」


 くすくすと笑う怜蘭(レイラン)

 強い衝撃を受けたようによろめく修太郎。


「えっ?! 僕あのブログが全部本当の情報だと思って何回も読んだのに!!」


「8割本当で2割は嘘というか着色してる感じ。彼は情報屋という以前に、エンターテイナーな所があるから。あのデマのせいでβテストの最後の方はデュラハンに向かって《ジャンプ》使う不毛な槍使いで飽和してたもの」


 その後もβテスト時代の話題で盛り上がる二人。


 気付けば新しい武器を持ったショウキチとケットルが側に立っており、怜蘭レイランは自分の顔が熱くなっていくのを感じた。


「にしし。これで双剣士になっても最高火力出せるぞ! なあなあ、次どこ行く?」


「んーでもこの町のどこに何があるか知らないよね。Kさんの所行って聞いてくる?」


 ショウキチとケットルの会話に修太郎が割って入る。


「なら怜蘭さんに楽しいところ連れてってもらおうよ! βテスターっていうし、ここの事詳しいと思う! いい?」


「えっ、怜蘭βテスターだったのかよ! 100人の応募に当選とかすごいな」


「怜蘭さん、私次は装飾品(アクセ)見たいんですが、どこにありますか?」


 三人の子供に詰め寄られた怜蘭(レイラン)は何かを決心したように「うん、任せて」と笑顔を見せる。そして四人は昼下がりのカロア城下町に溶けていった。

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